西の街から出て少しして、剣舞士は訓練所に到着した。
まだ改築している最中らしく、時々大工とすれ違い、その時に商隊が何処に居るのか聞いてから、剣舞士はその場所に向かった。
すると、五台の馬車と数人の人影が見えた。その内の一人が、令嬢商人だった。
剣舞士に気付いた令嬢商人が手を振ってきて、剣舞士が近付き
「すまない。待たせたか?」
「いえ。まだ積んでない荷物があるから、大丈夫よ」
よく見れば、令嬢商人の手元には羊皮紙を挟んだバインダーがある。どうやら、まだ荷物を積んでる最中だったらしい。
すると、鎗を持った若い女性と短剣二刀流の若い女性の二人が、剣舞士に近付いてきて
「その装備……もしかして、あんたが噂の剣舞士?」
「へぇ……若いって聞いてたけど、私達より年下?」
と聞いてきた。見た目の年齢から、大体20歳位と剣舞士は予想。
「……正確な歳は分からん。数えるのは辞めたからな……ただ、10代後半なのは確かだ」
「うわ、マジで年下だ」
「それなのに、銅等級!? 私達が聞いた話だと、一つ下だったけど」
「……直前の依頼での功績が認められて、銅等級になった……」
「剣舞士さん、銅等級になってたんですか!?」
三人の会話を聞いた令嬢商人が驚いた様子で、剣舞の胸元のタグを見た。令嬢商人も一緒に行った為に、剣舞士が妖精族の隠れ里に行った時の階級を覚えていたが、まさかたった一回の冒険で階級が上がるなど予想外だっただろう。
「ああ……リッチとデスナイトを倒してな」
『リッチにデスナイト!?』
「アンデット系の最上位クラスじゃないですか……」
剣舞士が告げた魔物の名前に、令嬢商人達は驚きの声だった。そもそも、本来は倒すのに高位の聖職者が必要とされている魔物を倒したのだから、驚くのも無理はないのだが。
そこに、一人の商人が令嬢商人に歩み寄り
「最後の荷物を積んだ。出れるぞ」
と告げた。それを聞いた令嬢商人は、人数を確認して
「全員確認……では、出発します!」
と宣言した。
商人は、令嬢商人を含めて四人。因みに、令嬢商人が馬車を二台所有しており、一番荷物を運んでいる。
護衛は8人で、基本的に各馬車に乗っている形だ。
因みに、剣舞士は令嬢商人の馬車に乗っている。令嬢商人の馬車の二台目は、片手剣を装備している鋼鉄等級の男冒険者が乗っている。
商隊の隊列だが、一番前に初老のベテラン商人で、二番目にその息子商人。三番目と四番目に令嬢商人の馬車で、一番後ろに中年の男性商人が居る。
「……噂なんだけど……貴方に、暗殺者が差し向けられてると聞いたけど……本当かしら?」
「……ああ、確かだ……西の街を出た際に一回襲われたが、問題無い……」
どうやら令嬢商人も、独自の情報網を持っているらしい。まあ、商人というのは情報から必要な商品を予想するのだから、当然だろう。
しかし、そちらの情報を入手しているのだから、優秀な情報提供者や情報屋を雇っているのは確かだ。
「既に……」
「直前の情報では、二人組の女暗殺者が動いているらしい……」
「二人組……」
令嬢商人は意識だけを、一番後方の馬車に向けた。
先ほど剣舞士に話し掛けてきた二人の女冒険者は、一番後ろの馬車に乗っている。
「……勿論、俺も油断はしない……誰も死なせはしない……」
黒い光を目に宿らせながら、剣舞士は呟いた。
その後、度々魔物は出てきたが、概ね順調に一行は水の都に向かっていった。そして、二日目の野宿。
周囲に縄と鳴子を使った罠を形成した中心にて、一行は焚き火を中心にして休んでいた。
焚き火の近くには剣舞士が座った状態で居るが、目を閉じて、身動ぎ一つしない。
そんな剣舞士に、足音を立てずにあの二人組の女が近寄り
「本当、凄い警戒心……」
「10m離れた魔物にすら気付くとか、どんだけなのよ……」
と呟いた。
実は途中で襲ってきた魔物は、斥候と銘打って先行した際に、魔物に興奮する毒物を打ち込んで、二人が誘導したのだ。
しかしその魔物に、剣舞士は10m手前で気付いて、迎撃態勢を整わせた。
そこで二人は、直接殺すことにした。
料理作りを手伝う振りをして、料理に特製の睡眠薬を混ぜたのだ。効果は絶大で、熊でも数時間は寝てしまうという強力な睡眠薬だ。
その睡眠薬で、彼女達以外は全員静かになった。先に剣舞士を殺し、その後に他の商隊も全員殺す。
そうすれば、商品も回収出来て一石二鳥と彼女達は考えた。
そして、武器を振り上げたその時
「……本当に、あの程度の薬でどうにかなると、思っていたのか」
と声が聞こえたと思えば、二人の武器が斬られた。
「な!?」
「バカな!? 何故?!」
気付けば、剣舞士が立ち上がり、刀を抜いていた。
「残念だったな……訓練や暗殺の繰り返しで、俺は毒物に対する耐性が着いている……俺を眠らせたいなら、もっと強力な薬を持ってこい」
剣舞士は戦争の最中、過酷な訓練と戦闘、暗殺等により、かなりの種類の毒薬に対する耐性を獲得していた。
それにより、並大抵の毒薬は効かなくなっていた。
「こうなったら……!」
「連携で……!!」
二人は素早い身のこなしで剣舞士に接近すると、予備の武器らしい腰の長剣を抜いて斬りかかった。
しかし次の瞬間には剣は砕け、二人は倒れた。
「……無手・攻の奥義……
剣舞士は呟きながら、両手にあった長剣の刀身を放り捨てた。
今何が起きたのかと言うと、剣舞士は相手の剣を素手でへし折り、顎を蹴ったのだ。
そして剣舞士は、二人の前で片膝を突いて
「さて……貴様達が堕天使とかいう暗殺者達だな……まあ、仮にもプロなんだ……簡単には情報は吐かないだろうて……だからそうだな……吐きたくなるようにしてやる」
と言って、懐から小さな黒い球を出した。
「終わらない悪夢に、何れくらい耐えられるかな……?
剣舞士がその呪装具の名前を言った瞬間、二人の姿が黒い球に吸い込まれて消えた。剣舞士はそれを確認し
「今まで、これに入れられて丸一日持った奴は居なかったが……さて……」
剣舞士は寝ている一同を見た。
「恐らく、奴らの手荷物に解毒剤が有ると思うが……」
剣舞士はそう言って、二人が乗っていた馬車に向かったのだった。