剣舞士により切り裂かれたリッチは、恨みがましそうな目を剣舞士に向けていたが、崩れるようにして消え去った。
すると、何やらカチャリと落ちる音が聞こえて、剣舞士はリッチが消えた辺りに向かい
「……これは、鍵か」
何かの鍵の束を拾った。とはいえ、現時点では何に使うかは分からないので、とりあえずは雑嚢に仕舞ってから、二人と剣聖アンデッドに歩み寄った。
「まさか、リッチと戦う事になるなんて、予想してなかったわ」
「私もです」
どうやら、魔法使い娘と大妖精はリッチが居る事自体が予想外だったようだ。
「まあ、仕方ないだろう……リッチは本来、戦場跡地や何らかの研究所跡地とかによく見つかるからな」
剣舞士は語りながら白雪の頭を撫でた後、白雪を一旦収納し、剣聖アンデッドを見た。剣舞士は静かに、剣聖アンデッドを縛っていた影縫いに使っていた刀を地面から抜いて、投げ捨てた。
すると、剣聖アンデッドは膝を突いて止まった。
普通ならば、上位種のリッチが消えた事で、剣聖アンデッドも解放された、と考えるべきである。
しかし剣舞士は、剣聖アンデッドをジッと見つめて
「……やはり、か……まだ、魂が留まっているんだな?」
と剣聖アンデッドに問いかけ、剣聖アンデッドが頷いた。
「なんで!? リッチは倒したのに?!」
大妖精が混乱しながら、剣聖アンデッドの隣で膝を突いた。すると剣舞士が
「……長過ぎたんだ……魂が縛られた時間が……剣聖の魂はおおよそ約2000年……ずっと、自分の骨に縛られ続けた……元々が自分の骨だったからか、魂が劣化も起こさず骨に縛られ……結果、リッチが消えても独立してしまった……」
剣舞士の推測を聞いて、大妖精は悲しそうに剣聖アンデッドに抱き付いた。優しい性格の彼女らしい。
すると、魔法使い娘が
「この剣聖を解放するには、浄化しかないのかしら?」
と剣舞士に問いかけた。
「……そうだろうな……それも恐らく、高位の神官でしか浄化出来ないだろう」
実は、神官娘が昇格した際に浄化が使えるようになっていたのだ、魔法使い娘としたら、神官娘と合流したら浄化してもらうつもりだったのかもしれない。
しかし、神官娘では出来ないとなると、水の都に向かう必要がある。
その時、剣舞士が何かを思い出したように雑嚢から一つの指輪を取り出した。
「それは?」
「以前、教会の施設を強襲した際に奪取した物の一つでな……奴らは、聖遺物と呼んでいた」
それは、白雪を助ける直前になる。
ある施設で、教会が非道な実験を繰り返し行っているという情報を入手し、その施設を特定し、強襲したのだ。
その施設で白雪を見つけ、更にケルベロスを含めた人を使った呪装具の研究・開発が行われているのを知り、その施設は徹底的に破壊された。
その最中、ある部屋で保管されていたのがその指輪だった。施設を完全に制圧した後、押収した資料から聖遺物ということは分かったが、名前や能力は一切記載がなかった。
一度は組織の研究部署に渡されたが、結局は分からなかったので、最初に見つけた剣舞士に返還されたのだ。
その後剣舞士は一度白雪に試したが、何も起きなかったので雑嚢に入れたまま、忘れていたのだ。
思い出したのは、本当に偶然である。
剣舞士は剣聖アンデッドの鎧の右手部分を外すと、白骨化している手の人差し指に嵌めた。
剣舞士としては、これで呪いが浄化されて、魂が解放されれば良いと考えていた。
しかし次の瞬間、三人の視界は光に包まれた。
「眩しいっ!」
「何!?」
「迂闊に動くな!」
閃光は数秒と経たずに消えて、三人の視界はもとに戻った。特に、三人に変化は無い。
有るとしたら、白骨だった筈の剣聖アンデッドの右手部分が普通の右手になっていた事だけ。
「……は……?」
流石に予想外だったらしく、剣舞士が呆然とした声を漏らし
「……まさか……」
大妖精が何か確信した様子で、鎧の兜を外した。
すると中から、腰辺りまで伸びた長い白髪が出てきて、それだけでなく、今の剣聖によく似た顔立ちの美人の女の顔まである。
大妖精が恐る恐ると顔に触れて
「暖かい……アンデッドじゃない……!」
と感極まった様子で剣聖に抱き付き、剣聖も声を出さずに泣き始めた。
「死者蘇生の奇跡……なのかしら?」
「……いや、恐らくだが……魂の情報の物質化……というところなのかもしれん……」
剣舞士の言葉に、魔法使い娘は目を見開き
「そんなの……大魔法クラスじゃないの!」
「だから、聖遺物……なんだろうな」
魂という不確かな存在から、情報を引き出して実体化。そういった考え自体は、一応存在する。しかしネックなのは、魂が認識しにくいこと。そして何より、必要とされる魔力量が膨大という点だった。
神代の時代には、使い手は何人か居たようだが、数人がかりで一人がようやく復活させられるかどうか、ということだったらしい。
結局は使い勝手が悪かったからか、誰も使わなくなり、記述が残されているだけになるとか。
そんな奇跡に等しいことが、目の前で起きた。
驚くのも無理からぬ事だろう。
「すまない、何があったか聞きたいんだが」
剣舞士が問い掛けるが、前剣聖は口をパクパクとさせるだけ。それを見て
「……約2000年近く骨と魂だけで居たから、喋れないか……」
と剣舞士は前剣聖の事情を察した。
前剣聖は、長い間骨と魂だけで過ごしていた為に喋る感覚を忘れ、恐らくは発音も忘れているのだろう。
そう考えたのか、剣舞士は
「分かった、今は喋らなくていい……それに、ゆっくり話す時間も無さそうだ」
と天井を見上げた。よく聞けば、ゴブリンの叫び声らしい音が聞こえる。十中八九、ゴブリンスレイヤー達が戦闘しているのだろう。
「早く上に行く必要があるな……さて、上に向かう通路は……」
剣舞士がそこまで言うと、前剣聖が左側を何回も指差していた。よく見れば、木製のドアがある。
前剣聖のリアクションから考えて、上に向かう為の通路があるのだろう。
「よし、今は時間が惜しい。行くぞ」
「ええ」
「はい!」
剣舞士の言葉に、魔法使い娘と大妖精。そして前剣聖が頷き、駆け出した。