貴族を捕まえ、大妖精を保護した翌日。剣舞士は令嬢商人を教会に連れていった後、ある部屋で終わるまで待っていた。
そして暫くして
「お待たせしました」
剣の乙女が令嬢商人を伴い、部屋に入ってきた。
そうして、令嬢商人が隣に座ると
「まずは……貴族の捕縛、ありがとうございました……あの後、調査に入りました魔法使いの方が言うには、地下の魔法陣は悪魔召喚の為の物だと分かりました……もし、エルフの方々が生け贄にされていたら、上位爵位級の召喚すらあり得た……との事でした」
「上位爵位級か……少々面倒だな……」
悪魔と一口に言っても、階級がある。
一番下っぱのレッサーデーモン
そこから下から順に
騎士爵、通称ナイト
準男爵
男爵
子爵
伯爵
侯爵
公爵
となる。例外的なのは、辺境伯と呼ばれる爵位で、爵位的には伯爵に近いのだが、その実力は公爵に近いとされる。
その上位爵位級となれば、伯爵以上となり、伯爵以上は何らかの特異能力があるのが殆どであり、もし召喚されていたら金等級の冒険者でなければ歯が立たず、過去には町が一つ滅んだらしい。
「ですので、貴方が魔法陣を破壊してくれて、大変助かりました……」
「ろくでもないのは分かったからな……まさか、悪魔召喚とは思わなかったが」
悪魔召喚は人数か生け贄にした種族の高潔さに比例し、強い悪魔が召喚される。
あの場に居たのは、全員が処女のエルフが約20名近く。しかも中には、巫女に値するエルフも居たようだ。
確かに、そのエルフ達が全員生け贄にされていたら、上位爵位級も十分にあり得た。
そうなれば、最悪水の都は大損害を被っていただろう。
「……それでは、今回の報酬の話ですが……まず、こちらを」
剣の乙女はそう言って、一枚の羊皮紙を差し出した。
「これは……」
「私からの推薦文になります……貴方を銅にしても、大丈夫と私は思いまして……あ、そちらは写しになります。本文は既に、西の街に送らせてもらいました」
「……わかった」
今現在翆玉の剣舞士だが、剣の乙女は銅等級にしても問題無いという推薦文を西の街のギルドを送ったようだ。
剣舞士に渡したのは、その写し。つまり、誰かのイタズラという可能性を無くす為の確認の為にだ。
そこに、ドアが開いて剣の乙女の従者の一人がゴンドラを押してきた。
そのまま机の横に停まると、剣舞士の前に革袋を五つ程置いた。
「そして、そちらが報酬金になります……貴方が倒した者達の中に、闇ギルドの指名手配が居たので、それも加味しています」
闇ギルド
それは通称だが、そこに居るのは誰もが後ろ暗い者で、過半数が指名手配されている。
政府要人の暗殺、子供の誘拐、街でのテロ行為と挙げたらキリが無い。
そしてどうやら、剣舞士が倒した貴族の私兵の中にその指名手配が居たらしい。その為に、お金が詰まった袋が五つになったようだ。
「……ああ、屋敷に入った際に奇襲してきた黒装備の連中か……気配隠しは上手かったから、暗殺者かと思ったが……闇ギルドの指名手配だったか……」
剣舞士も、闇ギルドの指名手配の事は知っていた。
西の街の冒険者ギルドの一つのボードに、指名手配の張り紙がされていて、それを覚えていたのだ。
「闇ギルドの指名手配、合わせて5名……全員が政府要人の暗殺の容疑が掛けられた者達でした……その全員を、一撃で無力化……お見事でした」
「間合いに入ったら、斬るまでだ……」
剣舞士からしたら、殺気を出しながら間合いに入ったから、刀で斬っただけの感覚である。
「そして……ここからが重要です……どうぞ、お入りください」
剣の乙女が入室を促すと、ドアが開いて一人のエルフ。
あの大妖精が入ってきた。
「あ……貴女……」
「は、初めまして! 今は、大妖精と呼ばれてます!」
令嬢商人が驚くと、大妖精は緊張した様子で挨拶してきた。
「今朝目を覚ましまして、貴方に会いたいと言いまして……」
「すいません、私の我が儘に付き合っていただきまして……」
大妖精はそう言って、剣の乙女の隣に座った。
そして、剣舞士に向き合い
「貴方が、私を石化から助けて下さった剣舞士さんですね……ありがとうございます……貴方のおかげで、私は石化から解放されました……」
「助けられたのなら、良かった」
大妖精の言葉に、剣舞士は頭を下げながら短く返答した。すると、大妖精が
「伝承では、死に際に邪神が私を石化した、となってますが……」
「原因は、貴女が装備していたペンダント……あれの効果は、支援魔法の強化……副作用として、術者に対して何らかの
剣舞士の言葉に、大妖精は驚愕の表情を浮かべた。
「よく、分かりましたね?」
「……昔、似たような道具を使っていた奴が居た……」
大妖精の問い掛けに、剣舞士はそれだけ答えた。
そして剣舞士が言っているのは、呪装具の事だ。
剣舞士は正式名を知らないが、それもまた持ち主の支援魔法を強化する物だったが、デメリットとして持ち主にランダムで妨害魔法が掛かった。
そして大妖精は、運悪く石化になったのだろう。
「それと、大妖精様から相談が有ると」
「相談?」
剣の乙女の言葉を聞いて、剣舞士は大妖精を見た。
すると大妖精は、意を決した様子で
「その……私も冒険者になったので、貴方と行動を共にしてもいいでしょうか?」
大妖精のその言葉は完全に予想外だったので、剣舞士も流石に驚いた。
「……今のこの時代には、私の知り合いは誰も居ません……頼れる親族も、居るか分かりません」
確かに。2000年以上という長い年月を考えれば、当時共に行動した仲間もだが、いくら長生きのエルフ族とはいっても、頼れないのは明白だ。
「その、ご迷惑はお掛けするかもしれませんが……」
「いや、構わない……まず確認するが、階級は?」
「あ、はい。何分冒険者というのは初めてなので、白磁です」
剣舞士からの問い掛けに答えながら、大妖精は胸元から白磁のドックタグを取り出した。
実は冒険者という存在は、今の国王が働きかけて生まれた物で、冒険者ギルドと合わせてまだ20年程の組織になる。
「支援魔法だが、肉体強化……速さや力の強化か?」
「それもですが、魔法の強化や武器の強化も可能です」
「魔法と武器の強化!?」
大妖精の話を聞いて、令嬢商人が驚いていた。
令嬢商人が知る限り、武器には付与魔法で雷や火を付けて強化は知っていたが、大妖精の言い方では違うと察したようだ。そして魔法は、大体は使い手の創意工夫で強くなるものだが、その魔法を強化する支援魔法があるという。
「……まあ、居て困る訳でもないからな……部屋もまだ余っているし……俺は構わない」
「本当ですか!?」
剣舞士が受け入れる旨を告げると、大妖精は嬉しそうな表情を浮かべた。
「ああ……本当だ」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
取り敢えず話は終わった、と思った剣舞士は立とうとした。すると、剣の乙女が
「そういえば今朝、西の街から手紙が来たんです。ゴブリンスレイヤーさんから……何でも珍しい石碑を見つけたから、鑑定してほしいと頼まれたのです」
と語った。それだけだったら、配達すれば済む話なので、恐らくは直接持って来るのだろう。
ならば、直接来る理由は何なのか。
「それと、弓手さんのお姉さんが御結婚なさるそうで、エルフの里に向かう際の中継地に来るそうです」
「……結婚式?」
まさか過ぎる事に、剣舞士は思わずおうむ返しに言ってしまったのだった。