それは、地上の地獄だった。
炎に巻かれた街並みには、至るところに人々の死体が転がり、地面は血にまみれている。
死んでいる人達は老若男女様々で、子供も居れば老人も居た。そんな街中で、2つの集団が戦っていた。
片方は法衣を纏い、片方は赤い逆十字の意匠が施された装備を纏っている2つの集団。
その内、法衣を纏っている集団は逃げ惑う人々を狙って攻撃しているようで、赤い逆十字の意匠が施された装備の集団は、その人々を守って戦っていたのだが、逃げ惑う人々は無秩序に逃げている為に守りきれずに、一人、また一人と血を流して倒れていく。
戦争。その言葉は知っていたが、見たのは初めての監査嬢は吐き気を堪えながら見ていた。
その時、一人の黒い軽鎧に二本の刀を持った少年が人々の隙間を縫うように通り、法衣を纏っていた相手の横を通りすぎ様に、踊るように刀を振るって、相手を切り裂いた。
戦っている少年。幼い剣舞士は、感情を感じさせない瞳をしながら、相手を切り裂いていく。
そこまで見て、監査嬢は目が覚めて跳ね起きた。
荒く呼吸を繰り返し、隣に寝ている剣舞士を見た。
「今の夢……まさか、彼の……?」
剣舞士と交わり、寝ていたら見た夢。その内容は初めて見たもので、監査嬢は知らない光景だった。
話としては知っている戦争。少し前にも魔神との戦争が起きていて、軍は大きな被害を出しつつも侵攻を留め、勇者の活躍により魔神は討たれて、戦争は終わった。
知識として知っている戦争と、夢だが初めて見た戦争。
「……あんな地獄を、あんな小さい時から……何年も……」
戦争帰りというのは知っていて、剣舞士が他とは全然違う雰囲気を纏っていたのも気付いていた。しかし、どんな戦場を経験したのかは想像でしかなかったが、もし夢で見たのが本当ならば
「……それは、あんな眼にもなるわね……」
初めて会った時の眼を思い出した監査嬢だった。
そして、魔法使い娘と戦士娘に護衛されて、少女が帰ってきた。少女はどうやら、欲しかった種が手に入ったからか上機嫌だ。
そして、冬を越す準備をしていく。薪を出来るだけ集め、食糧を蓄えた。
年末年始の約1ヶ月の間は冒険者ギルドは休みになり、その間冒険者達は別の仕事をしたり、実家のことを手伝ったりしている。
何故そんな長期間休みなのかと言うと、殆どの魔物の動きが鈍くなるからだ。
一部は冬眠に入り、一部は春まで活動を停止する。
その期間に動くのは、よっぽど特殊な個体のみとなる。
もしそれらの魔物が現れた場合、軍が動くか国から特別依頼という形で指名される。
そして時は経ち、ある日のこと。
『ごめんください!』
と誰かが来た。
それを一番に出迎えたのは、庭で雪かきしていた少女と戦士娘だった。
「あ、久しぶり!」
「ええ、久しぶりね」
来たのは、あの令嬢冒険者だ。今は冒険者から半ば引退し、今は商人になったらしい。家が商人の家系だからか、本人が商人たちなってからまだ短いのに、既にその頭角を現してきている。
「中に入って……」
「師匠は今、街の衛兵詰所に行ってて、衛兵達に格闘の指南をしてるから居ないけど」
魔法使い娘は令嬢商人に入るよう促し、戦士娘は剣舞士が居ないことを説明した。それを聞きながら、令嬢商人は家に入った。そこに、少女が
「お姉さんも、冒険者さん?」
と問い掛けた。
「私は、元冒険者ね……今は、商人をやっているわ」
令嬢商人は少女に説明しながら、少女の頭を優しく撫でた。その様子から、子供に慣れているのが分かる。
そして居間に来ると、椅子に座り、出されたお茶を一口飲んでから
「改めて、久しぶりね……手紙に書いたと思うけど、冒険者は半ば引退して商人をやってるわ」
「あんなことがあったんだから、仕方ないわ」
令嬢商人の話を聞いて、魔法使い娘は同情し、戦士娘も同意するように頷いた。三人に共通しているのは、冒険中間近で死を見たこと。
令嬢商人は一党を全員失い、魔法使い娘と戦士娘は少年剣士を失った。
故に、気持ちは理解出来るのである。
「それで、商人として親元から独立したんだけど……暫くの間は西方面で活動しようと考えてるの」
「なるほどね……道理で、家の前に馬車が停まってると思ったわ」
令嬢商人の話を聞いて、魔法使い娘は納得したように頷いた。今は個人で動いている為、商品を運ぶのと移動店舗を兼ねて、馬車を使っているのだ。
恐らく、将来的には店を持つかもしれない。
「それで、相談なのだけど……西で活動する時に、ここを拠点にしてもいいかしら……」
「ここを?」
令嬢商人の話を聞いて、戦士娘は思わず首を傾げた。
「ええ……やっぱり、固定の活動拠点が有る方が色々とやり易いのは確かだから……あ、勿論対価は払うわ。商品の割り引きとか、お金は出すわ」
令嬢商人の話を聞いて、二人は顔を見合わせてから
「流石に、私達だけじゃ即決は出来ないけど……」
「多分、問題無いと思うわ……部屋は余ってるし、裏庭は使ってないから……裏口から入れば、馬車も停められるしね……」
主に使っているのは、入り口側の庭で、そちらに畑や剣舞士の鍛冶工房がある。それに対して裏庭だが、未使用な為にどうしようか考えている最中だったのだ。
「お兄さんなら、多分夕方には帰ってくると思うよ!」
少女の言葉を聞いて、令嬢商人は頷いた。確かに、家主の剣舞士が居ないのに決める訳にはいかないだろう。
そう考えた令嬢商人は、剣舞士が帰ってくるまで待つことにした。
そして、数時間後
「構わないぞ」
話を聞いて、剣舞士は即座に許可した。
余りにも即決だったために、令嬢商人はポカーンとしていた。
すると、剣舞士が
「部屋もだが、裏庭の使い道に困っていたからな……使いたいというなら、貸し出す……使い道が見つかったのなら、そちらの方がいいだろう」
と語り、令嬢商人を受け入れる事が決まった。