剣舞士が一歩踏み込んだ直後、リッチの周囲に巨大な氷の槍が幾つも形成され、射出された。
放たれた氷の槍は、全て飛燕のような速さで剣舞士に迫る。しかし剣舞士は、慌てる事なく一歩大きく踏み込んで氷の槍の隙間に身体を滑り込ませて回避。
しかし、リッチは矢継ぎ早に今度はストーンブラストを放っていた。ストーンブラストは鉱人術士も愛用している術で、細かい弾幕から、大玉を形成して放つ事も出来る。
この時リッチは、大玉を放っていた。しかし剣舞士は、その大玉を一刀両断したのだが、ほぼ同時に稲妻が放たれていた。
息つく暇もない連続魔法。
そこからリッチが、元々はかなり高位の魔法使いだったと予想出来る。
普通だったら、稲妻は直撃していただろう。
しかし、剣舞士は普通ではなかった。
稲妻が着弾した際に発生した土煙を突破し、剣舞士はリッチに迫った。
先ほど、どうやって無事だったのか。
大玉のストーンブラストを斬った剣舞士は、直ぐ様足下の床材に刀を突き刺し、楯代わりに使って稲妻を耐えたのである。
耐えられるかは賭けだったが、その賭けに剣舞士は勝ったのだ。剣舞士は、一気に踏み込んで一閃したが
「これは……」
ただ、刀がすり抜けただけに終わる。
リッチには2つのパターンがあり、ひとつ目が死ぬ間際に非常に強い執念があったら、魂が変異するパターン。
そしてもう2つ目は、凄腕の魔法使いが生前に自身に禁忌の魔法を施し、生きながらにリッチに変更するパターン。
剣舞士は、今回のリッチは後者だと予想し、切り込んだのだ。
後者のリッチは、生前の肉体をベースにしている為に、耐久性が上がってはいるが、肉体持ちのアンデッドと同じように再生出来なくなるまで攻撃すれば撃破出来るのだ。
剣舞士が後者だと予想したのは、その手に持っている杖だ。
前者はやはり幽体な為に、大体は何も持っておらず、呪いを主体とした攻撃になる。
しかし後者のリッチは、やはり生前に使っていた魔法を主体とした攻撃をしてくるのだ。
それらから、剣舞士は目の前のリッチを後者だと予想し、切り込んだ。
しかし、攻撃はすり抜けた。そこから、前者かと思っていたが、杖による直接攻撃で後者だと確信した。
ならば、何故こちらの攻撃がすり抜けるのか。
何回か杖による直接攻撃を受け流してから、剣舞士はある可能性に思い当たり
「……やってみるか……」
そう呟き、一度取った距離を詰め始めた。
勿論だが、リッチは近づけまいと雨霰と魔法を発動し、剣舞士に放つ。しかし剣舞士も、時には刀で切り裂き、時には動きで回避して肉薄する。
そして、左手の刀を突き出して杖で弾かれた直後、右手の黒刀をリッチの足下の影に突き刺した。
その直後、影の中から目の前に居るリッチと全く同じ見た目のリッチが現れ、最初に居たリッチは消えた。
「どういう事!?」
「……影を使った分身……でしょうか……」
魔法使い娘は驚き、大妖精が自身の予想を告げた。
実際は、影の精霊を使った分身である。
高位精霊を使った分身は、魔法使いの頂きの術の一つである。各種類の精霊ごとに得手不得手はあるが、影の場合は見た目のコピーを得意として、攻撃を苦手としている。
ではなぜ、攻撃出来たのか。
その理由は、杖である。
攻撃魔法は本物のリッチが放ち、直接攻撃は杖を持つ手だけは本物だったので、その手を動かす事で出来たのだ。
アンデッドだから出来る方法だが、リッチは杖を持っている手を繋げて修復し、闇のオーラが漂う目で剣舞士を睨んだ。
「さて……本番はここからか」
恐らく、リッチの油断は無くなった筈である。その証拠に、リッチが杖で地面を突くと、地中からスケルトンが続々と現れる。人間の物もあれば、ゴブリンの物もある。
恐らくは、ゴブリンが死んで食べた人間の骨や仲間の骨をここに捨ててきたから、利用しているのだろう。
その総数は、50を超える。
普通なら、たった三人では勝てない。
だが、普通ではない。
「……白雪」
剣舞士は白雪を召喚し、そして
「……聖属性、付与」
剣舞士の刀に、大妖精が聖属性の力を付与した。
大妖精だが、過去にエルフ族の巫女的立ち位置に居たらしい。
巫女は要するに、神職の神官と一緒なのだが、神官とは違って前衛でも戦う事が可能な場合が多い。
そして大妖精が聖属性を刀に付与した事を察したのか、リッチはスケルトンの群れを剣舞士に突撃させた。
しかし、刀の間合いに入った瞬間にスケルトンは両断されて、ただの骨と化す。そしてそこからは、暴風としか表現出来ない光景が広がった。
剣舞士が一歩踏み出す度に、数多のスケルトンが宙を舞い、また別のスケルトンが飛びかかるが、次の瞬間には破砕される。
剣舞士を恐れたのかは分からないが、リッチは鎖を持った右手を乱暴に振り回し、剣聖アンデッドを動かそうとしたが、影抜いにより剣聖アンデッドは動けない。
すると次にリッチは、また新しくスケルトンを大量に召喚し、過半数を剣舞士に向け、残りを後方に居る魔法使い娘や大妖精に差し向けた。
だが、あっという間に凍り付いた。
白雪の広範囲氷結で凍り付き、再生不可能な程に砕け散った。
すると白雪が、パンっと手を鳴らした。その直後、白雪の頭上に拳大サイズの氷の塊が100を超す勢いで次々と生成され、まるで飛燕の如く射出された。
下手したら剣舞士にも当たるが、剣舞士は身体を半身にするだけで回避し、剣舞士の頭上、両側を通り過ぎた氷の塊があっという間にスケルトンを撃ち抜き、破砕する。正に、蹂躙という表現しか浮かばない光景だが、剣舞士は止まる訳がなかった。
氷の雨の中を駆け抜け、リッチに肉薄すると刀を一閃するが、その一撃は杖で防がれた。だが間髪入れずの二撃目に、杖は両断された。
実は今まで杖で防がれた時、同じ位置に攻撃を入れていたのだ。杖を破壊する為に、同じ位置に攻撃を入れる事でヒビを入れていて、最後の一撃でそのヒビから両断したのだ。
杖が破壊されたからか、スケルトンの動きが止まり、ただの骨に戻った。そして、リッチの右手から伸びていた禍々しいオーラの鎖も砕けて消えた。
これによりリッチは無防備になり、次の瞬間
「終わりだ」
剣舞士の刀により、縦に両断されて崩れた。