すいません
「坊主、その嬢ちゃんは生きとるのか!?」
鉱人術士からの問い掛けに、少年魔法使いは慌てて拷問されていた女性の呼吸を確認した。
「生きてる!」
「だったら、貴方はもう魔法が使えないんだろうから、コレを使って守ってなさい!」
少年魔法使いの言葉を聞いた魔法使い娘が、近くに落ちていた楯を拾って少年魔法使いに渡した。恐らく、先に突入して全滅した冒険者達の装備だろうか。
それらを確認していたゴブリンスレイヤーは、神官娘に視線を向けて
「……ここからは、俺が指揮を執るぞ?」
「……はい、お願いします」
ゴブリンスレイヤーの言葉に、神官娘は頷いた。
少年魔法使いの独断行動から何とか態勢を建て直そうと必死に考えていたが、自身が指揮を執り続けるよりゴブリンスレイヤーに引き継いだ方が確実と考えたからだ。
しかし、最初から全て出来る訳がない。
今回はダメだとしても、脱出すればまだ機会は十分にあり、そしてゴブリンスレイヤーには手段があった。
「こいつは……ゴブリンではないな……」
「オークよ! それと、一体だけじゃないわ!」
上妖精弓手が言った直後、ドアを砕くようにもう一体のオークが現れた。
オーク
豚のような顔と大きく出た腹部、そして2mに迫る大柄な体躯が特徴の魔物で、耐久性と力に秀でている。
二体居るが、どうやらそのオークが陵墓のゴブリン達のリーダーのようだ。
先に冒険者を拷問していた個体は、楽しみを邪魔されたからか、怒った様子で少年魔法使いを睨んだ。
だが
「図体ばかりで、目は節穴だな……」
と呟きが聞こえ、気付けば剣舞士がそのオークの前に居た。
「ゴブリンスレイヤー……どうする」
「……一度下がり、態勢を立て直す」
ゴブリンスレイヤーはそう言って、雑嚢から陶器製の小さな入れ物を取り出して、投げた。投げられた陶器は、オークの足下で割れて赤い粉が舞った。
そう、目潰しである。
すると、鉱人術士が
「坊主、指を全部拾っておけ! 後で、くっ付けられるかもしんねぇからな!」
と少年魔法使いに、椅子の下に落ちていた指を拾うように指示した。それは、拷問されていた女性の両手の指だった。
「楯は私が持つから!」
戦士娘が楯を持つと、少年魔法使いは震える手で指を一つずつ拾っていく。そして全部拾うと、本数を数えてからとりあえず布で包み
「ぜ、全部拾ったぞ!」
「よし……鉱人術士、椅子毎運べ。解放する時間は無い」
「ほいきた! 誰か、手伝え!」
「私が!」
鉱人術士の呼び掛けに、楯を背負った戦士娘が応えて、鉱人術士とは反対側に回った。そして椅子毎持ち上げると、蜥蜴人僧侶が先頭に立って奥に向かう通路に走り始めた。奥から数体のゴブリンが来たが、それらは蜥蜴人僧侶によって殲滅。
そして、一際大きな部屋に入った。
恐らくだが、元々は陵墓の主の棺桶が納められていたのだろうが、今は何も無い。
「椅子は一番奥の壁際に置け! お前が楯を持って、そいつを守ってろ!」
「わ、分かった……!」
魔法を使いきった少年魔法使いには、最早攻撃手段は無い。そんな少年魔法使いに出来るのは、楯を持って女性を守ることだけだ。
「来るわよ!」
上妖精弓手が弓に矢をつがえながら言うと、蜥蜴人僧侶が
「小鬼殺し殿、竜牙兵は入り用ですかな?」
と問い掛けた。
「……いや、今回は控えておいてくれ」
「承知しましたぞ。では、拙僧も前に出ましょうか」
蜥蜴人僧侶はそう言って、竜牙剣を両手に持って前に出た。通路の先からは、二体のオークを含めたゴブリンの群れが来る。
その後、二体のオークはゴブリンスレイヤーと剣舞士により撃破され、ゴブリンも殲滅。
陵墓から、女性を背負って脱出した。
その後一党は、訓練所建設地にて休んでから西の町に戻ることにした。
そして、家の居間にて
「さて……今回、アンタの独断行動だけど……何か、言うことはある?」
「……つい、カッとなりました……」
少年魔法使いを正座させ、魔法使い娘が説教していた。
「あのね……あの娘がリーダーだったのに、それを無視してドアを開けて、更に勝手に魔法を使った……アンタ、死ぬかもしれなかったのよ? 分かってる?」
「……今思い返すと、その通りです……」
否定出来ない為に、少年魔法使いは姉の言葉に頷いていた。ドアを開けた時、振り子のようなタイプの罠だったら、少年魔法使いの魔法を耐えたオークが、即座に反撃していたら、少年魔法使いは高い確率で死んでいただろう。
そう考えると、運もだが一党の動きが良かった為に助かったとしか言えないのだ。
「ったく……アンタのその性格は、お父さんに似たわね……」
「ぐっ……」
「あ、彼は父親似なのね」
そこに、風呂上がりらしい戦士娘が現れた。
流石は元貴族の別荘なだけあり、薪式だが風呂があったのだ。因みに、その薪は剣舞士が即興で着火し、維持している。
「ええ……母さんは、冷静な方でね……私は母さん似よ」
「対極な両親ね……さて、初めての冒険。どうだったかしら?」
戦士娘が問い掛けると、少年魔法使いは少し視線を横にして
「……失敗したとは思うけど……」
「そこから、学ぶのが大事よ……私達も、最初の冒険で大失敗して……危うく、全滅するかもしれなかったわ」
そう言った戦士娘は、複雑そうな表情を浮かべた。
その脳裏には、危機に陥った瞬間が蘇っていた。
しかし、剣舞士とゴブリンスレイヤーによって生きている。その失敗から学び、今がある。
「だから、大事なのは学ぶこと。熱血なのは良いけど、少しは考えて行動しなさい」
戦士娘はそう言って、自分の部屋に向かった。
それを見送った魔法使い娘は、嘆息しながら
「……ま、彼女の言う通りね。今日はもう、休みなさい。明日から、アンタには訓練が待ってるわよ」
と言って、少年魔法使いを部屋に戻らせたのだった。