月日は経ち、春。春になると、その年に一定の年齢に達し、夢と希望を持った者達が冒険者になろうと冒険者ギルドにやってくる。
そんな新人達を、二階から見ていた戦士娘が
「これで、私達も先輩か……」
と呟いた。気付けば、彼女達が冒険者になって一年が経過した。文字にすればたった二文字だが、余りにも濃密な一年だった。
しかも彼女達は、一年以内に白磁から昇級している。はっきりいって、これは破格なのだ。
白磁になった大部分は、一年以上経ってようやく昇級出来るか否かという物。例に挙げると、ある少年剣士は未だに白磁等級であり、近い内に面接があるかもしれないらしい。
そして彼女達だが、近い内に昇級の面接があるらしい。それはさておき、今彼女達はゴブリンスレイヤーが依頼状を確認しに行ったのを待っているところだ。
恐らく、複数のゴブリンに関する依頼を遂行することになるだろう。
なんなら、この四方世界で一番ゴブリンに詳しい一党は、自分達ではないか、とすら思える位にはゴブリンと戦った。
その時、ゴブリンスレイヤー達が戻ってきて
「……依頼だ、行くぞ」
と依頼状を掲げてきて、告げた。内容を見ると、少し離れた村でゴブリンの集団が牧場を襲い、家畜に被害が出てるから討伐してほしい、というものだ。
なんら珍しくない内容の依頼状、それを確認した一党は準備して向かう為にギルドから出ようと出入口に向かった。なおそんな一党の中に、剣舞士の姿は無い。
剣舞士だが、今から3日程前に指名の依頼が入り、令嬢商人の護衛として付いて行った。
予定では、今日の夕方か明日の朝には帰ってくることになっている。
そして一党が、並んでいる冒険者、冒険者になろうとしている少年少女達の横を通った時
「だから、ゴブリンの依頼だ!」
苛立った様子の少年の声が聞こえ、魔法使い娘が立ち止まって受付の方に視線を向けた。すると、それに気付いた神官娘が
「どうしました?」
と問い掛けた。しかし魔法使い娘は、少し間を置いてから
「……いえ、何でもないわ……行きましょう」
と言って、歩き始めた。だが、内心では
(ここに、弟が居る筈がないわ……まだ、在学中の筈だし……)
と先ほど聞こえた声から弟を思い出し、しかしまさか居るとは思っていなかった。
そして時は経ち、夕方。ゴブリンスレイヤー一党は、何の問題もなく30は居たゴブリンを殲滅し、ギルドに戻ってきた。
冒険者ギルドとしての営業はほぼ終わり、残っているのは緊急時の為の受付役として二人の受付嬢。
そして、酒場で飲み食いしている依頼が終わった冒険者達位。
の筈だったが、冒険者ギルド側の待合用のカウンター席に、人影があった。どうやら寝ているらしく、うつ伏せだ。しかし、それでも分かる赤い髪。その色合いは、魔法使い娘に非常に酷似していた。
「ん? 新人?」
「だと思いますが……」
「どうしたんでしょうか……宿が無いのか……」
上妖精弓手、戦士娘、神官娘が話していた時、魔法使い娘がツカツカと歩み寄ったかと思えば
「起きなさい!!」
とその人物の頭を、思い切り杖で殴った。
予想外過ぎる光景に、一党が困惑していると
「いってぇな! 誰だ……って、姉さん!?」
起きた少年は、魔法使い娘を見て驚愕した表情を浮かべた。
「姉さんってことは……貴女の弟?」
「ええ、そうよ……本来ならまだ、学院に在学中なんだけど……正直に言いなさい、なんで此処に居るの?」
戦士娘の問い掛けに答えてから、魔法使い娘は弟を鋭く睨んだ。確かに、まだ在学中の弟が学院から遠く離れた西の街の冒険者ギルドに居たら、そうなるだろう。
少しの間言いづらそうにしていた少年魔法使いだったが、呟くように
「……兄さんが、死んだんだ」
「兄さんが!?」
少年魔法使いの言葉に、魔法使い娘は驚愕した。
「お兄さんも居るんですか?」
「ええ……魔法研究所で新しい魔法の開発をしていた筈……兄さんが死んだって、どういう事よ?」
魔法使い娘が再び問い掛けたら、少年魔法使いは経緯を語った。それは、昨年の末の話だった。二人の兄は、新しく考案し開発された魔法を試す為に、冒険者達の護衛を着けて、ゴブリンを標的に試験を行っていた。
その最中にゴブリンの大群と遭遇し、ゴブリンの
それ事態悲しいことで、弟は落ち込んでいた。そんな時に聞こえたのが、兄をバカにした話だった。
研究所の他の人だけでなく、学院の生徒達までが兄をバカにし、嘲笑していた。
それを聞いた少年魔法使いは、バカにした連中を相手に大喧嘩に発展。その時は教師達の仲介が入り止められたのだが
「……兄さんがバカにされたのが悔しくて……見返してやろうって考えたんだ……」
「それで、此処まで来た……ってことね?」
魔法使い娘の問い掛けに、少年魔法使いは無言で頷いた。魔法研究所に居たということは、その兄は非常に優秀だったのだろう。しかしその兄が、試験中に死亡。
その悔しさは、魔法使い娘にも分かる。
だが、だからといっても
「幾らなんでも、考え無し過ぎるわよ……」
少々向こう見ずな弟に、魔法使い娘はため息混じりに頭を抱えた。
その時、ドアが開く音がしたので視線を向けると、ちょうど剣舞士が戻ってきたようだ。
「師匠、お疲れ様です」
「そちらもお疲れ……どういう状況だ、これは」
「ふむ、それでしたら拙僧が……」
剣舞士が首を傾げると、蜥蜴人僧侶がかいつまんで説明した。話を聞き終わた剣舞士も含め、一党はどうしようか悩んだ。すると少年魔法使いがゴブリンスレイヤーに気付き
「あんたは……」
「彼は、この一党のリーダーのゴブリンスレイヤーよ」
「こいつが、あの唄の!?」
どうやら、少年魔法使いは唄でゴブリンスレイヤーの事は知っていたらしい。だがまあ、唄との差に驚いているようだ。
まあ、唄は幾らか脚色されているのだから、仕方ないだろう。
「……あんたがゴブリンスレイヤーってことは、ゴブリン退治をやるんだろ?」
「……ああ、そうだな」
少年魔法使いからの問い掛けに、ゴブリンスレイヤーは端的に答えた。ほぼゴブリン退治を専門としている一党は、かなり珍しいだろう。(たまに、違う依頼も引き受けるが)
「だったら、あんたの
「……なに?」
予想外だったのか、ゴブリンスレイヤーは思わず首を傾げた。
「俺は、なにがなんでもゴブリンを倒したいんだ! ゴブリンを倒して、兄さんをバカにした奴らを見返したい!」
反抗精神とでも言うべきか、見返したいが為にゴブリン退治に参加したいらしい。しかし少年魔法使いは、何やらゴブリンスレイヤーを睨んでいる。
(何か分からないけど、気に入らない……)
その時だった。
「話は聞かせてもらったぞ!!」
と女聖騎士が現れた。先ほどまで酒場で飲んでいた為、少しばかり顔が赤い。
「まず、君はゴブリン退治に行きたい。しかし何やら、ゴブリンスレイヤーが気に入らない様子だな」
「うぐっ」
言いづらい事を指摘された少年魔法使いは、苦い表情を浮かべた。当たりらしい。
「そこでだ……君が指揮をして、ゴブリン退治をするのはどうだ?」
「わ、私がですか!?」
女聖騎士の提案に、神官娘は驚きの声を挙げた。
「それに、普通にやっても面白くないからな……賭けをしたらどうだ?」
「か、賭け?」
女聖騎士の言葉に、魔法使い娘が首を傾げると
「うむ。そうだな……まあ、賭けの内容はそちらで決めてもらうが……負けたら、相手の言うことを一つ聞く、でどうかな?」
と告げた。一連を見聞きしていた重剣士は、半ば諦めた様子で天井を見上げた。
(天罰は……無しか……)
女聖騎士だが、聖騎士というからには神官の一人なのだが、些かギャンブル癖があった。重剣士からしたら天罰を期待したのだが、何も起きなかった。
そして、賭けをすることに決まった一党は、とりあえず解散することにした。
「ねえ、弟を泊めてもいいかしら……」
「まあ、部屋は余ってるからな……構わない。どうせ、一つは客室として使うつもりだからな」
魔法使い娘の願いを聞き入れ、剣舞士は少年魔法使いを近くに呼んで
「付いてこい……泊めてやる……」
と言った。資金に余裕が余り無い少年魔法使いは、剣舞士の後に続いて家に向かった。
こうして、臨時的に少年魔法使いを受け入れ、ゴブリン退治をすることに決まった。
そして、西の街を巡る戦いが再び起こる。