追記:読者様のご指摘により誤字を修正しました。
一部の文章を改変しました。
タイトルを編集しました。
目を開くと、男は見知らぬ場所に立っていた。
「……なんなんだここは……」
男の太もも近くまで伸びた雑草に一切の人工物がない森の中。枝葉の間から射し込む日光に眩しさを感じ、手をかざして光から逃れたところで全てを思い出した。
「確か……ああ、そうだ!」
彼は桜場義和。二十二歳を迎えたばかりの社会人だ。
彼を一言で言い表すならば、生まれた時代を間違えた男。その一言に尽きる。
幼少の頃より武道家の祖父より厳しい鍛練を施され、立派な大和男子になるようにと教育を受ける。中学、高校の時には剣道、弓道、柔道、空手などといった武道の大会で様々な功績を残すようになった。
趣味趣向も祖父の血筋が強いせいか、時代劇や盆栽といった年寄り染みた好みだった。そんな彼を当時のマスコミは『リアルサムライ』と特集したりとそこそこ話題にもなった。
しかし、彼の腕前を時代は求めていなかった。昔と違って現代社会は利益や合理性を求められる時代だ。誇りやら仁義やらそういったものは時代錯誤な代物と化してしまった。
履歴書に書かれた学歴や資格などで人間性が判断され、あとは決められた仕事を淡々とこなしていくだけの生活。平穏そのものな日常だが、義和には耐えきれないほどの退屈なものだった。
どうせ生まれるなら、己の腕っぷしが物をいう戦国時代のような世界に生まれてみたかった。そんな願いを胸に、その日も会社勤めに励むように出勤する。
そんな彼の心境を察するかのように、声がした。
『──その願い、叶えてやろう』
誰かに声をかけられた。誰だ、と振り向いたその直後、雷が落ちる。青天の霹靂というやつだろうか。その雷は義和目掛けて落ちてきた。
雷光が走り、辺りに雷鳴が響いた時には彼の姿は消えていた──。
そして目が覚めて、現状に至る。
「一体どうなってんだが……携帯も繋がらないし」
現在地を確認しようにもスマホは圏外。これでは助けも呼べない。財布の中身が無事だったのが唯一の救いか。
「何の音だ……?」
遠くのほうで話し声が聞こえた。
誰かがこんな森の中にいるのかと期待し、音のする方向へ歩き出す。やや丘状になっている坂を登りながら道すらない森を歩く。枯れ木や雑草に脚をとられ直進すら困難な道のりだが、進むにつれて例の音が大きくなっていく。
やはり誰かがいる。僅かな期待を抱いて丘を登りきった義和の眼前に広がっていたのは思いもよらぬ光景だった。
「おいおい! 何だよこりゃあ……!」
馬蹄と発砲によって生まれた煙が充満する平地で甲冑姿の足軽たちが雄叫びを上げながら殺しあっていた。義和から一メートルも離れていないところでに横たわる事切れたであろう男達や血塗れた槍や刀。
最近見た大河ドラマの戦場シーンを遥かに越える生々しさがそこにあった。
「タイムスリップ……ってやつか? だとしたらここはどこだ──」
「むっ! 誰じゃ!」
「何だぎゃ、あの可笑しな格好は?」
「南蛮人だぎゃ?」
義和の存在に気づいた数人の足軽が刃先を向ける。彼らの敵意を察した義和も臨戦態勢をとる。それは祖父から教わった柔道の構え。
「覚悟ぉ! みゃあああ、うぐぅ!?」
「だぎゃあああ……どわぁ!?」
向かってきた足軽に一切の恐怖心や戸惑いもなく、一本投げで飛ばす。何時、如何なる場所でも心を乱すことなかれ。それは義和の座右の銘であったりする。
ちなみにこの時代には柔道はまだない。彼らからすれば非武装の男に足軽が意図も簡単に投げ飛ばされたのだ。ある意味、不可解な光景だ。
「強いだぎゃこの坊主!」
「名のある武将みゃあ! 討ち取って褒美を貰うみゃあ!」
「勘違いだ!」
数が増えていく足軽。鉄砲や弓兵がいないだけましではあるが、多勢に無勢とだけあって義和の顔にも焦りが見え始める。
その時だ。足軽の喉に矢が突き刺さる。突然のことに周囲の足軽らに動揺が走るが、義和はこのチャンスを逃さなかった。
近くの林に手を振る足軽がいた。彼が敵ではないことを祈り、林目掛けて走り出した。
「おみゃあ、見事なもんだぎゃあ! 尾張は弱兵ばかりと聞いていたんただぎゃ、おみゃあみたいな奴もおるんじゃな」
「俺は尾張の足軽じゃないよ。なんていうか……まあ、農民ってところか」
追手から逃げ切れたところで、木の根本に座り込んで状況を確認し始めた。
この足軽の話を聞く限り、先ほどの戦は織田と今川の戦いだったそうだ。ならここは桶狭間なのか?と思いきや、まったく知らない地名を言われたため、どうやら桶狭間の戦い前の小競り合いのようだ。
そしてこの小柄な男は今川の足軽なのだが出世を見込めなさそうなので織田勢に寝返ろうと考えていたところ、俺を織田の忍びと勘違いし、恩を売ろうとして助けたそうだ。
「うーむ、あれほどの身のこなしなら忍びと思ってたんだぎゃ、的外れじゃったか」
「忍びが戦場のど真ん中であんな目立つ振舞いなんてするかね」
「それもそうか。なら坊主、おみゃあこれからどうするんだぎゃ? お主さえよかったら、一緒に織田について一国一城の殿様になってみるのはどうぎゃ?」
そう言われ、いくばく考える。
誰が何のためこの時代に自分をタイムスリップさせたのかは分からないが、自分自身の力を試せるこのチャンスを不意にしたくなかった。
せっかく戦国時代に来たんだ。天下をとってやる! 義和の心はそんな少年のような探求心でみなぎっていた。
「……よし。俺も織田方につく。男なら一国一城の主にはなってみたいもんさ」
「話がわかる坊主だみゃあ! なら早速織田の当主様に仕えて貰うため頭を下げに、ふぐっ……!?」
「おっさん?」
立ち上がった途端小さなうめき声と共に男は突然うずくまる。
鎧の胸当てにぽっかり穴が空き、そこからおびただしい量の血が溢れていた。
「運がないみゃあ……。まさか流れ弾にあたるだなんて……」
「おい、しっかりしろ! 待ってろ、今助けてやる!」
胸当ての紐を短刀で切っては患部を抑え込み、圧迫止血を試みたが、出血が治まる気配がない。
「無駄だみゃあ……。自分の死期は自分がよく知ってるだぎゃ……」
「ふざけたことぬかしてんじゃねぇ! 医者は、医者はこの近くにいないのか!」
「坊主……わしの代わりに一国の大名になってくれ……。わしの…相方をやろう……奴ならお主の力になってくれるぎゃ……」
「縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇぞ!」
呼吸が小さくなり、顔色はどんどん青ざめていく。素人目から見てもあきらかに末期と呼べる状態だった。
ならばせめて名前だけでも──。
「おっさん、名前教えてくれ! 命の恩人の名前も知らずに別れるなんて寂しいからな!」
「うれしいみゃあ……。わしの名は、木下、藤吉郎……」
「木下藤吉郎……、豊臣秀吉……!?」
どこにでもいそうなこの足軽は後の天下人、豊臣秀吉の若き頃の姿だったことに開いた口が塞がらなくなる。
「さらばじゃ……元気でな………」
「……!」
その言葉を最期に藤吉郎は事切れる。
天下を統一することなく、豊臣秀吉は林の中でひっそりと死んでしまったのだ。
三十分くらいかけて藤吉郎の墓は完成した。少し掘り起こした穴に遺体を入れ、砂をかけて石を乗せて作っただけの簡素な墓である。
本当なら立派な墓を作ってやりたかったが、戦場の真ん中で豪華な墓を作るほどの余裕はなかった。
「藤吉郎さんよ。あんたの代わりに大名になってやる。あの世で見てくれよな」
気持ちを切り替え、これから織田家に仕官するためにもまずは当主である信長に許しを貰わなければならない。そのためにもまずは織田家の本陣まで向かうことにした。
遺体から抜き取った刀をベルトに差し、人目のつかない林の中をひたすら突き進むと、やや広いところまで出た。そこから織田の家紋、五つ木瓜紋の陣幕が見える。あそこが織田軍の本陣のようだ。しかし近衛兵は出払っているのか、警備はスカスカである。
と、そこへ今川兵が急襲してきた。激しい乱戦により陣幕が破られ、軍旗が倒される。聞こえてくるのは刃同士が激しくぶつかる音。
間違いない。あそこにいるのはかの織田信長である。もしここで信長が討たれれば、日本の歴史は滅茶苦茶になってしまう!
ここで織田信長を助け恩を売る。同時に歴史の崩壊も防げる。一石二鳥とはこのこと。というか、自分がタイムスリップしている時点で正史もクソもない話ではあるのだが。
覚悟を決め、音を立てずに足軽達の後ろへ忍び寄り、一番近い足軽目掛けて抜刀した。
「ぎゃあ!」
武に生きる者ならば誰もが見事と評したくなるような太刀捌き。十数年の鍛練の賜物ともいえるその斬撃は足軽を一刀の元に葬った。
立て続けに二人、三人目と刀の勢いを殺すことなく確実に斬る。鎧で覆われていない喉や太股を中心に深い傷を与えていく。
数分もしないうちにその場にいた足軽らは重体と化してしまった。
「ふぅ。信長公、大丈夫でし……あれ?」
無事を確認するためにも信長と思わしき人物を見て義和は硬直した。
そこにいたのは戦国の覇王と呼ばれた織田信長とは程遠い姿をした美少女であった。
「……どちら様でしょうか?」
「はあ!? あんた私が誰だかも知らずに助けたの? なんて無鉄砲なのかしら……」
ありえないわ、といった呆れ顔を見せつけたところで少女は怒り顔に変えて怒鳴る。
「私は信奈! 織田家当主、織田信奈よ! いい? 間違ったらただじゃおかないわよ!」
「織田、信奈……?」
信長ではなく、信奈と彼女は言った。突拍子もない出来事に義和の顔はポカーンとした表情だが、信奈は義和の格好に興味を抱いたのか、ジロジロと観察し始めた。
「……あんた何者? 忍び……じゃないわよね」
なんて答えるべきか。混乱していて適切な答えが分からない。とりあえず出た言葉は。
「旅の途中に合戦に出会しただけの素浪人です。」
そんな出任せを少女は当然のように半信半疑な態度で怪しがる。
「素浪人、には見えない服装ね」
「これは南蛮製のものでして……」
その時、馬蹄の音が鳴る。
勇ましさと可憐さを兼ね備えたポニーテールの少女が駆けつけてきた。再び義和の頭は混乱した。
「ご主君! ご無事でしたか! ……何奴!?」
「待ちなさい六! そいつは味方よ。私を助けてくれたの。彼がいなかったら、私は討ち取られていたかもしれないわ」
「な、なんと、そうでしたか。そ、そうだ! 此度の戦は我が軍の勝利です。今川軍は退却を始めました」
「デアルカ。なら私達も退却しましょう。万千代に使いを。それと負傷者を運ぶように指示させときなさい!」
「御意!」
(一体これは……何がどうなってんだ?)
この時代が戦国時代なのは間違いないだろう。だが、彼が知っている歴史とは大きく外れた
(まさかそんなことありえるのか?)
「考え事しているところ悪いけど、あんた名前は?」
「……桜場義和」
「そう。助けてもらったお礼に、あんたには何か褒美を与えないといけないわね。なにがいいかしら?」
「それならば、是非とも俺を織田家に仕官させていただきたい」
仕官を申し出た途端、信奈は目を丸くする。そしてすぐに笑った。面白いものを見つけたような年相応かつ可愛らしい笑みだ。
「仕官ねぇ……ちょうど男手が足りなかったところだし、結構使えそうじゃない。うん、そうね。あんた、今日から足軽大将やりなさい」
「信奈様!?」
「黙りなさい六。今回の戦はあまりにも被害が大きすぎるわ。次の戦までに人員を確保しないと、勝てる戦も勝てないわ。それに数人の足軽を忽ち斬り伏せるその腕……ただの足軽で収まるような人材とは思えない。それとも私の采配が不満なのかしら?」
「……承知」
信奈の凄みに圧され、渋々引き下がる六。
「さて、カズ。積もる話は尾張に帰ってからにしましょう。馬をつれてきてちょうだい」
「カズ? あ、義和のカズってことか。えっと馬は……」
こうして桜場義和は織田家の仲間入りを果たした。
この男が歴史に介入した時、これからどうなるのかが見物である。
簡単なキャラ紹介
・桜場義和
現代のサムライ、武道界の神童という異名を持つ。二十一歳。祖父の教育方針の原因か『欲しいものは力で勝ち取る』『男なら強欲であれ、野心家であれ』というジャイアニズムに目覚めてしまった。そのせいで退屈な生活に嫌気がさしていた。絶倫巨根という18禁作品主人公の伝統も受け継いでいる
・桜場甲士朗
義和の祖父。武神と呼ばれ、あらゆる格闘技や武道に精通し、七十を越えていながらその肉体は老いることを知らない最強の男。実の孫だからこそ、強い男に育ってほしいという願いを込めて義和を鍛え上げた。愛人が数人いるらしく、義和曰く『下手したら隠し子もいそう』とのこと。けど一番愛しているのは妻(義和の祖母)。本編には登場せず、回想のみ。
~武神の伝説~
・素手で熊を葬る。
・修行のし過ぎで山の地形を変える。
・銃弾斬り。
・抜刀から納刀までが速すぎて見えない。
・継ぎ矢を十五本成功させる。
・背中に鬼の