【R18】突如チ〇ポが生えた弦巻は欲情して結月を襲うのか 作:一条和馬
『少女たちの休日。』
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「薬を飲んだら男性器が生えた? バカなんじゃないですか?」
衝撃の夜から一日。元凶たるバー〈ARIA〉のマスター、ONEさんに正直に話すと、真顔でそう返された。
「もしかして私が知っていて盛ったと? それは心外ですね。本当にただの頭痛薬ですよ」
「弦巻姉さんのその言葉が真実なら、これは事件に違いないな! ウチの出番や!!」
珍しく怒った様子のONEさんの向かい、カウンター席の横で一緒に飲んでいた後輩の琴葉茜ちゃんが意気揚々と乗り出してきた。今年で成人を迎えた彼女はしかしまだお酒が飲めず、水割りカルピスのロックを雰囲気で飲んで、雰囲気で酔っていた。なんとも財布に優しい酒飲みだなぁと私は感心するばかりだ。
この〈ARIA〉のすぐ近くのアパート〈きずな〉に双子の妹、琴葉葵ちゃんと二人で住む彼女は、最近私立探偵を始めたという。最も、探偵業をこなすのは専ら葵ちゃんで、茜ちゃんは雰囲気で助手をしているというが、実際はゆかりんが継いだ家業、古書店〈結月堂〉と〈ARIA〉、それと駅前のパン屋のバイトを掛け持ちする無尽蔵の体力で動き回るスーパーフリーターだ。
「早速葵に教えたろ。あ、そう言えばギャラ子姉さん来週暇って言ってたな。誘ったろかな?」
いつもどこかでフラフラしているイメージだった葵ちゃんが仕事を始めたのは良い事だ。しかし今回に限っては彼女に首を突っ込まれるのは少々憚られる。
「いや、ごめん茜ちゃん。頼むからあの二人にだけは言わないで」
「んぁ? なんで?」
放置しておくとノンストップで話を進めてしまう危険性があるので、私は早急に彼女を止める行動を始める事にした。彼女が手にしているスマートフォンは葵ちゃんへの通話まであと一歩だった。ギリギリセーフである。
葵ちゃんとギャラ子ちゃん、彼女は私の高校時代からの同級生なのだが、どうも性に関する概念が私達よりも緩い傾向があるのだ。「私の股間からチンポ生えちゃった!」なんて言い出したら束縛されて一週間は搾取され続けかねない。
「ほら、今はその、生えてないし……」
「そうなん?」
顎に手を当て、ジーパン越しに私の股間を凝視する茜ちゃん。妹は誰かさんの影響で女の子にも男の子にもすぐ手を出す変態なのに、姉の方はそんな気配を微塵も見せない。言っておくけど、私じゃないぞ。多分、きっと。
「ギャラ子さんも学生とはいえ医者の卵じゃないですか。話くらいしても良いんじゃないですか?」
「葵も医大生やったで! 元やけど!!」
そこが厄介なのだ。二度落ちたものの三度目で医大に受かり、現在二回生として法医学の勉強に励むギャラ子ちゃんと、一発合格するも半年で辞めてしまった葵ちゃん。身近で医療に詳しいのはこの二人しかいないのだ。しかし長年付き合っている私としては医療者としての二人よりもレズビアンとしての二人のイメージが濃い。従って話はさっきに戻る訳なんだけど。
「ほら、ギャラ子ちゃん忙しそうだし、葵ちゃんは聞きにくいし……」
「ウチが説得するよ!」
本当に説得してしまうのが彼女の恐ろしい所だ。
だがしかし、或いは、茜ちゃんがいれば葵ちゃんやギャラ子ちゃんは変な気を起こさないのでは? そんな考えが頭をよぎった。全力スマイルと勢いで全部乗り切ってしまうのが、彼女の良い所なのかもしれない。
「じゃあ、お願いしようかな……」
「よっしゃ! じゃあ明日……はウチ、朝からここでバイトや。マスター、お休み頂戴!」
「店長に言ってください。……あぁ、出来れば起きている時に」
「ぶぅ」
早速バーカウンターの横で寝ている店長、IAさんを起こそうと椅子から飛び降りた茜ちゃんを静止させるマスターのONEさん。タイプは違えど、流石マイペースな姉を持つ妹だ。ストッパー役はお手の物といった所なのかな?
「一週間経って何もなければそれで事件性はなし、という事で良いんじゃないですか? という訳で弦巻さん、どうぞ」
そう言ったマスターのONEさんは、救急箱から茶色の瓶を取り出し、私の前に置いた。見間違えるはずもない、『例の薬』が入った瓶だ。お酒が入っているからか、また文字が泳いで見えるが、素面で見てもずっとこんな感じに見えるのではと錯覚してしまう。
ゴクリ、という生唾を飲む音が聞こえた。
「また何錠か頂けるんですか?」
私の口からそんな言葉が発せられたことで初めて、生唾を飲んだのが自分だという事に気が付いた。なんとも情けない話だけど、私は現代医療に革命を起こしそうな歴史的発見よりも、目先の欲に囚われた哀れな罪人だったのだ。
「何錠と言わず、全部タダで差し上げますよ。だって気持ち悪いし」
はっきり言いやがったぞこの人。
「確かに冷静に考えたらキモいな!!」
一切冷静とは無縁そうな茜ちゃんも追撃に加わり、私の欲に塗れた浅ましい心が羞恥心で満たされる。久方ぶりに『一般人に囲まれるオタク』気分を味わってしまった。
その後「もう夜の10時や! はよ寝な明日起きられへんわ!!」と一度も寝坊した事のない茜ちゃんが立ち上がった事で、なし崩しに今夜の飲み会はお開きとなった。
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翌日、日曜日。天気は晴れ。
朝日に顔を照らされた私が目を覚ましたのは、自室のベッドの上だった。この場合の『自室』とはちゃんと表札に『弦巻』と書かれた実家の自室だ。
つい数か月前、ちょっとした『事件』でゆかりんと離れ離れになりかけた私は、大切な人と過ごす時間を大事にするようになっていた。それは無論、実家の両親と手例外ではない。
母と一緒に朝食を済ませ、昼まで一緒に家事のお手伝い。お昼手前でようやく起きてきた寝坊助な父と三人で近所のファミリーレストランでランチをした。私の両親は今年で結婚30周年、お互い齢50を超えてはいるが、未だに新婚の様に仲睦まじい。頬を染めながらイチャイチャとする様は、成人した娘としては恥ずかしいと感じると共に「私もこんな家庭が持ちたいな」と思うばかりだった。
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夕方、私は表札に『結月』と書かれた家の玄関をくぐった。第二の我が家だ。
脱衣所に靴下を放り込んでからリビングに向かうと、実家から持ってきたという割烹着に身を包んだずん子ちゃんとゆかりんが厨房で料理をしていた。
「ただいまー」
「あ、マキさんお帰りなさぁい」
「お帰りなさいませ!」
「あっ、『妹』の方か」
同じデザインの割烹着を着ていたゆかりんはゆかりんではなく、彼女の妹だった。誤解を招く前に言っておくと、正確には彼女は『妹』ではない。なんなら人間ですらない。諸事情あって未来人のセイカさんが未来から連れてきたゆかりんのクローン『ボイスロイド』というヤツらしい。その辺私はあまり詳しくないし、なによりゆかりん本人が「妹欲しかったんですよね!」と最初からウェルカム全開だったのでこうして家族の一員として迎えられているのだ。しかしリアル双子である琴葉姉妹以上に瓜二つなので、遺憾ながら私は喋り出さないとどちらか判別がつかないのだ。
「温泉旅行、どうだった?」
貴重品や『例の薬』が入った肩さげ鞄を下ろしながら、私はゆかりん(妹)に問いかけた。未来の技術で大量の知識を所有しているとはいえ、彼女はまだ生まれて一年も経過してないらしく、よく暇を貰っては旅行に出掛けるのだ。趣味がある事は大変喜ばしい事で、しかもインドア筆頭のゆかりん(姉)と比べてアグレッシブに行動していくのは、やはりクローンとて別の命なんだなと思える。
「やはり生でみる大自然の迫力は違いまましたわ! お姉様達が帰ってきたら写真を公開いたします!」
ゆかりん(妹)のこのなんちゃってお嬢様口調はマスターたるセイカさんが設定したものだ。私はまだ会った事はないが、どうもずん子ちゃんの実姉である東北イタコさんが似たような喋り方をするという。
「楽しみだ。あ、晩御飯作るなら私も手伝おうか?」
「大丈夫ですよー。……そう言えばお風呂まだ沸かしてないですね」
「じゃあそっち私がするよ」
「お願いしますー」
「マキさんご心配なく! 料理の方は私がバッリチサポートしておきますわ!」
私の意図を理解してくれたゆかりん(妹)がガッツポーズを見せてくれたので、後顧の憂いを断ち切った私は脱衣所の向こうの浴室へと向かった。料理の腕に関しては私がそこそこ、ずん子ちゃんが上手なのだが、どうも目を離すと東北名物である『ずんだ』をふんだんに仕込む悪癖があるのだ。元が枝豆なので合う料理には意外と合うのだが、とりあえず重度のマヨラーのずんだ版のようなものなので、誰かが監視しておかないといけないのだ。料理スキル皆無のゆかりん(姉)とセイカさんは論外として、私かゆかりん(妹)しか選択肢はないわけだ。
仲良く談笑する二人を背中に感じながら、私は脱衣所の引き戸を開けた。洗濯機も洗濯カゴも空だ。だったが、私は二日前の惨状を思い出す。鼻孔をくすぐるのは洗剤の香りだけだが、目を閉じればまだ、『あの夜』の淫猥な匂いを思い出すことが出来る。夜通し肌を重ねた事で汗やらいろいろな体液をしこたま吸ったベッドシーツを早朝から洗濯機に投げ入れたあの朝。お風呂に入ろうとしたずん子ちゃんと鉢合わせてお互いに焦ったのは言うまでもない。っと、いけない。急に静かな所にきたせいで、色々と意識するようになってしまったようだ。まずは浴槽を掃除して、お湯を溜めねば。
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夜。仕事から帰ってきたゆかりん(姉)と、就活から帰還したセイカさん含めた五人で軽いパーティーが開かれた。
セイカさんが近所のタクシー会社〈ミライノタクシー〉の事務員として雇ってもらえる事になった記念と、ゆかりん(妹)の凱旋記念だ。
彼女が撮影した写真や映像を見ながら食事と会話は進んだ。新幹線の窓から見える風景、それの端っこに毎回どや顔で映るゆかりん(妹)に笑い、旅館で出された豪華な料理に一同揃ってブーイングの嵐を巻き起こし、貸し切り状態の露天風呂で野生の猿と一緒に和むゆかりん(妹)の姿にほっこりし、その直後らしき、ゆでだこみたいに真っ赤に顔を紅潮させたゆかりん(妹)と猿が露天風呂を背景に風呂桶を本気で争奪する動画でまた私達に笑いの嵐が起こった。
その後ゆかりん姉妹とセイカさんは三人でソファーに並びながら対戦ゲームを始め、私とずん子ちゃんは台所に並んで食器の後片付けを開始した。
そこで事件は起きたのだ。