ダアァァン
正午に轟いた銃声は、周辺の観客達は突然の出来事に驚き、恐怖し、悲鳴をあげ、逃げ惑う。
俺は一先ず、近くのプレハブ店舗に身を隠して、様子を伺った。
犯人は一人。
見るからにヤクザのチンピラに見える、三十代半ば程の男が、右手にトカレフTT−88、左腕には人質と見られる高校生位の男の子を、首を締めるような形で抑えられている。よく見れば、人質を抑えているその左手には、大型のサバイバルナイフが逆手持ちで握られていた。
「テメェら!それ以上近付くんじゃねえぞ!このガキの命が惜しけりゃぁな!!」
チンピラ風の男が叫んだ方向、俺からする男を挟んで向かい側に、制服、並びに私服警官と特殊急襲部隊と思わしき連中、計十五人近くはいるであろうか、S&WM37エアウェイト、SIGP226、MP5F等々の銃器を構えている様から余程の鈍感者でも無い限り、このチンピラ男がどれ程危険で有るかが嫌でも理解させられる。
加えて言えば、シャツ越しに感じた男の腹周りの均等に凸凹した物も。
恐らくは…
真面目にヤバイな…こいつは。
「早く車と金用意しやがれ!!でねぇとガキぶち殺すぞ!!」
人質とった時点で負けな気がしたが、受け流した。
その刹那
バァン
チンピラ男が手にしているトカレフではない、銃声が聞こえると同時に胸部に違和感を感じた。
ふと胸元を見ると、ちょうど肋骨のど真ん中辺りから、上着が"赤く"染まっていった。
修羅場に視線を戻すと、チンピラ男の右肩も、若干では有るが、上着が"赤く"なっていた。その奥には、集中的に周りの警官達から睨まれ、小声では有るが叱責を浴びせかけられているSAT隊員がいた。
手にしていたMP5Fからは、僅かに煙が残っていた。
成る程…な。
独断で男の銃を撃ち跳ばそうとして発砲、しかし僅かにずれて男の右肩を掠め、流れ弾が俺に被弾。約十秒程の思考が終了した途端、急に目眩が襲ってきた。弾が心臓にまで入り込んでいる、その時はそう思ったのでは無くそうだとはっきり判った。
刹那、別の思考が働き始めた。
“テキヲウテ”
その強すぎる思考は俺の身体を勝手に動かした。
自分でも驚く程に素早く、男目掛けて全力疾走。多分、男子百メートル走で世界記録に近い時間で走りきれるんじゃないか、っと思った。これが"火事場の馬鹿力"ってやつだったのかも知れないが、その時はそんなことに頭を回している余裕は無かった。
不意急襲的に背後から迫って来た俺に、チンピラ男は、不意に左腕拘束していた人質の男の子を放して、拳銃を向けようとするも、俺の右足から放たれた蹴り上げで、拳銃は空高く飛ばされた。
男は遠心力で左手のナイフを使い斬りかかろうとしたが、俺上がったままの右足をそのまま力任せに振り落とし、左手の甲に踵落としを当てる。
その衝撃で男は左手のナイフを落とし、バランスを崩し、上半身が前に傾いた。俺はその隙を逃さずに振り落とした右足を半歩後ろに引き、右の握り拳を振り上げアッパーを繰り出す。
男が宙に浮きかけた所を男の右脇腹を左フック。
完全にバランスを崩した男の顔面目掛けて、右上から左下に渾身の一撃、右フックから始め力の入れ加減を変え、重力任せにストレート。
…男がぼろぼろの状態でノックダウンを確認した刹那、意識が急激に失われていき倒れたと同時に完全に意識を失った。
これが"死んだ"事だと、この瞬間は理解出来てなかった。
……黒。
そうとしか言えない空間。他は、無重力だとしか判らない。すると目の前に光が見えた。蒼く輝く小さな光が。それは次第に近付いて来て、俺の前で止まった。すると突如として、光は沢山の筋になり、それはやがて、"人"の形を象った。
この時の"人"の大きさは、目測で約十六メートル程は有り、その姿は、背中の大きな四枚の翼から一瞬"ウィングガンダムゼロカスタム"にも見えたが、はっきりとは判らなかった。
「何だこれは!?」
この一言が精一杯だった。すると、
『汝、自らを糧とし、他者の命救いし。汝、今一度の"命の時"を与えん』
突然、神々しくも穏やかな美男子の様な声が聞こえてきて驚くが、"命の時"っと言う単語がどうも強く引っ掛かる。
「"命の時"って、蘇らせてくれるって事なのか!?」
反発的に強く問い質すが、目の前の"巨人"は頷き声色を変える事無く、
『その通りだ。但し、君の元居た世界には帰れない。その世界では、君はもう亡き者だから』
ここにきて初めて俺が死んだことを理解した。慣れ親しんできた世界との別れ。そして、
「つまり蘇った先の世界は俺の知らない世界なのか?」
蘇った先の世界は俺の知らない世界。
『逆を言えばその蘇った先の世界も、君を知らない。このまま"死"を受け入れるのも良いが、"生"を望むなら、幾らかの好条件を与えよう』
当然の様な口調、そしてここにきてもうひとつ疑問点が。
「"生"を望んだ時の好条件って何だ?」
ここは知っておきたかった。しかし、
『それは蘇った後での楽しみとなるだろう。しかし、悪いことは無い筈だ』
また引っ掛かる言い方をしたが、埒があかないと察し質問を止めた。死んだことが突然過ぎた俺には、目の前の"巨人"の話は余りに影響強すぎた。本来はもう少し深く考えなければならないものだが、どうせならっていう気持ち一本が強かった。
「俺を蘇らせてくれ。新しい世界へと」
俺は決心した。
『…良いのだな?』
俺の言葉に"巨人"が最終確認をする。
「ああ。」
俺はそれを肯定する。
『承知した』
すると"巨人"は眩いばかりの光を放つ。ふと、最後に聞きたいことを思い出した。
「ところで…お前は一体…何者…なんだ…」
強すぎる光に意識が呑まれていく。そんな中、かすかに聞こえた言葉。
『私は……お前だ』
この言葉を最後に、俺はまた意識を失った。