「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」
その呪文を唱えるのは未だ幼い少年。後ろにはスーツ姿の男性と紫のローブを纏った女性。見る人が見れば、その女性と呪文を唱える少年の間に霊的な経路が生まれていることはわかるだろう。
少年の眼前に広がる魔法陣はその女性が描いたものであり、神代の魔女である彼女による魔法陣というだけで、少年は詳しいところはまるでわからないがすごいものなんだ、と理解していた。
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
少年の魔術師としての力量はそこまで高いものではない。
たった数日間、キャスターという女性が、彼が父親とともにお世話になっている柳洞寺にやってきてからの短い期間修行を受けただけだが、それだけでも師匠が神代の魔術師であるためにある程度は形になっていた。
「
今から少年がやるのはちょっとした不正。キャスターとは彼を拾い、育ててくれた父親である葛木宗一郎が契約をして少年が魔力を供給する間柄。彼が知る由も無いが、第四次聖杯戦争でランサーのマスターが行なっていたことと同じようなこと。
そうした契約をしている上で、少年がさらなる英霊召喚を行う。それが、最弱と呼ばれるキャスタークラスで召喚されたメディアによる不正、勝つための戦略。
幸いなことに、そんな不正を行ってもあまりある潤沢な魔力を少年は有していた。それが不可能であれば、キャスターは自分が召喚することも視野に入れていたから、その場合はこの世界の依り代になれないキャスターによる不正召喚なので『触媒の近くに縛られる』という縛りが生まれるために、そんな縛りもなく召喚できるのはアドバンテージとしか言いようがなかった。
「告げるーーー」
彼の右手には参画の令呪が、そして舌にも参画の令呪が刻まれている。柳洞寺近くの大空洞にある大聖杯にキャスターによる干渉が行われ、結果として彼には二つ目の令呪が発現した。
今回の召喚に際しての触媒は大聖杯そのもの。普段であれば聖杯に関するサーヴァントなど召喚に応じてくれるはずもないだろうが、これに関しては
「ーーー告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
キャスターは、今の葛木宗一郎とともに過ごす生活をずっと続けたいと願っている。
彼女の弟子として魔術を習っているタイミング以外では、彼女は少年にとっては母のようだった。
だから万が一にも消えて欲しくはなくて、こんな言葉を口にした。
『聖杯を持ったサーヴァントは呼べないの?』
キリストとか、と少年はメディアに告げた。
聖杯戦争に勝たなければ聖杯が手に入らない、と思っていて、さらには聖杯を持ったサーヴァントが聖杯戦争に呼び出しを受けて返答をするわけがないと思ったから放り投げていた可能性だった。
キャスターが勝ち抜く可能性と比べても低いものだが、触媒となりうるものがなかったために、聖杯を触媒にするのはそうおかしなことではなく、今に繋がっている。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
何が出てくるのかはほとんど博打のようなもの。
それでも、わずかな聖杯を所持しているサーヴァントの召喚の可能性にかけて、それが叶わなくとも願いの強さならば誰にも負けないと少年は信じて、豊富な魔術回路、潤沢な魔力量に任せて強引に流し込んでいく。
あまりにも雑な魔力行使に、背後で見守るキャスターはハラハラとした表情の中、一部の魔術師然とした思考でそれに対してのダメ出しを出している。
「汝、三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーーーッ!」
全ての思いを乗せた
誰もが目を開けていられないほどの眩さ。それと同時に巻き起こる暴風。
それらは召喚時に付随する代物ながら、少年の踏ん張る力では耐えきれずに重量増加の魔術を、召喚に際して魔力を強制的に抜き取られながら行使しようとして失敗し、キャスターがそれをかけて少年を助ける。
少年が視線を魔法陣の中心に向けると一人の少女の姿がそこには見える。どこかの民族衣装のような服で身を包んだ、白銀の御髪に紅の瞳を持つ少女。
腰元に佩びた剣は、どちらかといえば鉈のような、狩をするための代物。
「サーヴァント、アルターエゴ。真名はシトナイにしたわ。外観に一番現れているのがシトナイのようだから。よろしくね、マスターさん」
「……」
その言葉に、けれどアルターエゴを名乗った少女を目にしている少年はぼうっとしている。
その頬は赤く、傍目から見ていたキャスターはなんとなく少年の抱いた感情を察したが、今はそれについては気にするタイミングではなかった。
「マスターさん?」
「え、あ、う、うん! 僕が、君のマスターだよ。アルターエゴ、でいいんだよね?」
「ええ。それで、そっちは……」
敵意は向けられない。
自らのマスターである少年が背中を向けて召喚をしていた以上、少年の敵ではない、と察したのだろう。
「それで、そっちのサーヴァントについて聞かせてもらえるかしら?」
それでも、未だ完全には信頼できないのか、マスターたる少年に向けたものよりも冷たい声で、アルターエゴはそう言い放った。
初回は短め。イリヤとシトナイのコンビとイチャイチャすることが目的。