その日の朝、食卓は地獄と化していた。
イリヤスフィールがいきなり追加されたために、そんな彼女がいてもおかしくはないようにキャスターが柳洞寺全体に対して暗示を使い、さらには宗一郎に対して謝りながらも聖杯戦争についても話し合うためにアルターエゴも現界していたのだが。
「……」
「……」
その二人がニコニコと笑いながらも無言で見つめ合っている光景に宗一郎以外の誰もが恐ろしいものを感じていた。
いや、宗一郎も感じているのかもしれないが、少なくとも表には出していなかった。
『ちょ、ちょっとキャスター! これどうなってるの!?』
『さあ、どうなってるのかしらね?』
キャスターはそれでも冷静を装って、戸惑っている純相手に平然とした様子を見せる。
そんな中、この空気を作り出した原因である二人は機嫌が急降下している。
純の昨晩の記憶は、イリヤスフィールが部屋に連れ込まれて自己紹介をした直後から全くないのだが、なぜか今朝目を覚ませばイリヤスフィールは裸で純と同じ布団の中にいて機嫌が良さそうに純のことを眺めている、というような状況。
性的なものに興味を抱き始める年齢なのでなんとなくやらかしたことには察しがついていたのだが、それ以上はわからない。
さらにそこにいきなり機嫌が急降下しては、もはや彼の頭では全く理解できない。
「ねえ、ジュン。この女、誰なの?」
「あら、
イリヤスフィールは、自分に対して恋愛系統の感情を抱いてくれているのか、と見た目にはそこまで変わらない年齢の少年に対して少しだけ心を許しかけていて、けれどアルターエゴを見たことでこっちと見た目が似てたから気が緩んでいただけなのではないか、と。
アルターエゴは、自分に対しては特にそういう劣情を向けていないのに、(キャスターの補助ありとはいえ)イリヤスフィールにだけそういう感情をぶつけていたことに対しての怒り。
特にアルターエゴは、イリヤスフィールが自分と同一の存在であることを知っているために、彼女に対してぶつけているくせに自分にはぶつけられないというのが納得がいかない。
相手が自分だからこそ負けられない、女の魅力的な部分での問題があった。
イリヤスフィールはそんなことはわかっていないが、他人と似ているから襲われたでは納得がいかないので因果を逆転させることにした。
最終的に自分じゃなくてはダメだという状況にしてしまえば、最初に襲われた時のこともイリヤスフィールでないとダメだったということの片鱗が見えていた、ということにしてしまえる。
『惚れた女に似ていたから犯された』ではなく、『その時点でイリヤスフィールに惚れていたから犯してしまった』ことにしてしまえば、この
二人のイリヤスフィールによる女のプライドを賭けた戦いが静かに始まっていた。
「ねえ、マスター」
朝食を終え、キャスターが聖杯の作成に戻り宗一郎が学校へ向かった後、アルターエゴが純に話しかけた。
それが開戦の合図。
「今からちょっと私の部屋まで来てくれないかしら? ちょっと聖杯戦争について話し合いたいことがあるんだけど」
「あ、うん。わかったよ」
アルターエゴの誘う声。
純はそこにどことなくこれまでのお姉さんっぽい様相とは何か違うところを感じ取ったが、その正体にまでは気がつかない。
忘れてはいけないことだが、彼女は『イリヤスフィールでもある』のだ。
その子供っぽさもしっかりと持っていて、されど純は未だ『魔術師』であるイリヤスフィールとしか話をしたことはないので、そのことには気がつかない。
ついでにアルターエゴがイリヤスフィールに向けて勝ち誇ったような笑みを向けたことにも気がつかなかった。
「マスター」
「ア、アルターエゴ……?」
部屋に連れて行かれると、そこでようやくアルターエゴの雰囲気がおかしいことに気がつく。
気がつけば、純は押し倒されていた。
「イリヤスフィールとエッチなことをしたのよね」
「いぃっ……!?」
いきなりの言葉に驚く。
その瞳はどこか楽しそうなものであるにも関わらず、純は責められているような気がしてしまう。
特に、姿形は同じ少女だっただけに。
「大丈夫、別に責めてなんてないわ。
ただ、あの子に対してしたことに思うところがないわけではないけど……」
「せ、責めてないならなんで……」
「思うところはあるって言ったでしょう?」
アルターエゴはちろりと舌で純の鎖骨のあたりを舐める。
純はパニックになって気がつかなかったが、アルターエゴも顔を赤くしている。
普段であれば取らないような行動を取れるのは、自分にだけは負けられないという思いゆえか。
「ねえ、マスターさん。私ともエッチなことしましょ?」
その言葉は大層甘く、心地よく純の心の中に響いて。
前日にアルターエゴの言葉を受けてキャスターによって用意されていた、少しばかり理性を緩くする薬を盛られた料理を食べていたことで純の心は揺らぎ。
昨晩の、出会ったばかりのイリヤスフィールに対して行った性行為はきっと襲ったのだろう、と予感できていた純には相手から誘われている、それも一目惚れした相手からという状況は我慢が効くようなものではなくて。
「あ……」
気がつけば、押し倒していた。
誰かに負けるのはいい。でも自分には負けられない(女の魅力的な意味で)な状態の二人のイリヤちゃん。
間違えてはいけないのは、負けたくないだけで今の所は別に恋心はないということ。