~IS学園 第3アリーナ~
残すところ、あと3日となった学年別トーナメント。生徒達はそれに絡む色々な話題で持ちきりだ。
特に〝優勝者は男性パイロットと付き合える〟と言う話題は極端にヒートアップしていた。しかも細かい内容が学年毎で異なり面倒になっていた。
だが、それを構っていられる程の余裕は一夏にはなかった。
理由は当然、訓練だ。
「はあっ!!」
「緩いっ!」
放課後の今、白式を纏った一夏は、サイファーを纏った我瑠騨に左から雪片弐型を横薙に放つが、右腕の甲に装着したムーンライトに容易く遮られる。
「ぐっ!?」
「ぜあっ!」
そのまま、力押しで一夏を撥ね退ける。開いた間を詰める我瑠騨だが、吹き飛ばされた一夏はその慣性を利用し、後退しつつ体制を立て直す。刹那、我瑠騨の刃を雪片で受け止め鍔迫り合いになる。
「なかなか反射神経良くなってきたじゃないか」
「ああ、誰かさんのせいでね」
「なら、次は1秒以内に始末しようか?」
「そんな事出来んのかよ!?」
「ああ、喰らうか?」
「いらねぇよ!!」
対戦中なのに相変わらずの会話。だが、技術や練度は高くなっている。
一夏の運動能力、判断力、反射神経、どれを取っても本当に素人だったのかと言いたくなるほどに上達していた。現在の調子で上達を続ければ、後2ヵ月程で3年の一般生徒相手に良い試合が出来るだろう。
・・・勝率は半分以下だろうがな。
「サラッと今失礼な事考えてなかったか?」
「大丈夫。お前より100倍はマシだから」
「ひでぇ!!」
「それはこれの事かな?」
そう言って、我瑠騨は
「ゴハッッ!!!」
突然の腹部への衝撃に思わず意識が飛びかけるが、なんとか踏ん張りを見せる。だが、腹部が極端にキツいのは言うまでもない。
「う、ぐっ・・・いてて・・・少しは、加減してくれよ」
「いいけど、何もレベルアップしなくなるぞ?」
「それは嫌だ」
「なら多少なりとも我慢しろ」
「分かった。・・・でも、そろそろ一息吐かせてくれないか?もう2時間はぶっ通しで・・・」
「ん?そんなに時間が---経ってたねぇ」
「オイッ!」
「悪い悪い、俺自身も熱が入っちまってた。時間もいいところだし今日はここで区切ろう」
「あ、ああ・・・ふう、疲れた~」
「流石に通しだとな。素で時間忘れてた」
そんな中、少し離れた場所から女子生徒の声が届いた。
「そこの男子達!」
「「ん?」」
視線の先に居たのはISスーツを着た茶髪のショートヘアの見慣れない東洋系の女子生徒だった。だが、クラスの面子と比べて若干大人びた風貌から上級生であろうと察した。
「悪いがどちらさんで?」
我瑠騨が何時もと変わらぬ態度で質問をする。
「男のクセに生意気な口ね。まあいいわ、ちょうどアンタに様があったからね」
直後、この女子生徒は地雷を踏んだ。
「〝人殺しさん〟」
この言葉に、周りの空気は気まずいものになってしまった。1年1組のクラスメイトの場合は特にだ。
「どうでもいいけどまず名乗れよ。先輩風邪吹かせるぐらいならさ」
「なっ!?」
我瑠騨は何時もと変わらぬ口調だった。それどころか相手を挑発し始めた。
「そっちは色々有名になってるから俺の事を知ってるだろうが、俺はお前を知らない。それとも、
「う、うるさい!!男のクセに生意気なのよ!!」
「じゃあテメェはどうなんだ?」
突然の殺気。表情も口調も変わっていないが纏っている空気が尋常ではない。流石に周りの生徒は身の危険を本能的に察して距離を取った。
ただ、一夏だけはその場に留まっていた。
「我瑠騨、ひとまずその殺気は抑えてくれないか?周りがみんな怯えてるんだよ」
千冬の鍛えもあってか、少し冷や汗をかきながらも我瑠騨に殺気を抑えるように言ってきた。この時我瑠騨は、内心で一夏の肝の座った態度に感心していた。正直これ以上相手を咎める必要は無いが、マイナス効果でも少し言っておく必要があった。舐められたら終わりとかの考えは二の次だ。
「おまえ達が駆る〝インフィニット・ストラトス〟は元々は宇宙空間での使用を前提としたパワードスーツだった。
沈黙。ただそれを言うので精一杯だ。
「な、なによ!あんたこそ何を偉そうに言ってるのよ!」
「・・・無邪気な心を踏みにじられて、黙っている奴は居ない。篠ノ之束は、
「ず、随分と知った口を利くのね」
「ああ、本人に会った事があるし、それを察するには十分過ぎる程に無邪気だったからな」
「なっ!?」
「我瑠騨、それは本当なのか!?」
外野だった一夏や周りのみんなは騒然とした。
世間一般の〝篠ノ之束〟は、自分の認めた相手としか話さないと言われる程の、他人との接点をあからさまに拒絶するという認識があるからだ。更に世間では箒、千冬、そして一夏の3人としか話さない事も知れた事だ。そんな彼女が高嶺我瑠騨と接触したというのは、正直驚き以外の何者でもない。
そして、我瑠騨が篠ノ之束の意図を察している事にも衝撃を受けていた。
「いずれにせよ、そこの上級生、さっさと帰ってマナーを勉強し直して来い。そうすれば話してやるよ」
この言葉にハッとなった上級生は悔しそうな顔で踵を返して走り去った。
(・・・夢を実現出来るだけの技量があるのに、それを潰されたら誰だって悔しくなるだろうが)
決して声には出さず、しかし心の奥底でそう呟く我瑠騨であった。