※この作品はR-18です。

Fate/Deadly Tale   作:ぴんころ

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作戦

「うん、困った」

 

 

 キャスターのクラス別スキルである陣地作成。それが、俺が今現在借りているマンションとはとても相性が悪いことが発覚したために、そう呟くしかなかった。

 

 一月も前から召喚したのは、工房をより完璧なものとする時間が欲しかったから。けれど彼女の陣地作成はどちらかといえば森の方向性で発揮される代物。となると聖杯戦争における場所で判断するのならば柳洞寺か、あるいはアインツベルン城。アインツベルン城はイリヤスフィールが、柳洞寺はキャスターがそれぞれ陣地にしている、とそこまで考えたところで気がついた。

 

 

「ああ、そっか。俺のサーヴァントがキャスターってことは、陣地作成枠が俺以外にはない以上柳洞寺はフリーなのか」

 

 

 そうなると、後は柳洞寺の人たちをどうやってどかすのかという話になるが、その辺りは暗示を使うことでどうにかするとしよう。確保する労力を考えれば、そちらの方がいいのかもしれない。聖杯戦争までは後一ヶ月はある。それだけの期間があれば十分に陣地を作成することができるだろう。

 

 俺自身の魔術回路の数は9本。原作主人公である衛宮士郎の三分の一。五百年以上前から続く魔術の家としては情けないことこの上ない数だが、これでも今の間桐からすれば望むべくもない代物であり、

 

 200年の歴史程度しかない遠坂の人間とは数えることすら馬鹿らしいほどの差がある。

 

 

「とりあえず、柳洞寺に仕込みをしておかないと」

 

 

 おいで、と呟く。

 

 間桐の魔術属性である水、そして蟲の使役などの魔術は俺も受け継いでいる。特性は「使役・吸収」という使い魔の使役に特化したものだったが故に、俺はそれ以外の魔術は特に使えない。ただ、研鑽を積めば生物の支配という一点については臓硯を超えられるのではないか、というのが奴の予想。それで期待をもたせて、いざ裏切ったら実際の実力差に絶望して死ぬ、なんて未来を奴が思い描いている可能性もある以上はどれだけ研鑽を積んでも挑めるようになるとは思えないが。

 

 少しダウナーな気分になったところで使い魔の使役に特化した俺の回路が蟲を呼び出す。召喚で失った魔力を先ほど完全に取り戻したばかりなので少し体のだるさはあったが、仕込みが早いに越したことはない。そのぶん陣地作成にかけられる時間が増える。

 

 

「お前らは柳洞寺に仕込みをしてこい」

 

 

 耳障りな羽音を鳴らして蟲たちが分散しながら、それぞれ地下や空高くから柳洞寺に向かっていく。仕込み、としか口にしていないが意思はしっかりと伝わっている。俺が自由に動けない間にも、俺の願い通りに行動してくれるだろう。

 

 臓硯からはサーヴァントを召喚したのならばそれを見せに来いと言われている。桜がライダーを召喚する関係で、同盟を組むのであればサーヴァントの容姿を知っている必要があると言われればそれ以上のことは何も言えない。あの家にはできる限り近寄りたくもないのだが、それでも行かないという選択肢はありえない。心臓に蟲を埋め込まれているという事実が、あの老人に対する逆らう力を前提からして奪っているのだ。

 

 唯一の救いは、あの家による必要はこの一回だけであるということ。他の連中にマスターであるということを隠すために、しばらくの間は立ち寄らなくていいという事実が、少しばかりの救いをくれていた。間桐が管理する無数の霊地の中の一つ、できる限り冬木市に近いそれを臓硯によって与えられている俺は、そこに自分用の、工房と呼ぶこともおこがましいほど低レベルなものではあるが陣地を作り上げている。

 

 臓硯は知らず、けれど俺が知っている中に”本来の周期から外れた時期に起こる第五次聖杯戦争”というものがある。だから臓硯は俺の工房を聖杯戦争前提に組み上げたものだということを知らず、すでにキャスターのスキル的に失敗しているのだが、俺が魔術師(キャスター)というクラスをこの一件で臓硯を滅ぼすために召喚しようとしたのだということも知らない。

 

 魔術師は秘匿するものだということはあの妖怪ジジィから教わっているために、それを盾にすればあのジジィもこの工房内部のことに関してはそこまで追求してこない。そもそも、俺が裏切ろうと思っても、臓硯には敵わない程度の力しか持てないことをあのジジィは知っているから、だからそこまで気にしていない。

 

 閉鎖されていて臓硯にも見られていないという、自分の中にある知識を加えての聖杯戦争の戦略を立てることを前提として考えれば、これ以上ない空間だった。

 とは言っても無論、その内容を言葉にするわけにはいかない。心臓の中にいる臓硯は俺の言葉を聞いている。行動までは体内にいるためか判断できないようだが、それでも言葉にすることができないというのは結構な苦痛だった。キャスターとの間では魔力経路(パス)を通してその辺りの事情は伝えてあるので、その部分での会話はできるのだが、それとは関係ない言葉も口にしながらではないと臓硯は騙せないので、マルチタスクが必須となる、なかなかに苦痛な作業だった。

 

 

「キャスター。今日はうちの実家に行くぞ」

 

「うん、わかったよますたー」

 

 

 頭の中では最初に誰を狙うのかを考えている。下手な介入をしてこれ以上サーヴァントとマスターの変更があっても困るので全てのサーヴァントが召喚され終わるまでは行動を起こすことはないが、それでも召喚され終わってから考えていたのでは遅すぎる。アサシンのサーヴァントに関しては確実に変わることが決まっているので面倒なのだが、それ以外は全て俺の知識にある通りであれば作戦も立てやすくなる。

 

 原作で如何にして倒されたのか、それを思い返して、そこに至るまでの道筋を思い出して、誰を倒すのかを選ぶ。後に回せば回すほどに厄介なことになる人物が誰なのか、そのランク付けをすれば誰から倒すべきなのかは見えてくる。

 

 わかりやすく面倒なのは衛宮士郎。俺のサーヴァントであればセイバーとして召喚されたアーサー王にも勝機はあるだろうが、後に回せば回すほど衛宮士郎は強くなって俺では倒せない可能性が出てくる。ただ、それでも衛宮士郎という人物は聖杯戦争の期間、様々なタイミングで死ぬのだ。そのことを思えば、そこまで気にする必要がないとも言える。あれらは全て神業的な回避によって為されているのだから。

 

 そうなると次に厳しいのは誰になるのか。そこを考えると誰から狙うべきかは決まった。

 

 

「御三家、だな」

 

 

 言葉にはしたが、すでにどこを狙うかも決まっている。間桐は同盟、遠坂は攻めやすさという意味では衛宮の家に行くので問題ない。問題はアインツベルン。

 あそこだけは霊地としてだけではなく郊外の森の奥という立地からして最悪の、天然の要塞。しかも、物語でのアインツベルンのマスター、イリヤスフィールの登場タイミングは最初の夜以降は全て昼間、聖杯戦争とは全く関係ないイベントだった。そしてその聖杯戦争からの敗退も、全て”アインツベルン城にまでやってきた誰か”によって、彼女のサーヴァントであるバーサーカーが敗北を喫したから。

 つまり、最初の夜に倒さない限りは俺が自分からアインツベルン城に攻め込む必要が出てくる。きっと、たどり着く前に死ぬことになる。

 アサシンとして召喚された佐々木小次郎が、キャスターとして召喚されたメディアの援護を受けてイリヤスフィールの撃退をしたということから一回は別のところにも攻め込んでいるのだろうが、それを待つというつもりもないし、実際にやってきたとしてもそのタイミングが衛宮士郎が聖杯戦争に参加する以前なのかどうかがわからないことには、そこで倒してしまってもいいものかと悩みが出てくる。

 

 よって、衛宮士郎が参戦した初日。そこで彼女を倒してしまうことが最善の手段。

 

 そう判断して、今はそれ以上の思考を止めておくことにして、キャスターを連れて実家の方に向かうことにするのだった。

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