手紙が来てから、四日後。
ゴブリンスレイヤー達が来たのだが、予想していなかった人達も居た。牛飼い娘と受付嬢の二人である。
どうやら、上妖精弓手の姉の結婚式に参加する為のようだ。
ゴブリンスレイヤーは荷馬車から下ろした石碑を、剣の乙女の居る場所に持っていった。
その後、大妖精の事を説明したら
「だ、大妖精様!?」
「あの、邪神戦争の!?」
上妖精弓手はともかく、受付嬢も驚いていた。
「はい、初めまして。大妖精です」
「ほ、本物……?」
「確か、石化したと……」
「はい。それを、彼に助けてもらいました」
大妖精はそう言って、剣舞士を見た。すると、一瞬で上妖精弓手が剣舞士に肉薄し
「よく助けてくれたわ! 族長達に報告すれば、族長達も大喜びよ!」
と言いながら、剣舞士をガクガクと揺らした。
「分かったから、揺らすな……ところで、彼女達は……そちらの姉の結婚式に行く為に?」
「あ、うん。そうだよ」
「はい。彼女に誘われまして」
なんとか上妖精弓手を抑えた剣舞士は、牛飼い娘と受付嬢に問い掛けた。どうやら、上妖精弓手に誘われたようだ。すると、上妖精弓手は令嬢商人に顔を向けて
「貴女も来る? 私の友達なんだから、私は大丈夫よ!」
「え、いいの? 私は、用意したこれを渡すだけにしようかと思ってたけど……」
上妖精弓手の言葉に、令嬢商人は持っていた箱を見た。
その箱に、どうやら上妖精弓手のお姉さんの為に用意した物が入っているようだ。
「大丈夫よ! 一緒に行きましょう!」
「……ええ」
上妖精弓手が令嬢商人の手を握りながら促すと、令嬢商人は少し迷ってから頷いた。
その後、妖精達の里に行く為に食糧を用意し、水路を使う為に
水の都は様々な方向に水路があり、それを用いて貿易等をしている。
水路を使った貿易網がある為、様々な地方からの特産品が集まり、西方面の一大物資集積所兼市場となっている。
その内の一つに筏を浮かべ、全員が乗り込むと
「では、行きますぞ!」
と蜥蜴人僧侶が筏と陸地を繋いでいた縄を外し、舵を切って進み始めた。
ある程度進むと、大きな水門が見えてそこで泊まり、水が流れ込んできた。
「これは……」
「ここで、水路の高さを調節してるのよ」
神官娘が周囲を見回すと、上妖精弓手が説明を始めた。
水路と言っても、ようは人の手が入った川であり、筏や舟で行くには基本的に帆を使って進むか、水の流れを使って進む。
しかし、上から下に進む分には何ら問題はないが、下から上に進むにはどうしているのか。
その答えが、今居る場所なのだ。
2つの大きな水門で一定の広さの空間を作り出し、そこに水を入れたり、逆に水を抜いたりする事で水位を上げたり下げたり出来たりするようにして、高低差を解消したのだ。
特に妖精達の里に行くには、何回もその機構を採用した水路を進む必要があり、少々時間が掛かるのだ。
「人は知恵ね……」
「そうね……」
魔法使い娘の言葉に、戦士娘が頷いた。
昔は風魔法を使って無理やり進んでいた為に、魔法使い達が必須だったようだが、この機構を採用してからは魔法使いは護衛役に回れるようになった。
それから、最後の水門に差し掛かり、一番時間が掛かるからか
「皆さん、お昼にしましょうか」
と受付嬢と牛飼い娘がお弁当を用意した。
筏はそれなりの広さの為、全員が座っていても余裕がある。
「なんだか、こうやってご飯を食べるなんて新鮮……」
「……そうだな」
牛飼い娘の言葉に、ゴブリンスレイヤーは同意した。
この二人は普段、牛飼い娘の叔父を含めた三人でよく食事していた。ゴブリン達の襲撃時のようなイレギュラーが起きない限り、それは変わらない。
特に、家以外で食べるというのも珍しかった。
「おお、甘露……!」
「あ、ウチのチーズだ。あ、もしかしてチーズをよく買ってくれる蜥蜴人って、貴方だったの?」
「うむ! 初めて食べたのが、そちらの牧場産で、一口で気に入りましてな。それ以来」
「ありがとうございます」
牛飼い娘は蜥蜴人僧侶が食べているのが、自分達の牧場で作ったチーズと気付き、西の町でよくそのチーズを買うのが蜥蜴人僧侶だと気付いて感謝していた。
やはり、常連客が出来るのはありがたい話なのだ。
その時、鉱人術士が剣舞士に近づき
「風剣の。ちっと聞きたいことがあるんだが」
「どうした?」
剣舞士が顔を向けると、鉱人術士は
「今家に居るあの子供……どうするんだ?」
「む? 俺はあの子の好きにさせるつもりだが……まあ、多少の勉強はさせるが……それがどうした?」
鉱人術士からの問い掛けに、剣舞士は少し不思議そうにしながら答えた。すると、鉱人術士が
「……あの子供。どうも、魔道具師になれそうだ」
と告げた。
「あの子供がですか?」
「おう……まあ、きちんとした技術を持っている人物に預けるか、教えを請う必要はあるがな……」
鉱人術士の言葉に、受付嬢が驚いていた。
度々ギルドに来ていたので、知っているのだ。
「……そう思った理由は?」
「あの子供、どうやら魔力の流れが分かるようじゃな。まあ、まだ完全ではないがな」
剣舞士の問い掛けに、鉱人術士が説明を始めた。
なんでも、一党が水の都に行く際に西の町の門で見送りの為に来てくれたようなのだが、門に近づいた時、門に特殊な施し。
門と壁の強度向上の為の施しがされている事に、気付いたようなのだ。
「なるほど……」
「一応、ワシの知り合いに魔道具師が居るが……どうする?」
鉱人術士からの問い掛けに、剣舞士は
「帰って、あの子と話し合ってから決める……もし、あの子に他にやりたいということがあったら、その時はそちらを応援する」
「そうじゃな。本人の意志が大事だわな」
剣舞士の言葉に納得した様子で、鉱人術士は酒を一口飲んだ。そのタイミングで、水門が開いた為に、筏は進み始めた。
そうして妖精達の里に向かうのだが、これが動乱の幕開けになる。