今年もよろしくお願いします
仮設訓練所で新人達に訓練が始まって、少しして、今回剣舞士はある洞窟に来ていた。
これは名指しの依頼で、最近出たという山賊の討伐か捕獲依頼だった。相手人数はおおよそ10人前後。どうやら元軍も混じっているらしく、鎧を着ているのが何人か居たという情報だった。
「……すまんな、囮役を引き受けてもらって」
「いえ、山賊というからには、商人を狙うでしょうからね」
そして今回、令嬢商人に囮役を頼んでいた。剣舞士一人では山賊が現れる可能性は極めて低く、山賊の話を聞いていた令嬢商人の立候補もあって囮役を頼んだのだ。
「山賊は、私にとっても他人事じゃないですから」
令嬢商人もやはり商人な為に、山賊の辛さは知っている。逃げ切ればまだやり直せるかもしれないが、新しい馬車や商品の補充などでお金が必要になってしまう。
そして捕まった場合、どんな目に合うか想像するだけで体が震える。
本当ならば衛兵や軍の仕事かもしれないが、大々的に軍が動けば機動力の高い山賊は逃げてしまい、捕まらない可能性が高い。
そういう意味でも、冒険者の方が適任なのだ。
「……情報だと、この辺でだったか」
「はい。この辺で、件の山賊に襲われたと聞きました」
西の街から少し離れた山中。距離的には、西の街から約半日という所だろうか。情報収集した限りでは、その辺りに山賊が現れるという。
剣舞士は一度馬車から降りると、道や周囲を見回して
「……確かに、この近辺を頻繁に歩いてる奴が居るな」
「分かるの?」
「ああ……道やそこに、真新しい足跡がある……」
令嬢商人からの問い掛けに、剣舞士は刀の鞘で何ヵ所か指し示しながら説明した。言われて令嬢商人も地面をよく見ると、確かに非常に真新しい足跡が幾つか道にそう形ではなく、横切る形にあるのを見つけた。
複数で横切るなんて、山賊以外には居ないだろう。
「……居るな」
剣舞士はそう言って、肩当てから投剣を取って構えた。
そして、ガサリという木が動く音がしたが、剣舞士はその音が聞こえた方とは反対方向に投げた。
「がっ!?」
剣舞士が投げた投剣は、木の上に居た山賊の胸部に深々と刺さった。よく見ると、その山賊の手には縄が握られている。恐らく、音は縄を引いて動かしたのだろう。
生半可な冒険者だったら、引っ掛かった可能性が高いだろう。事実令嬢商人は音のした方を向いていた。
「まず、一人……」
「ぶっ殺せ!!」
「死ねぇ!!」
一気に三人が現れ、切りかかってきたが
「遅い」
まず一人目の顔面を掴み、足払い。それでバランスを崩した直後に、別の山賊の方に投げた。
「がっ」
「ぐえっ」
二人が倒れるのを見た剣舞士は、投げる際に奪っていた山賊の剣を投げて二人纏めて串刺しにして撃破。これで、軽装だった山賊の三人を撃破した。
残るは、元々軍の兵士だったと思われる鎧を着た6人だ。武器は、片手斧と盾。両手剣、弓矢、戦斧、片手剣と盾、槍の6人だ。
「さて……」
そこでようやく、剣舞士は刀を抜いた。すると、一人が何やら気付いた様子で
「……二本の剣に、黒を基調とした鎧……まさか、最近名を挙げてきた剣舞士……?」
と呟き、それを聞いた他が動揺を見せた。そして、その隙を見逃してやるほど、剣舞士は優しくはなかった。
剣舞士は空いていた手を素早く動かし、投剣を弓矢持ちに投擲。剣舞士が投げた投剣は、狙い違わずに喉に刺さり、弓矢持ちは口から血を吐きながら倒れた。
「……一応言っておくが、投降するなら命だけは保障するが……」
「うるせえ!!」
「今さら、退けるかよっ!!」
剣舞士の投降勧告に、山賊達は怒声を張り上げながら剣舞士に突撃してくる。それを確認した剣舞士は、僅かに目を細めて
「そうか……ならば」
まず、一番先に間合いに入った片手斧と盾持ちの山賊の振り上げた腕を、肩辺りから斬り飛ばした。
鎧を着ているといっても、隙間が無い訳ではない。
剣舞士が狙ったのは、肩の付け根の稼働位置だ。革鎧を着ているようだが、ちゃんとした手入れをしていなければ、その防御力を維持出来ない。
痛みで動きを止めた山賊の胴体を蹴り、その後ろに居た槍持ちにぶつけて、次に狙ったのは片手剣と盾持ち。
相手が振り下ろしてきた剣を蹴りの勢いも使い、左手で片手剣の剣身をへし折った。
剣というのは、正面からの衝撃には強いが、横からの衝撃には弱いのだ。それを剣舞士は、過去の戦争で熟知している。相手はまさか折られるとは思っていなかったからか、目を見開いて固まる。
剣舞士は刀で片手剣持ちの首を斬り飛ばし、へし折って持っていた剣の剣身を蹴り飛ばした片手斧持ちの顔を狙って投げて、二人撃破。
次に、腕ごと斬り飛ばし転がっていた斧を練り上げて掴み、まだ倒れていた槍持ちに投げて、兜ごと頭をかち割った。
ここまで、一分と経っていなかった。あっという間に、三人撃破。残る二人、両手剣持ちと戦斧持ち。
その二人は、恐怖からか震えているようだ。
しかし、剣舞士からしたら、知った事ではない。投降勧告を無視し、敵対したのは相手だ。
「……今回の依頼は、山賊の討伐だ……」
剣舞士の言葉を聞いた残り二人は逃げようとしたが、気付けば剣舞士が懐に入り込んでいて
「奥の一、斬鉄」
まるで独楽のような回転の斬撃で、残り二人は胴体から真っ二つになって終わった。もう気配もなく、動く相手も居ないのを確認した剣舞士は、刀を振って血を飛ばしてから、鞘を納めた。そして、令嬢商人に視線を向けて
「そちらは無事だな?」
念の為に確認した。
「え、ええ……貴方が一人で全員相手にして、倒したから……けれど、凄いわね……」
令嬢商人は自分が何もしない内に、あっという間に山賊を殲滅した剣舞士に驚いていた。すると剣舞士は
「……対人戦なら、慣れているからな……」
とだけ答えた。こうして、山賊の討伐は終わり、念の為に山賊の死体は道から片付けてから西の街の衛兵達を呼んで確認。剣舞士は依頼を完了させた。
そして、再び西の街を巡る戦いが起きる。