~放課後 1年生寮 1206号室~
「よいしょっと」
「荷物、ここで良いか?」
「うん、ありがとう。助かったよ」
「気にすんなって」
俺、我瑠騨は学園の荷物の集配所に立ち寄り、シャルロットの荷物を持って自室に帰ってきた。
え?なんで今はシャルロットと呼ぶかって?状況に合わせて使い分けているだけだ。機を手にするまでの間はな。
「窓側のベッドだけど良いか?もし嫌なら内側のを空けるけど?」
「ううん、大丈夫だよ」
「そっか」
「クイッキュ!」
「ところで我瑠騨。彼女は一体何者なの?」
未だ通常態から鳥形態に戻っていないフェンに視線を向けながら、我瑠騨に質問したシャルロット。
「そう言えば紹介が遅れたな。こいつはフェン、見ての通り人間じゃあ無い。マヤン島に住んでいたんだが、エイフォスの出現で住処を無くしてな。それで俺の元に住まう様になったんだ」
「そうなんだ。・・・えっと、エイフォスって数日前の?」
「そう、その時に現れた巨大なやつだよ。だけど今は俺の中に居るんだ。『人類の未来を信じているお前に賭けてみよう』みたいな感じでな」
「なんだか・・・改めてすごいと思ったよ。ただ、あまりついていけていない」
「しゃーないさ。それよりも、フェン、シャルルに挨拶しなさい」
「ピィ!クゥウ」
フェンは頭をぺこりと下げて彼女なりのお辞儀をした。
「ふふ、よろしく、フェン」
「フェンフェンフェーン!・・・?」
急にフェンは、シャルロットの顔を覗き込む様に近付く。
「カルカ!カルカ!ヒャルル、キュックゥウ、ウウ~~」
俺の方を向き、自分の胸を叩いてギュウッと自分で自分を抱き締めるようなレクチャーをしてきた。おそらくはシャルロットの胸のコルセットに気付いたのだろう。
「我瑠騨。フェンは一体何をしてるの?」
「お前の胸のコルセットに気付いて、窮屈そうにしていると俺に教えて来たんだ」
「そうなんだ」
「取り敢えず、今日はもう外して大丈夫だ。なんかあっても、簡単な幻覚紛いなものとかで誤魔化すから」
「うん、それじゃお言葉に甘えて。あ、でも着替えるまで見ないでよ?」
「あいよ」
前に抱いたじゃん。みたいな事を言えば当然潰されるであろうな。いや言わないけどさ。それはそれ、これはこれってやつだよ。
・・・それはさておきとして、しっかり話しておかないとな。
俺が〝不老不死になっていた〟事を。
クラリッサにも連絡しないとな。今の時間は大丈夫なのだろうか?・・・今は19時半、ドイツは12時半ぐらいだから飯時だろうな。
「着替え終わったよ」
「おう」
振り返ると、オレンジのラインが入った紺色のジャージに身を包み、抑えられていたふくよかな胸が解放されたシャルロットがいた。
しかし、見とれる事はせず、事実を話すことにした。少なくとも、長引かせる方が良くないと思ったからだ。
「なあ、シャルロット。大事な話がある」
「え?どうしたの?」
「どうしても、話さないといけない事があるんだ」
そう言いながら、投影ディスプレイを1つ展開し、クラリッサの携帯にテレビ通話でコール。
『クラリッサ・ハルフォーフだ』
「俺だ。今空いてるか?」
『ああ、構わない。ん?隣にいるのはシャルロットか』
「久しぶりだねクラリッサ」
『ああ、久しぶりだな。ところで我瑠騨、今回の用件は?余程重要な事のようだが?』
「・・・取り敢えず聞くだけ聞いてくれ。実は---」
---俺は、今の段階で理解している範囲での事実を、ありのままに話した。
当然、2人は絶句していた。
なにせ、想い人が不死身であるだなんて、彼の存在を理解している事を差し引いても理解に至るはずもない。
「---これが、今の俺の現実なんだ」
「・・・つまりそれは、その・・・」
『私達は、我瑠騨に相応しく無いと言うことか?』
「そうじゃ無い。この不死身の力は俺が認めた相手に分ける事も出来る。つまり、お前たち2人を不死身に変えることが出来ると言う事なんだ。ただ・・・」
『ただ?』
「・・・お前たちの人生を、本当の意味で狂わせる事になる。だから、それを望むか望まないかを知りたかったんだ。望むなら果てない永遠にあり続ける事になるからさ。望まないなら、せめてその一生を最期まで看取る。仮にも俺は2人に手を出したんだからな」
「・・・確かに、大事な話だね。でも、すぐに答えは出せないよ」
『シャルロットの言う通り、こればかりは少し考える時間が欲しい』
「もちろんだ。・・・すまない、こんな訳の分からない事を訊いて」
『気にする必要は無い。ただでさえ人間には無い力をもっているんだ。驚いたりして、受け入れるのに時間は必要だが、我瑠騨への想いは変わらない』
「え?」
『私は、君やシャルロットの様な辛い経験の無い、至って普通の人生を歩んでいた。だが、私は我瑠騨に命を救われ、魅力を感じ、自ら望んで君の元に堕ちたのだ。少なくとも、この先この気持ちが変わることは無いだろう』
「クラリッサ・・・」
「僕も同じだよ。我瑠騨がいるおかげで、僕はまた生きる希望が持てた。突然奪われた居場所をくれて、無くした生きる理由を与えてくれて、そして今は、ボロボロになった僕の心が、我瑠騨の隣にいて、少しずつ癒えていく感じがするんだ」
「シャルロット・・・」
心から溢れる熱い何か。我瑠騨は、これを必死で堪えていた。
自らの我が侭に振り回してしまったという懺悔。
自らを受け入れようとしてくれている事に対する歓喜。
そして、彼は口を開いた。
「2人共、本当にすまない。---そして、本当にありがとう」