戦士娘、魔法使い娘、神官娘、令嬢商人が離れた後、剣舞士はスコルと交戦を開始した。
スコルは風を使って、森の中をその巨体からは予想出来ない動きで機敏に動き回っていた。
木の幹や枝を使って三次元的に動き回り、剣舞士に襲い掛かる。しかし剣舞士は、慌てず冷静に全ての攻撃を弾いていく。
(ケルベロス程ではないが、風で防御壁を作ってるな……簡単には、直撃は入らないか)
数回の攻防の間に、剣舞士は分析していた。
スコルは風を様々な用途に使っていて、攻撃、防衛、機動と使い分けも早かった。
しかし、ケルベロスに比べて出力は低かった。
剣舞士は、左手に持っていた黒椿を鞘に納め
「飛燕」
片手で、二枚の飛燕を投擲した。飛燕は複雑な軌道を描きながら、スコルに迫った。しかし、当たる直前で風の壁に阻まれた。だが、速力は落ちた為に一気に剣舞士は肉薄し
「どうやら、2つ一気には使えないようだな」
素早く一閃。僅かにだが、一撃入れた。
一撃入った理由は、スコルが距離を取る為に風を機動に用いたからだ。風の壁が無くなり、剣舞士の一撃が入った。
どういう理由かは分からないが、スコルは攻撃、防御、機動の何れかでしか風を使えないのだ。
「さて、攻略方法は見えた……あっちも心配だからな。狩らせてもらうぞ」
離脱した四人が心配な剣舞士は、飛燕と餓狼を構えると、スコルに向かって走り始めた。その直後、スコルが吼えて、風の刃が剣舞士に殺到する。
だが剣舞士は
「忌剣……霞斬り」
風の刃を斬った。
まさか斬られるとは思わなかったのか、スコルは驚きでか固まった。だが
「固まっていいのか」
気付けば、剣舞士の左手に持っていた筈の飛燕が無い。すると飛燕は、闇に紛れるように地面スレスレを飛んでスコルに襲い掛かる。スコルは気付くのが遅れ、完全に回避出来ずに右前足と左後ろ足を斬られた。
機動に風を使った為に、防御が出来なかったのだ。
「それで、最早満足に動けないだろ?」
右前足と左後ろ足が傷を負った事で、機動に大きな制限が掛かった。着地の際に満足に力が入らなくなり、下手したら転倒するだろう。
実際、今のスコルは先ほどよりフラフラとしていた。筋肉を斬られ、更に痛みで力を入れられないのだ。
「お前がなぜ此処に居るのか……そんな事は知らんが、生かしておく理由は無い……生かしておいたら、此れから作業する人や無辜の人々が傷付く事になる……」
剣舞士はそう言いながら、一歩ずつスコルに近寄っていく。スコルは怒りからか、剣舞士を憎悪の籠った目で睨む。しかし、剣舞士は止まらない。
「此処で死ね……スコル」
剣舞士がそう言った直後、スコルは吼えた。
複数の風の刃が、剣舞士を切り刻もうと襲い掛かる。
だが
「一度破られた技が、俺に通用すると思うな」
剣舞士は再び、霞斬りで風の刃を斬った。
忌剣、霞斬り
実態無き物を斬る為の技で、水や風の技だけでなく、死霊との戦いの際にも使った技である。
つまり、スコルの風の刃には効果的なのだ。
ゆっくりと歩み寄る剣舞士は、今のスコルにとっては死神に見えただろう。
幾多の魔物や冒険者を屠ってきたスコルだが、ここまで一方的に押された事はなく、追い詰められた事もなかった。初めての窮地に、スコルはこれ迄に無い程に頭を必死に動かした。
そして、ある距離に剣舞士が踏み込んだ直後、スコルはまた吼えた。今までで最大数の風の刃が、剣舞士殺到する。
剣舞士は間髪入れずに霞斬りで、全ての風の刃を斬った。その間に、スコルは体の下に風を起こして逃走に全力を傾けた。
剣舞士は、逃げていくスコルを見て
「学習しないな、スコル……他の事に風を使っていたら、防御には使えないだろう」
と呟いた。
スコルは自身が起こしていた風の音で気付いていなかったが、真下から飛燕が襲い掛かった。
飛燕は、スコルの胴体と頭を貫通した。
それにより、スコルは力なく地面に落ちた。
剣舞士は落ちた場所まで歩み寄り、スコルが完全に死んだ事を確認して
「さて……あっちは無事だといいが……だが、どっちに……」
と四人が行った方向が分からず、首を傾げた。
その時
「あっ!」
とあの少年魔法使いの大きな声が聞こえてきて、剣舞士はその方向に視線を向けた。
「なるほど、そっちか……」
剣舞士はそう言って、合流の為に走り始めた。