※この作品はR-18です。

佐倉慈先生と共依存したい。   作:朝潮

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いっしょに
第10話


 

 

 

巡ヶ丘学院。地下のシェルターにて。

手足を縛られた裸の女性が、もじもじと体をよじらせていた。

 

「はい、口を開けてください。ほら、あーん。」

「うぅ…ねえ、やっぱりやめない?私、自分でできるから…」

「でも、そんなことしてたら時間がかかりますよね?」

 

彼女に相対するのは、制服を着た男子生徒。

2人はなにやらもめている様子。

 

「ほら、早く食べてください。佐倉先生。」

「む…」

 

慈の手は、櫂によって縛られている。食事を摂るのも一苦労だ。

そこで、櫂は慈に食事を食べさせようとしていた。

櫂が切り分けたハンバーグをスプーンですくい、慈の目の前に差し出す。

 

「あ、あ〜ん…」

 

(まさかこの歳で、一回りも年下の男の子に食事を食べさせられることになるとは思っても見なかったなあ…)

 

慈は、顔を真っ赤にしてスプーンの上に乗せられたものにかぶりつく。

 

「はぁむ!…んっ!もぐ、もぐ…」

 

ええい、ままよ!と、思い切って口に入れる。

カチン、とスプーンと歯がかち合い、掬われたハンバーグの欠片を口の中に入れた。

 

ソースが舌先に触れた瞬間、慈の顔がキラキラと輝く。

驚いた。久しぶりに食べたハンバーグがとても美味しかったのだ。

小さくもぞもぞと口を動かす慈の姿は、まるで小動物のようだった。

 

「美味しい!すっごく美味しいよ、櫂くん。」

 

(女神か…結婚したい)

 

小学生のように、ハンバーグを食べてはしゃぐ慈。

その嬉しそうな表情を見ながら、櫂は自分のハンバーグに口をつけた。

甘辛いデミグラスソースが舌に絡み合い、噛み潰すと肉厚なミンチと中から溢れ出た肉汁が口の中で踊る。

櫂は、シェルターの食材を食べている時だけは幸せだった。

 

ちなみに、櫂はしっかりと自分と慈のスプーンを分けていた。

櫂にも、流石に目の前で間接キスを堂々とする勇気はなかった。

 

「そうですね。肉汁が中までぎっしり詰まってます。」

「本当にね。こんなに美味しいの、久しぶり…」

 

いつも食べているものに、文句があるわけじゃない。

毎日作ってくれている悠里の料理が美味しくないわけじゃないし、ケチをつけるつもりもない。

だが、1ヶ月以上も食べられなかった缶詰以外の肉の味は格別なものだった。

そして、この美味しさを他の生徒たちと共有できないのが少し寂しかった。

 

「はい、もう一口どうぞ。」

「あ〜ん…」

 

朝食にハンバーグとはかなり重いものだったが、普段良いものを食べられていないであろう慈に櫂が気を使って美味しいものを選んだのだ。

シェルターに保存されていた食料には肉や魚といった美味しいものが多く、それが櫂一人だけならば1年以上も保ちそうなほどの量があった。

毎日食べて寝るだけの櫂は、食事だけが唯一の楽しみだった。

慈は少し嫌そうだったが、櫂はどうしても慈に美味しいものを食べて欲しかった。

 

「はん…はん…はむ…こくん。…ふぅ。本当に美味しいわね。」

 

慈は、ぎゅっと詰まったミンチ肉を何度も何度も噛み締めて嚥下する。

絡まった薄味気味のデミグラスソースの味が、お腹を刺激する。

勝手に唾液が分泌され、もう一口、もう一口、と催促する。

昨晩は食べられなかったが、これほどまでお腹が空いているのはおかしいと感じた。

幸いなことにそのハンバーグは1人前でもとても大きく、慈が満足しても余るほどの大きさがある。

 

(そういえば、私の最後の記憶は…お腹が空いた事だった…)

 

本能的に感じてしまった、人間を食べたいという欲求。

それを必死に押し込めて、行くあてもなくできる限り遠くへと向かった。

私はあの時、あの子達を食べようと…

 

「はい、どうぞ。」

 

櫂は次の一口を、スプーンに乗せて差し出した。

慈は、それをどうしても人間の肉を想像してしまって…

 

(嘘…どうして美味しそうって思ってしまうの…?)

 

その肉を、これまで以上に美味しそうだと感じた。

…そう、感じてしまった。

 

「どうしたんですか?」

「っ!…そ、その…」

 

突然食べなくなってしまった慈を、櫂は不思議そうに見つめる。

純粋な目でじっと見られた慈はたじたじとなってしまう。

 

「はぁむっ!」

 

慈はどうしようかと少しの間逡巡したが、結局ハンバーグを口の中に含んだ。

肉を食べる、という行為は怖かったが、今は、櫂に無用な心配をかけないようにしたかった。

結果的に悩みを1つ増やしてしまうこととなったが、しかしハンバーグは本当に美味しい。

本当にほっぺたが落ちてしまいそうだ。

 

(でも、ちょっとこのソース、ちょっと薄味…?)

 

慈は、デミグラスソースが水で薄めたような味に薄くなっている、と感じていた。

勿論、櫂は正常にとても濃い味を味わっていた。

加えて、温めていたはずのハンバーグの温度を感じることができていなかった。

慈は気がついていなかったが、焼くことはできなくてもせめて暖かくしないと美味しくないと考え、冷蔵されていたハンバーグをシャワーのぬるま湯で湯煎していたのだ。

 

慈の体は、人知れず段々と人間としての機能が抜け落ちてきていた。

それに慈が気がつくのは、もう少し先のことだった。

 

「先生。ほっぺたにソースがついてますよ。」

「えっ、うそっ!?」

「ほんとです。」

 

(入籍したい…)

 

 

 

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