貴方の受け皿になると決めたんだ。
私が大好きな貴方は、本当に我儘で。
私が何言っても、止める事無くて。
手加減しながら、私の首筋に縋るんだ。
それはとっても痛いけど。
貴方が私を求めた証なんだから。
私は貴方の身体に握り締めながら、痛みを必死に耐えるんだ。
♢♢♢
「きりちゃーん!ご飯出来ましたわよー!」
「はーい、今行きます!」
ずん姉様が不在の日の夜。私は大好きなイタコ姉様と一緒に、ご飯を作った。二人で作った夕食はいつもより量が少なく、食卓がいつもより寂しく感じるけれど。
「ちゅっちゅっちゅ…少しだけですわー!」
食卓に空いたスペースを、姉様は冷蔵庫から取り出した林檎ジュースとお酒で埋めた。
「…ずん姉様に怒られますよ?」
「大丈夫ですわよー、ちょっとだけですから。」
姉様はそう言って、お酒を開けて飲み始める。
私も、何も言わずに林檎ジュースを一杯だけ入れた。
普段は飲まないようなお酒を、貴方は少しずつ口に通す。
味は分かってるのかな。でも姉様の事だから、きっと分かってないんだろうな、なんて朧げに考える。
私は姉様の飲酒を止める事はしない。だって、私は知っているから。
臆病な姉様は、そうでもしないと、罪悪感で潰れてしまうから。
私を襲う事なんて、出来ないから。
♢♢♢
食後、私はイタコ姉様より先にお風呂に入った。
そして、身体を清めた後、私は真っ直ぐに寝室に向かった。
いつもなら、ゲームをするような時間を無視して寝室に向かう理由。それは、たった一つしか存在しない。
「きりちゃん、起きてますかー?」
「…起きてますよ、イタコ姉様。」
寝室の襖が開きイタコ姉様が入って来る。私は布団の上に座りながらイタコ姉様の言葉に返事をする。
イタコ姉様は私の返答を聞くと、寝室の襖を閉めて近くにやって来る。そして私の頭を撫でながら、お願いする。
「一緒に寝ませんか?」
「…良いですよ。」
私がそう答えると貴方は本当に嬉しそうな顔をして、私の隣に座る。布団の上はちょっと狭いけれど、貴方の体温が心地よくて。
「イタコ姉様、お酒の匂いがします。」
「飲みましたからねー…嫌いですか?」
「…いえ、苦手ではありません。」
だってこの匂いは、貴方が私を求めてる時だけの匂いだから。
そう思いながら、私は姉様に話し掛ける。
「それで、わざわざお酒飲んだって事は、するんですか?」
「…良いんですの?きりちゃんは嫌じゃないんですの?」
「なんでこんな時間に布団に来てると思ってるんですか。それに、私はイタコ姉様の事が好きなんですから。」
「…そうでしたわね。」
イタコ姉様は少し申し訳なさそうな顔を浮かべる。そして、顔を上げて、
「では、痛かったら教えてくださいな?」
そう言って、イタコ姉様は私の身体に抱きついた。
♢♢♢
姉様の身体に宿った妖狐。勿論、姉様に影響が無い訳は無かった。
月夜の晩に、姉様の中の獣性が膨れ上がる。
何かに身体を擦り付けたり、誰かを抱き締めたり。
誰かに、噛み付きたくなったり。
そんな衝動が、貴方の中に宿るんだ。前までは、自分の身体を傷つける事で凌いでいたらしいけれど。
私は姉様に傷付いて欲しくないから。
貴方の欲望の受け皿になろうと決めたのだ。
♢♢♢
少し荒い呼吸は、私の耳に確かな音として響く。
「…はい。だから、姉様の気が済むまで。」
「…ゴメンなさい。んぁ、ふ…」
かかる吐息。私の首筋に、姉様の歯が触れる。
「…ん、くっ…はぁ…」
歯が刺さる。ただ、傷付ける為の噛み方じゃなくて。
「ねぇ、さま…っ、あぁ…」
痛め付けるように、じわりじわりと仕留めるような噛み方で。
私の言葉に呼応するように、姉様は力を掛ける。
「……っは、ふぁ…」
噛み千切るくらいに力を掛けていた筈の姉様は、一度私の首筋から口を離す。
「ん、ぁふ…ちゅ…」
首筋に出来た歯型を舐め、姉様は其処に口付けをする。
まるで、自分の所有物であると主張するように。
そうした後に、姉様はまた首筋を舐める。
段々と、姉様の舌は首筋から肩の方へと降りて行って。
「ん、はふ…」
肩に噛み付く。ガジガジと、抵抗のある骨の感覚を確かめながら、噛んでは離すを繰り返し、
「くぁ…ん、んぁ…」
「ふっ、ん…!」
私の柔らかい部分に喰らいつく。其処が気に入ったのか、姉様は顎の力を入れて、弱めてを何度も行なって、私の身体を楽しむ。
「…ぁぅ、ね、さま…あつ、いぃ…」
手加減などは何処にも無くて、焼けるような痛みが駆け抜ける。
その時だった。
ぷつり
そんな感覚が、身体から感じた。
異物感。身体に、何かが入って来て。
「…ふっ、ぅあ…?」
「…ッ、あ…あぁ…!」
いつの間にか離れた貴方の口から溢れた音。
私はそれを聞いて、何が起きたのかを理解する。
首筋を見ると、赤い水滴がつうっと流れていた。
「ゴメンなさい…ゴメンなさい…!」
貴方はそう言いながら、私の傷跡を必死に舐める。
止まらないのは、分かってる癖に。
治らないのは、分かってる癖に。
「…大丈夫ですよ、安心してください。」
「でも…!でも…!」
私は抱いていた貴方の身体を強く抱擁する。萎縮した身体は、まるで怒られる直前の子供みたいな感じがして、つい笑みが溢れてしまう。
「私は姉様が好きなんですから、姉様が傷付くよりずっと良いですよ。」
「でも…私は、きりちゃんを傷付けてしまって…!」
「それが嫌なら、責任取って下さいよ。」
そう言うと、姉様は目を見開いて私の顔を見る。
姉様は『責任』の言葉の重みは分かってる。
だから、姉様の罪を軽くする為に。
「最後まで、私を傷付けて下さい。もう戻れないくらい、姉様の物にして下さい。」
言葉は、自分でも驚くぐらい簡単に出て来た。
「本当に、良いんですの?こんな、私で…」
「だから、私はイタコ姉様が好きなんですって。ですので、早く襲って下さいよ。」
「…っ!後悔しても知りませんからね…!」
「ふふふ、イタコ姉様の愛なら、私は全部受け止めますから。」
横目に見えるのは、涙目で震えるイタコ姉様の顔。
でも、これで良いんです。
これぐらい伝えないと、臆病な姉様は動かないですから。
そう、まだ夜は始まったばかり。
私は姉様に押し倒される。布団は柔らかく、とても良い匂いがしたけれど。姉様のクラクラするような魅力的な匂いには叶わなくて。
「愛してます、イタコ姉様。」
「…大好きですわよ、きりちゃん。」
言葉を交わす。貴方と二人の世界へ堕ちてゆく。
もう戻れない傷を付けられた私は、これからも貴方に付き添います。
ですのでどうか、こんな歪な気持ちを抱く私が、貴方の隣に居る事を許して下さい。