「……理由を聞こうか?」
格闘娘の突然の申し出。弟子にしてほしいという申し出を聞いた剣舞士は、格闘娘にそう問い掛けた。
「あの洞窟での動きと模擬戦の動きから、貴方がかなりの腕前とわかりました……それこそ、あの重騎士殿の言う通り、銀等級でも通用する程の腕と……しかも、剣だけでなく、私と同じ格闘も出来ると思いましたが……違いますか?」
格闘娘のその言葉に、剣舞士は暫く沈黙してから
「正解だ……まあ、訂正すると……」
と言いながら、右手で指を鳴らした。その瞬間、右手人差し指の先に、火が灯った。
「なっ……」
「俺は、刀、格闘、魔法と使える……」
つまり剣舞士は、
「しかし、魔法というのは呪文が必要の筈……」
「確かに、大規模や特殊なのは詠唱する必要がある……しかし、単純なのはイメージが強固かつ自分が分かりやすい仕草をするだけで、発動することが出来る」
格闘娘の言葉を肯定しつつそう教えて、再び指を鳴らした。すると、部屋の壁に掛けられていたランプと蝋燭に火が点いた。
火を灯すという単純工程だから、指を鳴らすだけで済むのだ。
「先に言っておく……俺は戦場を……戦争を知っている……だから、やるからには中途半端は許さん……脱落も許さん……最後まで、付いてくる覚悟はあるか?」
語気は一切変わらない。しかし、強い気迫が伝わる。
それらから、格闘娘は自身が試されていることに気付いた。恐らく、少しでも怖じ気づけば、修行の話は反故にされるだろうと。
だから格闘娘は、グッと剣舞士と目を合わせて
「有ります」
とだけ、答えた。
それから、数秒後。
「……分かった」
と頷いた。
「あ、ありがとうございます!」
「まあ……明日から、だな……今日はもう、陽が沈む」
剣舞士はそう言いながら、外を見た。
空は茜色に染まり、一部を除いて店先を明るくし始めていく店員達。
もう間も無く、黒き帳が降りるだろう。
「さて、食事に行くか……」
「御一緒します、師匠!」
「……好きに呼べ」
剣舞士はどう呼ばせるか迷ったが、結局は格闘娘に任せることにした。そして部屋から出て、下の酒場に降りた。
「はーい、いらっしゃーい! 好きな席に座って……って、噂の剣舞士さんだ!」
そんな二人を出迎えたのは、獣人少女給士だった。その両手には、料理が乗せられたトレイが有る。
「あんたの顔は、掲示板に貼られた似顔絵で見たけど……線細いねぇ。まあいいや、好きな席に座って!」
獣人少女給士に言われるがままに、二人は空いていた席に適当に着席した。すると、格闘娘が
「あの、お金は……」
と剣舞士に視線を向けた。
すると、剣舞士は懐から硬貨が詰まった革袋を取り出した。
「以前、助けた隊商から貰った……これなら、大抵の料理は食べられる……まあ、無駄使いする趣味もないが」
それは、盗賊に襲われていた隊商を助けた時に貰った金貨だった。しかし、使う機会が巡ってこなかったので、そのままだったのだ。
その後二人は、適当に注文して食事を済ませ、部屋に戻った。
そうして、剣舞士は部屋で体を拭いて、寝ようとした時だった。またドアがノックされて
『すいません、起きてますか……?』
と格闘娘の声が聞こえた。
「入れ」
剣舞士が入室を促すと、ドアがゆっくりと開いて格闘娘が入ってきた。
「どうした?」
剣舞士が問い掛けると、格闘娘は俯き
「あ、あの……その……」
としどろもどろになりながらも、身に纏っていた服を脱ごうとした。その直後、剣舞士は軽く手刀を格闘娘の頭に振り下ろした。
「まったく……軽々しく、自分の体を許すな……」
「しかし……これ位しか、師匠に差し出せるのは……」
剣舞士の苦言に格闘娘はそう返すと、剣舞士は格闘娘の頭に手を置いて
「……腕利きになれ……それが、最大の報酬になる……」
と言った。だが同時に、格闘娘の体がカタカタと震えていることに気付いた。
(……ゴブリンに押し倒された時を思い出したか?)
そう判断した剣舞士は、少し黙考してから
「……一緒に寝る位なら、考えるが」
と提案した。
それを聞いた格闘娘は、少し黙考してから黙って頷いた。
格闘娘が頷いたのを見た剣舞士は、狭いベッドで背中合わせになるように寝転がった。
「……師匠……」
「なんだ……」
「……ありがとう……ございます……」
その会話を最後に、格闘娘からは静かな寝息が聞こえ始めた。格闘娘が寝たのを確認した剣舞士も、目を閉じて眠った。
そして、翌朝。
「では、訓練を始める前に……お前の腕を知るために組手を行う」
「はい!」
目覚めた二人は着替えた後、訓練場の一角で立ち会っていた。
格闘娘は何時もの胴着姿だが、剣舞士は鎧の大部分が無い。装着しているのは、手甲と脚甲だけだ。
「好きに打ち込んでこい。俺は、基本的に防御に徹する」
「わかりました……行きます!」
その掛け声と共に、格闘娘は駆け出した。剣舞士は軽く腰を落とし、手は軽く開いた状態で胸の高さで構えられている。
それを見た格闘娘は、初手から右足上段回し蹴りを放った。
その一撃を剣舞士は、左手の手首辺りで軽く受け流した。
当たったのはほんの僅かで、格闘娘も見ていなければ手を当てられたとは気付かなかったかもしれない程だ。
「つぁ!!」
格闘娘は受け流された勢いのまま、体を回転させながら裏拳を放った。それを剣舞士は、上半身を軽く後ろに反らしただけで回避した。
「はっ!」
格闘娘はめげずに左ストレートを繰り出すが、剣舞士は右手で軽く受け流した。
それから数分間格闘娘は攻撃を繰り出し続けたものの、結局一撃も入れられなかった。
「ふむ……なるほど……」
終わってみれば、格闘娘は荒く呼吸をしながら地面に寝転がっていた。
(分かってはいたが……強い……あの位置から、一歩も移動させられなかった……)
一貫して防御に徹した剣舞士だが、格闘娘の攻撃を最初の位置から一歩も移動せずに全て対処しきったのだ。
「基礎はしっかりしている。よほど、教わった人物が良かったんだな」
「ありがとう……ございます……」
剣舞士の言葉に、格闘娘は亡くなった父親が褒められた気がして嬉しくなった。
「だが、些か動きが読みやすい。攻め手が単調過ぎる……虚実を混ぜながらでないと、格闘戦というのは成り立たん。今後は、そこを鍛えていく」
「はい!」
そこで一区切りし、二人はギルドに入った。そろそろ、
すると待ち合い室には、ゴブリンスレイヤーと神官娘。そして、魔法使い娘が居た
「大丈夫なの?」
「ええ……傷自体は、あの子のお陰で治ってる。それに……今冒険者から身を退いたら、何のために此処まで来たのか分からなくなるわ」
格闘娘の質問の意図を察したらしく、魔法使い娘はそう返答した。
彼女は今居る町より大きな町にあった魔法と魔術を習う学院を優秀な成績で卒業した後、冒険者になるためにこの町まで来たのだ。
成績優秀卒業者には、魔法魔術研究所に入れる権利が与えられるのだが、それを蹴って冒険者になった。
その理由を格闘娘は聞いていないが、よほど強い願いや願望が有るのだろう。
「わかった……無理はしないようにね」
「お互い様ね」
二人はそう言って、軽く手を合わせた。
そこに
「考えがあるんだが、いいか?」
と剣舞士が、声を掛けた。
「はい、なんでしょうか。師匠!」
「師匠?」
「私今、彼に師事してるの」
魔法使い娘が首を傾げると、格闘娘は小声で魔法使い娘にそう教えた。そんな二人の会話が終わるのを待ち
「彼等と行動を共にしないか?」
とゴブリンスレイヤーと神官娘を指差した。
「理由を聞いても?」
「ゴブリンスレイヤーは銀等級のベテランだ。俺は戦闘や旅には慣れているが、冒険には慣れていない。それは、お前も同じだろう? 彼等と行動を共にすれば、得られることも多いはずだ」
それを聞いた格闘娘は、少し間を置いてから
「わかりました。私は、師匠の判断に従います」
と答え、頷いた剣舞士はゴブリンスレイヤー達の方に一歩踏み出した。すると、魔法使い娘が
「私も、一緒に行動していいかしら?」
と声を掛けてきた。
「損はさせない筈よ」
「……分かった。一緒に行こうか」
少し考えた剣舞士は、最終的には魔法使い娘の提案を受諾。二人を連れて、ゴブリンスレイヤー達に近付いた。
そして、代表してか剣舞士が
「すまない。少しいいだろうか?」
とゴブリンスレイヤーに声を掛けた。
「……なんだ?」
「貴方と行動を共にしても、いいだろうか? 無理強いはしない」
剣舞士の話を聞いたゴブリンスレイヤーは、少し黙考してから
「……構わない」
と短く答えた。
その後、色々と取り決めをした。
まず、依頼状はゴブリンを優先して行うこと。もし無かったら、適当な依頼状を取るか、全員で話し合って決める。
もし何か優先したいことや依頼があれば、そちらを優先する。
休みは各自で適度に取ること。
「……それでいいか?」
「はい、構いません」
「問題ない」
「問題ありません」
「問題ないわ」
こうして、ゴブリンスレイヤーをリーダーにした新しい