すんません間違って次の話の冒頭(作りかけ)を投稿してました。
なんでか分からんけど今(7/5)気付きました・・・
睦言は終わり、夢心地にふわふわと浮かれた心を抱えてカリフォルニアアシカと俺は、海獣園を離れホテルへ向かっていた。
理由はいくつかあるが、あえていうなら動物としての本能のせいだろうか。交尾に使ったエネルギーはどうやら相当の量だったらしく、俺もアシカも空腹を訴えた。体を重ねながら腹が鳴るというのは随分情けないがほぼ同時だったせいか笑い合って終われたのだから成功だろう。持ってきたじゃぱりまんでは足りない辺りで、運動量は察してもらいたい。
「このままホテルへ行けばいいですか?」
「ああ、確かあっちの崖に近い浜が部屋と繋がってる」
「わかりました。ではしっかり掴まってくださいね」
言葉としては凛々しくあり、しかし態度としてはそうでもない。眼鏡の奥にある瞳に宿った柔らかさが示す通り、後ろから彼女の肩に回した腕を細腕が擦ってくる。なんとなく愛おしさから小さな頬をくすぐれば甘えるように頭を俺の首筋にこすりつけてくるのだ。可愛らしいったらない。
できればこのまま何か囁いてみたいところだが……あいにくと海面ギリギリだ。口の中に海の水が入ってくるのは、正直な感想として快適とは言い難い。
ゆっくりとパークの岸を見ながら泳ぎ(俺は掴まっていただけだが)、自室に備え付けのプライベートビーチに上がった頃には昼時というには少し遅い時間帯となっていた。
「ここがホテルの中ですか……なんだか狭い造りですね」
「来たのは初めてか」
「ええ、やっぱり水辺のほうが落ち着きますから」
そうは言いつつも、彼女の好奇心を随分くすぐるらしく、ベッドに腰かけてみたり広い風呂のお湯に手を付けたりと忙しない。一挙手一投足を見ていて飽きもしないほどだが、さすがに空腹が限界だった。いい加減腹の虫がけたたましく騒いでいる。
「なにか食べ物を頼もうか。多分フレンズ用のも……ああ、あったあった。何がいい?」
「これは、メニューですね。海獣園のレストランにもありました。じゃぱりまん以外にもあるんですね」
ベッドの上で、身を寄せ合っているとどうにも意識してしまうものだが、それは今のところ俺だけのようだ。彼女はといえば俺にもたれかかっているのがごく自然のことのように振舞いながら、居酒屋のメニューとはかけ離れた質感のメニューを吟味している。
無防備な白く張りのあるお尻に手を伸ばして……手を止めた。色気より食い気が上回っているのもあるし、下心を丸ごと吐露してしまえば、部屋に連れ込んだ時点でいつでもいいのだ。どうせならしっかりヤりたい。
俺が猿のような思考を巡らせている間にも彼女は迷っていたが、どうやらいつものじゃぱりまんではなく「とりあえず見たことも無い食べ物」を選んだらしい。
「じゃあ俺もそれにするよ」
ルームサービスは至れり尽くせりで、頼んだらほとんど待たずにやってきた。さすがにアシカには少し離れてもらったが、彼女が部屋にいること自体はやはり違和感を持たれない。「仲良くなられたんですね」と綺麗な女性スタッフに微笑まれた俺の内心は冷や汗で濡れていたが。
「なんだか少しピリピリとします。美味しいですが、フレンズによっては苦手かもしれませんね」
「確かに少し辛口かな……子供用だともう少し甘いんだけどな」
「そういえばヒトの子供は甘いものをよく食べていますね。あなたも子供の頃はそうだったんですか?」
「ああ、チョコとかアイスとかは今でも好きだよ。ただ最近はあんまり食べなくなったなあ」
回顧するほどのものでもないが、いざ思い浮かべるとチョコレートの甘さが欲しくなる。特に今のようにカレーを頬張っていると適度なほろ苦さと甘味が欲しくなって、余計にカレーの辛さが美味くなるのだ。
あっという間に平らげた俺と違い、アシカはまだ半分程度のペースで食べている。彼女は初めての味を噛み締めているようなのだが俺のほうはインスタントの百倍は美味いカレーに舌鼓を打つ暇もなく、本能のままに流し込んだだけだ。個人的に、カレーは一気に食べた方が美味い。
ふと、脳裏に昨日のことが思い浮かぶ。子供という言葉に触発されたからかアシカの気を引くためのじゃぱりまんを貰った、ともえ、という少女のことを。そして連鎖的に彼女の兄や、リョコウバトのことも。
「子供といえば今、双子の兄妹がパークにいるんだけど会ったかな。妹の方は昨日海獣園に行ったらしいけど」
「いえ、会ってはいませんね。ですがそうですか、ヒトの子供であればぜひ会いたいです」
「そうなのか?」
「私たちのショーを一生懸命見てくれるのは子供ですから。私もヒトの子供は好きですよ」
……俺とどっちが好き? なんて馬鹿げた質問はさすがに恥ずかしい。
「確か今はハウスに行ってるはずなんだけど、良ければ行ってみるか」
「いいんですか?」
何気ない提案だったが、これに案外アシカは乗り気だった。その理由が子供がいるからだという事に若干の嫉妬を覚え、なんとも馬鹿らしい自分に呆れる。まるで自分が動物になってしまったかのような独占欲だ。
「ああ、もちろん。じゃあ早速行こう、多分エントランスから小さいバスで行けるはずだ」
そう言って立ち上がると、彼女も同時に立ち上がった。行動が早いのはいいことだがそんなにあの双子のところに行きたいのかと再び嫉妬心が顔を出す。
「どうしました?」
「ん、なにが」
「いえ、あなたの手が肩を抱いているので。歩きにくいです」
無言を貫く。抱き寄せた彼女が首を傾げた。
『ハウス』というからどんな大きな場所なのかと思ったら、実際に見てみるとキャンプ場の様な場所にいくつかの小さい家が建ち並んでいて、その中にイエイヌなどのフレンズが住んでいるらしい。なんでも彼女たちは自分たちのドッグハウスを好むとのことで、別段悪意で隔離されているわけではないようで一安心だ。
そんな場所に、俺とカリフォルニアアシカはいた。彼女は俺の腕に抱き着くようにしている。どうも俺が肩を抱いて歩いていたせいで引っ付きながら歩くのがプチマイブームとなったようだ。嬉しい反面、豊かな胸が腕を擦るため疑似的に、いわゆるパイズリをされているような気がして、俺は腰が引けている。完全に勃起していると言い換えてもいい。厚いズボンに着替えていて助かったが痛いのが難点だ。
「あっちのほうが賑やかですね。行ってみましょう」
「いいけど少し離れて……いや、でもなあ」
「?」
「なんでもない。行こう」
下半身に負けた。
彼女が賑やかと表現した場所は、人によっては騒がしいと思えるほどだった。どったんばったん、とまでは言わずとも何人かのイヌ科のフレンズらしき遠吠えが聞こえる。もちろんフレンズだからいわゆる遠吠えというより女の子が声を張り上げている感じで、どうにも違和感は否めない。多分パークじゃなく街中で聞こえたら関わり合いにならないか、警察や救急車を呼ぶレベルだ。
近づけば近づくほど五月蠅い。が、少しずつ彼女たちの声に一定のリズムのようなものがあるのがわかった。音程と言っていいレベルかわからないが、一応それもある。
そしてようやく見える場所までたどり着くと、何人かのフレンズが並び、その前に例の女の子がいるではないか。兄のほうは少し離れた場所で別のフレンズと遊んでいる。その傍にはリョコウバトも立っていた。
「あれはカラカルです。彼女は普段サバンナ地方にいるからハウスにいるのは珍しいですね」
そのカラカルは男の子と何やら、知恵の輪のようなもので遊んでいたが、すぐにこちらに向けて指をさした。それに釣られて男の子が手を振り、リョコウバトが振り向く。
俺の姿を認めた彼女は遠目からでもわかる笑顔を浮かべ――腕を絡めるカリフォルニアアシカを見て、困惑を露わにしたようだった。