“女難の対魔忍”暗躍譚 ―対魔忍RPGX HAERESIS― 作:holmint
ふうまとアンネローゼが侵入しようとしている工場は3階建てで、放棄されてから一度も清掃などはされた様子はない。元々は他の施設や工場で使う制服や作業着を作る縫製工場だったらしく、埃を被ったミシンや裁断機が放置されている。
窓には全てカーテンがかけられているか板が打ち付けられており、太陽の光は殆ど入ってこない。暫くすれば太陽も沈み、照明も一切付かない工場の中は完全な闇に包まれる。
そんな本来人が立ち入ることのない廃墟の中では、きな臭さを感じながら突入を試みる2人すら想像の出来ない程凄惨で、猥褻極まる暴虐が繰り広げられていた。
「んっぐぅ…………!! や、やめ……はぁぐ、ひぃっ……はぁ、あ……んあっぁあ……っ!」
“電輝の対魔忍”上原燐は手足を縛られ、壁に身体を張り付けられている。
それだけではなく、身に着けている対魔忍スーツは乱暴に引き裂かれ、半裸どころか全裸とほぼ大差ない程に肌を露出させられている。
それだけに留まらず、胸部と臀部は巻き付いたものによって形を歪められ、ただでさえ大きいそれらをより一層卑猥に強調させられている。
しかも彼女に巻き付いているものは、紐やワイヤーといった類のものではない。より生々しく蠢き、謎の液体塗れでぬらぬらとした、本能的に嫌悪感を抱かせるもの──即ち触手である。
「や、やめ……ろ! 零子! おい、正気に戻れ! こん……んんっぅ! やめっ……んああっ……!」
燐は目の前にいる不埒な襲撃者に向けて怒鳴るも、与えられる刺激に身悶えてしまい碌に言葉が続けられない。触手は襲ってきた女の背中から伸びている。女がそういった能力や生態を持つ人外というわけではない。その触手は女の背中に取り付けられた装置の排気口のように8つに分かれた穴からそれぞれ1本ずつ伸びている。戦闘にも使えはするのだろうが、燐からは女に対して今のようにふざけた真似をする為の装備にしか見えなかった。
「んんんっ……! くうぅ……や、止め……ろっ! そんなに絞めつけるな……あっぐっぅ!?」
制止の言葉が届いている様子はない。それどころか燐を襲った女は、ますます触手の動きを活発にさせた。
その女のいで立ちもまた奇妙極まるものだった。ほぼ全身を真っ黒なラバースーツで覆われ、僅かに口と鼻のみが外気に触れているようだ。口にはゴルフボール大の口枷、所謂ボールギャグを嚙まされ、意味のある言葉は発せないようにされている。
街中は勿論戦いの場にすら不釣り合いな女だ。ハードな嗜好を持つ客向けの風俗店でしか存在を許されない卑猥さを間近で見せつけられながら襲われていることも、燐の神経を逆撫でしている。
ましてそんな恰好を晒しているのが同僚かつ友人である事が猶更癪に障る。脅迫されて呼び出されたこんな場所で来た以上罠があることは当然想定済みだが、この有様は悪辣にも程がある。
「ああぅ……くそっ……! いい加減にしないと、こっちも手加減はしないぞ、零子……!」
そう言い、敵意を込めた視線を目の前の女に向ける燐。
今までは見知った相手ゆえに、傷つけることを躊躇い言葉による説得を優先していた。結果として抵抗が中途半端なものに留まっていたが、事ここに至りそれでは埒が明かないと考えを改めたのだ。
ラバースーツを着こんだ女―蓮魔零子とは、上原燐と同じく五車に所属する対魔忍であり、私的な交友関係はそれ程広いとは言えない燐にとって、最も気の合う同僚と言える存在だ。
口以外をすっぽり覆った恰好をしているが、付き合いの長い燐は一目見て零子本人だと分かった。他ならぬ彼女を人質に取られたからこそ、燐は単身こんな場所まで来たのだから。
燐と零子の間柄は、冷めた言い方をしてしまえば同僚以上の何かではない。
親友と言える程お互いを知っているわけではないし、一緒に飲みに行ったりだとか、プライベートな旅行に出かけたりとかもした事はない。しかし後進の育成方針や私生活における心構えなど、多くの共感できる部分が彼女たちの仲を深めていた。
いや、ひょっとしたら“只の同僚”と思っていたのは燐のほうだけだったのかもしれない。
最近、燐は零子にある“悩み”を相談された。零子の立場上、本来なら友人は無論の事家族にさえ打ち明けることは出来ないであろうその話をするくらいには、零子の方は親しみを持っていたのだろう。
その驚くべき話を聞いて―燐にとっては一生ものの不覚なのだが―余りの衝撃に面食らって絶句し、数秒ではあるもののどう返答すべきなのか分からず途方に暮れてしまった。
無論気を取り直してからの燐は、可能な限り真摯な対応を心がけていた。しかし、自分でも内心に湧き上がった困惑と忌避の感情を隠しきれてはいない事、意を決して相談してくれた友にもその思いが伝わってしまったことを察し、会話中常に自分の心が締め付けられるのを感じていた。何より燐自身が、こんな反応をしてしまったことに憤りを禁じ得ず、思い出すたびに自責の念がこみ上げてくる。
五車の中でも冷静さには定評のある燐をしてそうなってしまう程に、この話は意外かつショッキングな内容だった。余人ならば、むしろこんな話をしてきた零子の方をこそ責めるだろう。
そんな感情が一瞬たりとも脳裡に浮かばないのは、偏に上原燐という女が生まれ持った善性ゆえである。
兎も角その日以来、表面上は何事もなく過ぎ去っていても、2人の関係性には微かな、しかし決して無視できない暗い影が落ち込んでいた。少なくとも燐はそんな態度をとってしまったことを毎日のように恥じ、一刻も早く蟠りを解消したいと思っていた。
お互いの忙しい日々が今日までそれを許さなかったわけだが、今回彼女らしからぬ軽率な行動に出てしまいこんな窮地に追い込まれている原因は、その事に対する後ろめたさが多くを占めている。無論彼女とて、何の備えもせず敵地に乗り込んできたわけではない。しかし、現状は彼女の危惧した事態を遥かに超えていると言わざるを得ない。
何せ助けに来た筈の相手に襲われ、凌辱されようとしているのだから。
(零子相手だからと手は抜けん。倒さねばまずい……!)
意を決し、四肢を思い切り動かして不快極まる魔の手を引きちぎらんばかりに暴れる燐。目の前にいる同僚が洗脳されているにしろ操られているにしろ、手心を加えられる相手ではない。
手足をばたつかせながらも燐は乱れてしまった呼吸を整え、気を練り、この状況を打開するための術を発動させる準備を整える。
“電輝の対魔忍”の2つ名の通り、彼女は雷遁の術者である。
術の最大出力こそ水城ゆきかぜが勝るものの、応用力の高さはゆきかぜの比ではなく、任務に応じて様々な用途に用いることができる。
形成した電気製の刀剣による近接戦闘、体内を走る電気信号を操作しての身体機能の強化、空気中の電子を固定し力場を形成することで防壁や足場を作り出すなど、その多様さは多くの同僚から頼りにされ、ゆきかぜや甥の鹿之助含め、同系統の術を使う後輩にとっての目標となっている。
言ってしまえばゆきかぜと鹿之助のいいとこ取りをしたような術を使う上原燐はまた、実戦経験豊富な対魔忍でもあり、この手の窮地を脱するためのノウハウも熟知している。
たとえ気心知れた同僚が相手だろうと、一度心に決めた以上は油断も手加減もなく倒す覚悟はあり、実際今まさに手足から電流を流すことで、触手越しに相手を感電させるつもりだった。
しかし──
「……!? な、何故だ? 術が、でない……っ!?」
燐の意志に反して電流は一切出ず、静電気によって起こるような微細な痺れが腕と触手の間を走るだけだった。原因の分からない術の不発に百戦錬磨の上原燐も戸惑い、一瞬だが動きが止まった。
そして、その隙を敵は見逃さなかった。
「ああっ、ひ! ぐぅ……ぃひぃっ!? や、やめ、そこは……ひぁあ!?」
ラバースーツを身に纏う変質者と化した蓮魔零子は、粘着質な八本の手を駆使して上原燐を壁に抑え込み、彼女の肢体を本格的に撫で始めた。
愛撫と呼べるような生易しいものではない。皮膚に張り付いた触手は皮膚を舐めまわし弄うように粘性の物質を馴染ませるように塗りたくり、身体の拘束を強化しつつ卑猥な部分を殊更強調するように這いまわっていく。
乳首や陰核といった、特に敏感な部分には敢えて触れない。それら快感を呼び起こす急所を取り囲むように身体を包まれ、まるで触手自体が変態趣味のラバースーツになったようだ。
幾ら燐が気丈に歯を食いしばっても、口から甲高い喘ぎ声が漏れるのを抑えられない。
「くぅう……っ! は、離せと言って……!? な、何を……!?」
唐突かつ強引に、床へ引き倒される燐。
尻もちを付き視線を前に向けると、そこには信じられない「モノ」があった。
「なっ……お、お前……っ!?」
男性と交際したことのない上原燐にも、その「モノ」が何かは理解できる。それが今眼前にあるという現実を理解したくなかったのだ。
即ち、男性を象徴する肉の棒が、女である零子に付いていた。
「くっ……!? や、やめ……んぐぅ、んぼぅ!? ……」
呆けている間に腰を突き出され、無理矢理口内へ肉棒をねじ込まれる燐。
断じてそんなものを咥えさせられる謂れはないが、最早抵抗らしい抵抗は不可能だった。
術の不発に戸惑っている間に、体の動きすら覚束なくなっていたのだ。
(く、くそ……何故だ、何故身体が思うように動かない……!? 毒か、媚薬の類か……?)
「んぐぅ、ちゅぼっ、んぶぅ……!? んぶ、……ひゃめ……!? んんんっ……!?」
単に拘束されているから動きづらいだけではない。今まさに触手によって身体に塗りこめられているこの粘性の高い物質が原因なのだろうか。
得体のしれない触手が身体に纏わりつき、あまつさえ口の中へ入ってくる事自体への不快感もある。だがそれよりも、この粘ついたドロドロが身体に与える悪影響の方が、燐の心を焦らせる。
不治の病に罹るか、重大な障碍が残る可能性とてあるのだから。
「ふぅ、ひゃ、ひゃめ……! んんっ、んじゅ、うぶっ、はなへっ、んぐぅ……!?」
口内に指四本分ほどの太さがある触手を捻じ込まれ、好き勝手に頬の内側や歯、口蓋や喉までも好き勝手に撫でまわされながらも抗議の声を上げる燐。しかし、零子に届いた様子はない。
というよりそもそも、今もちゃんと零子本人の意識があるのかさえ定かではない。
猿轡を咥えた口以外の顔が見えないというのもあるが、触手以外彼女の動きは酷く緩慢で、酔っ払いか夢遊病者のように足取りすら覚束ない。立って燐の方を向いてはいるが、自分が襲っているのが自身の同僚だと認識しているかすら定かではない。
だというのに、燐はまるで動けない。
獲物を狩る蛸足のように絡みつく触手から出ている分泌物のせいか、触手自体が万力の如き力で抑え込んでいるからなのか。最早今の燐には、それすら判別できないほどに感覚が鈍ってしまっている。
「んぶぅ、ブはっ! ……やめ……やめろ……はぁう! ……!? だ、ダメだ、そこは……やめろっ!」
口から肉棒が抜かれ、呼吸を確保する暇もなく腕や胴に絡まった触手が、燐を壁に押し付けながら上に持ち上げられる。“電輝の対魔忍”は手足をバタバタと動かす見苦しい抵抗すら許されず、足を広げられた卑猥な恰好で磔にされている。二本の触手が更にスーツを裂き、女性器を完全に露出させているのが分かる。
脚が床から離され、眼下には先程まで咥えさせられていた剛直が、薄暗い中でも悍ましい存在感を放っている。燐は嫌でも「この後」の展開を予想できてしまい、恐怖で顔が青ざめた。
「やめ……ろ。やめて、くれ、零子ぉ……!」
哀願に近い叫びも、表情も碌に読み取れない凌辱者には届いた様子がない。
このまま成す術なく、(恐らく正気ではない……と信じたい)同性の同僚に穢されてしまうのか……そう思った時、思わぬ救いが訪れた。
「…………──!」
無言にして無音、しかし明瞭なる殺気を伴ってその斬撃は零子を襲った。
常人ならば察知することさえ不可能なその不意打ちを、常人ならざる感覚を持つ対魔忍である彼女は事も無さ気に躱した。しかも、自分と同程度の体重を持つ女を触手で抱えながら、である。
「……ふん、ふざけたナリしてやるじゃない。あいつらが手こずるだけはある、ってコトかしら」
死角から完璧なる不意打ちを仕掛けたと確信していた女剣士―アンネローゼ・ヴァジュラはそう独り言を呟き、愛刀「金剛夜叉」を構え直す。
渾身の一撃を躱されたことに対するショックはあまりない。しかし戦う相手を侮っていたことを自覚したアンネローゼは、慢心を捨て、改めて冗談にしか見えない恰好をしている「強敵」を見据えた。
口以外をすっぽり覆った、豊満なボディラインがはっきりと分かるラバースーツを着用。
唯一外気に晒した口部はギャグボールを装着し、端からは涎が垂れ流し。
ちゃんとした意識があるのか、アンネローゼのことを認識しているのかすら分からないふらついた足取り。
両手は素手、両足はラバー製らしきサイハイブーツを履き、武器を携帯している様子はなし。
機構は不明だが、背中に触手を出す装置を装着。飛び出している触手は6本あり、全てローションの様な透明の液体で滑り光っている。
(…………どこのどいつか知らないけど、変態なのは間違いないわね)
見れば見るほど気が抜けてしまう格好に、内心苦笑いをする魔女剣客。
気を引き締めると誓ったばかりなのに、どう見てもそういうプレイをする嬢の類にしか見えない相手に対応する方法を考えあぐね、彼女らしからぬ見の姿勢を取ってしまう。
言うまでもないが、単にその卑猥極まる姿に引いてしまったというだけではない。
「ぐっ……う、ぅう……」
彼女がいつものように一気に攻めかかれない理由。それは予想外な人質の存在である。
名前も知れぬ他人とは言え、明らかに無理矢理服をひん剥かれ、望まぬ性行為を強制されかけた女性を躊躇なく見捨てられる程、アンネローゼも人間性を失ってはいない。
おまけに半分以上切り裂かれたスーツの形状から、惨い目に遭っているのはどう見ても知人の同僚である。やむを得ない事情も無しに敵諸共斬るというのは、今後の事を考えると“無い”選択肢となる。
そんな女が首や腕に触手を巻きつけられ、自身の眼前に突き出されている現状は、アンネローゼから吶喊する意志を削ぐには十分だった。故に、不本意ながらも睨み合いに時間を費やすしかない。
(こいつが肉の盾を使うしか能のないヒキョ―モノだったんなら、迷う必要ないんだけど……)
「デスフレイム団」の団員たちを一方的に蹂躙し、女を犯しながら音速を超えるアンネローゼの一閃を回避したという事実からいってそれもまず“無い”。
手練れなのは確実。しかも、状況から鑑みれば絶対に本気を出していない。
今まで
多少の実力差や油断の有無なぞ何の足しにもならず、死ぬ時は誰だろうと死ぬ。それが魔女剣客が生きる殺し合いの世界の真理だ。
増して今懸かっているのは自分の命だけではない。目の前で凌辱されている誰かさんの命運もそうだが、彼女は今、アミダバラの治安をその双肩に預かっているつもりで剣を握っている。
こんなふしだらな女が自分を斃し、この街で好き勝手にのさばる未来図など、例え我が身を捨ててでも阻止する覚悟を、斬りかかったその瞬間に固めたのだ。
休日は下着姿で事務所内を歩き回り、依頼客が来るとほぼ毎回面倒臭そうな顔を見せる自他楽な普段の姿からは想像できないこの思い切りの良さはアンネローゼの短所ではあるが、彼女を「魔女剣客」たらしめる力の源でもある。
良く言えば、それは常在戦場の心構えでもある。斬るべき対象を察知した刹那、反射で身体の全てを“それ”に向けられるように、鍛錬によって思考を条件づける。
何もアンネローゼだけに限った話だけでなく、闇の世界で名を知られるような猛者となるには須らくこの手の技能を体得しなければならない。でなくば、恐らくアミダバラのような街では2日と生きていられまい。