時は少しばかり遡り、地下で剣舞士達がリッチと戦っていた時、ゴブリンスレイヤー達は大量のゴブリンと戦いながら階段で上に移動していた。
「……30……全員、無事か?」
「何とかってところね……矢が無くなりそう」
ゴブリンスレイヤーの問い掛けに、最初に答えたのは上妖精弓手だった。上妖精弓手の矢は精霊の力を借りて、木を矢の形に作り出している。
つまり近くに木があればいくらでも作り出せるが、ゴブリンの波が矢を作り出す暇をくれない。
「流石に……疲れてきましたな……」
「ワシも、術が切れそうだ……」
次に答えたのは、蜥蜴人僧侶と鉱人術士だ。
蜥蜴人僧侶はゴブリンスレイヤーと戦士娘と共に最前衛を担っているが、蜥蜴人僧侶は二人と違って防具は装備していないので、色んな場所から出血している。
そして鉱人術士は、術も交えて前衛を担っており、ゴブリンスレイヤー達が危なくなった時に術や拳で支援してくれているが、彼も怪我が増えてきて、様々な所から出血している。
「すいません、守っていただいて……」
「私こそ、力足らずですいません……」
戦士娘が神官娘を守っていたらしく、その証拠に左肩の肩当てと両手手甲に激しく傷がついており、肩を上下に動かして呼吸している。
神官娘は目立った傷こそないが、疲労からか右手をプラプラとしている。スリングで援護していたようだ。
するとゴブリンスレイヤーは、持っていた剣がダメな事に気付いたようで階段を上がってきたゴブリンの先頭の一体に投擲し撃破。足下に落ちていた棍棒を蹴り上げて装備した。
「目視、30……来るぞ!」
そしてゴブリンスレイヤー達は、新たなゴブリンの群れと交戦を開始した。
時は戻って、剣舞士達。
剣舞士達は扉を潜り抜け、通路を進んでいく。
すると、通路の先に一つの扉と崩れた通路を見つけた。崩れた通路の方は、よく見ると階段らしい。
「階段が塞がれてる……」
「これじゃあ、上に行けないわね……」
大妖精と魔法使い娘が階段が崩れている事に落胆している間、剣舞士はもう1つの扉を調べていた。
「鍵が掛かってるのか……」
その扉の左側の腰辺りの高さに、鍵穴を見つけた。
その鍵に剣舞士は心当たりは無かったが、前剣聖が剣舞士の雑嚢を軽く叩いている。
それを見た剣舞士は前剣聖の意図に気付き、雑嚢の中からリッチが落とした鍵束を取り出した。
「まさか……昇降機、なのか?」
剣舞士はもしかして、という思いで呟きながら、鍵の1つを刺して回した。
すると扉が開き、昇降機に入れるようになった。
「これで、上に行けるわね」
全員で中に入り、剣舞士は改めて鍵束を見た。
よく見れば、幾つかの鍵には数字が彫られてある。恐らくは、行ける階層を示しているのだろう。
剣舞士は幾つか見てから、一つの鍵を入れて回した。
するとゆっくりとだが、昇降機が動いた。
昇降機が上がっていくと、少しずつだがゴブリンの声が聞きやすくなってきた。
やはり、上の階層で戦っているようだ。
「構えておけ……恐らく、扉が開いたと同時に戦闘になる」
剣舞士の指示に従い、三人は構えた。
そして昇降機が止まり、扉が開いたと同時にゴブリンの背中が見えて、剣舞士と前剣聖が同時に斬りかかった。
一撃でゴブリンを両断し、更に前に出た。
剣舞士は素早く周囲を見回して
「右が多い! そちらに向かう!」
「分かりました!」
「分かったわ!」
剣舞士の指示を聞いて、三人は動き始めた。
手近なゴブリンを攻撃し、倒したり、外に突き飛ばしたりした。今居るのはかなりの高さなので、落ちたら即死だろう。
それを見る事なく、四人はゴブリンスレイヤー達が居るだろう場所を目指して駆け出そうとした。
だが
「昇降機に戻れ!」
と剣舞士が怒鳴り、一気に昇降機内に戻った。
その直後、まるで暴風のような音と共に、ゴブリンの群れが凄まじい勢いで進もうとしていた方に消えていく。
「一体、何が起きてるのよ!?」
「恐らく、ゴブリンスレイヤーかスクロールを使ったんだろう!」
暴風に巻き込まれないように耐えながら、四人は何とか状況を把握していた。
数秒程すると風が収まり、静かになった。
それを確認して、改めて右に向かって移動を始めた。
少しすると、ボロボロだがゴブリンスレイヤー達を見つけた。
「無事だったか」
「……なんとかな……」
怪我だらけだが、全員生きている事に剣舞士は安堵していた。すると、神官娘が
「あの、そちらの方は……?」
と前剣聖を見た。
「地下で囚われていた。何があったか分からないが、今は喋れないようだ」
「そうなんですか……大丈夫ですか?」
神官娘が問い掛けると、前剣聖は笑みを浮かべながら頷いた。神官娘からしたら、剣を持っているから戦っているのが心配らしい。
「先ほどのは、スクロールか」
「……ああ、ゲートのスクロールを知り合いに頼んで、上空に繋げた」
ゴブリンスレイヤーの説明を受けて、剣舞士はさっき起きた現象の理由を察した。
気圧差による空気の移動を利用したのだ。
地表付近は1気圧だが、遥か上空では気圧が低くなる。そうなると、気圧が高い方から低い方に空気は移動する。そしてその差が激しくなると、まるで暴風のように移動するのだ。
ゴブリンスレイヤーはそれを何処かで聞いていたらしく、ゲートのスクロールを上空に繋げたようだ。
何処に繋げたか剣舞士達は分からないが、勇者達が戦っていたある場所でゴブリンが降ってくる、という怪奇現象に遭遇していたりする。
「地下にはリッチが居たが、それは撃破した。問題ない」
「リッチ!? アンデッド種じゃ最強クラスの一体じゃない!」
剣舞士からの簡易的な報告に、上妖精弓手が驚いていた。そして何やら納得している様子で
「なるほど……長老達が遭遇した化け物って、リッチの事だったのね」
と呟いた。恐らく長老達が言ったのは操られていた前剣聖だろうが、剣舞士は黙っておく事にした。
そして
「……此れだけの数だ、恐らく上位種が居るだろう……上に行こう」
とゴブリンスレイヤーが告げた。