「本当に、一人で大丈夫なんですか?」
「ああ……問題ない」
件の闇ギルドの洞窟の少し手前で、令嬢商人は剣舞士に問い掛けた。
これから剣舞士は、一人で闇ギルドを殲滅する。教会騎士団は既に、件の貴族の捕縛に動いている。
「しかし、堕天使から得た情報では……支部には40人近い暗殺者が居るようですが……」
「なに……真正面からヤリ合うつもりはないさ……コレを使う」
剣舞士はそう言って、腰の雑嚢入れから何かを取り出した。短い紐の付いた球状の物だ。
「それは……」
「簡単に言えば、毒の煙を発生させる道具だな……これを何個か、例の洞窟の中に投げ込む」
そう言いながら剣舞士は、雑嚢入れから更に同じ物を何個か取り出した。そして、洞窟が見える場所に着いたが
「やはり、見張りが居ますね」
「まあ、居るだろうな」
洞窟の出入り口付近には、三人の見張りが居た。
武器は槍と弓矢、短剣という所だった。
「さて……」
剣舞士は肩当てから、投剣を数本取り出して投げた。剣舞士が投げた投剣は、一寸の狂いもなく見張りの三人を始末した。
今回、生かす必要は無い。
堕天使から得た情報によれば、内部には様々な情報が書かれた本が収められた図書館のような空間があるという。そこにある本さえ無事ならば、生かす必要は無い。
剣舞士は洞窟の出入り口に近づくと、導火線に火を付けてから、毒煙球を洞窟の中に投げ入れて
「地隆壁」
と岩の壁で、出入り口を封鎖した。正確には、僅かに穴が空いている。完全に塞いでしまっては、毒煙が中に充満しなくなってしまうからだ。
その穴から風を送り、洞窟全体に毒煙が行き渡るようにした。
そして数分後、剣舞士は地隆壁を解除した。
出入り口付近には脱出しようとしたのか、結構な人数の暗殺者の遺体が折り重なっている。
剣舞士は刀を刺しながら、その遺体を次々と外に放り投げていく。
遺体を退かしているのは、中に入る為だろう。
そして、出入り口に固まっていた最後の遺体を放り投げた。その直後、剣舞士は逆手持ちで刀を抜刀し、洞窟の奥から放たれていた攻撃を受け流した。
「剣舞士さん!?」
「問題無い……生き残りが居たか」
剣舞士が後退すると、洞窟から一人出てきた。
口元に面頬を装着しているが、恐らく中には薬草と炭を入れてるのだろう。
その人物、体格からして男は面頬を乱暴に外して投げると
「貴様……誰だか知らんが、舐めたマネをしてくれる……何故この支部の位置を知っているのかは知らないが、これは引っ越しだな」
と言って、槍を肩に担いだ。
焔を彷彿させる形の赤い穂先に、文字が刻まれた長い柄に、赤い宝石のような石突が特徴的な槍だった。
「その魔槍……紅蓮槍か」
「俺の事も知ってやがったか……面倒だな、殺さないといけなくなったじゃねぇか」
剣舞士が告げた異名に、令嬢商人は息を飲んだ。
紅蓮槍。それは、この闇ギルド支部の支部長をしている凄腕の暗殺者だ。
「……本気で逃げられると……俺を殺せるとでも思っているのか?」
「はっ! 俺は今まで、銀等級すら殺したんだ! どんな奴だろうが、殺してやる!!」
紅蓮槍はそこまで言うと、猿叫を挙げながら剣舞士に突撃。剣舞士の胴体目掛けて突き出した。その一撃は、令嬢商人には視認すら難しい一撃だった。
しかしその一撃を、剣舞士はまるで独楽のように身体を回しながら回避。
それだけでなく、紅蓮槍の横に回り込んで刀を首目掛けて一閃。
ここまで一瞬で、令嬢商人にはコマ送りのように見えただろう。
しかしそんな剣舞士の一撃を、紅蓮槍はいつの間にか引き戻していた槍の柄で防御。それだけでなく、矢継ぎ早に槍を大きく横薙ぎ。
その攻撃を剣舞士は、弾かれた衝撃を利用して後ろに跳んで回避した。
ここまで、約10秒足らずという早い攻防だった。
すると、紅蓮槍が
「お前、ただの冒険者じゃないな……むしろ、俺に近い……何者だ」
紅蓮槍が問い掛けるが、剣舞士は答えない。
そして
「……刃と石突だけか、炎を発せるのは」
呟き、それを聞いた紅蓮槍は目を細めた。
「よく気づきましたね……」
「その辺りしか、熱による空間の揺らぎが見られないからな……ただ、かなりの高温だろう……恐らく、切ったり突いただけで燃えるくらいには」
令嬢商人には分からなかったが、剣舞士は槍の周囲で空間の揺らぎを見つけていた。
「正解だ、冒険者……」
紅蓮槍はそう言いながら、槍の穂先で地面に軽く線を引いたのだが、その線上に炎が着いた。
「俺は今まで、この煉獄槍で何人も葬ってきた……お前もその一人にしてやる!!」
紅蓮槍はそう宣言し、剣舞士に突撃。
剣舞士の間合いの外から、突きを放つ。その突きだけでも、人を殺しうる一撃。
その技から、紅蓮槍の技量の高さが伺える。
そんな一撃を剣舞士は、振り下ろした刀で柄を叩いて阻止。しかし紅蓮槍は、即座に手首を返して槍を跳ね上げさせた。
その一撃は、剣舞士を股から縦に真っ二つにする軌道だ。だが剣舞士は、柄を蹴って強引に軌道を変えた。
その隙を狙い、剣舞士は首目掛けて刀を振るった。
しかしその一撃は、しゃがんで避けられた。
次の瞬間、紅蓮槍は剣舞士の足下を狙って槍を突き出した。
その一撃を、剣舞士は上に跳んで回避。
(は、バカが! 跳んでる間、貴様は隙だらけだ!)
紅蓮槍は空中に居る剣舞士に、攻撃しようとした。
だが、剣舞士はいつの間にか左手で持っていた投剣を投げていた。
「ちっ」
紅蓮槍は舌打ちしながら、その投剣を槍で弾いた。その間に、剣舞士は着地態勢に入っている。紅蓮槍は着地した瞬間を攻撃しようと考え、槍を引いた。
その直後、紅蓮槍の両手首が切り落とされた。
「な……があぁぁぁぁぁ!?」
何が起こったか分からない紅蓮槍は、両膝を突いた。
実は剣舞士は、紅蓮槍が投剣を弾いていた時に飛燕刃を投げていたのだ。
そして、紅蓮槍が剣舞士を見ている間に、左右から紅蓮槍の手首を切り落としたのだ。
そして、剣舞士は紅蓮槍の前に立ち
「……終わりだ」
とだけ呟き、紅蓮槍の首を斬り飛ばした。
こうして、闇ギルド水の都支部は壊滅した。