建設途中の訓練所で訓練を始めて、数日後。
その日剣舞士は、ゴブリンスレイヤーと合同で夜間・暗所の訓練をしたいと申し出てきた新人達に対して、指導をしようと集まった新人達を確認していた。
その時、遠くから悲鳴が聞こえた。
その悲鳴から連鎖するように、次々と悲鳴が聞こえてきて、新人達も気づいた様子でザワめき始めた。
「ゴブリンスレイヤー……」
「……何か、起きてるな」
剣舞士からの短い問い掛けに、ゴブリンスレイヤーも短く答えた。どうやら、確信は得ていないが、何か起きてるのは気づいたようだ。
すると、少年魔法使いが僅かに腰を上げて
「何だ……何が起きてるんだ?」
と問い掛けてきた。しかしゴブリンスレイヤーは答えず
「……構えておけ」
とだけ言って、剣を抜いた。新人達が狼狽えてる中、少年魔法使いと圓人少女剣士が立ち上がり、構えて
「お前ら、構えろ! ここは、戦場だ! 術士、何時でも放てるようにしとけ!」
「ほらほら、盾持ちは前に出て構えて! その後ろに、槍持ち。術士の順で構えて!」
と号令を下し、新人達を鼓舞した。二人の号令を聞いて、新人達も構え始めた。それを視界の端で見ながら、剣舞士とゴブリンスレイヤーは暗くなった先を睨んだ。
間違いなく敵が居て、その敵は十中八九ゴブリンだろう。
そう考えたゴブリンスレイヤーは、その身に怒りを憎しみを迸らせた。
(また、この場所を……襲うのか……!)
怒りで無意識に剣を強く握ると、剣舞士が
「ゴブリンスレイヤー。事態を把握する為にも、動くぞ。二手に別れよう」
と提案してきた。
今ゴブリンスレイヤーや剣舞士達が居るのは、建設途中の訓練所の南側の端の壁際になる。実は、他の場所でも重剣士や他の冒険者が新人に対して訓練をしている筈で、場合によっては直接接敵している可能性もある。
更に言えば、その1つに戦士娘と魔法使い娘が訓練しているグループもあるのだ。
「……そうだな、その方が効率的だろう。別れるぞ」
「ああ。後で、中央施設で会おう」
短い会話を交わしてから、剣舞士は一気に走り始めた。後の事は、ゴブリンスレイヤーが上手く采配すると考えたようだ。
(さて……無事だといいが)
そう考えながら走っていると
「た、助けて!!」
と工事に携わっている一人の獣人少女が、路地裏から腕の傷を押さえながら出てきた。その後ろから、三体のゴブリンが現れたのを視認した剣舞士は、投剣を投擲。
投げた投剣は全てゴブリンに直撃し、倒した。
そして剣舞士は、腰の雑嚢入れから
「これを飲め……恐らく、毒が塗られていた筈だ」
と獣人少女に差し出した。獣人少女は、その毒消し薬を飲んでから
「いきなり、地面の穴からゴブリンが現れて……」
と泣きそうな表情で、剣舞士が問い掛ける前に教えてくれた。これで、騒動の発端がゴブリンだと確定した。
だが、先ほどの三体だけな訳がない。まだゴブリンは多数居るのは確実だから、獣人少女一人を中央施設に向かわせて、他のゴブリンに遭遇したら不味い。そう考えていると
「師匠!」
「そっちも無事だったわね」
と戦士娘と魔法使い娘が新人達を伴って、現れた。どうやら、二人も剣舞士と合流を計ったようだ。
「その人は……」
「ゴブリンに襲われていた……彼女を連れて、中央施設に先に行け。俺は他に居ないか確認してから行く……」
「分かりました!」
「また後で」
獣人少女を預けてから、剣舞士は走り始めた。
道中で見つけたゴブリンを撃破しつつ、剣舞士は無事な人物を探した。とはいえ、無事な人物は少なかった。
それでも、無事な人物を見つけては保護した。
そして、その内の一人はなんと令嬢商人だった。なんでも、西の街から武器と防具を持ってきて、次に何が必要か話し合っていたら今回の騒動に巻き込まれたようだ。
それはさておき、剣舞士は中央施設に向かった。
数分すると、中央施設に到着した。
「お、無事だったか。ゴブリンスレイヤーより遅かったから、心配したぞ」
「貴方の、弟子達も、先に、来たわよ……」
中央施設の入り口には、平服の槍使いと魔女が居た。
その話を聞くに、どうやらゴブリンスレイヤー達は先に到着したようだ。
しかし、何やらそわそわしている。それが気になった剣舞士は
「何かあったのか?」
と槍使いに問い掛けた。
「いや、それがな……」
「ゴブリンスレイヤーさん、新人達を残してきてしまったようです」
槍使いの言葉を引き継ぐ形で、中央施設の中から神官娘が現れた。神官娘は、訓練で怪我人が出た際の治療係にと参加さしていたのだ。
「奇跡は使えるのか?」
「はい。使った後、ゆっくり休ませてもらいましたから」
剣舞士の問い掛けに、神官娘は微笑みながら答えた。
「となると、救出になるか……」
「はい。迎えに行くことになりました。場所は、剣舞士さんもご存知ですよね?」
神官娘からの問い掛けに、剣舞士は頷いた。
急がないと、ゴブリンの大群と戦って、全滅する可能性すらありえる。そうなる前に、新人達を助けなければならない。
「今は、どう動くか話し合ってます」
「分かった。俺も合流する」
剣舞士はそう言って、中央施設の中に入っていった。
長い夜が始まる。