間桐の実家にサーヴァントを見せに行った帰り、なぜか足が公園に向いていた。
この感覚は覚えがある。あの日、あの時以降にも何度か同じことは起きていたから。
だから、きっと今回も俺をここに導いたのであろう相手のことを探していた。
公園中をぐるりと見回して、それでも姿は見当たらない。けれどそれもいつものこと。彼女は、気がつけばどこかに現れているのだから、そもそも探すことすら無意味なのだとは考えてはいけない。
そうして見渡した公園、その中に彼女の姿が見当たらないことを確認して、一度地面を見てため息をつく。今回は一体どんな出現をしてくるのか。毎回、驚かせようとしてくるのはやめてほしいのだが。
「あら、私のことを探しているのかしら?」
そんなことを考えていると、目の前に探し人の姿。己に対してわけのわからない執着を見せている少女。己のような平凡な見た目の男と一緒にいたら、きっと俺が不利になる変な噂を立てられるであろうことが間違いない存在。十年前から全く見た目が変わっていない沙条愛歌の姿がある。
どうやって現れたのかなんて考えるだけ無駄。彼女は根源接続者なのだから、自分の予想なんてはるかに超えた手段の十や百。普通に備えていることだろう。
それよりも重要なのは、彼女と出会っているこの瞬間だけは臓硯の監視の外であるということ。この少女はなぜか俺のことをペットと呼ぶ程度には気に入っていて、本心からの会話をできるようにか会話の間だけは臓硯のことを騙してくれている。
それが、沙条愛歌と一対一で会話するという
「沙条、愛歌……」
「愛歌でいいって言ってるじゃない」
「……今回はどういう要件なんだ?」
「今日はただのお祝いよ。だって、聖杯戦争に参加するのでしょう? 令呪をもらって」
「それはそうだけど……」
その程度のこと、彼女であれば知っていても当然。むしろそれを知らなかったらそちらのほうが驚きだ。だから、俺が気になるのはどうして俺が聖杯戦争に参加する程度のことで彼女が”お祝い”にやってくるのかということ。彼女ほどの存在であれば俺のような有象無象は放置するだろうし、そうでなくても聖杯戦争にその気になれば参加できるだろうから、彼女は”
「安心するといいわ。私は聖杯戦争に参加しないもの。ここで私が参加しても、どうせ理想の王子様なんて召喚できないんだし」
「……え?」
「未来を見て、この世界線では”アーサー”じゃなくて”アルトリア”しか召喚されないことを知ってしまったんだもの。もう参加する意味もないわ」
「ああ、なるほど……」
ここは、
「でも、それならどうしてまだ……」
命を絶っていないのか。
なんでもできてしまう、たとえ未来の出来事であっても全て知ることができてしまう。そんな沙条愛歌が生きていたのはアーサー王と出会う未来を知っていたからだ。そこで恋をしたことで、沙条愛歌という獣性は世に解き放たれることとなった。だから、出会えないとわかってしまえば生きている理由がないと思うのだが。
きっと、沙条愛歌という人物を知っている人物であれば至極当然に湧き上がってくるであろう疑問。ただ、言葉にしてからしまったと思った。今、俺が殺されていないのは彼女の機嫌だけ。それを損ないかねない言葉を放ってしまうなんて、幾ら何でも考えがなさすぎるだろう、と思って。
「その辺りはまた今度。あなたがサーヴァントを一騎倒した後にでも教えてあげる」
彼女がその言葉を残して転移をしたことに気がついた時に言葉を発さなかったのはほとんど奇跡のようなものだった。
殺される、と覚悟をしたのに殺されない。そのことを疑問に思っても臓硯が聞いている以上は言葉にできない。
『ますたー。あの女、敵? イシュタルっぽい気配感じた』
『まだ敵かどうかはわからない。あいつはマスターじゃないみたいだし、聖杯戦争に関しては多分敵じゃないとは思うけど……』
正直、あの女に関しては考えるだけ無駄だという思いもある。
キャスターも、聖杯戦争に関わりがないとわかったらそれ以上の興味はないらしい。イシュタルに似ている、という言葉はPrototypeのギルガメッシュと同じ判定のようで、野生の嗅覚でそれを察知したのは流石だな、という言葉しか出てこないが。
「とりあえず、柳洞寺の方の仕込みは上々、っと」
もうこれ以上沙条愛歌に関して考えていても仕方ないので、聖杯戦争のための準備の進み具合を考えることにする。
キャスターの本領を発揮できる陣地、森林を作成するための場となる予定の柳洞寺から人を避難させるための仕込みは順調に進んでいる。蟲たちがどうやら地面を揺らしているようで、おじさん……間桐雁夜の墓参りという名目で向かった時に暗示を使って”地盤沈下””地震”というようなワードを加えることで自発的に”この山は崩れ落ちるんじゃないか”という恐怖を思わせている。
幸いというべきか、昔から存在する聖杯戦争を原因とする事件の数々。それらがあまりにも多すぎるガス会社の不手際におかしいだろうと考えた人たちが立てた不発弾などのせいではないかという推論。それが昔から存在する柳洞寺には全て伝わっているようで、元からあったものを思い出させるだけの暗示で済んだためにとても楽だった。
その結果、すでに住職たちの移動が開始しているらしい。
「……でも、一箇所じゃ足りないよな」
陣地を一箇所で済ませてはいけないという思いもある。
正直、柳洞寺の方は分かり易すぎるために遠坂凛であればすでに聖杯戦争の準備だと疑い始めていてもおかしくはないだろうと思っている。さすがに一ヶ月も前なのでもうサーヴァントを召喚しているとは思っていないかもしれないが、それでも聖杯戦争の時に陣地とする予定だ、というのはわかっているかもしれない。そうなると予備の場所を持っておかないといけないという思いも湧き上がってくる。避難が終わる前に何か仕込まれている可能性を捨てきれない以上は、あそこを囮として、別の霊地に陣地を敷きたいところだが。
「間桐の保有する霊地は相性が悪いんだよなぁ……」
水の属性を持つ間桐と相性がいい霊地、というのは陣地という名前の”森”を作り上げるキャスターとは相性が悪い。というかすでにして人の手が入り人工物が建築されていると、その周囲にちょっとした庭園レベルがある程度なので、その本領を発揮させてやれない。
なので、彼女の『陣地作成』スキルをしっかりと使わせてあげることを考えるならば、求める立地の条件は。
霊地でありながらも公的な敷地であるために魔術師個人が手を出すことのできない、かつ未だに何も開発されていない場所。
あるいは霊地としての範囲が広いために人が暮らすための家を作ったとしても問題なく森を展開できるような場所か。
「仕方ない、よな」
そして、片方に関しては俺の記憶に条件に一致する場所が存在する。
ちょっとだけ面倒な場所なのだが、それでも今ならばまだマシだろう。そう判断して、その場所に対して視線を向ける。あそこを奪い取ることに成功すれば、二重の意味で聖杯戦争がやりやすくなる。
「戦争は戦う前から始まってるんだ。それなら、俺がやることも何もおかしなことじゃない」
今回の聖杯戦争でアインツベルンが二ヶ月前からバーサーカーのクラスで召喚していたように。
前回の聖杯戦争で遠坂やアインツベルンが行なっていた情報蒐集のように。
前回の聖杯戦争で遠坂が行なった監督役との結託のように。
キャスターについて載せるのを忘れていたので、ちょっとだけ載せて置いたりする
【CLASS】キャスター
【真名】
【性別】女
【身長・体重】137cm・40kg
【B/W/H】75/51/71
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力:? 耐久:? 敏捷:? 魔力:? 幸運:? 宝具:EX
【クラス別スキル】陣地作成:A 道具作成:E
【固有スキル】変容:A++ 気配感知:A+ 森の叡智:EX
【宝具】