ある日の正午過ぎの事だった。
「陛下! 危急でごさまいます!」
「今度はなんだ!? 隕石でも降ってきたか!? それとも、新たな邪神の類でも出現したか!? だったら、俺が斬ってくるぞ!!」
扉を荒く開けた部下の言葉に、赤い髪の若き王は意気込みながら立て掛けてあった剣を掴んだ。
すると、王の横に居た宰相がそんな王の頭を軽く叩いて
「落ち着きなさい。何があったのか、詳細な報告を」
と先を促した。すると、部下は呼吸を整えてから
「お、王女殿下の姿が、王城の何処にもありません!」
部下からの報告に、宰相は頭が痛そうにこめかみを抑えた。そして王は、天井を仰いで
「あの……じゃじゃ馬妹が!!」
と怒声を張り上げた。
時はここから少しばかり遡り、ゴブリンスレイヤー一党は令嬢商人からの依頼で護衛として王都まで来ていた。
とは言え、最近では盗賊は中々確認されず、魔物は時々遭遇した個体だけで、何の問題もなく王都に到着した。
「では私は、王都の知り合いの商会に積荷を引き渡してから、一度王城に向かいます」
「俺は一応付き添いだな」
「じゃあ私達は、王都を見て周りましょうか」
「そうね。初めて来たし」
「私は久しぶりねぇ。何か変わってるかしら」
そこで一度解散し、一党は思い思いに行動を開始した。そんな中で剣舞士は、令嬢商人と一緒に、令嬢商人の知り合いの商会に向かい、荷物の積み下ろしを手伝った。
その後、令嬢商人と共に王城に向かった。
実は令嬢商人は、西方を中心に、様々な地域の情報を集め、剣の乙女や王城の宰相に報告していたのだ。
そして今回、剣の乙女が偶々王城に来ているようで、宰相にも一緒に報告しようと判断して、王城に来た。
だが、剣の乙女は何やら会談中で、宰相は王と政務中という話だったので、何方かが空くまでは来賓室で待つ事になった。
そんな中、廊下が何やら騒がしくなり始めた。
「なんだ?」
「何かあったんでしょうか……?」
剣舞士と令嬢商人が視線を向けた時、ドアが開き
「剣の乙女様!?」
「……こちらにも、いらっしゃいませんか……」
剣の乙女はそう呟くと、令嬢商人に
「妹様を見ませんでしたか?」
と問い掛けてきた。
「妹様?」
「国王様の妹殿下よ……何があったのですか?」
「妹様のお姿が、何処にも無いのです」
剣の乙女の言葉に、令嬢商人は額に手を当て、剣舞士は内心で
(……面倒事だな……)
と確信していた。
その後、二人は玉座の間に案内され、そこに続々と情報が集まってきた。
なんと、公衆大浴場に妹殿下が居たのが確認され、そこで消息不明になっている。
そして同時刻に、その公衆大浴場で神官娘の神官服を含めて装備一式が盗まれる事件が起きている。
最初殆どの人員が関係無いと思っていたが、令嬢商人が
「……もしかして、変装した……?」
と呟いた。
「どういう事だ?」
「私の記憶の限りだけど……妹殿下と
剣舞士の問い掛けに令嬢商人が答えると、それを聞いた周囲の人員もざわめき始めた。
そこに、一人の兵士がドアを開けて入ってきて
「報告! 死の迷宮方面の門前で、ゴブリンが出現! そのゴブリン達は、地母神の神官を一人拉致し、死の迷宮に入った模様!」
と報告してきて、王がまさかという風に
「その地母神の神官が、あやつだと言うのか……」
て呟いた。
実はこの王都は、以前は死の迷宮を監視し対処する為の城塞都市だったのをベースにし、都市としての規模を拡大し、王城を建設。その後に王都としての機能を移転した、という経緯があり、目と鼻の先に死の迷宮があるのだ。
以前は最大規模かつ最高難易度の迷宮と呼ばれた死の迷宮だが、とある一党により攻略されてからは難易度は下がったが、最大規模かつ危険度は変わらない。
「陛下! 今すぐに軍を編成し、王女殿下の救助に向かわせるべきです!! 精鋭の騎士達ならば、ゴブリンなどどうとでもなります!」
一人が声高に言ったのを皮切りに、次々と軍を救助に向かわせるべき、という声が挙がった。
だが、王は冷静に
「死の迷宮を舐めすぎだ……貴様らは知らぬだろうがな、迷宮というのは、基本的にモンスターに有利に動く……ゴブリン如きと油断すれば、足下を掬われて、要らぬ犠牲が出る……愚妹を助ける為に、優秀な騎士を失う訳にはいかん」
と告げた。
その時
「陛下。進言をお許しいただきたく」
と令嬢商人が前に出た。
「よい、許す。なんだ?」
「王女殿下の救助に、冒険者を出してはいかがでしょうか」
令嬢商人の言葉に、一人の要人が
「バカな! 醜態を晒せというのか!?」
「静まれ!! 続きを申せ」
王は叫んだ要人を睨み、令嬢商人に先を促した。
「実は今王都に、あらゆる冒険者の中でも、ゴブリンに精通した一党が居ます」
「まさか、あの方達が?」
令嬢商人の言葉に、剣の乙女が反応した。
「はい……ゴブリンスレイヤー一党です」
「ゴブリンスレイヤー……確か、西の辺境街を中心に活動している銀等級の冒険者だったな」
「はい。彼の一党は、あらゆる冒険者の中でもゴブリンに精通しており、これまで数々の依頼を熟してきています……確実にゴブリンを駆逐し、王女殿下を救助してみせるかと」
令嬢商人の話を聞いた王は考え始めるが、要人達は
「王よ! 考え直してください!」
「精鋭達は、死を恐れずに王女殿下救助の為に動く筈です!」
と進言してきた。
だが、王は立ち上がり
「その一党を連れてまいれ」
と令嬢商人に伝えた。