暗殺者を引き渡した翌日の早朝。剣舞士は令嬢商人を剣の乙女の居る教会に連れていき、解呪してもらっている間に衛士達に対して格闘技の教導をした。
そして、裏口から入って案内された部屋で待っていると
「お待たせしてしまいましたか?」
「いや、大丈夫だ」
剣の乙女が令嬢商人と一緒に、部屋に入ってきた。
それを確認した剣舞士は、令嬢商人と一緒にその部屋の中央にあるソファーに座り、机を挟んだ反対側に剣の乙女が座った。
「早速ですが、先日捕らえた暗殺者に関してですが……少々強引な方法も使いまして、情報を引き出しました」
剣の乙女は即座に、件の暗殺者の事から話し始めた。そしてどうやら、情報の引きだしに成功したようだ。それ自体は喜ぶべき点だろう。
「こちらに、その情報が書いてあります」
剣の乙女はそう言って、胸元から一つの巻物を取り出して机の上に置いた。剣舞士はそれを手に取り、開いて一読し
「……やはり、件の貴族だったか」
「はい。間違いなく、エルフの方々を奴隷として扱っています……これは、由々しき事態です」
剣の乙女はそう言って、一枚の羊皮紙を剣舞士の前に置いた。それは、王のサインが書かれた羊皮紙。
「これは、この羊皮紙を持つ者に一時的に王の代理人執行を与える証明書になります」
「……そんなのを出して、大丈夫なのか?」
「貴方の事は、私と彼女が信頼しています。問題ありません」
剣舞士の問い掛けに、剣の乙女と令嬢商人が頷いた。
それを聞いて、剣舞士はその羊皮紙を丸めて懐に入れた。
「今夜、仕掛ける」
剣舞士のその宣言に、剣の乙女は頷いた。
それから、約二時間後。件の貴族の屋敷。その地下
「もうすぐだ……もうすぐで、貴女様を復活させられる……!」
と一人の越え太った貴族の男が、一つの石像を見ていた。その石像は嫌にリアルで、今にも動き出しそうな雰囲気を出している。
耳が尖っているのとその胸部から、エルフ族の女性だと分かる。
「貴女様が石像になって、約2000年余り……」
とその貴族が心酔していた時。
大きな音が鳴った。
「何事か!?」
「緊急です! 何者かが、正面の門を魔法で破壊しました!」
貴族の男が地下室から出ると、近くに居た剣士が報告してきた。それを聞いて、貴族は
「何としても撃退しろ! 最悪、殺して構わない!」
「はっ!」
貴族の指示を聞いて、剣士は走り去った。
「何者かは知らんが、目的の邪魔をするなら全て排除してやる……!」
場所は変わり、正面。
「流石に、強引過ぎませんか……?」
「羊皮紙を見せても、開けなかったんだから、しょうがないだろ」
令嬢商人の言葉に答えながら、剣舞士は足下に落ちていた石を思い切り蹴り飛ばし、道の両脇にあった灯篭に隠れていた弓兵に命中させた。
剣舞士が正面の門を魔法で破壊したのは、門兵に羊皮紙を見せても偽物だとして開けなかった為だ。
「さて……歯向かうならば……斬り捨てるしかあるまい」
「ここに至っては、仕方ないですね……」
剣舞士に対し、屋敷から次々と貴族の私兵達が出てきて殺到してくる。それを見ながら、剣舞士は
「目的は、全奴隷の解放と対象貴族の捕縛……で構わないな?」
「ええ、お願いします」
令嬢商人が頷いた瞬間、剣舞士は刀を抜いて駆け出した。最初に接敵したのは、ハルバートを装備した兵士だった。その兵士はハルバートを突き出し、それを剣舞士は右に避けた。次の瞬間、兵士はハルバートの刃を横にして振り回した。
しかしその一撃は、剣舞士は大きく跳躍して回避。
次の瞬間には、その兵士の意識を刈り取った。
「まず、一人……次だ」
そこからは、完全に剣舞士の独壇場であった。一人、また一人と確実に無力化していき、着実に屋敷に迫っていく。それを二階の窓から見ていた貴族は、焦った様子で
「一人に何を手こずっている! お前達も行け! 今度こそ、殺してこい! でなければ、金は払わん!!」
「は」
貴族に言われて、数人の黒装備の男達が部屋から出ていった。見送った貴族は、歯噛みして
「まだ早いが、儀式を始めるか……!」
と部屋から出ていった。
この時、貴族は剣舞士一人だけと勘違いしていた。この事態に動いていたのは、剣舞士一人だけではないのだ。
令嬢商人は一人で大きく迂回し、事前に入手した屋敷の図面から裏口に回っていた。
「ここね……鍵は……これね」
令嬢商人は剣士な為に、鍵開け技能は無い。だから
「手荒だけど……!」
家宝の剣を突き出し、鍵を破壊し開けた。
「図面だと、変な地下があるわね……そこに、奴隷の人達が居る可能性が高いわね」
令嬢商人は屋敷の図面を見て考えると、静かにその地下に行く為に階段を探し始めた。
一方その頃、剣舞士は一人で50人近く居た私兵を全て撃破した。
「さて、入るか」
剣舞士は一人呟き、ドアを蹴破って中に入った。その時
「……地下から、妙な気配がするな」
と剣舞士は、床をじっと見た。そして少し考えて、ふむと頷き
「確か、あっちだったな」
と走りだした。
その時、令嬢商人は地下に入る為の階段を見つけた。
「この先ね……無事だといいけど……」
令嬢商人は図面を仕舞い、階段を降りていく。階段は薄暗く、その光景はかつて捕まったゴブリンの巣を思い出し怖くなるが
「大丈夫……ここに、ゴブリンは居ない……大丈夫……」
と強く自分に言い聞かせて、進んでいく。
暫く降りていくと、一つにドアを見つけた。
「鍵は……無しね……」
鍵が無い事を確認した令嬢商人は、ドアを開けた。
令嬢商人が見たのは広大な部屋で、部屋の真ん中には石像があった。しかもその部屋は地面には魔法陣が書かれてあり、部屋の両側の壁際には両手を拘束されたエルフの女性達の姿があった。
「大丈夫ですか? 今、助けます……」
令嬢商人がそう言って、鎖を何とか外そうとした。その時
「生け贄に触るな!」
という怒鳴り声に、令嬢商人は弾かれたように振り向いた。入り口に、件の貴族の姿があった。
「生け贄……ですって?」
「そうだ……その生け贄達は、偉大なる大妖精様を復活させる為の生け贄だ!」
大妖精
それは神代の魔神との戦争中に共に戦った最強戦力の一人だった。後方支援では比類なき力を発揮し、人類側の勝利に大きく貢献したという。
しかし最終戦時に魔神側の石化により石像になったとされている。
「その者達を生け贄に捧げ、大妖精様の石化を解く!」
「その為に、彼女達を奴隷にしたというの!? 意識を封じてまで!?」
それは、エルフ達の首にある黒革製の首輪が原因だった。
通称、隷束の首輪。それを付けられたら、外されるまで付けられた対象は付けた相手の言いなりの人形になる。
解放するには、首輪を外すか付けた相手が死ぬしかない。
これも本来は、取り引き禁止魔道具の一つだ。
「そんなこと、大事の前の小事! その者達も、大妖精様の解放に使われたのならば光栄に思ってほしいな!」
目的の為ならば、手段は問わない。
貴族は腰から剣を抜き、ジリジリと令嬢商人に迫ったくる。恐らく、殺して儀式を開始する気なのだろう。
貴族は肥え太っているが、剣は手解きを受けているのか素人ではないようだ。しかも、剣自体もかなりの業物と分かる。
令嬢商人も剣を抜いて構えるが、勝てるかは分からない。
その時轟音が鳴り響き、ドアが砕けたと思ったら剣舞士が物凄い速度で突撃してきて、貴族に峰打ちを入れた。
「がっ!?」
峰打ちを入れられた貴族は壁に叩きつけられ、意識を喪失した。それを見ながら、剣舞士は
「すまんな……階段を見つけるのに、少々手間取った」
「いえ、大丈夫です」
剣舞士は意識を失った貴族を拘束し、地面の魔法陣を見た。そして、少しすると
「これは……召喚の魔法陣か」
「召喚の魔法陣? 石化の解除の魔法陣ではなく?」
「ああ……何を召喚するかは分からないが、まあロクでもないのは間違いないな」
剣舞士はそう答えながら、魔法陣の何ヵ所かを刀で深く斬った。これで、本来の効力を発揮することはなくなった。
そして、石像を見て
「ん……これは……」
「大妖精の石像がどうしました?」
剣舞士が見ているのは、大妖精の胸元にあるペンダント。それをジッと見ていた剣舞士は
「……これが原因だな」
と刀で、そのペンダントの部分を強く斬った。
その直後、石像にヒビが入り始め、そのヒビから光が溢れてくる。
「なっ、なに!?」
令嬢商人は驚きながら、目元を覆った。
そして気付けば、剣舞士が一人の見目麗しいエルフを抱き抱えていた。
「こ、これは……」
「まあ、今は彼女を連れて出よう……そろそろ、教会から剣の乙女と教会騎士団が来ている筈だ」
剣舞士はそう言って、エルフを抱き抱えて地下室から出た。恐らく、捕まっているエルフ達は物的証拠という意味もあってそのままにするつもりなのだろう。
そして、階段を登りきった時、ドタドタと騒がしい音が聞こえてきた。
そして、数人の騎士を伴った剣の乙女が現れて
「この階段の先ですか?」
と問い掛けてきた。
「ああ」
「地下室に、捕まっていたエルフ達と捕縛した貴族が居ます」
二人の報告を聞いて、騎士達は階段を降りていく。
それを見送った剣の乙女は
「そちらの方は?」
「あの貴族の言葉が本当ならば、大妖精らしい」
「それは……」
まさかのビッグネームに、剣の乙女は驚いていた。まさか、約二千年以上前の人物が居るとは思っていなかっただろう。
「……とりあえずは、教会に行きましょう。こちらの制圧は、騎士に一任します」
「はっ」
その鎧から、隊長格らしい騎士は頷いた。
そして三人は外に出て、一台の馬車に乗って教会に戻っていったのだった。