準備を終えた後、一党は件の陵墓に向かっていた。
そんな中、少年魔法使いは落ち着かない様子で周囲を見回していたが
「そんなキョロキョロしないの」
と姉に一喝されて、前に視線を向けた。
あの訓練所建設現場から既に結構離れて、今は森に入っており、最初より視界は悪くなっているが、先頭を行くゴブリンスレイヤーの足に迷いは一切感じられない。
すると、神官娘が気になったのか
「ゴブリンスレイヤーさん……この辺りの事を、知ってるんですか?」
「……ああ……よく知っている……」
神官娘からの問い掛けに、ゴブリンスレイヤーは短く答えた。ゴブリンスレイヤーは言わなかったが、訓練所があった場所は、彼の生まれ育った故郷だった場所なのだ。そして今居る辺りから陵墓辺りは、彼にとって遊び場だったのだ。
それを知っているのは、ゴブリンスレイヤーの他に牛飼い娘のみになる。
ふとその時、魔法使い娘が思い出したように
「そういえば、匂い袋は買ったの?」
と少年魔法使いに問い掛けた。それは、西の街を出る前に言った事なのだが
「あ? 買う金が無かったから、買わなかったけど……それがどうした?」
「あら、それは大変ね……」
「匂い消し、しないとねぇ……」
少年魔法使いの言葉を聞いた戦士娘と上妖精弓手が言った時、ゴブリンスレイヤーが不意打ちしてきたゴブリンの頭をかち割っていた。
この後の展開は、彼女達は一度経験していた。
暫くした後、陵墓に入って
「正面、ゴブリンが8……いえ、9来ます!」
「任せろ」
神官娘の言葉の直後、剣舞士が素早く切り込んであっという間に9体のゴブリンを切り捨てた。すると、ゴブリンスレイヤーが死骸を見て
「……こいつら、イヤに装備が整っている……」
と呟いた。確かに、金属製ではないが、革製の鎧や木製の兜を被っているゴブリンが多い。
「そうですね……陵墓にあったとは思えません……あの建設現場でも、女性が拐われたという話は聞いてませんし……隊商を襲って、揃えたんでしょうか?」
神官娘は、祈りを捧げてから考察を始めた。
ゴブリン達の装備は、多少摩耗しているがまだ新しい物ばかりになる。すると、ゴブリンスレイヤーは何かを思い出したように雑嚢入れから数枚の羊皮紙の束を取り出して
「……これだ」
と言って、神官娘に差し出した。神官娘が確認すると、それはゴブリン退治の依頼書だったのだが、日付は今回のより四日ばかり前ので、依頼者もまったく違う。だが
「あ……近くの別の村から……!」
神官娘も気付いたのだが、それは森を挟んで反対側の村からの依頼書であり、内容は隊商が襲われて、物資が奪われたという内容。そして、それなりのランクの一党が依頼を請け負っていた。
「……もう、日にちが経ち過ぎているな……」
「……生き残っている可能性は、低いですが……」
「だったら、助けに行こうぜ!」
話を聞いていたらしい少年魔法使いが言って走ろうとしたが、それを魔法使い娘が襟首を掴んで引き留めた。
その少年魔法使いだが、ゴブリンスレイヤーが匂い消しとして塗った血だらけである。
「無策に行ったら、私達も全滅するわ……何か、考えは?」
「はい。ここから先は……この閂を使います」
魔法使い娘からの問い掛けに、神官娘は雑嚢入れから訓練所建設現場で入手した閂の入った袋を出した。
「なんで、閂を?」
「ゴブリンスレイヤーさんの話で、玄室と通路で構成されていると聞きました……全てではないでしょうが、その部屋にゴブリン達が入っていると考えたら、一部屋ずつ倒していたら、他の部屋から出てきた個体に不意打ちされる可能性が非常に高いです……だったら、一度閉じ込めてから奥に進んで、奥から倒していきます……そうすれば、全部を一辺に相手するよりも生き残れます」
少年魔法使いからの問い掛けに、神官娘は近くのドアに閂を挟みながら告げた。その直後、そのドアが部屋の方からドンドンとドアを叩く音が聞こえた。どうやら、起きてきたゴブリンが異常に気付いたようだ。
すると、上妖精弓手がその袋を掴んで
「フェイヒリッター! 私と一緒に来て! 私が閂を挟むから、フェイヒリッターはゴブリンを!」
「承知した」
そこから、機動力に長けた二人が一気に動き始めた。
剣舞士が目視したゴブリンを攻撃し、上妖精弓手がドアを開けて出ようとしていたゴブリンを蹴り跳ばしてから、ドアを閉めて閂を挟みこんでいく。
そして、大分奥まで進んだ時、上妖精弓手が動きを止めて
「ねえ、これ……」
とドアの上の方を指差した。そこには、結び目のある縄が挟んであった。それを見たゴブリンスレイヤーが
「……奴らにとってのイタズラだな……何が仕掛けられてるかが問題だが……」
と考え始めた。その時、焦れったくなったのか
「とっとと開ければ分かるだろ!」
と少年魔法使いが、制止する間もなくドアを開けた。その直後
「うわあっ!?」
何かが少年魔法使いの目前を通過して、床に鈍い音を立てながら落ちた。それは、まだ真新しい遺体だった。どうやら胴体らしく、首もとには暗くてよく見えないが、黒曜のタグが見える。
恐らくは、先に来た冒険者の遺体だろう。
少年魔法使いが尻餅を突いていると、魔法使い娘が来て
「このバカ! よく考えないで開けるからよ!」
と少年魔法使いを叱った。しかし、既に後の祭りである。耳を澄ましてみると、更に奥からゴブリン達の声と足音が聞こえてくる。
「来ますな……」
「相当の数よ……20じゃないわね……最低でも、50近くは居るわ」
「一先ず、奥に!」
その部屋の奥には、まだ奥に向かうドアがあった。魔法使い娘に叩き起こされて立ち上がった少年魔法使いは、そのドアを開けて固まった。
そこには、ゴブリンよりも大きな個体が居て、その前には椅子に縛られた一人の女性が拷問されていた。
「あああぁぁぁぁぁ!」
少年魔法使いは激情に駈られて、走りだし
「カリブンクルス……クレスケント……!」
呪文の詠唱を始めた。
「待ちなさい!」
「ヤクタ!!」
魔法使い娘が制止したが止まらず、少年魔法使いは火玉を放った。その火玉は、その魔物。オークに向かうが、オークは近くに居たゴブリンを盾にして防いだ。だが少年魔法使いは、その隙にその女性に駆け寄り
「まだ生きてる!」
と呼吸をしているのを確認した。だがその直後、少年魔法使いは気付かなかったが、部屋の奥の方から数体のゴブリンが現れた。
拷問が罠だと気付いた少年魔法使いは、自身の失態に気付いて
「来るな! 罠だぁ!!」
と声を張り上げた。
そして、ゴブリンが少年魔法使いに飛び掛かった時
「伏せなさい!」
と上妖精弓手が弓を放ち、ゴブリンスレイヤーが短剣を投げた。それらにより、少年魔法使いを狙っていたゴブリンは悉く倒せた。その間に、蜥蜴人僧侶と剣舞士が踏み込み、椅子を挟むように布陣。
そして、ゴブリンスレイヤーはようやくオークに気付いて
「……ゴブリンではないな」
と呟いた。