「くそっ……堕天使は何をしている……! 連絡予定日はとっくに過ぎてるんだぞ……!」
冒険者ギルド女性職員寮のある一室にて、ギルド職員に扮した暗殺者。鴉は悪態を吐いていた。
この鴉だが、近い内にギルド職員のギルド長と槍使い、重剣士達。銀等級を排除する予定だった。
しかし、剣舞士はどうしても不確定要素だった。だから堕天使を使って、剣舞士を排除しようと画策し、剣舞士に指名依頼が来たのを利用する事にした。
そこにちょうど、剣舞士の暗殺依頼が来たというのが今回の内情だ。
「まさか、失敗したと……ちいっ……」
と舌打ちした時、何やら階下が騒がしい事に気付いた。
「なんだ……」
鴉は腰を上げながら、懐に隠していたダガーに手を伸ばした。その時、ドアが乱暴に開けられて
「動くな! 教会騎士団だ!」
「暗殺者! 貴様の事は把握している! 抵抗するな!」
騎士が数人押し入ってきて、剣を向けた。
フル装備の騎士が数人。ダガーでは、装甲を貫けない。そう判断した鴉は、素早く袖の中からある道具を取り出し、火を付けて床に転がした。
その直後、部屋に煙が充満した。
「ぐっ!?」
「視界が!?」
騎士達は毒も警戒して動きを止めたが、今回鴉が使ったのはただの煙玉。
鴉は素早く身を翻し、窓を突き破って外に出た。
庭側に出た鴉は
「クソッ! 何処から情報が漏れた!?」
と悪態を吐きながら、塀をよじ登ろうと塀の方に走ろうとした。
しかし
「力矢」
とその進路上に、魔法が当たり、足を止めた。
振り向くと、正面玄関側入り口に、槍使いと一党を組むあの魔女が居た。どうやら、今の力矢は彼女が放ったものらしい。
「逃げられる、とは、思わない、でね……」
「だったらぁ!!」
鴉は魔女を始末して逃げようと考えて、ダガーを抜いて魔女に迫った。
しかし
「俺がさせねぇよ!!」
そこに槍使いが現れ、鴉のダガーを柄の根本から破断した。
「ちいっ!?」
鴉は折られたダガーの柄を槍使いに投げつけ、弾いてる間に横をすり抜けて逃げようと考えて、実行した。
しかし
「だから、させねぇって言っただろうが」
という声が聞こえ、腹に槍使いの槍の柄がめり込み、鴉をまるでボールのように吹き飛ばした。
呼吸困難になりながらも、鴉は何とか脱出しようとして腕を伸ばした。
だが、その腕間近に矢が数本突き立った。
飛んできた方向を見てみれば、木の上に上妖精弓手が居て、既に新しい矢をつがえて狙ってきていた。
そこに、教会騎士団も次々と現れて鴉を包囲した。
流石の鴉も、ここまでされたら脱出を諦めた。
だが
(せめて、情報を渡してなるものか!!)
と鴉は、懐から丸薬を取り出して口に放り込もうとした。そこに
「させるか!」
と戦士娘が飛び込み、まず鴉の腕を蹴って丸薬を飛ばして、最後に後頭部に踵落としを入れて鴉を気絶させた。
「確保、お願いします」
戦士娘はそう言って、教会騎士団に譲った。
教会騎士団は鴉を縄で縛り、連行していく。
そんな鴉を見送りながら、槍使いは
「ったく……出来る事なら、女に攻擊はしたくないな……気分が悪い……」
「暗殺者だから、気にする必要、ない、と思うわよ?」
槍使いの言葉に、魔女はそう言って煙管を咥えて、火を付けた。
そこに降りてきた上妖精弓手も来て
「そうよ。仲間が暗殺されるより、断然マシよ」
と告げながら、槍使いの肩を叩いた。
彼らだが、最初に冒険者ギルドに来た教会騎士団の一人から鴉がギルド職員に潜入したと聞き、更にその情報が剣舞士によって齎されたと知ると、鴉の捕縛に協力する事にしたのだ。
「しかし、師匠はどうやって知ったのでしょうか……」
「どうせフェイヒリッターのことだから、暗殺者を迎撃して、尋問したんでしょうね……」
「また彼、危ない事をしたんですね……」
上妖精弓手の言葉に反応したのは、駆け付けた監査嬢である。
上妖精弓手は、そんな監査嬢の肩に優しく手を置いて
「まあ、フェイヒリッターが帰ってきたら、労ってやりなさいな。かなり危険な役割をしただろうし」
と監査嬢に言ったのだった。
それから、剣舞士が西の街に帰ってきたのは約1週間後になる。