※この作品はR-18です。

日本の村に眠る淫習を訪ねて、柳沢研究室レポート 今に残る日本の村のエロ風習 ⭐︎各話読み切り 新作はイラスト付き   作:みなぽん

242 / 251
日本の淫習を訪ねて 広島県 U村 地龍の巫女に選ばれた少女

柳沢 昂(やなぎさわ のぼる)

大東亜文化大学 民俗学教授。

日本各地に残る因習・禁忌を研究する民俗学者であり、穏やかな物腰と知的な雰囲気を持つイケオジ教授で、学生からの信頼も厚い。

研究分野は 土着信仰 民俗風習 祭りなどを求め日本全国を巡り記録を収集している。

口癖は――

「私は日本の民俗学を研究する傍ら、村に古い因習について研究しています。壊したローカルレジェンドの中にこそこの国の民族の本質がねむっているのです。」

 

姉川 美奈子(あねがわ みなこ)

柳沢ゼミ ゼミ長。真面目で責任感が強く、ゼミをまとめる柳沢教授の右腕。

柳沢への尊敬は人一倍強く、研究でも調査でも常に全力。清楚で落ち着いた雰囲気の優等生タイプだが、実はかなり大胆な一面も持つ。寺の娘であり体捨施徳会という儀式の生贄を親に強要されていた過去をもつ。

 

【挿絵表示】

 

 

 

南條 美和(なんじょう みわ)

美奈子の同期。元陸上部エースで、現在も抜群の運動能力を持つ。長身スレンダーな美人で、ファッション誌の読者モデルも務める人気者。明るく社交的で、ゼミのムードメーカー。

柳沢への想いは美奈子と同じく熱狂的であり、彼らの為ならいかなる献身も厭わない。。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

六月の広島県北部は、雨の匂いが濃い。

 

山々を覆う深い緑は美しい。しかし、その美しさの奥に潜むものを、この土地の人々は知っていた。

 

「地龍が目を覚ます」

 

H村の老人たちはそう言う。

 

豪雨による山崩れ、土石流、斜面崩壊。

 

科学的に説明すればそれだけの話だ。

 

だがこの村では違う。

 

山の奥深くに眠る巨大な龍神が怒り、身をよじることで山が崩れるのだと信じられていた。

 

だから毎年六月になると祭りが行われる。

 

十八歳の娘を巫女に選び、山中の祭壇へ送り込む。

 

娘は3日3晩、たった一人で山に籠もる。

 

そうすることで地龍は鎮まり、村は守られる。

 

誰もその風習を疑わない。

 

少なくとも村人たちは。

 

ただ一人を除いて。

 

「いやいやいやいや、意味わかんないんだけど!」

 

姫白沙霧は村役場の集会所で思わず叫んだ。

 

金髪に近い茶髪。

 

耳には小さなピアス。

 

制服のスカートは少し短い。

 

大阪から越してきて二年。

 

都会育ちの感覚はまだ抜けていない。

 

「こんなん完全に人権侵害やん! なんで私なん!?」

 

しかし集会所の老人たちは穏やかな顔でうなずくだけだった。

 

「地龍様がお選びになった」

 

「昔から続くことじゃ」

 

「今年は沙霧ちゃんしかおらん」

 

話にならない。

 

沙霧は何度も反論した。

 

警察に相談しようとも考えた。

 

SNSで炎上させてやろうかとも思った。

 

だが結局しなかった。

 

その理由はただ一つ。

 

村の外れにある小さなカフェ。

 

両親が夢だった店。

 

移住資金をほとんど使い果たして開いた店だった。

 

ようやく常連も増えてきている。

 

もし自分が騒げば。

 

もし村と対立すれば。

 

店は終わる。

 

「あんたらの夢のために私が生贄とか最悪なんですけど……」

 

誰もいない部屋でそう呟く。

 

もちろん両親は反対した。

 

だが村との関係を壊したくないという思いもまた本物だった。

 

その曖昧な沈黙が、沙霧には一番つらかった。

 

自分を守りたい気持ち。

 

村で生きたい気持ち。

 

どちらも本物だからだ。

 

祭り当日。

 

雨雲が空を覆っていた。

 

白い巫女装束を身にまとった沙霧は鏡の前で立ち尽くしていた。

 

普段のギャルっぽい姿はどこにもない。

 

長い黒髪のウィッグを被せられ、紅を差される。

 

まるで別人だった。

 

「……かわいいじゃん」

 

思わず苦笑する。

 

そして次の瞬間、目の奥が熱くなった。

 

かわいいとかそういう問題じゃない。

 

これから一人で山に行くのだ。

 

夜の山へ。

 

得体の知れない祭壇へ。

 

怖くないはずがない。

 

その時だった。

 

村へ一台のワゴン車が入ってきた。

 

降りてきたのは40代半ばほどの穏やかな男性だった。

 

眼鏡をかけ、落ち着いた笑みを浮かべている。

 

「失礼。私は柳沢昂と申します」

 

その背後には二人の女性がいた。

 

黒髪で知的な雰囲気を持つ姉川美奈子。

 

長身でモデルのような南條美和。

 

三人は大学の調査チームだった。

 

村長との挨拶を終えた柳沢は興味深そうに周囲を見回す。

 

「実に興味深いですね」

 

彼は柔らかく微笑んだ。

 

「私は日本の民俗学を研究する傍ら、村に古い因習について研究しています。失われたローカルレジェンドの中にこそ、この国の民族の本質が眠っているのです」

 

村人たちは誇らしげだった。

 

自分たちの伝統が大学教授に評価されている。

 

それが嬉しいのだ。

 

だが沙霧は違った。

 

「教授さん」

 

思わず声を掛ける。

 

柳沢が振り向く。

 

「なんでしょう」

 

「これ、おかしいと思わへん?」

 

その言葉に周囲の空気が凍った。

 

村人たちがざわつく。

 

しかし柳沢はすぐには答えなかった。

 

代わりに沙霧の顔を静かに見つめた。

 

その瞳に宿る不安。

 

怒り。

 

諦め。

 

すべてを見ようとするように。

 

やがて彼はゆっくりと言った。

 

「民俗学者としては興味深い風習です」

 

沙霧の顔が曇る。

 

だが柳沢は続けた。

 

「ですが、一人の人間としては、十八歳の少女が恐怖を抱いている事実もまた見過ごせません」

 

その言葉に沙霧は少しだけ救われた気がした。

 

美奈子もまた巫女装束を見つめていた。

 

かつて自分も似た立場だった。

 

伝統という名の圧力。

 

共同体の期待。

 

逆らえない空気。

 

それを知っている。

 

だからこそ胸が痛んだ。

 

「教授……」

 

「分かっています」

 

柳沢は静かに答える。

 

村人たちの信仰は偽物ではない。

 

何百年も災害と戦ってきた先祖たちの願いがそこにある。

 

しかし。

 

目の前で震える少女の恐怖もまた本物なのだ。

 

夕暮れが迫る。

 

山道の入口に立つ沙霧。

 

祭壇はさらに奥にある。

 

村人たちは頭を下げる。

 

誰も悪意を持っていない。

 

だからこそ残酷だった。

 

「行ってきます……」

 

小さく呟く。

 

誰か止めてくれないかな。

 

そんな情けない期待を抱きながら。

 

だが誰も止めない。

 

両親も。

 

村人も。

 

空は重い雲に覆われていた。

 

遠くで雷鳴が響く。

 

地龍が目覚める季節が、今年もやってきていた。

⭐️地龍の祠

 

山奥の祠は、予想以上に冷え込んでいた。

六月の湿気を含んだ空気が、苔むした石の床から立ち上り、沙霧の素足を冷やしていく。一晩、身を縮めて過ごした奥の間。

外の雨音は夜通し響いていたが、今は止んでいる。ただ、樹々の葉から滴る水音だけが、規則的に響いていた。

 

「朝……や」

 

薄暗い祠の中で、沙霧は膝を抱えたままぼんやりと呟いた。

恐怖で眠れなかったわけではない。あまりの非現実感に、脳が現実を拒否していただけだ。大阪の賑やかな商店街を思い出そうとするが、浮かぶのは深い緑と、白い巫女装束の自分の姿だけ。

 

目の前には、古びた櫃が置かれていた。

その上に、三つの巻物が横たわっている。

昨夜、村の老人が「毎朝、一つずつ開封し、その通りに実行せよ」と言い残していったものだ。

 

震える手で、沙霧は一つ目の巻物に手を伸ばした。

紐を解き、慎重に広げる。

薄い和紙に、墨の筆致でびっしりと文字がしたためられている。

 

『一之巻 奉納と供物の儀』

 

目を走らせる。

まず、祠の前に供物として米と水を捧げること。

そして──。

 

「巫女踊り……?」

 

沙霧の眉がひそめられた。

神楽のようなものかと思いきや、続く文字に目が釘付けになった。

 

『衣を全て脱ぎ捨て、生まれ出でたる素の姿にて、地龍の加護を祈りて舞え。恥じらうことなく、その肌を龍の息吹に晒すべし』

 

「はあ!?」

 

思考が停止した。

裸で踊れ? こんな山奥の、薄暗い祠で?

正気かよ、と叫びそうになった時、背後の扉が軋む音がした。

 

びくりと肩を揺らし、振り返る。

そこに立っていたのは、祭儀用の白衣に身を包んだ神主と、その背後に控える二人の従者だった。

 

「おお、巫女よ。巻物は開いたか」

 

神主のしわがれた声が響く。沙霧は巻物を握りしめたまま、後ずさった。

従者の二人は、白い和紙で作られた能面のような面をつけており、表情は全く窺えない。ただ、その面の細い穴から覗く視線が、自分の全身を舐めるように動いているのが肌で分かった。

 

「……あの、これ」

 

沙霧は震える声で、巻物の一文を指差した。

 

「これって、裸になれってことなんですか? そんなの無理に決まってるやん。人間の尊厳とかそういう問題以前に、風邪ひくし……」

 

「無理などと言うでない」

 

神主の一喝が、冷たい空気を切り裂いた。

 

「これは数百年続くしきたりじゃ。地龍様は清らかな娘の生身を好まれる。衣という偽りを排し、真の無垢なる姿で奉納せねば、龍は鎮まられぬ。去年だって、ちゃんと踊ったんじゃぞ」

 

昨年の巫女の姿を想像して、沙霧は胃が縮む思いだった。

あの大人しい子が、本当にこんなことを? みんな、狂っているのか。

 

「さあ、供物を捧げ、衣を脱げ。地龍様が待っておられる」

 

拒絶の言葉が喉元まで出かかった。

しかし、脳裏に浮かぶのは、両親の疲れた顔と、村の集会所で穏やかにうなずく老人たちの顔だ。ここで騒ぎを起こせば、店は終わる。両親の夢は終わる。

 

「……わかった」

 

絞り出すような声だった。

沙霧は祭壇の前に進み出ると、米と水を捧げた。その手つきは、自分でも驚くほど機械的だった。

 

そして、立ち上がる。

面をつけた従者の前だということを意識しないように努めながら、沙霧は白い小袖に手をかけた。

 

指先が冷たい。

シャリ、と絹が擦れる音が、静寂の中でやけに大きく響いた。

肩から衣が滑り落ちる。

続いて、緋袴の紐を解く。

冷たい空気が、露わになった肌に触れた。

 

「っ……」

 

息を呑む。

下着姿になっていたが、さらにそれを外さねばならない。

ブラジャーのホックに手を回す。指が震えて上手く外れない。もどかしさと惨めさで、目の奥が熱くなった。

 

やっとの思いで全ての布切れを足元に落とした。

祠の冷気が、剥き出しの肌を容赦なく刺してくる。

沙霧は両腕で自分の体を抱きしめ、恥ずかしさに俯いた。

 

「うつむくな。龍に顔を見せよ」

 

神主の声に、強張った体を無理やり動かし、顔を上げる。

目の前には、無表情な和紙の面。その奥で、見知らぬ男たちの視線が自分の胸と股間を凝視しているのが幻視できた。

 

(柳沢先生……助けて……)

 

ふと、昨日の穏やかな教授の顔が浮かんだ。あんなに優しく微笑んでくれたのに。でも、彼はいない。ここには狂った伝統と、自分だけだ。

 

「舞え」

 

号令とともに、沙霧は足を踏み出した。

何をどう踊ればいいのか分からない。ただ、足元の石畳を踏み鳴らし、腕を空に向かって差し伸べる。

見様見真似の、歪な舞。

揺れるたびに、豊かな胸が揺れ、黒い茂みが露わになる。

肌が粟立っているのは寒さのせいか、それとも屈辱のせいか。

 

面の奥から、荒い息遣いが聞こえた気がした。

一人の従者が、わずかに身じろぎをした。その仕草に、沙霧は見覚えがあった。

長身で、モデルのような立ち姿。

(南條……さん?)

 

まさか。でも、あの長い脚のバランス。

もう一人の従者も、静かに佇んでいる。その知的な佇まい。

 

(柳沢先生?)

 

混乱の中で舞い続ける。

なぜ彼らが? いや、ただの似た他人だ。

でも、もしそうだとして、大学の教授や助手が、こんな田舎の狂った儀式に従っている理由は何だ?

 

「地龍様へ! 地龍様へ!」

 

神主の祝詞が高らかに響く。

沙霧はただ、裸の体を躍らせるだけの存在に成り下がっていた。

汗が滲み、それが冷たさを際立たせる。

羞恥心は麻痺していき、代わりに深い絶望だけが胸に穴を開けていく。

 

長くも短くも感じる時間が過ぎ、神主が「礼」と告げた。

沙霧は息絶え絶えに、冷たい床に額を擦り付けた。床の苔の匂いが鼻を突く。

 

「よい。これで一之巻は終わりじゃ」

 

沙霧は震える手で衣を拾い集めると、前を隠すように抱え込んだ。

従者たちが一礼して退出していく。

最後に残った長身の従者が、一瞬だけ沙霧の方を振り返った気がした。

面の奥の瞳が、何か言葉を発しようとしているようだったが、結局何も言わずに背を向けた。

 

パタリと扉が閉まる。

残された沙霧は、冷たい石柱に背を預け、ずるずると座り込んだ。

 

「最悪……ほんま、最悪や……」

 

涙は出なかった。ただ、残りの二つの巻物を見つめることしかできなかった。

明日の朝は、何を強要されるのか。

この三日間が終わる頃、自分は人間として正気でいられるのだろうか。

窓の外の空は、相変わらず鉛色の雲に覆われていた。

 

 

地龍はまだ、目覚めようとしている。

 

⭐️第2巻

 

二日目の朝は、一層重苦しい空気に包まれていた。雲は手が届きそうなほど低く垂れこめ、いつ降り出してもおかしくない。祠の外に立たされた沙霧の目の前には、昨夜の雨で水量を増した滝が、白いしぶきを上げて流れ落ちていた。

 

「二之巻じゃ」

 

神主が差し出した巻物。沙霧は昨日の屈辱を思い出し、受け取る手が震えた。紐を解き、広げる。

 

『二之巻 滝行と浄化の儀』

 

目を走らせる。

滝行。それは想像できた。だが、その先に書かれた文字に、沙霧の血の気が引いた。

 

『……身を清めたる後、滝壺に浸かり、自らを慰めよ。溢れ出づる恥と汚れを、龍の水にて洗い流すべし。その滴りは、神の器に受け、山の祭壇へと捧げることで、村の穢れもまた清められる……』

 

「な、なにこれ……」

 

沙霧の口から、かすれた声が漏れた。オナニーしろというのか。それも、失禁するまで。そしてその液体を、この神主が器に受けるのか。

 

「昨日と同じく、これは地龍様への捧げ物じゃ。お前の中に溜まった穢れ、そして村全体の穢れを、水と共に流し去る神聖な儀式。さあ、衣を脱ぎ、滝に入れ」

 

いやだ、と叫びたかった。だが、昨日の踊りの後、抵抗することの無意味さを思い知らされている。白い小袖と緋袴を脱ぎ捨てると、朝の冷気が剥き出しの肌を刺した。雨のしずくが混じり始め、肌に冷たく張り付く。

 

裸足で滝つぼへと続く岩場を歩く。尖った石が足の裏に食い込む痛み。そして、滝のすぐそばまで来た時、強烈なしぶきと冷気が全身を包んだ。

 

「ひっ……!」

 

思わず身をすくめる。神主の視線を背中に感じながら、沙霧は意を決して滝の中へと足を踏み入れた。水は骨の芯まで凍らせるような冷たさだった。肺から空気が押し出され、呼吸が止まる。全身が硬直し、歯の根が合わない。

 

「そのまま滝壺へ行き、巻物の通りに行え」

 

無慈悲な声だけが聞こえる。顔の上から容赦なく落ちる水流に耐えながら、沙霧は腰ほどの深さの滝壺へと体を沈めた。水底の岩に手をつき、なんとか姿勢を保つ。冷たさで感覚が麻痺し始めた指を、恐る恐る、自分の秘部へと這わせた。

 

(こんなこと、したことない……)

 

経験のない行為への戸惑いと、計り知れない羞恥。冷たい水の中で、自分の性器を触る感覚すら鈍い。それでも、指先が敏感な場所に触れるたび、ビクリと体が震えた。

水音に紛れて、面をつけたままの従者たちが近づいてくる気配がした。彼らは手に手に、小さな陶器の器を持っている。

 

「あっ……」

 

指の動きを早める。冷たい水と、熱を持ち始めた粘膜の感覚が混ざり合い、脳を痺れさせる。羞恥心が奇妙な昂奮を引き起こし、わけがわからなくなる。

 

神主が祝詞を唱え始めた。低く唸るような声が、滝の音と共鳴する。

その声に急かされるように、沙霧の指の動きはより必死になった。もはや儀式のためなのか、冷たい水から逃れるための生理的な欲求なのか、自分でもわからない。ただ、与えられた命令をこなすことだけに思考を集中させる。

 

「う、うう……」

 

体の芯で何かが弾けそうになる。その瞬間、滝行で冷え切った体の感覚が戻り、同時に強烈な便意にも似た感覚が下腹部を襲った。

 

 

「ああっ……!」

 

叫び声とともに、沙霧の体は大きくのけぞった。制御できない透明な液体が、ついには尿として、滝壺の水の中へと拡散していく。その様子を、従者の一人が素早く器を差し出し、滴り落ちる液体を受け止めた。陶器に当たる水音が、滝の轟音の合間にかすかに聞こえる。

 

全てが終わった時、沙霧は力が抜け、滝壺にへたり込んだ。体の震えは止まらず、意識が遠のきそうになる。神主は満足げにうなずくと、器に受けられた濁った水を注意深く布で包み込んだ。

 

「これで潔められた。この穢れの水を山の祭壇に捧げれば、今年も地龍様の目覚めは穏やかであろう。よくやった、巫女よ」

 

濡れそぼった肢体を岩場に引きずり上げながら、沙霧は空を見上げた。大粒の雨が、音を立てて降り注いでくる。まるで、地龍がその供物を受け取ったかのように。頬を伝うのは、雨なのか、それとも初めて流れた涙なのか、自分でも区別がつかなかった。明日、最後の巻物には、一体何が書かれているのか。考えるだけで、心が折れそうだった。

 

⭐️第3巻

三日目の朝。空は泣いていた。祠の外で降り続く雨音は、昨夜からの地滑りで麓へと続く道を完全に遮断していた。村への連絡は途絶え、山中の祠は、沙霧、神主、そして二人の従者だけが閉じ込められた、隔絶された空間と化していた。

 

「三之巻じゃ」

 

神主の声は、昨日までの威厳とは違う、どこか逸るような色を帯びていた。

沙霧は震える手で紐を解いた。広げた巻物には、たった数行の文字。

 

『三之巻 鎮魂の儀 神の従者と交わり、命の源を奉納せよ』

 

言葉の意味を理解するのに、しばらく時間がかかった。

「交わり……命の……源?」

 

昨夜、滝壺での屈辱で壊れかけた心が、今度こそ音を立てて砕けるのを感じた。

「いやあああっ!!」

 

これまでのどんな抵抗よりも激しい叫びだった。踵を返し、祠の入り口へ駆け出す。もう村のことなんて考えられない。両親の店なんてどうでもいい。ただ、ここから逃げ出さなければ。

 

しかし、出口で立ちはだかったのは、面をつけた二人の従者だった。

「通して! どいて!!」

 

一人の従者が無言で沙霧の腕を掴む。驚くほどの力だった。暴れる沙霧の体を、もう一人の従者が背後から羽交い締めにするように抱きすくめる。

 

「離せ! この、離せぇ!」

 

足をばたつかせ、掴む腕に噛みつこうとする沙霧。その拍子に、背後から抱きついていた従者の面が外れた。パサリと音を立てて、白い和紙が床に落ちる。

現れたのは、銀縁の眼鏡をかけた、知的な顔立ち。

「柳沢……先生?」

 

動きが止まった。腕を掴んでいたもう一人の従者もまた、自ら面を外す。長い黒髪に、憐悧な目をした女性。

「姉川さん……じゃあ、もう一人は」

背後から沙霧を抱きしめている人物が、くぐもった笑みを漏らす。

「もちろん、わたしよ」

長身の従者が面を外すと、モデルのような美貌の南條美和が現れた。

 

「嘘……なんで……大学教授が、なんでこんなこと……」

 

沙霧の声は絶望に震えていた。助けを期待していた人物が、この狂気の儀式の中心人物だったとは。

 

柳沢昂は、眼鏡の奥の瞳を細め、沙霧を見下ろした。そこにいたのは、もはや温厚な学者の仮面ではない。

 

 

「民俗学を研究している、と言ったでしょう? 現地調査は、何よりも重要だ」

「調査……? これが調査ですって……!?」

「そう、極めて学術的に価値のあるフィールドワークだよ」

 

柳沢の声に、熱がこもる。

「失われゆく日本のローカルレジェンド。この儀式の秘められた本質を、ついに我々は突き止めた。地龍信仰の真の姿はね、村の男たちによる集団暴行による受胎の強要だったんだよ」

「な……に……?」

「災害の恐怖は、共同体を強固にする。しかし同時に、排他的な血の結束を求める。『外の血』を入れることを極端に恐れた村社会は、この『鎮魂の儀』を密かに創り上げた。よそ者が村に入ったときには、選ばれた巫女にして、村の男たちが交代で精子を注ぎ込む。そして、生まれた子を『地龍の子』として、再び共同体に組み込む。血を絶やさず、村を閉じ続けるための、巧妙なシステムだ」

南條が、沙霧に囁く。

「沙霧ちゃん。安心していい。私達はあなたにこれ以上の精神的な苦痛を与えるつもりはないわ。今日の夜、ここには龍面を被った青年団の男が来る予定だけど、あなたが望むならここから逃がしてあげることもできるわ。」美和は沙霧の身代わりに犯される覚悟のようだ。

 

「先生……みんな……ありがとう」

 

沙霧の声は震えていたが、その奥には確かな光が宿っていた。

絶望の淵から救い出してくれた彼らへの感謝。そして、自分の運命を受け入れようとする覚悟。

 

「うちは、この村で生きていく。お父ちゃんとお母ちゃんの店を守っていく。それがうちの選びたい生き方やから」

 

柳沢は眼鏡の位置を直しながら、静かにうなずいた。その瞳には、学者としての好奇心と、一人の人間としての温かさが同居していた。

 

「しかし、そうなると儀式そのものを拒否するわけにはいかない。村との関係を維持するには、何らかの形で『鎮魂』を果たさねばならない」

 

「うん……分かってる」

 

沙霧は一度目を伏せ、それから決意を込めて顔を上げた。

 

「でもな、先生。うち、一つだけお願いがあるんや」

 

「なんでしょう」

 

「初めての相手は……岸田純也くんがええんや」

 

その名前に、その場の空気がわずかに揺れた。岸田純也。沙霧の同級生で、野球部のエース。無口だが優しい目をした少年の姿が、沙霧の脳裏に浮かぶ。

 

「よく知らん村の男たちに抱かれるくらいなら、同じ学校の、知ってる子がええ。それに……純也くんなら、きっと優しくしてくれる思うから」

 

南條美和が、ふっと笑みをこぼした。

 

「いいわね、その意気。分かったわ。わたしが彼を連れてくる。陸上部の俊足にかけてね」

 

彼女はそう言い残すと、雨の降りしきる山道を駆け下りていった。

 

残された柳沢と姉川美奈子は顔を見合わせた。

 

「問題は、儀式の執行役を変えることを古老たちにどう納得させるかですね」

 

美奈子が腕を組みながら言う。

 

「『巫女の望み』ですよ」

 

柳沢はすかさず答えた。

 

「地龍信仰において、巫女の言葉は神意そのもの。『龍がこの者を望んだ』と言えば、彼らは逆らえません。私がうまくやります」

 

柳沢はそう言って集会所へと向かった。その背中は、どこまでも頼もしかった。

 

一刻も経たないうちに、美和が岸田純也を連れて戻ってきた。

雨に濡れた制服。泥だらけのスパイク。息を切らした純也は、祠の奥で巫女装束を纏った沙霧を見て、息を呑んだ。

 

「姫白沙織…」

 

「純也くん……」

 

二人は見つめ合った。

純也は沙霧が選ばれた巫女であることを知っていた。村の男たちが何をしようとしていたかも、おぼろげながら聞いていた。だからこそ、沙霧が自分を呼んだ意味が痛いほど分かった。

 

「ごめんな。うち、弱くて……逃げ出したくて……」

 

「ううん」

 

純也は首を横に振り、沙霧の頬にそっと手を添えた。

 

「俺でいいなら……俺に任せて」

 

その言葉に、沙霧の目から涙がこぼれた。

恐怖と恥辱で凍りついていた心が、少しずつ溶けていくのを感じた。

 

「じゃあ……お願いします」

 

沙霧は自ら小袖の紐を解いた。

昨夜の滝行とは違う、自分の意志による脱衣。

布が滑り落ち、白い肌が露わになる。

純也は目を背けることなく、沙霧の体を真っ直ぐに見つめた。その視線に、昨夜の男たちのような粘着く汚さはない。ただ、慈しみと緊張だけがあった。

 

祠の奥。

苔むした石の上に敷かれた藁の上に、沙霧は横たわった。

冷たい空気が肌を刺すが、純也の手の温もりがそれを包み込む。

 

「……痛いか?」

「ん……大丈夫」

 

純也はまず、沙霧の頬に手を伸ばした。震える指先でそっと髪を耳にかける。汗で張り付いた髪の下から、白いうなじが現れた。

 

「……きれいや」

 

思わずこぼれた素直な言葉に、沙霧の肩が少しだけ力んだ。

「や、やめてや……そんなん」

「ほんまのことやもん」

 

純也は沙霧の緊張をほぐすように、ゆっくりと髪を撫で続けた。指の腹でこめかみから耳の後ろ、そしてうなじへと滑らせる。沙霧の呼吸が、少しずつ深くなっていくのが分かった。

 

「沙霧……」

「ん……」

「ここ、気持ちええ?」

 

彼の指が耳たぶをそっと揉む。沙霧は小さく息を呑んだが、すぐに吐息を漏らした。

「……気持ち、ええ」

「そっか。よかった」

 

純也は安心させるように微笑むと、今度は首筋に唇を寄せた。触れるか触れないかの距離で、そっと息を吹きかける。

沙霧の肌がサッと粟立った。

「ひゃっ……」

「冷たい?」

「ううん……あったかい……」

 

その言葉に導かれるように、純也はそっと首筋に口づけた。軽く吸うように、啄むように。

沙霧の口から、かすかな吐息が漏れた。

 

「ここは?」

鎖骨のくぼみに指を這わせながら尋ねる。沙霧はぎゅっと目を閉じたが、その表情にはもう恐怖の色は消えていた。

「……ちょっと、くすぐったい」

「え、くすぐったいだけ?」

「……やらしい聞き方せんといて」

 

沙霧がほんの少しだけ口元を緩めた。その変化を見逃さず、純也は嬉しくなった。

彼の指はゆっくりと沙霧の胸元へと降りていく。まだ触れはしない。ただ、その輪郭をなぞるように、空気の層を隔てて指を動かした。

 

「触っても……ええ?」

「……うん」

「痛くせんようにするから」

「知らんよ。純也くんの野球で鍛えた手がどれだけ繊細か、証明してみてや」

 

沙霧の口調に少しだけいつもの強気が戻ったことに、純也は胸が熱くなる思いだった。

彼はうなずくと、そっとその柔らかなふくらみに手を当てた。まるで壊れものを扱うかのような慎重さで、指の腹全体で包み込む。

 

「あったかい……」

「沙霧の体温やん」

「ちがう。純也くんの手があったかいの」

 

それきり、二人はしばらく言葉を失った。

祠の外では相変わらず雨が降り続いている。しかしその音さえも、今は遠くに感じられた。

 

純也の手は、沙霧の胸のふくらみを優しく揉みほぐすように動き始めた。まだぎこちなさは隠せないが、その不器用さこそが沙霧には心地よかった。

 

「ん……」

沙霧の口から漏れる吐息が徐々に熱を帯びていく。純也はその変化を敏感に感じ取りながら、もう片方の手で沙霧の腰を支えた。

 

「沙霧、顔上げて」

「なんで……」

「目、見たいから」

 

沙霧は恥ずかしそうにしながらも、ゆっくりと目を開けた。その瞳は少し潤んでいたが、そこには確かに純也の姿が映っていた。

 

「……沙霧」

「なに」

「好きや」

 

突然の告白に、沙霧の目が見開かれた。

「ずっと前から好きやった。沙霧が大阪から来た時から」

「……それ、こんな時に言うことちゃうやろ」

「こんな時やから言うんや。ちゃんと伝えたかった」

 

沙霧の目から、また涙がこぼれた。しかし今度は、昨夜までの涙とは違う。温かい、癒しの涙だった。

 

「……うちも」

「え?」

「うちも、純也くんのこと……気になってた。野球部の練習、いつも窓から見とった。かっこええなって、ずっと思っとった」

 

純也は何も言わずに、沙霧をぎゅっと抱きしめた。沙霧もまた、恐る恐る純也の背中に手を回した。二人の鼓動が重なり合う。冷たい祠の空気の中で、その部分だけが熱く燃えているようだった。

 

しばらく抱き合った後、純也はそっと沙霧の体を離し、再び彼女を見つめた。

「沙霧。これからすることは、儀式やない。俺と沙霧の、二人だけのものや。せやから、無理せんでええ。嫌やったら、いつでもやめれるから」

「……純也くん」

「なんや」

「早くして。風邪ひく」

 

沙霧の不器用な照れ隠しに、純也は思わず笑ってしまった。

「了解」

そう言うと、彼は沙霧の肩を優しく押し、再び藁の上に横たえた。

これから二人は、初めての夜を迎えようとしている。

嵐の山奥の祠で。

儀式ではなく、確かな想いを胸に。

 

純也は沙霧の上に覆いかぶさった。互いの体温が伝わり、冷え切っていた祠の空気すらも温かく感じられた。

 

「沙霧、ほんまにええんやな?」

 

もう一度だけ確認するように尋ねる。沙霧は恥ずかしそうに目を伏せながらも、小さく、しかしはっきりと頷いた。

 

「ええよ。純也くんやから……ええの」

 

 

【挿絵表示】

【挿絵表示】

 

 

その言葉を聞き、純也はそっと沙霧の唇に自分のそれを重ねた。

 

最初は触れるだけの軽いキス。それから少しずつ深くなり、互いの吐息が混ざり合う。沙霧の唇は冷たく震えていたが、純也の温もりに触れるうちに少しずつ熱を帯びていった。

 

「ん……」

 

沙霧の口から甘い吐息が漏れる。純也はその隙間から舌を滑り込ませ、沙霧のそれを絡めとった。初めての感触に沙霧は驚き身をよじったが、やがて恐る恐る応えるように舌を動かし始めた。

 

唇を離すと、銀色の糸が二人の間に引いた。

 

「沙霧……きれいや」

 

純也は沙霧の体を眺めながら呟いた。白い肌は薄明かりの中で淡く輝き、微かに震えていた。

 

「見んといて……恥ずかしい」

 

沙霧は腕で胸元を隠そうとしたが、純也は優しくその手をどけた。

 

「見せて。俺だけに」

 

その瞳に宿る真剣な光に、沙霧の抵抗は溶けていった。

 

純也は再び沙霧の胸に手を添えた。先ほどよりも強く、しかし決して乱暴ではない力加減で揉みしだく。

 

「あっ……んん……」

 

沙霧の背中が弓なりに反った。純也の掌の粗い皮膚が敏感な乳首を擦るたび、電流のような刺激が走る。

 

「ここ、硬くなってる」

 

純也が乳首をつまんで軽く引っ張ると、沙霧の口から甘い悲鳴が漏れた。

 

「やっ……そんなこと言わんといて……」

 

「正直に言うただけやで」

 

純也は悪戯っぽく笑うと、今度は舌先で乳首を転がし始めた。

 

「ひゃあっ!」

 

沙霧の腰が跳ねた。舌の湿り気と熱が、冷えた肌に染み渡る。

 

「あ……ああ……純也くん……そこ……」

 

沙霧の指が純也の髪に絡み、無意識に押し付けるように導く。純也はその意図を汲み取り、さらに念入りに舌を動かした。

 

一方の手で空いた方の胸を愛撫しながら、もう一方を舌と唇で攻め立てる。二つの快感に挟まれ、沙霧はシーツを掴む手に力を込めた。

 

「んっ……くっ……気持ちええ……」

 

沙霧の声が震える。純也はその反応を見逃さず、さらに刺激を強めていく。

 

「沙霧の声、ええ音色やな」

 

耳元で囁かれ、沙霧の顔がさらに赤らんだ。

 

「やらしい……」

 

「沙霧の声やからええねん」

 

純也はそう言いながら、片手を沙霧の腹部へと滑らせた。平坦なお腹を撫で下ろし、臍のくぼみで指を遊ばせる。

 

「くすぐったい……」

 

「ここは?」

 

指がさらに下へ降り、黒い茂みに触れる。沙霧の体がビクリと跳ねた。

 

「だめ……そこは……」

 

「なんで?」

 

「汚い……」

 

沙霧は顔を背けた。しかし純也は首を横に振った。

 

「汚くないよ。沙霧の全てがきれいなんやから」

 

そう言うと、純也は指を茂みの奥へと滑り込ませた。湿り気を帯びた秘所に触れると、沙霧の肩が震えた。

 

「濡れてる……」

 

「言わんといて……」

 

「沙霧も気持ちええんやな?」

 

純也の問いかけに、沙霧は顔を真っ赤にして小さく頷いた。

 

その反応に勇気づけられ、純也は指で秘所を優しく撫でた。ひだに沿って上下に動かし、時折くり抜くように指先を潜らせる。

 

「あっ……ああ……純也くん……そこ……」

 

沙霧の声が甘く蕩ける。純也は敏感な粒が硬くなっているのを見つけ出し、そこを重点的に攻めた。

 

「やっ!だめっ!そこは……!」

 

沙霧が慌てて純也の手を掴んだ。あまりの快感に耐えられないのだ。

 

「ごめん。痛かった?」

 

純也が心配そうに尋ねると、沙霧は首を横に振った。

 

「違うの……気持ちよすぎて……変になりそうで……」

 

その言葉に、純也は嬉しさを感じた。自分が沙霧に快感を与えているという事実が、彼の胸を熱くさせる。

 

「変になってええよ。俺だけに見せて」

 

そう言うと、純也は再び指を動かし始めた。今度はより丁寧に、沙霧の反応を見ながらリズムを作っていく。

 

「あっ……んん……純也くん……好き……」

 

沙霧の口から自然と愛の言葉が漏れる。純也はその言葉に応えるように、指の動きを速めた。

 

「俺も好きや。沙霧が世界で一番好きや」

 

二人の声が重なり合い、祠内に甘い空気が満ちていく。

 

しばらく指での愛撫を続けた後、純也は沙霧の耳元で囁いた。

 

「沙霧……入れてもええ?」

 

沙霧は緊張した面持ちで頷いた。その目には僅かな不安の色も見えるが、それ以上の信頼が宿っていた。

 

純也は慎重に自分の身体を調整した。既に硬く立ち上がった自身を、沙霧の入り口に押し当てる。

 

「痛かったら言うてな。絶対無理させへんから」

 

沙霧は小さく頷いた。純也は深呼吸をしてから、ゆっくりと腰を沈め始めた。

 

「んっ……」

 

沙霧が小さく呻く。純也はその表情を見て一旦動きを止めた。

 

「痛い?」

 

「ううん……大丈夫……続けて……」

 

純也は再びゆっくりと腰を進めた。狭く閉ざされた壁を押し開く感触が伝わってくる。沙霧の体が小さく震えているのが分かる。

 

「あと少し……沙霧、力抜いて……」

 

沙霧は言われるままに全身の力を抜こうとするが、どうしても入り口の緊張は解けない。純也は焦らずに時間をかけ、少しずつ侵入を深めていく。

 

「くっ……純也くん……もう……」

 

「全部入ったよ。ほら、見て」

 

沙霧は純也の言葉に促されて下腹部を見る。

自分の体内に純也が収まっている感触に、驚きと安堵が入り混じった表情を浮かべた。

 

「すごい……私たち……つながってる……」

 

「ああ。一つになったんや」

 

純也は沙霧の手を取り、指を絡ませた。互いの脈打つ鼓動が直接伝わってくる。

 

しばらくはそのまま動きを止め、沙霧が慣れるのを待った。その間、純也は沙霧の髪を撫でたり、頬にキスしたりして優しく励ました。

 

「動いてもええ?」

 

沙霧が頷くのを確認すると、純也はゆっくりと腰を引き始めた。結合部から蜜液が零れ落ちる感触が伝わる。

 

「あっ……出ていくの……変な感じ……」

 

「もう一回入れるで」

 

純也は再び押し込み始めた。往復するたびに沙霧の反応が変わり始める。

 

「んっ……ああ……純也くん……なんか……」

 

「何か?」

 

「気持ち……よくなってきた……」

 

その言葉に純也は喜びを感じた。少しずつペースを上げていく。浅いところで焦らすように出し入れを繰り返した後、突然深く押し込んだ。

 

「ああっ!」

 

沙霧の背中が大きく仰け反る。

その反応に触発され、純也はリズミカルに出し入れを始めた。

 

「沙霧……沙霧……」

 

「純也くん……好き……もっと……」

 

二人の声が絡み合い、喘ぎが加速していく。純也の腰の動きが次第に大きくなり、沙霧の中を余すところなく探検していく。

 

「ここはどうや?」

 

ある一点を探り当てると、沙霧の反応が格段に良くなった。

 

「そこっ!そこがいいっ!」

 

「わかった。ここが沙霧の好きなとこやな」

 

純也は見つけた場所を中心に攻め始めた。沙霧の声が一段と甘くなり、結合部からは蜜液が溢れ出してくる。

 

「純也くん……純也くん……もう……ダメ……」

 

沙霧の限界が近いことを察し、純也はペースを上げた。二人の肉体が奏でる湿った音が祠内に響き渡る。

 

「一緒に……一緒に行って……」

 

沙霧の懇願に応え、純也は最後の力を振り絞って打ち付けた。

 

「沙霧……!」

 

「純也くん……!」

 

二人の体が同時に痙攣し、結合部から熱いものが放たれた。

沙霧の中が波打ち、純也の精を搾り取るように締め付ける。

 

長い絶頂の後、二人は重なり合ったまま余韻に浸っていた。お互いの荒い呼吸が次第に落ち着いていく。

 

「沙霧……大丈夫?」

 

「うん……最高だった……」

 

沙霧の微笑みに、純也も幸せそうに笑い返した。

 

「純也くんのおかげ……ありがとう」

 

「こちらこそ。沙霧がいてくれたおかげや」

 

二人は唇を重ね合わせた。儀式としてではなく、心から愛し合う恋人同士の口づけ。祠内の冷たい空気を忘れさせるような熱い愛情が二人を包み込んでいた。

 

遠くで雷鳴が轟いた。地龍が目覚めたのか、それとも単なる自然現象か。しかし今の二人にとって重要なことは、目の前の相手への深い愛情だけだった。

 

「これからもずっと一緒におってくれるか?」

 

純也の問いに、沙霧は迷うことなく頷いた。

 

「もちろん。うちの人生丸ごと、純也くんにあげる」

 

二人の手が再び絡み合い、新たな誓いを交わすように握りしめられた。

外では依然として雨が降り続き、山奥の祠は外界から完全に隔絶されていたが、その内部では暖かな愛の炎が灯っていた。

 

それは単なる儀式の完成ではなく、本当の意味での契りの儀式だった。

 

 

 儀式が終わり、二人はゆっくりと体を離した。沙霧は気怠さと共に幸せな温かさを感じながら、純也の腕に頭を乗せた。

 

「純也くん……」

「ん?」

「うち……今まで怖くてしょうがなくて……でも今になってわかる。純也くんとだったら……」

「これからずっと一緒やからな」

 

 純也は沙霧の髪を梳かしながら囁く。その優しい仕草に沙霧は安心感を覚えた。だがその瞬間、外からガタガタンと大きな音が響いた。

 

「誰か来る……!」

「しっ!」純也が唇に指を立てた。「まだ大丈夫や。祠の扉は閉め切ってあるから簡単には入れへん」

 

 沙霧は急いで巫女装束を纏い直し、純也も制服の上着を羽織った。息を殺して祠の奥に身を寄せる。表の扉を叩く音はどんどん激しくなる。誰かが声を上げた。

 

「おい! そこにいるんか!」

「早く開けろ! 地龍さまの儀式や!」

 二人は顔を見合わせた。岸田純也が選ばれたことは柳沢教授が巧みに工作してくれたはず、しかし今年の地龍役に選ばれた黒山剛志は長老たちの判断に納得していなかった。

 

扉が悲鳴を上げた。

 

蝶番が悲しい音を立てて外れ、厚い板が内側へと倒れ込む。土煙と共に、雨の匂いと獣のような男の息遣いが流れ込んできた。

 

「見つけたぞ、巫女よ!」

 

逆光の中に立つ黒い影。黒山剛志だった。

 

屈強な体躯を雨に濡らし、荒い息を吐きながら仁王立ちするその姿は、正しく山賊そのものだった。太い腕には龍の刺青が彫り込まれ、その目は獲物を狙う野獣のようにぎらついていた。

 

「沙霧に手を出させるか!」

 

純也が沙霧の前に立ち塞がった。しかし、黒山の鉄のような拳が純也の腹を捉える。ドスッという鈍い音が響き、純也の体がくの字に折れ曲がった。

 

「純也くん!」

 

「ガキが調子こきやがって!」

 

さらに一撃。今度は顔面だった。純也は石の床に倒れ込み、口から血を流した。それでも沙霧を守ろうと腕を伸ばすが、黒山は容赦なくその手を踏みつけた。

 

「ああっ!やめて!やめてぇ!」

 

沙霧の悲痛な叫びが祠内に響く。黒山は下卑た笑いを漏らしながら、沙霧の髪を掴んで引き寄せた。

 

「ごっつう楽しみにしてきた女子高生との中出しセックスだぞ。逃がしてたまるかよ!」

 

その言葉の汚らしさに、沙霧の胃が翻った。黒山の視線が自分の体を舐め回す感触に、恐怖で全身が震える。

 

「離せ……離せぇ……!」

 

必死に抵抗するが、男女の力の差は絶望的だった。黒山の分厚い手が巫女装束の襟ぐりを掴み、力任せに引き裂こうとしたその時──。

 

「待て!」

 

鋭い声が響いた。

 

南條美和が静かに前に出た。抜群のプロポーション、凛とした姿勢で黒山と対峙する。

その瞳には恐れも躊躇もない。

 

「その子を離しなさい」

 

黒山の動きが止まった。沙霧を押し倒そうとしていた手が止まり、その視線が沙霧から美和へと移る。雨に濡れたモデルのような長身、知的で気高い美貌。

 

「お、お前は……」

 

「私が相手になるわ」

 

美和はゆっくりと小袖の紐に手をかけた。沙霧の瞳が驚愕に見開かれる。

 

「美和さん!だめ!」

 

「大丈夫よ、沙霧ちゃん」

 

美和は振り返り、優しく微笑んだ。

 

「私は大人だから、ちゃんと対処できるから」

 

美和は黒山に向き直った。

 

「それに、あなたも本当はこっちの方が嬉しいでしょう? 」

 

その挑発的な言葉に、黒山の喉がゴクリと鳴った。黒山の視線は完全に美和に釘付けになっていた。

 

「ひひ……こんな金髪ドブスと違って、あんたみたいな美人とやれるなら何の文句もないぜ」

 

黒山は沙霧を放り出すと、下卑た笑いを浮かべて美和に近づいた。獣のような欲望を滲ませながら。

 

 

【挿絵表示】

【挿絵表示】

【挿絵表示】

 

 

雨音と荒い息遣いだけが響く祠の中。

 

黒山剛志は獣だった。理性の光は瞳から消え失せ、ただ欲望のままに動く肉の塊と化していた。

 

「ひひっ、すげえ体だ……」

 

黒山の粗い手が、美和の滑らかな肌を這い回る。長い脚、引き締まった腰、形の良い胸。そのすべてを貪るように触れ、揉みしだく。

 

「やめて……!」

 

沙霧の悲痛な叫びが届かない。黒山は聞く耳を持たない。彼の関心は完全に目の前の獲物に向いていた。

 

「なんだこの細さはよ… いやいや、肝心なとこはいい肉ついてるじゃねえか」

 

美和の体はモデルのようにスレンダーだった。しかし黒山の手にかかると、その細さはかえって彼の嗜虐心を煽るようだった。無理やり開かれた脚の間に、黒山の巨体が割り込む。

 

「ひっ……!」

 

美和の顔が苦痛に歪む。しかし声を上げることはしなかった。ただ唇を噛み締め、耐えるのみ。

 

「おいおい、声出せよ。気持ちいいんだろ?」

 

黒山が腰を打ち付けるたび、美和の細い体は揺さぶられた。まるで嵐の中の小枝のように。しかしその瞳は決して怯えてはいなかった。ただ冷たく、黒山を見据えていた。

 

「くっ……ああっ……!」

 

思わず漏れる声は、快感ではない。ただの生理的な反応。しかし黒山はそれを快楽の証と受け取った。

 

「そうそう、もっと聞かせろよ。俺のでイキまくってるんだろ?」

 

下品な言葉が耳に届くたび、美和の胸に屈辱が突き刺さる。しかし彼女は沙霧の方を見なかった。守るべき少女に、こんな姿を見せたくはなかったから。

 

「おい、見ろよ。俺のモンが全部入ってるぜ」

 

黒山が結合部を指差す。美和は目を伏せた。自分の体が粗暴な男に使われている事実。その屈辱に、心が凍りつきそうになる。

 

「なんて狭いんだ……締め付けがすげえ……」

 

黒山が恍惚とした表情で呟く。美和の細い体は、黒山の巨躯を受け入れるにはあまりにも華奢だった。しかし黒山はそれを気にする様子もなく、ただ貪るように動き続けた。

 

「ああっ……くっ……」

 

美和の口から断続的な声が漏れる。それは決して快楽の声ではない。ただ耐え抜くための呼吸。

 

「ひひっ、俺ので開発されてくぜ……どんどん気持ちよくなってくるだろ?」

 

黒山の言葉に応えることなく、美和はただ天井を見つめた。冷たい石の天井。雨漏りが一筋伝っている。

 

(もう少し……あと少し……)

 

美和は心の中で呟いた。柳沢が駆けつけるまで時間を稼ぐ。それだけが今の彼女を支える唯一の柱だった。

 

「おい、名前言えよ」

 

不意に黒山が言った。

 

「俺の中出し受けてんだからよ、名前くらい教えろよ」

 

美和は答えなかった。ただ無表情で黒山を見つめるのみ。

 

「ちっ、つれない女だなあ」

 

黒山は舌打ちしたが、動きは止めなかった。むしろその冷淡な態度に興奮したのか、腰の動きが激しくなる。

 

「いいぜ、その顔。冷たい女が俺の下で喘ぐのが一番そそるんだよ」

 

美和の目が微かに揺れた。しかしそれは一瞬だった。すぐに冷徹な光を取り戻し、黒山を睨み据える。

 

「ああっ……!」

 

激しい突き上げに、美和の体が跳ねた。細い指が藁を掴み、白くなるほど力が込められる。

 

「くそっ……締め付けやがって……もうイキそうだ……」

 

黒山の動きが狂ったように速くなる。美和はただ耐えた。

獣のような男の欲望が収まるその時まで。

 

(沙霧ちゃん……は守る……)

 

心の中で祈り続ける。自分の身代わりになった意味を無駄にしないために。

 

黒山が低い唸り声を上げ、美和の中に放出した。

 

「あああっ……!」

 

美和の体がビクリと震えた。熱い液体が体内に注ぎ込まれる感覚に、屈辱と汚辱が胸を満たす。

 

「はあ……はあ……最高だったぜ」

 

黒山は満足げに息を吐きながら、美和の上から降りた。美和は動かなかった。ただ横たわったまま、冷たい天井を見つめ続けていた。

 

沙霧が駆け寄ろうとしたが、純也がそれを制した。

 

「まだだめだ……」

 

純也の声は苦しげだった。腹を押さえながらも、鋭い目で黒山を睨んでいた。

 

黒山は余裕たっぷりに立ち上がり、まだ震えている美和を見下ろした。

「いい体だったぜ。次は、四つん這いになって、尻を突き出せ!絶対に妊娠させてやる。」

 

黒山の言葉に、祠の中の空気が凍りついた。

 

「やめろ……!」

 

純也が叫んだが、腹の痛みに顔を歪めて動けない。沙霧は震えながらも立ち上がろうとしたが、足がすくんで力が入らない。

 

美和はゆっくりと身を起こした。モデルのような肢体が冷たい空気に晒され、細かな震えが走っている。しかしその目は、まだ諦めていなかった。

 

「早くしろよ」

 

黒山が苛立ったように怒鳴る。美和はゆっくりと四つん這いになった。藁の上に両手をつき、腰を突き出す姿勢。その白い肌に、祠の薄暗い光が陰影を落とす。

 

「ひひっ、いい格好だぜ」

 

黒山は荒々しく美和の腰を掴んだ。細すぎる腰は彼の大きな手にすっぽりと収まってしまう。そして何の前触れもなく、一気に突き入れた。

 

「ああっ……!」

 

美和の口から悲鳴が漏れた。先ほどとは比べ物にならない深さと激しさ。四つん這いの姿勢は、より深くまで侵入を許してしまう。

 

「これだよ、これ!さっきより奥まで入るぜ!」

 

黒山は興奮した声で叫びながら、鬼のような勢いで腰を打ち付け始めた。バチンバチンという肌のぶつかる音が祠内に響き渡る。

 

「あっ……ああっ……くっ……!」

 

美和の指が藁を掴みしめる。揺さぶられるたびに、その細い体は壊れてしまいそうだった。それでも彼女は耐え続けた。歯を食いしばり、必死に声を押し殺しながら。

 

「声出せよ!気持ちいいんだろ!?」

 

黒山が美和の髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。美和の顔には苦痛の色がありありと浮かんでいたが、それでも黒山を睨みつける目だけは決して屈していなかった。

 

「その目だ……その目がたまらねえんだよ!」

 

黒山はより一層激しく腰を振り始めた。まるで獣のような動き。理性も加減もない、ただ欲望のままの突き上げ。

 

「あっ……ああっ……!」

 

美和の声が次第に大きくなる。それは快感からではない。あまりの激しさに、生理的な反応が抑えられなくなっていたのだ。涙が目尻から零れ落ちる。

 

「泣いてやがる……ひひっ、泣き顔もそそるぜ」

 

黒山は美和の涙を指で拭いながら、さらに深く突き入れた。美和の体が大きく跳ねる。

 

「やめて……やめてください……!」

 

沙霧が泣き叫んだ。純也も歯ぎしりしながら立ち上がろうとするが、また倒れ込んでしまう。

 

「沙霧ちゃん……見ちゃだめ……」

 

美和が絞り出すような声で言った。その声は震えていたが、不思議なほど優しかった。

 

「もう……やめて……美和さんが……美和さんが壊れちゃう……!」

 

沙霧の涙は止まらなかった。自分のために、美和がこんな目に遭っている。その事実が胸を引き裂くように痛い。

 

「くっ……そろそろ……イきそうだ……」

 

黒山の動きが最高潮に達する。

鬼のようなピストン運動が、美和の華奢な体を容赦なく揺さぶる。

 

「出すぞ……全部中に出すからな……!」

 

「ああっ……!」

 

美和の背中が弓なりに反った。黒山が最後の一突きを深くまで届かせ、熱い奔流を解き放つ。美和の体内に、再び熱い液体が注ぎ込まれていく。

 

「はあ……はあ……」

 

黒山が荒い息を吐きながら美和から離れた。美和は力なく藁の上に崩れ落ちる。細い体はまだ小さく震えていた。

 

「最高だったぜ……」

 

黒山は満足げに笑いながら、倒れている純也を蹴り飛ばした。

 

「お前らも見てただろ。これが本当の儀式ってもんだ。地龍様もお喜びだぜ」

 

沙霧は震えながら美和に駆け寄った。美和の体は冷たくなっていて、ぐったりとしていたが、意識はまだあった。

 

「美和さん……美和さん……!」

 

「大丈夫……よ…」

 

美和はかすかに微笑んだ。その顔は疲れ切っていたが、不思議な安らかさがあった。

 

「沙霧ちゃんが……無事で……よかった……」

 

「美和さん……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

沙霧の涙が美和の頬に落ちる。美和はゆっくりと手を伸ばし、沙霧の涙を拭った。

 

「泣かないで……私が……自分で選んだことだから……」

 

その言葉に、沙霧はさらに声を上げて泣いた。

 

黒山はそんな二人を見下ろしながら、忌々しげに舌打ちした。

「ちっ、いつまでも泣いてんじゃねえよ。次は沙霧お前だ!大人ちんぽの味を教えてやるぜ」

黒山が獣のような形相で沙霧に飛びかかった。沙霧は恐怖に凍りつき、声すら出ない。美和は必死に手を伸ばすが、体が動かない。純也は血を吐きながら立ち上がろうとするが、傷ついた体は言うことを聞かない。

 

「逃げろ……沙霧……!」

 

純也の絶叫が響いた瞬間──。

 

「待てぇっ!!」

 

雷鳴のような怒号が祠内に轟いた。

 

バンッ!と扉が内側から吹き飛ばされ、雨煙の中から一人の男が現れた。銀縁の眼鏡、背広の裾を翻し、全身から怒りのオーラを滲ませる男。

 

柳沢昂だった。

 

「せ、先生……!」

 

沙霧の目が見開かれる。

 

黒山は一瞬動きを止めたが、すぐに下卑た笑みを浮かべた。

 

「なんだ、お前かよ。学者風情が何しに来やがった?」

 

「沙霧くんから離れろ」

 

柳沢の声は静かだった。しかし、その静けさは嵐の前の静けさだった。眼鏡の奥の瞳が冷たく燃えている。

 

「うるせえ!この儀式は俺の権利だ!あのガキの代わりに俺が地龍の相手をするんだよ!」

 

黒山は沙霧を掴もうと手を伸ばした。

 

その瞬間、柳沢が動いた。

 

ドンッ!

 

鋭い踏み込みとともに、柳沢の拳が黒山の顔面を捉えた。巨体がぐらりと傾く。黒山は驚愕の表情を浮かべた。温厚な学者だと思っていた男からの一撃。

 

「てめぇ……!」

 

黒山が反撃しようと拳を振り上げる。しかし柳沢はそれを最小限の動きでかわすと、黒山の腕を取り、体勢を崩した。

 

「なっ……!」

 

柳沢は黒山の重心を完全に崩すと、その巨体を軽々と投げ飛ばした。ドスンッ!という重い音とともに、黒山の体が石の床に叩きつけられる。

 

「がはっ……!」

 

黒山は苦悶の声を上げた。柳沢は息一つ乱さずに立ち尽くしている。その姿は、温和な民俗学者のものではなかった。

 

「な、なんだこの野郎……ただの学者じゃねえのか……」

 

黒山が呻く。柳沢は無言で美和の方へ歩み寄った。

 

美和はぐったりと藁の上に横たわっていた。衣服は乱れ、肌には無理やり触れられた痕が残っている。涙の跡が頬に筋を作っていた。

 

柳沢の眉がピクリと動いた。

 

「……南條」

 

「柳沢……先生……」

 

美和のかすれた声。柳沢はそっと自分の上着を美和にかけた。その手は震えていた。怒りで。

 

柳沢はゆっくりと立ち上がり、黒山を振り返った。その目には、もはや理性の光はない。ただ純粋な怒りだけが燃えていた。

 

「お前は……美和に何をした」

 

柳沢の声は低く、震えていた。それは怒りの震えだった。

 

「ひひっ、俺の権利だろ?地龍の儀式なんだからよ──」

 

ドガッ!!

 

柳沢の鉄拳が黒山の顔面を捉えた。

先ほどとは比べ物にならない重い一撃。黒山の巨体が宙に浮き、壁に叩きつけられた。

 

「がはっ……!」

 

「美和に何をしたと聞いている!」

 

柳沢は間髪入れずに追撃した。腹に膝を叩き込み、顔面を肘で打つ。容赦のない連撃。温厚な学者の仮面は完全に剥がれ落ち、ただ怒りの化身と化していた。

 

「がっ……ぐっ……」

 

黒山は反撃する間もなく殴られ続けた。柳沢の拳は正確で重く、一撃一撃に明確な意志が込められていた。

 

「お前は……儀式を……穢した……!」

 

ドガッ!

 

「美和を……傷つけた……!」

 

ガッ!

 

「沙霧くんを……脅かした……!」

 

メキッ!

 

柳沢の拳が黒山の鼻を砕いた。鮮血が飛び散る。黒山は壁にへばりつきながら、恐怖に顔を歪めた。

 

「ひっ……助け……」

 

「助けだと?お前が美和にしたことを忘れたか?」

 

柳沢は冷酷に言い放った。

そして最後の一撃を加えようと拳を振り上げたとき──。

 

「先生!やめて!」

 

沙霧の声が響いた。柳沢はハッと我に返り、振り上げた拳を止めた。目の前の黒山は顔面を血まみれにして、恐怖に目を見開いていた。

 

「もう……十分です……これ以上したら……先生が悪者になってしまいます……」

 

沙霧の言葉に、柳沢はようやく冷静さを取り戻した。眼鏡の奥の瞳に、理性の光が戻る。深呼吸をして拳を下ろすと、血まみれの黒山を見下ろした。

 

「立ち上がれ。二度とこの村の地に戻るな。」

 

柳沢の声音には本物の殺気が籠もっていた。黒山は這うように起き上がり、よろめきながら祠の外へ逃げ出した。雨の中へ消えていく背中に、柳沢は最後の警告を浴びせた。

 

「忘れるな。地龍は常に見ている」

 

 

翌日、村人たちが祠に向かう途中の沢で、黒山剛志の遺体が発見された。

全身が岩に潰され、原型を留めていない凄惨な状態だったという。どうやら川に転落し、昨夜の豪雨による土砂崩れに巻き込まれたらしい。奇しくも地龍の怒りを買ったかのような結末だった。

 

村長をはじめとする年長者たちは「儀式を穢した不届き者」として黒山を無縁仏として扱い、簡素な葬儀を済ませた。異論を唱える者は誰一人としていなかった。長年続いてきた古式ゆかしい地龍信仰を守ってきた村人たちにとっては当然の措置だった。

 

「柳沢先生と南條美和さんのご尽力によって、今年も無事に地龍さまが眠りにつかれた。みなさまご協力ありがとうございました」

「先生方がいらっしゃらなければ儀式は中断を強いられていました」

村人たちの間に沸き上がる賛辞の言葉。

沙霧は村長宅で行われた慰労会に出席しながら、複雑な思いで耳を傾けていた。

祠での出来事を知るものはごく少数。しかし「黒山が儀式を妨害しようとして罰を受けた」程度の話は噂として広まっており、村民の中には「やっぱり悪いことをすれば報いがある」と信じるものも少なくない。

柳沢は民俗学研究家として村における事件を綿密に記録し「地龍信仰と地域社会構造の変遷に関する考察」と題された論文を執筆していた。

姉川美奈子がパソコンに向かう柳沢に紅茶を淹れて手渡す。

「先生。今回の学会発表も大成功間違いなしですね。」

柳沢は眼鏡の奥の瞳を伏せて小さく頷いた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。