「化け物?」
長老の言葉に、上妖精弓手が首を傾げた。
「……今から数百年前……まだ儂らが戦士だった頃はあの遺跡に入る事は禁止されていなかった……」
上妖精弓手が疑問の言葉を口にすると、長老が語り始めた。
今から数百年前、ゴブリンの居る件の遺跡は立ち入り禁止にはなっておらず、当時戦士だった長老達は、その遺跡に魔物が住み着いたという報告を受けて、精鋭30名で討伐に向かった。
その魔物は精鋭部隊の奮戦により、無事に討伐。怪我人は出たが、全員無事だった為に、後は里に帰るだけの筈だった。
だがそこに、その化け物が現れた。
現れたのは、一体の剣を持った鎧。その気配から人間ではなく、アンデッドの類だと分かり、倒すのは少々手間だが倒せると踏み、精鋭部隊は全員で攻撃した。
だが結果は、惨憺たる有り様だった。
「……精鋭は、儂らを残して全滅……儂らも、この有り様だ……」
長老達の話を聞いて、上妖精弓手も悟った。
つまり、体の何処かが欠損しているのは、その化け物の攻撃によるものだったのだ。
「……それ以降、遺跡に入る事は禁止された……儂らの時は里へ襲撃されなかったが、もし遺跡に向かい、後を追跡されるかで里を襲撃されたら……最悪、この里は滅ぶ……当時の長老はそう判断し、今に至る……」
確かに、当事者ならばその時の恐怖は鮮明に覚えていて、足を踏み入れようとは考えないだろう。
だがそれは
「……それ、ただ私たちに対処を押し付けてるだけよ……私は行くわ……」
「話を聞いていなかったのか!? 貴様は、里を滅ぼすつもりか!!」
上妖精弓手が立ち上がると、一人が怒声を張り上げた。しかし、上妖精弓手も負けじと
「聞いてたわよ。けど、私は冒険者……里の者だけど、冒険者なのよ! 冒険者が、魔物で困ってる人を放置する訳にはいかないわ!!」
と告げた。
その時だった。轟音が轟き、木の板を打ち付けるような音が聞こえてきた。
「襲撃だと!? 里の南から!?」
その音はどうやらパターンがあるようで、戦士長は驚いていた。里の南、それは件の遺跡がある方角である。
「……行くぞ」
「ああ、対処する」
「おい! 勝手に!」
立ち上がり外に出ようとしたゴブリンスレイヤーと剣舞士に、戦士の一人が槍を突き付けて静止した。しかし、上妖精弓手が
「槍を向ける相手を間違えるな! それは、里を襲撃してる奴に向けなさい!!」
と怒鳴り、その戦士を突き飛ばした。
そして一党は、南の方角に向かった。
少しすると見えたのは、巨大な影。それは、成長しきれば銀等級のパーティーでも対処が難しいとされる魔物。
ヒュドラの幼体だった。
「……なるほど。あれがゾウとやらか……」
「違うわよ! あれは、ヒュドラの幼体よ! なんで、こんな場所に!?」
ゴブリンスレイヤーがゾウと言ったのは、筏で上妖精弓手が話していたからだ。里の近くに、ゾウの群れが住み着いていると。
すると、剣舞士が
「あのヒュドラの背中を見ろ。首の付け根辺りだ」
とある場所を指差した。
よく見れば、そのヒュドラの首の付け根辺りに小さいが鞍が取り付けられていて、そこにはゴブリンが居た。
「ゴブリン!?」
「あれは、操ってるつもりなんでしょうが……」
「どう見ても、操れてるようには見えないわね」
魔法使い娘の言う通り、ゴブリンがヒュドラを操れてるようには到底見えない。
「最低でも、ゴブリンを倒せばどうにかなるかもしれんが……」
「ヒュドラを殺すのは無しよ」
ヒュドラは確かに凶悪な魔物だが、同時に非常に希少な魔物でもある。成長したヒュドラから得られる素材は、武器や防具の材料になるだけでなく、魔術の媒体としても非常に優秀なのだ。
故に、魔物研究所からの要請により、幼体のヒュドラの討伐は非常事態以外は禁止された。
「被害が大きくなる前に、ゴブリンをなんとかするわよ!」
「簡単に言ってくれるがの!」
「しかし、やるしかありますまい!!」
上妖精弓手の言葉に悪態を吐きながらも、鉱人術士と蜥蜴人僧侶も動いた。