「キャスター、なんのつもりかしら」
純の理性を溶かして獣慾に身を委ねさせた後、キャスターはその部屋から出て聖杯の作成に戻ろうとしたのだが、その道すがらにアルターエゴが待っていた。
その瞳はとても冷たい。今、己のマスターが何をしているのか、そしてそれがキャスターの手によって行われたことだと理解していたから、
「あら、魔術師としては弟子に色々と仕込むのはおかしなことではないでしょう? そうでなくても目的はちゃんとあるわよ。……まずはイリヤスフィールから反抗する気を奪うことでしょ」
それに、と告げる。
少しばかり今の状況は面白いことになりそうだと思ったから。
自分が息子のように思っている相手に
だから、ちょっとしたことを暴露することにした。
「あの子も叶わぬ恋心を抱き続けるよりも、同じ時間を歩めそうな女の子相手に責任を取らざるを得ない状況に追い込んですっぱり諦めさせてあげたほうがいいでしょう?」
「え、何、マスターさん恋愛してるの」
やっぱり気がついていなかったのか、と端から見ればわかりやすすぎた恋心が、当の本人には未だに気がつかれていなかったことにキャスターはため息をつく。
誰々、と女の子らしく恋バナは好きなのかアルターエゴはそれに食いつき、キャスターは意地悪く笑う。
まさしく魔女としか言えないような笑みだった。
「あら、気がついてなかったのかしら? どこからどう見てもあなたに一目惚れしてたじゃない」
「…………え?」
アルターエゴの笑顔が固まる。
それはまるで予想外だったと言わんばかりに。
ただ、彼女の依り代のイリヤスフィールがこの第五次聖杯戦争に使われているイリヤスフィールと同型機であるのなら、それも仕方ないことなのかもしれない。
そもそも第五次聖杯戦争のためにチューニングされている彼女は、そこまで長くは生きられない。
よって恋をするようなことも、恋心を向けられるようなこともなかったと見ていいのだろう。
だから、近しい人物が自分に対して恋愛感情を抱いていると言われてどう反応すればいいのかまるでわからなくなった、というのがキャスターの読み。
「聖杯を手に入れた後にあなたが何を願うのかまでは知らないけど、どうせその願いを叶えて消えるか、受肉して何かしたいんでしょう? そこに純が介在する余地なんてないじゃない。それがわかってるんだから、多少強引にでも純の気持ちの矛先を変化させておくのはそこまで悪いこととは思わないけど?」
けれどそんな言葉はアルターエゴには届いていないらしい。
「あー、うん、そっかー、そうなんだー」
顔を赤くして、明日からどのようにして顔を合わせればいいのかと悩み、ついでに”イリヤスフィール”相手に性行為をしている現状に、なんとなく恥ずかしくなっていたために。
そういうものだと割り切れない様子に、これは脈ありかしら、と余計なことを考え始めるキャスター。
ここでさらに介入したらまた拗れそうではあるのだが、それでも脈ありなのを潰してしまいそうになっているのはまた事実なので、その最後の一線程度は残しておいてもいいかな、と思っていた。
「あなたが望むなら、彼に盛る薬を用意してあげるけど?」
間違えないで欲しいことだが、キャスターは別に事態を混乱させたいわけではない。
イリヤスフィールを襲わせているのは、アルターエゴに対する恋心が多分叶わないだろうから早めに吹っ切って欲しいという親心も結構大きいのだ。
そしてそれと同時に、アルターエゴに対しての恋心が叶う可能性があるのなら、できることなら彼の恋心を成就させてあげたいとも思っている。
それが、全て純にそこまでいい影響を与えないだけなのだ。
「……うん、そうね。お願いできるかしら?」
別にアルターエゴはまだそういう目で見ているわけではないが、少し冷静になってくるとそれがキャスターの魔術の影響とはいえイリヤスフィール相手に性行為をしているのに自分を相手にしては抑えるというのが納得がいかなかった。
とりあえず、無理矢理に理性を溶けさせて近くにいる女を本能だけで襲う状態にするのではなく、少しばかり理性による縛りを緩くして自分から襲わせないとなんだか納得がいかなかった。
そこから先のことは何も考えていない、ただ自分が気にくわないために行うだけの予定だった。
そんなことを考えている時点で冷静ではないだろう、というツッコミを入れる人物は誰一人としていなかった。
夜は更けていく。
キャスターとアルターエゴは密約を交わし。
宗一郎は何が起きたとしても問題ないように、すぐにでも起きることができるようにしながら眠っていて。
純とイリヤスフィールは性行為を行い。
アルターエゴが呼んだバーサーカーは、山門で他のサーヴァントが攻めて来た時のために鎮座していた。
「ん……」
そして翌朝、イリヤスフィールは目覚めた時に目の前にあった純の顔に、ここはどこだ、こいつは誰だと頭がパニック状態になったが、自らが裸だということと無理矢理に破かれた己の服、そしてジンジンと痛む股から昨晩の出来事を思い出した。
「あー……」
今も横で眠っている少年に対して怒ろうか、とも思ったが、よくよく考えれば彼はキャスターによって操られたようなものだから彼に対して文句を言うのはおかしい。
キャスターの言葉では、この少年は普通にイリヤスフィールに対して恋心を抱いているかのような様子が見て取れた。
それなら、普通に籠絡してしまった方がいいかもしれないと考えて少年の目覚めを待つことにした。