紅蓮槍を倒した剣舞士は、口笛を吹いて神殿の伝書フクロウを呼び、胸元の筒に制圧した旨を書いた手紙を入れてから見送った。
そして、風の魔法で中に残っている毒煙を外に出させていた。
そうして少しすると、念の為に鼻と口を薬草と炭を包んだ布で覆ってから、中に入った。
どうやら侵入者対策に罠が有ったようだが、逃げようとした闇ギルドの構成員達が見事に引っ掛かり、死んでいる。
「これなら、罠の心配はしなくて良さそうだな……」
「そうですね……」
そうして奥に進むと、一際広い空間に出た。
石や木材で補強してあり、ある程度カウンターや机があり、壁には様々な依頼内容が書かれた羊皮紙が貼られた
更にその隣には、闇ギルド版の指名手配書が貼られたボードもある。
その一番上の欄に、剣舞士の似顔絵が書かれた手配書が貼ってある。金額は金貨600枚と記載されている。
情報屋から聞いたのより上がっているのは、もしかしたら、闇ギルド側からの危険度を表しているのかもしれない。
そして剣舞士は、カウンターの奥に重厚な金属製の扉を見つけた。
「あれが、堕天使が言ってた図書館……でしょうか?」
「恐らくな」
令嬢商人と一緒に近寄ると、剣舞士はジェスチャーで離れるように伝えて、腰の刀に手を持っていき
「斬鉄」
とその扉を一刀両断した。切断された扉は倒壊し、中が見えた。
「当たりだな」
「はい。ここが、例の図書館でしょう」
その扉の向こうには、夥しい数の本が収められた棚が幾つもあった。間違いなく、堕天使が証言した図書館だろう。
棚の上部には、過去の依頼内容や依頼達成率、暗殺方法と書かれており、様々な情報が纏められてるのが分かる。
その中で剣舞士は、ある棚に近づいた。
その棚の上部には、遂行中依頼。と書かれてあり、置いてあるのは数冊のみ。
しかも、その内の一つは潜入任務とある。
まさかと思い、剣舞士はその一冊を手に取って開いた。
そして、場所に驚いた。
「これは……」
「え……西の街の、冒険者ギルド!?」
なんと、西の街の冒険者ギルドに、闇ギルドの暗殺者が潜入している事が判明した。そして依頼内容は、潜入だけでなく、情報の抜き取りと障害になり得ると判断した冒険者やギルド職員の排除とある。
そしてその依頼を遂行しているのは、通称で鴉と呼ばれる暗殺者で、10代後半のまだ若い暗殺者とある。
そこで剣舞士は、依頼日を見た。それは、昨年の秋の終盤辺り。
それを見た剣舞士は、ほぼ同時期に西の街の冒険者ギルドに一人、新しく職員が入ったのを思い出した。
そう、監査嬢と部屋がブッキングした女職員。
剣舞士は直接会話した事は無いが、監査嬢曰く
『あまり印象に残らない地味目な娘だった』
との事だったが、潜入している暗殺者が目立つような事をする訳が無い。急いで外に出ると、どうやら先遣でやってきたらしい数人の冒険者と剣の乙女の従者が居た。
「何かあったのですか?」
「西の街の冒険者ギルドに、暗殺者が潜入しているみたいなんです! 急いで連絡か向かわないと!」
従者が問い掛けてきたら、令嬢商人が焦りながらも答え、それを聞いた従者は顔を青ざめた。
西の街は、ある意味で西側の最前線の一つである。
もしそこに何か起きたら、最悪は陥落に繋がりかねない。
従者は冒険者達に内部の調査を頼むと、少し考えてから
「神殿に戻って、この紙を見せてください。そうすれば、西の街の神殿に繋がる魔道具が使えます」
と言って、1枚の紙を剣舞士達に差し出した。
それを受け取ると、剣舞士は
「すまない、ここは頼む」
と言うと、令嬢商人を小脇に抱えて駆け出した。
そして、空いてる左手で空牙を取り出して
「銘解放、空牙……!」
とあの風の呪装具を取り出し、風で一気に加速。急いで水の都に向かった。
「こちらの方が速い! 少し耐えてくれ!」
「私に構わず、走ってください!」
剣舞士は風のブーストで馬を凌ぐ速度で走り、夕方になる前には水の都に帰還した。
そして、急いで門を潜り、そのままの速度で水の都の屋根の上を走った。
「見えました! 神殿です!」
令嬢商人の指差した先には、ちょうど戻ってきたらしい神殿騎士の一団も見える。
剣舞士はその少し手前に着地し、近くに居た剣の乙女に駆け寄り
「西の街に繋がるという魔道具を使わせてくれ!」
と従者から受け取った紙を、剣の乙女に差し出した。
「急ぎの用件のようですね。こちらへ」
緊急事態と察した剣の乙女は、そう言って二人を先導。ある部屋に入った。その部屋の真ん中には、水晶が収められた台座があった。
剣の乙女が台座に触ると、水晶が光った。
「これで、西の街に繋がりました。どうぞ」
それを聞いた剣舞士は、すぐにその水晶に駆け寄り
「聞こえるか!?」
と声を掛けた。
『え、何方ですか!?』
「すまない、緊急事態につき、水の都の水晶を借りてる剣舞士だ! すぐに西の街の冒険者ギルドかギルドの女性用宿舎に騎士を向かわせてくれ! 昨年の秋に入った新人女性受付嬢が、闇ギルドの暗殺者だと分かった!」
剣舞士は名乗ってから矢継ぎ早に、用件を切り出した。すると、息を飲む音が聞こえ
『わ、分かりました! 早急に手配します!!』
と声が聞こえて、扉を乱暴に開く音がした。
とりあえず、今出来る事はしたと判断した剣舞士が台座から離れると、水晶の光りが消えた。
「……後は、向こうを信じるしかないな……」
「そうですね……」
そうして剣舞士と令嬢商人は、剣の乙女と一緒にその部屋から出た。