日本の村に眠る淫習を訪ねて、柳沢研究室レポート 今に残る日本の村のエロ風習 ⭐︎各話読み切り 新作はイラスト付き 作:みなぽん
古書店の奥で
山あいのこの村には古い因習があった。
夏の宵に寺の本堂へ集められた年頃の少年たちは、「艶女(えんじょ)」と呼ばれる年上の女性たちから古い艶本の読み聞かせを受ける。性の手ほどきを口伝で学ぶ寺の催し。それが「艶本読み聞かせ」だ。
僕がその暗い本堂に足を踏み入れたのは十三歳の夏だった。
蝋燭の揺らめきが壁に描かれた極彩色の春画を浮き上がらせる。畳の上に座らされた僕たちは皆緊張と好奇心に目を伏せていた。
そこへ現れたのは白い単衣を纏った三人の女たちだった。
その中に彼女がいた。
黒髪を後ろで緩く束ね細縁の眼鏡の奥にある瞳は眠たげでいて昏い情欲を孕んでいた。古瀬和子。村の外れに暮らす古書店の娘だと誰かが囁いた。
彼女が口を開いた瞬間僕の世界は変わった。
『——男は女の白き首筋に唇を這わせふくよかなる胸の谷間へと指を滑らす。女は喘ぎて男を求め……』
古文調の艶本を朗読する彼女の声は低く甘く僕の耳孔を侵食した。その声は湿った舌のように僕の中に入り込みまだ育ちきらない性を強引に目覚めさせた。
彼女の唇が動くたびに僕はその唇が自分に重なる幻覚を見た。彼女の視線が一瞬だけ僕を捉えた気がした。その瞳の奥に潜む底なしの沼に引きずり込まれそうになった。
あの夜以来僕の中から彼女の声が消えることはなかった。
三年が過ぎてもなお僕はあの声を求めていた。
そして僕は古書店「文海堂」を見つけた。あの艶女がいた店。彼女は今もそこにいた。
三十六歳になってもなおあの夜と変わらぬ佇まいでカウンターに座る彼女。僕は本を買うという名目で通い詰めた。佐藤春夫だの泉鏡花だのそんなものはどうでもよかった。僕が求めていたのは彼女自身。あの夜の続きだ。
梅雨の湿気が古書の匂いを濃くする午後だった。
「また来たのね」
古瀬さんは古い台帳から目を上げた。黒髪を後ろで緩く束ね細縁の眼鏡の奥にある瞳はいつも眠たげだ。白いブラウスの袖を肘まで捲り上げた腕は華奢でありながらどこか倦怠を孕んでいる。あの日と同じだ。
「この間探してた佐藤春夫入荷しました」
そう言って彼女が書棚の奥へ歩く背中を追う。狭い書店の奥へ奥へと導かれて僕はいつも少し鼓動を早くさせていた。あの日彼女が導いた寺の奥底へと歩くように。
彼女との距離は本一冊分。
それが縮まったのは雨の降る木曜日だった。
「雨宿りしていく?」
閉店間際の店内に僕一人。彼女は鍵をかけカウンターの奥にある六畳ほどの居住スペースへ僕を招いた。
「お茶淹れるわね」
炊飯器と小さな流し台。積み上げられた文庫本。生活の匂い。彼女の私的な領域に足を踏み入れたことだけで僕の喉は乾いた。あの日とは違う生々しい彼女の匂い。
「お茶、淹れるわね」
炊飯器と小さな流し台。積み上げられた文庫本。生活の匂い。彼女の私的な領域に足を踏み入れたことだけで、僕の喉は乾いた。
湯飲みを受け取る時、指先が触れた。
「……冷たい手ね」
彼女が僕の手を包んだ。大人の女性の体温。僕は呼吸を忘れた。
「緊張してる」
「……してないです」
「嘘。心臓の音、聞こえてるわよ」
彼女は僕の手を引いて、古い畳の上に座らせた。正面から。彼女の膝が僕の膝に触れる。
「ねえ。私のこと、どう思ってる?」
答えられない。思っていることなど、自分でも形にできなかった。ただ毎日この店に通い、彼女の視線を探し、彼女の声を聞くために本を買っていた。
「……好き、です」
やっと絞り出した言葉に、彼女は静かに微笑んだ。
「私もよ」
彼女の手が僕の頬に添えられる。眼鏡を外した素顔は、いつもよりずっと近くに見えた。
唇が重なった。
大人のキスは、僕が想像していたものと違っていた。優しさばかりじゃない。吸い尽くされるような深さ。彼女の舌が僕の唇を割り、歯列をなぞり、逃げる僕の舌を追いかける。
「ん……っ」
息ができない。彼女の指が僕の髪に埋まり、逃げられないように抱き寄せる。僕の初めてのキスは、彼女に奪われる形だった。
「ふう……キスも初めて?」
頷く僕を見て、彼女は楽しそうに目を細めた。
「全部、初めてなのね」
彼女の手が僕のシャツの裾から入り込む。温かい掌が腹を這い上がり、胸の小さな突起をなぞる。
「っ……」
「感じる?」
「わかんない……」
「わからないのは初めてだから。これから教えるわ」
彼女は僕のシャツを脱がせた。自分のブラウスのボタンも外していく。現れた白い肌と下着のレース。僕は目のやり場に困り、それでも視線を外せなかった。
「見てもいいのよ。私が見てほしいから見せてるんだから」
ブラウスが床に落ちる。彼女は僕の手を取って自分の胸に導いた。
柔らかい。温かい。形を確かめるように僕の手が動くと、彼女の喉から小さく息が漏れた。
「そう。優しく触って」
彼女の背中に回した手は震えていた。僕の拙い愛撫を彼女は受け入れ、時折やり方を教える。もっと強く。もっとゆっくり。指先で円を描くように。
僕が生徒で彼女が教師。この関係性は最初から決まっていた。
「次は私が」
彼女は僕のズボンに手をかけた。僕は反射的に彼女の手を掴む。
「恥ずかしい?」
「……少し」
「私も初めてあなたに触る時は緊張したわ。だから同じね」
彼女は僕の手を解き、ゆっくりと下着ごとズボンを下ろした。
「あ……」
僕のものはもう硬く立ち上がっていた。彼女はそれを見つめ、愛おしそうに手を添える。
「私でこうなったの?」
「……古瀬さんのせいです」
「ふふ、嬉しいわ」
彼女の掌が僕を包む。温かい手の中で僕は息を呑んだ。彼女の手が上下する。ただそれだけのことに、僕の腰は揺れそうになった。
「まだ早いわ。我慢して」
彼女は手を止め、僕を座らせたまま自分も下着を脱いだ。
僕の目の前に彼女の全てがあった。
「触って」
僕の手が彼女の内腿を滑る。湿った熱。僕の指がその場所に触れると、彼女は小さく喘いだ。
「そこ……そうよ」
彼女の声が甘く変わる。僕の指が彼女の中に入る。狭くて熱い。彼女の内部が僕の指を締め付ける。
「んっ……いいわ」
彼女が僕の指の動きに合わせて腰を揺らす。僕の指が彼女を犯しているのか、彼女が僕の指を犯しているのかわからなかった。
「もう……欲しいわ」
彼女は僕を仰向けに倒し、またがった。僕のものを彼女の入り口にあてがう。
「入れるわね」
彼女がゆっくりと腰を沈める。
「あ……っ」
熱。圧力。締め付けられる感覚。僕は初めて知る感覚に声も出なかった。彼女のなかは狭くて熱くて、僕の全てを吸い込んでいくようだった。
「いい……すごくいいわ」
彼女が動き始める。ゆっくりと前後に腰を揺らす。僕はただ彼女の動きに身を任せていた。彼女の胸が揺れる。汗で光る鎖骨。僕の手を取って自分の胸に押し当てる。
「感じてる?」
「……んっ、すごく」
「私も。あなたの中にいるの感じるわ」
彼女の動きが速くなる。畳が軋む音。雨の音。彼女の喘ぎ声。僕の息。全てが混ざり合う。
「古瀬さん……っ」
「和子よ。呼んで」
「和子さん……っ」
「ただの和子」
「和子……っ」
「んっ……そうよ。もっと」
彼女が僕の手を強く握る。僕の全てが彼女に向かっていく。僕の初めては彼女に向かって放たれ、彼女のなかで弾けた。
「あっ……」
僕の声に彼女の喘ぎが重なる。彼女が僕の上に倒れ込む。心臓の音が重なり合う。
「……好きよ」
彼女が僕の耳元で囁く。
梅雨の湿気はまだ窓の外にあった。畳の匂いと古書の匂いと彼女の匂いが混ざり合う六畳の空間で、僕は大人の女性に食べられたのだと知った。
翌日から僕は彼女を「和子さん」と呼び、彼女は僕を名前で呼ぶようになった。
# 舌の記憶
二度目は、晴れた火曜日だった。
「今日、早く閉めるわ」
古瀬さまと呼ぼうとして、僕は口をつぐんだ。昨夜の記憶が蘇る。畳の上で彼女が僕を飲み込んだ感触。あれから僕の中で彼女は「和子さん」になった。
「うん」
短く答えて本を棚に戻す。手が震えた。昨日の僕の手は彼女のどこを触ったのだろう。記憶と指先の感覚が追いつかない。
シャッターが下りる音。鍵のかかる音。日常が遮断され非日常が始まる合図。
「おいで」
カウンターの奥。六畳の空間。昨日と同じ場所なのに空気は違っていた。昨日は彼女が僕を食べた。今日は——。
彼女は座布団の上に座り、僕を手招いた。僕は彼女の前に膝をつく。目線が違う。僕が見上げる形になる。
「昨日は私が全部したわね」
「……うん」
「今日はあなたにしてほしいことがある」
彼女がスカートの裾に手をかけた。ゆっくりとたくし上げる。白い腿。その付け根。
「ここにキスして」
僕の喉が鳴った。
彼女が下着を脱ぐ。昨日は暗がりの中で触れただけのその場所が、白熱灯の下に晒される。
「見て」
薄い陰毛の下に秘められた襞。僕はただ見つめることしかできなかった。
「触って」
震える指先で触れる。湿っている。昨日指を入れた時よりももっと滑りがある。
「んっ……そうよ。優しく」
僕の指が襞に沿って動く。彼女の呼吸が変わる。僕の指は昨日学んだばかりの場所を覚えていた。
「今度は口で」
彼女が僕の頭に手を添える。導かれるままに顔を寄せる。近づくにつれて匂いが濃くなる。彼女の匂い。女性の匂い。
唇が触れた。
「っ……」
彼女の腿が僕の頬を挟む。柔らかい肉の感触。僕の唇が彼女の襞に触れ、その熱を直接感じる。
「舌を出して」
言われるままに舌を伸ばす。舐める。塩気と甘さ。僕の舌が彼女の襞を割り開く。
「あっ……そこ……そうよ」
彼女の手が僕の髪を掴む。僕は舌を動かし続けた。上下に。円を描くように。彼女の反応を見ながら。
「んっ……あっ……いいわ」
彼女の声が高くなる。僕は必死に舌を動かした。彼女の pleasure が僕の舌から伝わってくるようだった。
「上のところ……ほら、少し硬いところ」
舌先で探る。小さな突起。彼女が息を呑む。
「そこ……舐めて」
舌先で突起を転がす。彼女の腰が揺れる。
「あっ……んっ……そうっ……」
彼女の手が僕の頭を押し付ける。逃げられない。僕は彼女の中に顔を埋められ息ができなかった。
「もっと……強く」
言われるままに吸い上げる。唇で包み舌で刺激する。
「ああっ……!」
彼女の腿が震える。僕の耳元で彼女の息が荒くなる。僕の舌は休むことなく動き続けた。
「くるっ……もうっ……!」
彼女の内部が僕の舌を締め付けるように脈打つ。彼女の腿が僕の頭を強く挟み込む。
「あっああっ……!」
彼女が仰け反る。僕の舌はまだ彼女の中にあった。彼女の全ての震えが僕の舌に伝わる。
波が引いていくように彼女の体から力が抜ける。僕はゆっくりと顔を上げた。彼女の愛液で僕の唇と顎は濡れていた。
「……ごめん」
「何が?」
「下手だったかも」
彼女は笑って僕の頬に手を添えた。
「すごく気持ちよかったわ」
彼女が僕の唇を親指で拭う。
「あなたの舌、覚えたわね」
「……和子さんのことだから」
「またして」
僕は頷いて再び顔を寄せた。二度目は一度目よりも深く。彼女の味を僕の舌が記憶していく。
古書の匂いが染み込んだ畳の上で、僕は彼女を舐め尽くした。僕の舌が彼女をイかせたという事実が僕の中で熱を持つ。
二度目の波が彼女を襲う時、僕はもう迷わなかった。
二度目の絶頂の余韻に身を委ねていた和子さんの体が、僕の体重を受け止めた。
仰向けになった彼女の胸が荒い呼吸で上下する。汗で張り付いた黒髪が白い首筋に絡みつき、その鎖骨の窪みに僕は唇を押し当てた。
「んっ……」
彼女の喉が鳴る。
僕は顔を上げ、潤んだ瞳で見上げる和子さんを見下ろした。
いつもは僕を見守るだけだったその瞳が、今は快楽に濡れて焦点を揺らめている。
僕の中に何かが目覚めた。
昨日までは教えられるがままだった受動的な自分。しかし今、彼女の味を知った舌は、もっと深く彼女を味わいたいと渇望している。
「和子さん……」
呼びかけると同時に、僕は彼女の両脚を大きく割り開いた。
「あ……」
驚きに見開かれる彼女の目。僕は自分の昂ぶりを彼女の濡れた入り口に押し当てる。
「入れるよ」
それは懇願ではなく宣言だった。
腰を一気に沈める。
「ああっ……!」
きつい抵抗もなく、僕は彼女の最奥まで根元までを呑み込んだ。昨日の記憶を遙かに超える熱と圧迫感。彼女の膣壁が僕を絞め上げるように脈打つ。
「んっ……はぁ……」
僕は息を吐き出し、そのまま腰を引いた。そして再び奥まで突き上げる。
「あっ!……あっ……!」
一度目はゆっくりと。彼女の内部の襞を一本一本数え上げるように。しかし二度三度と腰を振るうちに、僕の理性は本能の奔流に飲み込まれていった。
彼女の内部が僕を求めて蠢く。その甘い締め付けに応えるように、僕の腰は加速度を増していった。
パンッ!パンッ!パンッ!
古びた畳の軋みと、肉と肉がぶつかる水音が六畳一室に響き渡る。
「あっ!あっ!あっ!……はぁっ……やっ……!」
和子さんの声が悲鳴のような喘ぎに変わる。
揺れる彼女の白い胸。その頂に咲く桜色の乳首が、僕の目に飛び込んできた。
僕は腰の動きを止めずに指を伸ばし、その硬く尖った実を挟み込んだ。
「っ……!」
彼女の体がビクリと跳ねる。
僕の指は容赦なくその乳首を捏ね上げた。つまんで引っ張り、指の腹で転がす。上下に激しく揺れる彼女の胸から目を離さずに。
「いっ……あっ……そこっ……だめっ……!」
「だめじゃないよね?和子さん」
僕は腰を打ち付けながら問いかけた。激しいピストンのリズムに合わせて乳首を弄ぶ。
「あっ!ああっ!……んっ……いいっ……すごいっ……!」
彼女の長い脚が僕の腰に絡みつき、僕をさらに奥へと引き寄せる。
深い。熱い。頭がおかしくなりそうなほどの快感。
僕は獣のように腰を振り続けた。ただひたすらに彼女の奥を目指して。彼女の全てを僕のものにするために。
「あっ!あっ!あっ!いっ……いくっ……!」
和子さんの爪が僕の背中に食い込む。痛みがさらに僕を煽った。
僕の腰はもはや止まらなかった。激しく打ち付け、深く抉り、彼女の最奥を何度も突き上げる。
「和子さんっ……!和子さんっ……!」
僕は彼女の名前を呼び続けた。
「あああっ……!いくっ……いくうぅっ……!」
彼女の背中が大きく弓なりに反り上がる。同時に僕のものを強烈に締め上げる波が何度も襲ってきた。
「くっ……!」
その波に逆らうことなどできず、僕は彼女の最奥に向かって全てを放った。
二人の体が重なり合ったまま激しく震える。古書店の静寂は完全に破られ、ただ二人の荒い呼吸だけが残された。
僕は彼女の胸に顔を埋めたままただ息を整えていた。
汗ばんだ肌の感触。彼女の心臓の鼓動が耳に届く。
僕はそっと顔を上げると、彼女の濡れた瞳と出会った。
「……上手になったわね」
掠れた声が囁く。
「和子さんが教えてくれたからだよ」
僕は答えて彼女の乳首に優しく唇を押し当てた。敏感になりすぎているのか彼女の体が僅かに震えた。
古書の匂いに包まれた六畳一室で僕は確かに「男」になっていた。