少年魔法使いが来た翌日。何時ものように依頼状が貼られた掲示板前が空くのを待っている間に、三人娘は面談をすることになり、受付嬢に呼ばれて応接室に向かった。
そして、ゴブリンスレイヤーが戻ってくる少し前に戻ってきたのだが
「……昇級出来なかったか……」
「出来ませんでしたぁ……」
三人娘のうち、神官娘だけが昇級出来なかったのだ。
戦士娘と魔法使い娘は鋼鉄のタグがあるが、神官娘は黒曜のままだ。
どうやら、ちゃんと貢献しているのかを疑われた結果のようだ。
「……そういう意味では、今回の賭けは渡りに船だな……」
「確かにな……恐らく、その成果で再判断されるだろう」
ゴブリンスレイヤーと剣舞士の言葉を聞いた神官娘は、何時までもクヨクヨしてられないと自分を奮い立たせ、立ち上がり
「それで、依頼内容は何でしょうか?」
と問い掛けた。
依頼状は、この西の街から半日位の場所に今現在建設中の冒険者訓練所の責任者からだった。
内容としては、その建設予定地にゴブリンが現れ、工具を盗んだという。
「……どうする?」
「まず、道具を集めましょう。それと、食糧も何日分か……群れから追い出されたか、はぐれなら良いんですが……」
どうやら、神官娘はゴブリンが一匹だけという点が気になったようだ。
「取り敢えず、現場に行きましょ」
上妖精弓手の言葉に頷き、一党は動き始めた。
そして、昼を少し過ぎた位の時間に到着したが
「うわぁ……」
「ボーっとしない。着いてきなさい」
少年魔法使いが道を歩いていた派手な格好の踊り子や魔法使いに視線を奪われていると、魔法使い娘が思い切り頭を叩いて意識を戻させた。
やはり、姉弟なだけあって、遠慮は無いようだ。
今居る場所は、新しく訓練所が建てられているのだが、周囲には工事に携わる職人達が住むテントだけでなく、幾つも大きなテントが建ち、簡易的だが酒場やお店、宿として機能していた。
更には、話を聞き付けてやってきた商人達も居て、かなりの賑わいだ。
すると
「あら、貴方達。ここに来たの?」
と声が掛けられて視線を動かせば、令嬢商人が居た。
やはり商人になったからには、新しい話題には食い付いてきたようだ。
「はい。つい先日、ゴブリンが現れたらしく、依頼状が出てたので……」
「なるほどね……ああ、だったらあっちに行った方が良いと思うわ。あっちに、色んな責任者が集まるテントが有るから」
神官娘の話を聞いた令嬢商人は、ある方向を指差した。確かに、その先に一際大きいテントと建築途中らしい大きな建物。訓練所が見えた。
そもそもこの訓練所というのは、新しく冒険者になった新人達に、冒険に於いての基本。モンスターの種類・行動、戦い方、簡易薬の調合等を教える場所で、新人冒険者の生存率を上げるのが目的だ。
講師は、様々な理由で引退した元冒険者を起用する予定になっている。
「私はまだ暫くこの場所に来る予定だから、何かあったら来てね。場合によっては、道具や武器を融通するわ」
「ありがとうございます!」
そこで一旦令嬢商人と別れ、一党は令嬢商人に教えられた場所に向かった。
依頼人は、工事の責任者のドワーフだった。
話をすると、彼のテントに向かった。
「なんでぇ、兄弟。酒じゃないんか?」
「バカ言え、兄弟。朝から酒を飲んで働けるのは、ワシらくらいじゃ。人間も居るんだから、これで我慢しろい」
親方から差し出された盃を受け取った鉱人術士が文句を言うと、親方は諭してから自分の盃に水を入れた。
ドワーフというのは酒に強い種族で、彼らが日常的に飲む火酒は人間の酒とは比べ物にならない程に酒精が強く、他の種族が飲めば一発で酔い潰れてしまうらしいが、それでも彼らには丁度よく、働けるらしい。
鉱人術士と親方が一杯飲み終わるのを待ってから、神官娘が
「あの、今回の依頼に関して、話を聞きたいのですが……」
と切り出したら、親方は怒った様子で語り始めた。
事が怒ったのは、1日前になる。その日も作業を終えてテントに戻ってきたら、一人のドワーフが工具を現場に置いてきた事に気付き、取りに戻った。
だがその工具は、先に来ていたゴブリンに奪われてしまった。それを知った親方は、そのドワーフに追い掛けるように命じたそうだ。その甲斐あって、ゴブリンの住み処は分かっているとのこと。
だが神官娘は、怒り心頭という様子の親方に驚いていたら、鉱人術士が
「ワシらドワーフはな、自分が使う道具を大事にしない奴は許せないタチなんじゃ。許してくれ」
と小声で教えてくれた。つまり親方は、仕事道具の工具を忘れ、あまつさえ奪われたというそのドワーフに怒っているようだ。
親方が話し終わると、神官娘は
「それで、そのゴブリンの住み処は何処なんですか?」
と問い掛けた。すると親方は、付近の地図を取り出して
「ここから、少し離れた場所にある古代の陵墓だ」
と一ヶ所を指差した。
それを聞いたゴブリンスレイヤーが、ポツリと
「陵墓か……面倒な……」
「知ってるんですか、ゴブリンスレイヤーさん?」
ゴブリンスレイヤーの呟きを聞いて、神官娘が問い掛けた。すると、ゴブリンスレイヤーは地面に軽く内部構造らしい図を描きながら
「……石造りの大きな墓場で、玄室と通路で構成されている……石造りだから、壁抜きを警戒する必要はないが……そうなると、このゴブリンは偵察に来ていた個体だ……」
「ということは、最低でも20近くは居ますね……」
ゴブリンスレイヤーの説明を聞いて、神官娘は唸り始めた。偵察を出せるということは、10を越えるのは確実だ。しかも工具を奪ったということは、恐らくだが、内部で何らかの道具は多少作っているだろう。
更には、知識個体が居る可能性も出てきた。
「ゴブリンスレイヤーさん。玄室ということは、ドアが有るんですか?」
「……ある。多少風化している可能性はあるが、基本的に頑丈な木製のドアが取り付けられている」
ゴブリンスレイヤーの説明を聞いて、神官娘は何やら考え始めたのだが
「なあ、居場所が分かってるなら、サッサと行って倒せばいいじゃないか」
と少年魔法使いが言って、テントを出ようとした。
だが、そんな少年魔法使いを魔法使い娘が襟首を掴んで止めて
「情報収集と事前準備は大事よ。この2つを忘れたら、死ぬ確率が一気に跳ね上がるわ」
と教えた。すると、考え終わったらしい神官娘が
「閂を入手しましょう」
と告げた。どうやら、何やら考えがあるようだ。
そして、少年魔法使いの初めての冒険が始まり、神官娘の初めてのリーダーが始まった。