剣舞士達とアステリオスの本格戦闘は、アステリオスの咆哮から始まった。
空気を震わせる咆哮を挙げたアステリオスは、その巨体からは予想出来ない速さで三人目掛けて突進。
剣舞士が大妖精を抱え、右に回避。白髪剣姫が左に回避し、その突進は事なきを得た。
しかしアステリオスの突進は、ダンジョンの内壁にぶつかり、内壁に大きなヒビ割れを起こした。
直撃を受けたら無事では済まないのは、一目瞭然だ。
「止まるな! 動き回れ!!」
「あれは、一撃で
突撃もだが、大剣の一撃もダメだろう。
一撃も貰わず、アステリオスを倒す必要がある。
ある場所で大妖精を下ろし、剣舞士は白髪剣姫と合流。息を合わせて、アステリオスに向けて駆け出した。
「斬撃強化・重! 炎付与!」
大妖精はそんな二人の支援に、斬撃強化を重ね掛けし、白髪剣姫の剣には炎を付与した。
剣舞士達方に炎付与をしなかったのは、餓狼や黒椿に悪影響が出るからかもしれないからだ。
そして、白髪剣姫とアステリオスの魔剣が合わさった直後、凄まじい勢いで白髪剣姫が弾き飛ばされ、乱雑に置かれていた木箱に激突した。
「な!?」
「なんて馬鹿力だ!!」
大妖精は白髪剣姫が簡単に弾き飛ばされた事に驚き、剣舞士はアステリオスの剛力に驚愕した。
白髪剣姫は無事らしいが、直ぐには戦線に復帰出来ない。立ち上がろうとはしているが、上手く力が入らないらしい。急いで大妖精が駆け寄り、何らかの治療を始め、剣舞士はその二人が狙われないようにとアステリオスに斬りかかる。
最初は上段からの振り下ろしの剣舞士の一撃を、アステリオスはその角で弾いた。
その直後、アステリオスはその豪腕をラリアットのように振り回したが、その一撃を剣舞士は刀を弾かれた勢いを利用し、後ろに跳んで回避。
着地すると同時に、左手で雑嚢入れから飛燕を取り出して投擲。
飛燕は複雑な軌道を描いてアステリオスに向かったが、その肉体は斬り裂かずに皮膚で弾かれた。
「ちっ……どれだけ堅いのか!?」
舌打ちしながら剣舞士は、アステリオスの硬さに驚愕し、頭の中で策を考え始めた。
無策に戦い続けても、何時かは武器が摩耗し、疲労で負ける可能性が高くなるばかり。
殺るならば、短期決戦。
しかし、そうなれば高い負荷と負傷は覚悟する必要がある。
「そっちは大丈夫か!?」
「はい。今から戦線に復帰します!」
剣舞士からの問い掛けに、大妖精が答え、白髪剣姫が剣舞士の隣に立った。
それを確認した剣舞士は、何か取り出しながら
「一瞬で良い、隙を作る!」
と駆け出した。それに追随し、白髪剣姫も動いた。
素早く剣舞士の横に並び、剣舞士の動きから察して一息で前に出た。
そうして、全身のバネを使った刺突が放たれた。
並の魔物だったら、大穴が空いただろうその一撃を、アステリオスは大剣を横にして防いだ。
やはり、戦闘勘も並大抵ではない。だが、剣舞士が欲しかったのは僅かな隙だった。
大剣を横にした事で、視界に死角が生まれた。
「これでも浴びておけ」
気付けば剣舞士が、大剣の横腹を蹴ってアステリオスの頭上を取り、アステリオスの頭に黒い液体を掛けた。
アステリオスは僅かに困惑し、察した白髪剣姫は距離を取った。
その直後、背後に着地しながら剣舞士は指を鳴らした。その瞬間、アステリオスの頭が激しく燃え上がった。
アステリオスは叫びながら、大剣をやたらめったらに振り回し始め、剣舞士は壁を駆けて回避しつつ白髪剣姫の隣に着地した。
そこに、大妖精が歩み寄り
「最初に浴びせたのは……」
「偶々入手した燃える水だ……まあ、簡単には消えないだろうが……」
剣舞士が狙ったのは、頭部が燃え続ける事による酸欠だ。
些か姑息かもしれないが、通常の剣撃では中々有効打が与えられないから思い付いた策だった。
実際アステリオスは、頭部を抑えながらもがき苦しみ、蹲った。
イケるか、と考えた。その時、アステリオスが不意に頭を上げて空気を震わせる雄叫びを上げた。
「うあっ!?」
「これは、魔力を帯びた咆哮!?」
思わず耳を塞ぐ三人だが、剣舞士は気付いた。
アステリオスの頭部の燃焼が、掻き消されていたのだ。
「なんて奴!? 魔力で無理矢理空気を震わせ、火を消したというのか!?」
それは、完全に予想外の事だった。
アステリオスことミノタウロスは、本来その身体能力による肉弾戦が主体の魔物。
魔力を有する個体など、確認された事が無かったのだ。
「なるほど……そういう意味でも、特異個体という事か!」
「来ます!!」
アステリオスは憎しみを募らせた眼で、三人を睨みつけ、突進してきた。