※この作品はR-18です。

Fate/Deadly Tale   作:ぴんころ

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妖精

 たどり着いた時には、ほぼほぼ互角の戦いが繰り広げられていた。キャスターもヘラクレスと同じく超級のサーヴァントであることを考えれば、こちらに有利な陣地にいながらも互角でしかないという点にマスターの性能差を感じることができる。それでも、ヘラクレスはキャスターの相手だけではなく自らの主人を守らないといけないということから少しずつ押し込まれていることも、目に見えてわかった。

 

 バーサーカーの拳を正面から無防備に受けてなお、キャスターの体には一切のダメージが通っていないのだからそれも当然というべきか。

 

 ”変容”スキルによって魔力から耐久に振られたステータスが、彼女の持つ宝具の効果と合わさってバーサーカーからのダメージを強制的に0に近づけている。同時、幸運から筋力に振られたステータスがヘラクレスの肉体を一度ぶち抜いた。

 

 

「キャスター、離れろ」

 

「ん!」

 

 

 声をかければ理由を聞かれることもなく、ただ命令に従って臓物をぶち抜いた手を引き抜いて彼女は後ろに下がる。直後再生したヘラクレスの体には多少の驚きを得たようだが、そこはやはり神代の存在。蘇生魔術程度ならば見慣れているのだろう。

 

 

「あら、マスターも出てきたの。勝利を確信でもしたのかしら? でも残念ね。私のバーサーカーはギリシャ最大の英雄。十二の難行をクリアした彼は十二回殺されない限りは死なないわ」

 

「そりゃ確信するだろ。バーサーカーが蘇生するのは驚いたけど、それでもキャスターなら問題なく戦える」

 

 

 ピクリ、とその美しい眉を顰めたがイリヤスフィールは己の勝利を確信しているのか、それ以上の怒りは見せない。怒ってくれればそれはそれでイリヤスフィールによるバーサーカーへの援護を消すことができたので楽だったのだが。

 

 

「貴方、どうしてここを狙ったわけ?」

 

「は……?」

 

「”魔術師がいない”ってことなら、空いてる霊地で言えば柳洞寺だってあったじゃない。それでもどうして柳洞寺じゃなくてここを選んだの。キャスターが陣地を完成させるよりも先に攻め込まれるかもしれなかったじゃない」

 

「まあ、それはそうだな」

 

 

 なら、どうしてと言わんばかりの瞳をこちらに向けている。俺たちの近くではバーサーカーとキャスターの戦闘が続いているが、今この瞬間だけは俺たちの間では戦闘なんてものがないかのように会話が進行している。

 

 

「ただ、聖杯戦争に勝利してもアインツベルンが用意する聖杯がないと意味がないっていうのがまず一つ」

 

「あら、その言い方だと他にも理由があるのかしら?」

 

「ああ」

 

 

 表情が緩む。俺の目的が達成された時のことを思えば、どうしても笑みを抑えきれない。そういった視線を向けられることがなかったからか、少女は俺のそれがどういう種別の笑みなのか理解できていないようで、訝しげな、けれど不快なものを見るような目を向けてくる。

 

 

「俺の目的はお前だよ。正確にはアインツベルンのホムンクルスの身柄。”冬の聖女”ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンの同型機。聖女と謳われたほどの存在で、しかもホムンクルス。それの同型機なら美人なのは疑うまでもないだろ。男なら、そんな女を手に入れてみたいって思うのは普通だ」

 

「……貴方、どうしてそれを知っているのかしら? 外様の魔術師は聖杯戦争の真実をはじめとした裏事情は知らないはずだけど」

 

 

 ここでようやく、俺という個人に対して興味を持ったらしい。今までの汚らわしいコソ泥を見るような目から、俺が御三家だけが持つ知識について持っていることに対する興味を抱いたようで、確かに彼女の瞳に俺のことが映っている。

 

 

「俺の名前は間桐慎一。間桐の魔術師で、今代の間桐のマスター、とまで言えればよかったんだけどな。妹の方に先に御三家の令呪が出現したから、一応外様と同じような状態さ」

 

「マキリ……そう、そういうこと。だからその辺りの情報も知ってたわけ。でも、そういうことなら私が聖杯だってことも知ってるんでしょう? それなのに女としての私を手に入れたいってバカなんじゃないの」

 

 

 すぅっと目が細められる。少女の姿をした怪物じみたマスターが本気になったということが、目に見えてわかる。神代の空気、魔力濃度、そういったものに当てられて多少の不調はあるだろうが、それはサーヴァント戦においてはそこまで大きな障害にはならない。俺は彼女に比べれば多少マシだが、その差が意味をなさないほどにマスターとしての能力に差がある。

 

 

「いいわ。バーサーカーを倒せたらあなたのものになってあげる。そんな景品があったほうが、あなたも本気になれるでしょう? 一つの陣営から二人のマスターを出すなんて規則破り(ルールブレイク)をした間桐は、そこまでしても敵わなかったって絶望を味合わせたほうがいいでしょうし」

 

 

 一切の言い訳の余地がない状況で敗北させる、と。俺がやる気を出せるような言葉を口にした少女は、自分が何を口にしたのかすらもしっかりと理解していないような口ぶりで、バーサーカーへの全幅の信頼を乗せた状態で冷ややかに笑う。

 けれど、俺からすればもうそんなことはどうでもいい。途中からの言葉は全く聞いていなかった。俺が求めたものが条件さえ満たせば本人公認で手に入れられる。少しばかりの落胆とそれを上回る圧倒的な歓喜を得て、キャスターに対して念話で命じる。

 

 

 ───全力でやれ。

 

 

「ん、|了っ! 解っ!森(・)の(・)叡(・)智(・):(・)E(・)X(・)」

 

 

 大地に触れたキャスターが、そのまま土を隆起させる。彼女のスキル”森の叡智”によって大地が変動し槍となり、ヘラクレスの肉体を貫いた。これで、二度目。再生よりも早く、さらにもう一度だけ神代の大地が武器と化した剣が切り裂いて命を奪うも、もう通らない。

 

 

「嘘……」

 

 

 次に動いたのは森の木々。同じ能力による操作ではあるが、武器に使われた素材が別なためにさらにもう一度命を奪う槍と化す。心臓を貫いたそれを、さらにトゲ付きの棍棒へと変換したことで体を内側から貫いてさらにもう一度。それによってその武器による攻撃も通らなくなり、スキルによる攻撃が通用しなくなったためにキャスターは一度後ろに下がる。

 

 

「■■■■■■■ーーーーッッッッ!!」

 

 

 その直後、キャスターがいた場所を襲うように振るわれたのは斧剣による高速の薙ぎ払い。それは森の叡智によって展開された無数の剣群によって勢いを殺され、キャスターの元にまで届かない。止まった斧剣に大地が絡みつき動きを強制的に止める。それがバーサーカーにまで食指を伸ばそうとしたところでバーサーカーは岩塊と化した剣から手を離し後ろに飛ぶ。

 それに追いすがるようにキャスターは大地に呑まれかけている斧剣を足場として一気に踏み込む。握った拳には筋力換算で瞬間的にAランクの三倍(A++ランク)。かつてどこかの世界でアステリオスと呼ばれた英霊が素手でヘラクレスの命を一回奪った時と同じ筋力でその頭を殴り飛ばす。

 それに対抗するように頭を失った状態のヘラクレスがキャスターを殴り飛ばしたが、彼女の周囲に顕現している謎の光(宝具)の効果でダメージは通らない。

 

 

「残りの命を数えるのも面倒になってきた(キャスター、宝具の使用を許可する)」

 

 

 俺の言葉に応じて、キャスターが宝具解放の用意を整えた。大気が震える。普通のキャスターであればヘラクレス相手にここまで優位に立つどころかそもそも戦闘になることすら難しかったのだろうけれど、うちのキャスターは魔術師とは名ばかりの反英霊(モンスター)。

 どちらかといえば殴り合いを得意とする彼女に、そんな並大抵の英霊がどうのこうのという話は通用しない。

 陣地に一度膨大な魔力が集まり、その直後に全てがキャスターの体に流れ込む。神によってデザインされた彼女の肉体は神造兵装であり、エルキドゥと同質の、けれど設計思想はまるで違う存在。その機能を全て解放するのが、彼女の宝具。

 

 

「人類は神より離れ、この星にその存在を残す」

 

 

 その本質はエルキドゥのそれと同じ。抑止力を己に流し込むことで彼女の『森の番人(フワワ)』としての機能を全力で解放する。森林に対する破壊行為が増えるごとにその破壊力は増大する一撃。エネルギーによって構成された爪によって相手の肉体を切り裂く。

 

 

「星は天に、花は地に、そして人はその愛に(エヌマ・エリシュ)!!」

 

 

 その極光の爪は、ヘラクレスの肉体を飲み込んで───。




バレバレな真名もここで開帳。真名はフワワです。
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