職場の同僚の中国人Rさん「コノ人ハ誰デスカ?」
作者「これは織田信長っていう戦国武将だよ。中国じゃ、曹操みたいな人かな」
Rさん「デハ、コノ女ノ子ハ?」
作者「これも織田信長だよ」
Rさん「コノ犬ハ?」
作者「信長」
Rさん「……怒ラレマセンカ?」
作者「フリー素材だからね、仕方ないね」
桶狭間の戦いを経て、織田家の評判はうなぎ登りである。
何せ、今川家を相手に少数で攻め入り、義元本人を捕縛という前代未聞の完勝を成したのだ。これには近隣諸国はのみならず、全国へとその名を轟かせんとの勢いだ。
義和もまた、その名を知られるようになった。仕官してわずか数週間で家臣まで成り上がった新参者となれば、ある意味話題なるのも致し方ないこと。しかし驕ることはない。家臣となったことで公私ともにこれまで以上に気をかけなければならない。
『あんたも家臣なんだから、私の顔に泥を塗らないように心掛けなさい!』
信奈にもそう言われ、義和は顔を引き締める。
まるで初出勤の頃のように清洲城へ赴けばとある客人が招かれていた。
タヌキ耳にタヌキの尻尾という飾り物をつけても尚、地味さが拭えない眼鏡っ娘。波乱万丈な幼少時代を過ごしたのち、念願の独立を成し遂げた三河の大名こと松平元康。つまりは後の徳川家康なのだ。
「久しぶりね、竹千代。何年ぶりかしら?」
「う"わ"~ お、お、お久しぶりです、吉姉さま~」
信奈が現れた途端、額を畳に擦り付けるぐらいほど平伏し、さらにはそれを二度三度と繰り返す。
長年、強国に支配されてきたせいか、腰の低さがすっかり定着してしまっていたのだ。それに加え、一時期は織田家にも身を寄せていた頃があり、その時は毎日毎日信奈にいじめられてきた日々。誰かのパシりに定評があるのがこの元康という大名なのである。
「本当に同盟でいいんですか~?」
「ええいいわ。今の織田家には三河を食べさせていけるほどの力はないもの。だったら同盟のほうが何かと安上がりだもん」
というのは一個の建前で、本当は三河に接する武田・北条のための盾扱いである。
無論、元康もそれを承知の上だ。だが、独立したてで小国な三河など大国にやられるのがオチなのでここは織田家の力を借りる他ない。そもそも、信奈に逆らおうとするなど、元康には出来っこない話だが。
「今度ともよろしくお願いいたします~」
「約束通り、八丁みその関税はなしね。そうそう、後ろのは新入りの家臣なの。カズ、自己紹介しなさい」
「どうも~、三河の松平元康です~」
「桜場義和だ」
手を揃えて深々と頭を垂れる元康に釣られるように義和もまた深くお辞儀をする。
なんというか、毒気のない人間なのだ。人の恨みも怒りも買わない、無に近いようで気にならない、つまりは地味ということだ。
そんな元康が頭を上げる時、義和にだけ聞こえる声でボソッと呟いた。
「……半蔵がお世話になりました~」
「あ、ああ…」
半蔵負傷には元康でさえ驚いた。家臣を家族同然に慕う元康にとって義和は憎むべき相手でもあるが、半蔵自身『これは拙者の未熟さが招いた事。姫が気負う必要はありませぬ。それよりあの者は松平・織田にとっても必要な存在になりうるかと』と意味深なことを口にしたため、元康は拳を下ろすことにした。
いろいろ思うところはあるが、元康のやることは常に同じ。彼相手に
(上手いこと利用させてもらいますよ~、ふふふ~)
後に『狸女』と呼ばれる元康の腹黒さと策士としての才能はこの頃から発揮されていた。
元康と他愛のない話をしていると再び来客がきた。この時間帯、来客の予定などないはず、と信奈が溢す辺り、予定外の客人の様子。
長秀によって連れてこられたのは女々しい顔つきで長身の美青年だった。町を歩けば十人中十人が振り向くであろう紅顔の若侍。その陣羽織に刺繍された蜂の巣のような形の家紋は"三盛亀甲"。
「私は浅井家当主、浅井長政にございます。此度は織田信奈殿に一目お会いしたいがため、近江は小谷城からはるばるやってまいりました」
優雅な仕草で挨拶するこの青年は浅井長政といった。
名を聞いた信奈も『へぇ』と感心しつつ、供物皿の"なごやこーちんてばさき"を一つ取り豪快に食らいついた。
「浅井長政と言えば北近江一帯を支配している浅井家の当主様じゃない。先の戦じゃ、自軍の倍の敵相手に逆転勝利したって聞いたわよ」
「はははっ、信奈殿の桶狭間には敵いますまい」
数年前、浅井家と六角家の両家による野良田の戦いがあり、浅井軍は二倍の数である六角軍に勝利。これにより北近江は浅井家が支配することとなった。
この時に大将を担っていたのがこの長政だ。この戦いで長政の名は全国へと知れた渡り、若当主としての歩みを進めた。
そんな長政を一同は信用ならないといった目線で見ていた。
(なんか生け簀かない奴だな……。それに姫様とあんな楽しそうにお話しやがってぇ! ひ、姫様はあたしのなんだぞー!)
(会談中なんだから落ち着け)
家臣になってから勝家や長秀との関係も緩和し、今では対等とも言える関係になりつつあった。
愛する主君を盗られることに危惧し激昂する勝家をこうも抑えられる人間など、この世に二人とていないだろう。
(犬千代、勝家が変な行動しないように見張っとけ)
(……どうどう)
(しかし、長政殿も何か理由があって来られたはずです。それも、近江からここ清洲まで来るそれなりの理由が)
信奈も同じことを考えていたのか、真っ先に確認したのは清洲城に来た理由だった。
「で? わざわざ近江から清洲まで何しに来たのよ。まさか観光ってわけじゃないでしょうね。さぞかし、何か理由あって来たってところかしら?」
「いやはや、こうも見抜かれては取り付く島もありません。信奈殿は噂に違わぬ慧眼の持ち主のご様子ですな」
「ご託はいいからさっさと話しなさいよ」
きつめに言われ、コホンと咳払いして心の内を打ち明けた。
「東の脅威である今川家を倒した信奈殿が次に目を向けるのは道三殿の居城である稲葉山城であるのは誰の目にも明らかなこと。その後は上洛をお考えかと思われまする」
「もちろんそうよ。すみやかに上洛して、天下に号令を出すの」
「となれば、北近江を領する我が浅井家と不戦同盟を結びたくなるのも必定。此度はそのため、こうして清洲までやって参りました」
己の心境を察するがの如きその眼。『慧眼はむしろそっちね』と信奈も関心せざるを得ない。
信奈はこういった頭の回転が早く、聡明な人間とは気が合う。自分と似た性格なことで、仲間が出来たと感じるためである。
「ちょうど浅井家とは同盟を組もうと思ってたところなの。鴨がネギ背負ってやって来たってところかしら?」
「鴨というよりは"猿"かと。私の幼名は猿夜叉丸。お気軽に読んでもらって構いませぬ」
下手に出過ぎず、確実に信奈との親密度を上げていく。こう見えて、爽やかな顔付きに似合わぬ策士家である。
信奈も、そんな長政を簡単に信用したりはしない。同盟成立を餌に、長政の腹の内を明かそうと試みる。
「あんたほどの大名なら他のところでも同盟出来そうなのに、なんで私のところに来たの?」
「私はそれほど器用な人間ではありません。それに信奈殿は日ノ本に新しい伊吹を吹き込む御仁。この国から争いを無くし、新しい国を造っていくには信奈殿のような新しい人間なのです」
褒められて嬉々とした表情を見せる信奈に長政は一気に畳み掛ける。何とも人を手玉に取るのが上手い。
「それは我が浅井家も同じ。父、久政は古くから付き合いのある越前の朝倉家との友好関係を続けたいと考えています。ですが、今の当主はこの私。家督譲渡を機に、浅井家に新しい風を吹き込もうと考え、こうして信奈殿の所まで来たというわけです」
「なるほどね。それじゃ、そこの竹千代と同様に私の天下取りに協力してくれるってわけね」
長政はいえいえ、と否定的な態度で信奈の発言を撤回した。
「この猿夜叉丸、生来の業突く張りでして。信奈殿のただの一家臣ではもの足りないものです。出来ることならば、信奈殿と共に天下取りの道を歩みたいと思っておりまする」
「ふん、じゃどうする気なのよ?」
「単刀直入に申しましょう。信奈殿、私の妻になっていただきたいのです!」
「「「妻ぁーーー!?」」」
全員の驚き声が部屋中にこだました。
件の信奈は顔色は赤くしたり青くしたり、手からてばさきを落としたりとパニック状態だった。
「そ、そそそそそそれって私が好きってこと!?」
「いえ、惚れただの愛だのというのは世情を知らない庶民の遊び事。我々のような大名家ともなれば、政略結婚が習い。むしろ愛が家を弱くするのです」
冷徹な発言に場は一気に冷え込む。ロマンチストかと思いきや、打算的。言い意味、悪い意味で長政は現実主義な人間なのだ。
「とはいえ、政略結婚とはいえ、私と信奈殿ならば日ノ本一の美男美女の夫婦となりましょうぞ。どうです? これからは我ら二人で天下を取るのです」
「わ、わ、私は……」
「何を躊躇ってるのでしょう。切れ者の信奈殿ならば、政略結婚をも天下取りの謀略に使うはず。それとも天下統一の夢を諦めるのですか?」
唯我独尊、傍若無人な信奈は意外と純情な性格の持ち主だ。結婚相手は自分で選んだ人でなければ嫌なのだ。それは、信奈が幼少の頃から夢見てた事。天下統一と同じくらい大切な夢。
だからこそ、ただの政略というだけで結婚なんてしたくない。故に、出た返答は。
「わ、悪いけどそれは無理な話よ。私には婚約者がいるの。だから無理! はいはいこのお話はおしまい!」
無理に終わらそうと虚言を吐いたはいいが、テンパっていたせいで言葉を選んでる暇はなかった。あまりにも無理がある嘘だった。
長政は余裕の表情を見せつけるように微笑を浮かべた。
「それは初耳ですな。して、お相手は如何に?」
「ふぇ? え、えーと、それは……」
目線を泳がせて言葉が途切れる。ここで大半の者は悟った、嘘だなと。長政もとうに嘘と見抜いていながらこうもカマをかけていたのだ。
と、ここで義和と信奈と目が合う。そして唐突に閃いたような顔。何だが嫌な予感がしてたまらない
「そ、そう! そこにいるカズってのが婚約者よ!」
嫌な予感が的中してしまう。
「じ、実はカズの家は名のある武家の生まれなの。そこでお父様がうちの娘をどうだと勝手に決めちゃったらしくてね。わ、私も最近知ったんだけど……」
「なんですと!? おのれ、カズぅ! あたしの姫様になに手だし--むぐぅ!?」
「……邪魔はダメ」
事態を読めていない勝家が犬千代に口を抑えられる。
そのまま隣の部屋に消えていったところで最初に口を開いたのは長政である。
「ほう、そこの御仁が……」
ライバル心を剥き出し、激情を忍ばせたかのような目付き。婚姻と同盟を結ばせ、織田家を吸収するせっかくの予定が狂ってしまった。
ここまで来て、おめおめと帰るわけにはいかない。何がなんでも、結果を残さなければ!
「……しかし、本当に婚約しているのでしょうか?」
「な、何言ってるのよ?」
「私には浅井家の姫になるのが嫌で、仕方なく家臣と偽造婚約をしようとしているしか見えないのです」
「お、面白いこと言うじゃない……」
長政は信じていない様子。何か、大きな後押しがなくてはこの嘘を信用しようと思わないだろう。
ならばと義和を睨んだ。
(カズ、あんたからも何か言ってやって! 長政のやつ、全然信じてないのよ!)
信奈が周囲に聞こえないように耳打ちしてきた。
仕方なしに義和は一つ芝居を打つ。
「というわけだ、信奈は俺の嫁なんでね。近江からはるばる来たところ申し訳ないが、人の女に唾つけるような真似はしないでほしいな」
この男は加減を知らないのか。信奈の肩を抱いては寄りかからせ、いかにも『俺の女だ』と言わんばかりの態度と無礼な振る舞いで長政に喧嘩を吹っ掛けてるように言い放った。
「よ、嫁ぇ…!? ふしゅ-……」
頭が沸騰させ、目を渦巻かせ、心臓がバクバクと高鳴る。普段からだらしない格好をしても心は乙女そのもの。うつけと呼ばれてもその実態はただの少女なわけでこういう恋愛関係にはすこぶる弱い。
長政もどこか苦虫を噛み潰したような顔を見せるが一同の手前、涼しげな態度を装った。
「なるほど……。その様子では婚約は事実な模様。私はお邪魔虫のようでした……」
納得がいったのか、刀を手にして長政は立ち上がる。
「……では私はこれにて失礼させていただきます」
「おや、もうお帰りになられるので?」
「こう見えて私は多忙の身。近江でまだまだやるべきことが残ってましてね。同盟の件は後日、返答をお聞きしても構いませんか?」
「ええ。あの様子ではまともに会話も出来ないでしょうから」
「そうでしょう。では、また」
去り際に鋭い眼光を飛ばし、長政は襖の向こうへと消えた。
足音が遠ざかってることを確認したところで場の空気が一段落つく。
「……なんとか婚約はしなくて済みましたが、まあ面倒なことになってしまいましたね。二十点です」
「……あれ以外方法がなかったからな」
終わってみてようやく気づいた羞恥心。人前でああも気取った振る舞いを見せるのは、中々恥ずかしい部分もあったものだ。
「吉姉さま~? 大丈夫ですか~?」
元康の呼び掛けにも反応せず、呆然とした表情の信奈。
『嫁……私が…嫁…』と空ろげに語る信奈を長秀が一喝して正気を取り戻させた。
「あ、あれ? 長政は?」
「もうお帰りになられました。その前に姫様。さすがにあんな嘘をつくのは後々大変なことになりますよ」
「仕方ないじゃない……いないって言えば長政と結婚しなければならないし……」
「そうかもしれませんが、義和殿のことも考えてはいかがでしょう」
ハッと気づいた信奈は義和を見ると、先程の芝居のことを思い出して再び紅潮させながら礼を言う。
「た、助かったわカズ。無茶ぶりだったのによく応えてくれたわね」
「いえいえ、気にしないでください。それより、こちらも急な展開だったものであんな猿芝居で申し訳ありません」
「そ、そ、そんなことなかったわよ。……むしろ嬉しかったっていうか……」
『男の人の体って意外と大きいのね……』と信奈は真っ赤な顔で呟く。
再び妄想に耽る信奈を長秀は咳払いした。
「コホン! 姫様、浅井家との同盟はもちろん為さるつもりですね?」
「もちろんよ。使えるものはとことん使うのが私のやり方なの。とりあえず長政との同盟は後回しにして、美濃に専念するわ」
「美濃、ということは……いよいよ実行するのですね」
『そうよ』と力強く頷き、部屋に拡げられた日本地図に指差して高らかに宣誓した。
「さて、稲葉山城を落とすわよ!」
その数日後、織田軍はボロボロの姿で帰還した。見るに堪えない満身創痍という姿でだ。
念願の美濃攻略とだけあって、ほぼ全軍といえる勢力で美濃領へ進行。その際、少数の美濃兵が迎撃に打って出てきたが、先駆け隊の柴田隊に難なく蹴散らされ、破竹の勢いだった。織田勢の誰もが美濃奪回は時間の問題だと高を括っていた。
だが、事態は急変。濃い霧が出てきたと同時に、四方八方を敵に囲まれた。危うくやられかけ、必死の逃走によりおめおめと清洲城まで戻ってきたわけである。
帰還後、再び軍議が開かれた。軍議とはいうが、実質反省会のようなものだ。
「むー……」
先日、今川家を打ち破った軍と同じとは思えぬほどの失態。信奈が機嫌を損ねるのも仕方のないことだった。
全員が複雑な表情で打ちひしがれている時、一人の男が入室してくる。
「ふぉふぉふぉ。その様子じゃと、義龍めにひどくやられたようじゃのう」
かつては下克上で国主まで成り上がったものの、息子に座を追われた美濃の蝮こと斎藤道三である。
現在は相談役として織田家に居座っている。豊富な知識と修羅場を潜ってきたその敏腕は重臣達からも支持され、それなりに信頼されている模様。
「……私は今虫の居所が悪いの。用なら手短にしてよね」
「用ならむしろそちらのほうがじゃと思うんがのう。何せ、わしが築き上げた稲葉山城は山頂に立つ難攻不落の堅城。容易に落とせるはずありゃせん」
美濃は自然を利用して作られた防衛都市だ。
都市部である井ノ町を囲うように山々が聳え、稲葉山城が立つ金華山の尾根には防衛設備が配置されている。北に長良川、南には木曽川が流れ、天然の堀として機能していた。
道三が巧緻を尽くして設計された美濃は攻めるとなれば一筋縄ではいかない、天然の要塞なのだ。
「仰るように稲葉山城はおろか、美濃に入ることも出来ずにやられてしまいました。これは三点です」
「予想通りじゃな。義龍はわしの悪い所だけ似おったせいか、狡猾な部分はわし譲りよ。大方、包囲でもされて逃走したってところか」
「うぐっ!? 痛いところ突くなあ……」
「あんたの息子ってこんなに強かったのね。そりゃ、下克上してもおかしく話だわ」
「その話はよせい。しかし、こうも惨敗してるとなると義龍め、奴を使ってきたか」
「奴?」
誰のこと? と一同が首を傾げる。
「こう考えたことはないかの。何故、わしが長良川で義龍と戦おうとしなかったのか。それはな、あやつの側には軍師がついておるからじゃ。奴さえいなければ、あの時退くことなく義龍を叩きのめせたんじゃが……」
「軍師? 蝮が恐れるほどの?」
『あの道三殿が?』『一体どんな軍師なんだ?』と騒然となる。
道三が音を上げるほどの軍師とはよほどの策略家なのか。一同の目が集中したところで道三は口を開いた。
「奴はの、大の人嫌いなせいか滅多に人前に出ん。わしも数える程度しか会った事のない食えん男よ。しかしその知略は甲斐の虎・武田や越後の軍神・上杉、さらには謀神と称される毛利にも匹敵するほどの軍略家。奴が軍師に座している以上、美濃は堕ちぬ」
「えぇー! 嘘だろぉ!?」
「そんな奴いたのか……」
「で、その者の名は?」
「ぬっふっふ……。名は竹中半兵衛。わしは奴に"臥龍"というあだ名を授けたのよ」
『……がりゅう? なにそれ美味しいの?』と犬千代が意味わからないという顔を見せるので意味を教えてあげた。
「臥龍……確か、地に伏して、天に昇る前の龍って意味の中国の諺だったけかな……」
「おうそうじゃ! 義和め、よく知ってるものよ。まあ、奴はその知略以外にも陰陽道が得意でな。陰陽師としても日ノ本一の腕前よ」
「陰陽師ねぇ……胡散臭い野郎じゃない」
「だが、お主らは負けた。胡散臭いはともかく、奴の手のひらで踊らされたのは事実じゃな」
痛いところをつかれて、全員の顔が歪む。
さっきから気にしてることを連呼されては軍議を続けるるやる気が失せたのか、
「……とりあえず美濃攻略はしばらく時間を置くわ」
それだけを口にして自室へと戻っていった。
残った面子も信奈にそう言われては何かしらの行動をすることが出来ず、ただ次の攻略命令が来るのを待つしかなかった。
ほぼ全員が出ていき、義和の他は道三、犬千代が残る。この時の義和の脳裏にはある考えが浮かび上がった。
「竹中半兵衛ねえ……」
どこかで聞いたことのある名かと思えば、それは高校時代の教師が教えてくれた偉人だった。
義和が所属していた剣道部の顧問にして日本史担当だった担任。大の戦国時代ファンでもあり、授業中や部活中に戦国のうんちくを披露したりしていた。
担任から聞いた竹中半兵衛という人物は後々秀吉の家臣となり、彼の大名までの道程を補佐してきた知略家ということだ。つまり、秀吉の代替わりでもある自分が家臣として召し使えなければ、これからの天下取りに支障がきたすであろう。義和はそう考えた。
「なあ、じいさん」
「なんじゃ」
「一つ、頼み事があるんだが……」
この後、義和は信奈にあることを進言した。兵を温存し、無駄に血を流させないための方法にして、下手すれば二度と清洲に帰れないであろう危険な作戦。
竹中半兵衛、調略である。