ゴブリン達による訓練所建設地の襲撃事件から、数日後。
「おめでとうございます、これで昇格です!」
受付嬢の言葉に、神官娘はホッと息を吐いた。
「これ、慣れる気がしませんね……」
「ふふ……そうでしょうね……」
神官娘の言葉に同意しながら、受付嬢は手元の本にサラサラと記載していく。その本は、神官娘のこれまでの冒険や評価が書かれた本だ。
「まあ、貴女に足りなかったのは実績ですから、今回のは大きなプラスになりましたね。本当に、よく新人冒険者の方達を指揮し、生還させてくださいました」
「いえ……結局、三人も犠牲者が出てしまいました……」
受付嬢の言葉に神官娘が気落ちしていると、監査嬢が
「それは、貴女達が合流する前に出たんだから、仕方ないよ……貴女に非は無いっていうのが、冒険者
と神官娘の頭を優しく撫でた。
そうこうしている間に、受付嬢は本に記載し終えて、新しい鋼鉄のドックタグを手渡され、首に掛けた。
それを見て、神官娘は
「そういえば、剣舞士さんも昇格された、と聞きましたが……」
「はい。彼は緊急討伐指定個体のスコルを倒しましたので、翆玉に昇格しました」
神官娘の言葉に、受付嬢は隠す事なく伝えた。同じ一党だから、教えたのだろう。
最初から異例で鋼鉄だった剣舞士だが、いよいよ翆玉に昇格した。これは、剣舞士の強さが理由だろう。
何せ、同じギルドに居る冒険者達からは
《ある意味、等級詐欺》
《隠れた剣聖》
《銀に近い剣士》
等々と呼ばれている。
「そういえば、スコルの死骸はどうなったんですか?」
「あれは回収しまして、この街にある魔法協会と魔物研究所が共同で解析しています。恐らく、剣舞士さんにはスコルを倒したのとは別個で報酬が支払われるかと」
神官娘の問い掛けに、受付嬢は微笑みながら答えた。
ちなみに、スコル撃破の報酬はかなりの物で、暫くは依頼をしなくても済む程の金額だった。
それに更にプラスとなれば、間違いなく暫くは遊んで暮らせる額になるだろう。
とはいえ、剣舞士がそんな生活をするとは、到底思えない神官娘だった。
「今後の貴女の活躍、期待してますね」
「はい、頑張ります」
神官娘はそう言って、部屋から出た。
そして、面会室のある二階からホールに移動すると、少し離れた場所に剣舞士以外が集まって何やら話し合っている。
すると、神官娘が階段を降りてきた事に気付いた戦士娘が手を振って
「昇格、どうだった?」
「無事、鋼鉄になれました」
戦士娘からの問い掛けに、神官娘は僅かにドックタグを出しながら答えた。すると、上妖精弓手が神官娘を抱き締めて
「貴女、普段から頑張ってるからね! それに、前回の事も聞いたけど、撤退時の指揮も良かったじゃない!」
と神官娘を誉めた。
すると、ゴブリンスレイヤーが近付き
「……良かったな……」
言葉短く、神官娘を誉めた。
「はい、ありがとうございます」
そこから、一党は次の依頼。
勿論、ゴブリン退治の準備に入った。
この時、剣舞士はと言うと指名依頼を受けて単独行動をしていた。場所は、水の都。
剣舞士は水の都の衛士達に、素手による格闘技を教えていた。
「遅い」
「ぐはっ!」
今もまた、一人の衛士が剣舞士に蹴りを放ったが、簡単に止められた挙げ句、足払いにより倒れた。
「だから、回し蹴りは足を棒のように振るな。途中までは膝から曲げておき、当たる直前で伸ばせ。そうすれば、相手に何処を狙ってるのか分かりにくく、かつ防御のタイミングも分かりにくくなる」
『はい!』
剣舞士の指摘に、当事者だけでなく、他の参加者達も頷いた。そして、訓練が一通り終わり
「さて……戻るか」
と剣舞士は、一人水の都を歩く。
向かう先は、剣の乙女の居る教会。そこの裏口に到着すると、そこには令嬢商人が居た。
「待たせたか」
「いえ、大丈夫です」
今回、剣舞士が受けた依頼は主に2つ。
一つは、水の都まで来る必要のあった令嬢商人の護衛。これは、ゴブリンによって刻まれた呪いの解呪の為だ。先ほど行っていた衛士への教導は、待っている間の時間潰しだ。
そして、もう1つは
「……何か分かったか?」
「……最近、妙にエルフの女性を侍らせている貴族が居るようです。恐らく、そこかと」
違法奴隷商人の捕縛。または、組織の場合は壊滅させること。
この国において、奴隷は極一部を除いて違法となる。
それは、犯罪奴隷だ。
罪を犯した者に対して、一時的に奴隷同然の身分にまで落とし、罪相応の期間重労働を科すという刑罰が存在する。
勿論、余りに重大な犯罪の場合は死刑すらあり得る。
そして、それ以外に奴隷は違法である。
「……場所は?」
「この町の東端……そこにある大きな屋敷です」
令嬢商人はそう言って、剣舞士の手に一枚の紙を潜り込ませた。剣舞士はその紙を素早く袖の中に隠して、小声で
「……付けられてるな」
「……え?」
「顔は動かすな……」
剣舞士の言葉に、令嬢商人は周囲を見回そうとしたが、剣舞士に止められた。
「……私でしょうか」
「分からん……それなりの腕前のようだな……一瞬だが、気配が大きくなって気付けた……恐らく、暗殺者の類いだろう」
令嬢商人は位置が分からないらしく、不安そうな表情を浮かべた。このタイミングでの尾行となると、間違いなく件の奴隷に関する輩だろう。
「どうするんですか?」
「……俺が何とかする……ただ、そちらに少々怖い思いをさせてしまうかもしれんが……」
「この話を貴方に持っていったのは、私です……貴方の方法に任せます……それに、貴方を信じていますから……」
「心得た」
そこで会話を終えた二人は、しばらく人混みの中を歩き続けていき、少しばかり暗殺者との距離を開けた。
そして、ある場所で二人して裏道に入った。
その少し後に、1つの人影がその裏道に入った。最初は二人を見失った様子だったが、やはり手練れなのだろう。気配で気付いたようで、少し先の曲がり角の先に居た令嬢商人の方に迫り、懐から短刀を取り出し、静かに迫って振り上げた。
その直後、その短刀の刀身が消えた。
突然の事に驚いた瞬間、暗殺者の意識は闇に落ちた。
それを為したのは、暗殺者の背後に居た剣舞士だった。
短刀は上から刀で斬り、そのまま背後に回って首筋に柄尻を叩き込んで意識を奪ったのだ。
剣舞士は黒一色の軽装で、令嬢商人を挟む形で居たのだ。そして、暗殺者を視認したタイミングで走りだし、壁を駆け上がり、頭上を取って一連の行動をし、そのまま暗殺者の背後に着地したのだ。
「ケガは?」
「ありません。大丈夫です」
暗殺者を縛りながら、剣舞士は令嬢商人に確認。令嬢商人が返事すると、剣舞士は一応と暗殺者の懐や雑嚢を確認し
「やはり、身分が分かるのは持っていないか」
「……慣れてますね」
「……嫌になるほど、襲撃されたからな」
令嬢商人の言葉に、剣舞士は短く返答し、暗殺者を肩に担ぎ上げた。
戦争というのは、戦力がなければ続かない。
どうやって相手戦力を削るか。1つは、戦闘すること。
しかし戦闘するとなると、同等の自戦力を失う。
そのリスクを軽減するのが、暗殺だ。相手が安全圏だと思っている位置で、襲撃する。
そうする事で、相手の戦力を確実に削れる可能性が高まる。
剣舞士は幾度となく、その襲撃を退けてきたのだ。
「……剣の乙女の所に行くぞ」
「はい。その暗殺者を引渡しましょう」
令嬢商人を介して剣舞士に依頼を出したのは、剣の乙女であり、更に遡ると国王である。
剣の乙女は時々王都に赴き、国王と会談する事がある。
何せ、若き国王と剣の乙女はかつて一党を組んだ冒険者だったのだ。
それぞれ立場は変わっても、今でも会って会談の場合を設けるようにし、意見交換や相談するのだ。
若き国王は違法奴隷の事を重く見ており、何とか対処しようしてきたが、国王の密偵や国王自身が調べたら相手に気付かれる可能性が高過ぎたから、身軽な動きが出来て、腕利きの冒険者が求められた。
そこで白羽の矢が立ったのが、剣舞士だったのだ。
剣の乙女の所に運ぶのは、今回の事態に剣の乙女の居る教会は全面的に協力態勢を取っているのだ。
具体的には、看破の奇跡が使える神官と尋問に長けている尋問官だ。
そして剣舞士と令嬢商人は、教会に向かったのだった。