5月1日から1週間ほどがたち、今、Aクラスではちょっとした対立が起きている。
それは今後のクラスの方針についてでだ。
ざっくり言うと、積極的にポイントを稼ぎにいこうとする坂柳派と、今あるポイントを守っていこうとする葛城派の2つで分かれている。
葛城は俺と有栖に次いで小テストの結果が3位という好成績を修めていてリーダーになれそうな素質を持ってはいるが、保守的な考えてを持つ。
攻撃的な有栖とは180度考えが違うので、対立してしまうのも仕方がないかもしれない。
もし有栖に保守的になれと命令すれば言うことは聞くが、攻撃は最大の防御とも言うし、俺としては有栖の考え方に賛成している。
だから俺からどうこう言うつもりはない。
もし、葛城派に傾いてしまったら、俺が動けばいいだけの話だ。
俺は教室を出る。
この対立はほぼ半分くらいの人数に分かれているが、今後はどうなるかわかりきっているので、対立している話を聞く必要はない。
教室を出る時に少しだけ有栖が寂しそうな顔をしたが、会いたい人がいるから我慢してもらう。
どうせ後でいっぱいイチャイチャするし。
廊下を歩いていると、ちょうど目的の人物がいた。
「櫛……」
目的の人物である櫛田に声をかけようと思ったが、いつもと雰囲気が違う。
いつもと同じようにニコニコしている櫛田だが、目が笑っていない。
俺は先日買ったペン型のカメラで録画を開始して、櫛田の後をつけることにした。
これは何かと役に立ちそうだから買ったのだが、早速使う機会が訪れるとは。
櫛田は屋上に近い階段の中程で止まった。
今は放課後なので、ここで誰かと待ち合わせしている可能性があるが、俺はそうではないと思っている。
学校にはいくつもの監視カメラがあったりするが、ここにはそのカメラがない。
いつもあざとさ全開の櫛田だが、ここで本性が見れそうだ。
「あーーーー、ウザい」
あの櫛田が発したと思えないくらい低く重い声だった。
「マジでウザい、ムカつく、堀北なんて死ねばいいのに……」
呪文を、呪詛の言葉を唱えるかのように暴言を呟く。
「自分が可愛いからってお高く止まりやがって。どうせアバズレに決まってんのよ。あんたみたいな性格の女が勉強なんて教えられるわけないっつーの」
櫛田がムカつくと言っている相手は堀北って女か。
俺は面識がないが、そんなに嫌な性格をしているのだろうか?
「あー最悪。ほんっと、最悪最悪最悪。堀北ウザい堀北ウザい。ほんっとウザい」
櫛田は間違いなく、クラス一の人気者だろう。
そんな優しい少女のもうひとつの顔を見た気がした。
彼女の誰にも見られたくない姿だ。
本来なら今すぐに立ち去った方がいいだろうが、これは櫛田と接触できるいいチャンスであり、もしかしたら櫛田を上手くコントロールできるかもしれない。
「随分と物騒な言葉を言うのな」
未だに暴言を吐いている櫛田に話しかける。
すぐに櫛田は俺の方を向いて、驚いたような顔をした。
どうやら誰かに聞かれているとは思ってなかったようだ。
「聞いてたの?」
「その答えは今しがた言ったはずだけど」
「そうだね」
櫛田が階段を降りてくる。
そして自らの左の前腕を俺の首もとに当てがい、壁に押し付けた。
口調も行動も俺が知る櫛田ではなかった。
でもこれが櫛田の本性だ。表では誰でにでも好かれるように振る舞って、裏では暴言を吐いてストレス発散をいている。
普段の櫛田からは想像がつかないほど恐ろしい形相をしているが、これがもし誰かに屈服した時にどうなるのか見てみたくなってしまった。
「今聞いたこと……誰かに話したら容赦しないから」
とても脅しとは思えないほど、冷たい感情の籠った言葉。
「もし話したら?」
「今ここで、あんたにレイプされそうになったって言いふらしてやる」
「冤罪だし」
「大丈夫、冤罪じゃないから」
そう言うと、櫛田は左手首を掴み、ゆっくりと手のひらを開かせる。
自らの手を俺の手の甲に添え、俺の手を自らの胸元へと持っていく。
柔らかな感触が手のひら全体を通して伝わってくる。
「あんたの指紋、これでべっとりとついたから。私は本気よ。わかっ……んん、何をするの?」
「せっかく女の子から胸を触らせてくれたのだから、揉んどかないと損かなって」
有栖のと違って、力を入れた分だけ指が胸に沈みこんでいく。
もちろん有栖の小さな胸もいいが、櫛田の胸は吸い寄せられるかのように手を離すことができない。
「んん、好きで触らせたわけじゃないから……ひゃん」
「しっかりと感じてるんだな」
「そんなこと……あん」
否定している櫛田だが、喘ぎ声が漏れていて説得力が皆無だ。
「ところでこれは何だ?」
「ただのペンじゃないの?」
「残念。カメラが着いてるんだよね」
櫛田は全てを察して俺からカメラを奪い取ろうとするが、そんなことはさせない。
「もしレイプされたって言ったら、俺は撮っている映像を提出するから」
そうすれば櫛田についている指紋は、櫛田自身が俺の手を掴んでつけさせたという証明になる。
これで櫛田が不利な状態になったわけだ。
「何が目的なの?」
「男が女の秘密を握って、迫ることといったらひとつしかないよね」
俺は櫛田の肩を掴んで引き寄せた。
これにより櫛田との距離がキスができるくらいまで近くなる。
「本当に最低ね。あんたには彼女がいるんじゃないの?」
彼女というのは有栖のことだろう。
「有栖は彼女じゃないよ。毎日抱かせてもらっているけど」
「セフレってこと?」
「セフレじゃなくて俺が有栖を支配しているだけ。それを櫛田にもしたくなった」
すると櫛田の身体が震えだす。
それはそうだ。好きでもない男に抱かれるかもしれないのだし、恐怖が襲っても不思議ではい。
「このことは他の人に言ったらダメだからね。もし言ったらどうなるかわかってるよね?」
もしこの映像が広まったら櫛田は停学になってしまうかもしれない。
いや、それよりかは今まで櫛田が築き上げてきた交遊関係が一気に崩壊することになるだろう。それだけは避けたいはずだ。
「ちなみにこの映像は携帯のネットワークで繋がっていて、自動的にクラウドにアップされるから奪おうとしても無駄だよ」
虎視眈々とカメラを奪おうとしている櫛田に牽制をかけておく。
これでカメラが奪われることはない。
「死ね」
そんな暴言は初めて言われたが、俺は何とも思わない。
「ここじゃあれだし寮まで行こうか」
櫛田は無言で頷き、俺についてくる。