佐倉慈先生と共依存したい。 作:朝潮
「私、丈槍由紀!3年C組!学園生活部に入ってるよ!よろしくね〜」
「オレは宮本櫂です。1のBです。よろしくお願いします。丈槍先輩。」
「せ、せんぱい…!むふふっ、櫂くんはこーはい君かあ…!」
「あ、まあ…(櫂くん、って…)」
目がしいたけになったぐいぐい来る由紀に少し及び腰だが、仲良くできている気がした。
慈は、その様子を微笑ましものを見るような目で見ていた。
「私の事はゆきでいいよ。ゆき先輩って呼ばれたかったんだあ。」
「わかりました、由紀先輩。…これでいいですか?」
「おぉ〜!バッチリだよっ!」
この状況でこんなに冷静になっている由紀はおかしい。
また、どこか心が壊れてしまったのだろうか。
(…でも、ゆきさんが元気そうでよかった…)
こんな事は思ってはいけない。
なのに、目を輝かせている由紀に、慈は救われるような気がした。
「櫂くん、部活は?」
「帰宅部です。エースで4番です。」
「えーす…?部活に入ってないなら、学園生活部に入らない??」
「は、はい、オレは入っても良いですよ…」
ぐいっと顔を寄せる由紀に、櫂は半身引いた。
由紀の異性に対する接し方に、櫂は距離が近すぎて困ってしまう。
(由紀先輩がこんなにアグレッシブなんて聞いてない…)
櫂は説明不足な慈を心の中で責めた。
そんな櫂の内心は、ニコニコ顔の慈には少しも届いていなかった。
「トイレに行きたくて起きた」という由紀に、慈と櫂は他の部員達のもとへと案内してもらった。
「彼ら」が攻め込んで来ことを危惧して、今は頑丈な扉が付いている放送室で寝ているという。
そして、布団の中でうなされていた2人を起こしたところ、初めは夢かと混濁していた意識も、時間が経つにつれはっきりとしてきた。
後ろでそれを眺めていた由紀や櫂に気付きもしないまま、何分と泣き続けていた。
「うああああ!わああああ!めぐねえ!めぐねええ!」
「めぐねえ…ぐすっ…無事で良かったです。本当に…」
慈は、何の躊躇もなく学園生活部の部員達に歓迎されていた。
それも、生きている理由もそこそこに泣きついてきたのだ。
どちらも普段の様子からは泣いている姿を想像できない子達だったため、慈は驚いた。
胡桃は「彼ら」の仲間となってしまった
悠里に至っては、こんな事になってしまっても未だ涙は見たことがなかった。
「もう。…佐倉先生でしょ?」
慈が優しく諭しながら2人を撫で付けると、2人はそれまでよりも大きく泣き始める。
そしてそれほど心配をかけてしまった事に罪悪感を感じた。
(これからは絶対に泣かせない。泣かせてたまるものか。)
慈は、強い決意を自らの胸の中で誓った。
「…それにしても、どうして…」
瞳に涙を浮かべながら、悠里は慈へと問いかける。
それは当然疑問であり、むしろ何故今まで聞かなかったのかという問いだった。
「それは…そこの、櫂くんが…」
慈が視線を向けた事により、櫂に全員の視線が注がれる。
2人は、ここに
私達以外に生き残った人間がいた、という事実よりも、だ。
それほどまでに、2人は周りが見えていなかったのだ。
「あ…どうも…」
急に注目を集められた櫂は、緊張しておかしなことを口走る。
いや、初めて会った相手にとる態度としてはあながち間違いではないのだが…
「この学校の地下にいた私を助けてくれたの。薬を使ってね…。」
「地下…?」
「薬…?」
2人は、初めて聞く情報に不思議そうな顔をする。
慈にはあのマニュアルのことをもう隠すつもりなどない。
初めは罪悪感に加え、知らぬが仏だと思い黙ったていたが…
慈は、しっかりと伝えていなかった事を後悔していた。
「ねえ、何のお話?」
意識の外から話しかけられた事によりびくりと震える。
2人はほぼ同時に、抱きついていた慈から離れた。
すっかりと由紀の事を忘れてしまっていたのだ。
「ゆきちゃん!起きてたの?」
「うん。おトイレ行きたくて…」
「…その事については、また明日話しましょう。今は、皆眠いだろうから…」
幼児退行してしまった由紀に、この事を説明するのはまだ早い。
そう判断し、言いかけた慈を胡桃が慈へ抱きつく事で止めた。
「…まだ、寝たくない。今寝たら、夢が覚めちゃいそうだから…」
(恵飛須沢さんはあまり甘えるようなタイプではないと思っていたけど…それは勘違いか。)
「…そうね。」
一度寝てから、と考えた慈だが、考えを改める。
2人は夢の中でうなされ、悪夢を見ていたようだった。
今は、そんな場所に戻るよりも再会を喜んでいたいだろう。
「くるみちゃんずるい!私も!」
黙って見ていた由紀は、我慢できなくなったとばかりに慈へと抱きつく。
慈は、自らの行動を思い出し恥ずかしがっていた悠里を再び呼び寄せる。
「けほっ!けほっ!…すみません…けほっ!」
「あっ!…あの、めぐねえを助けてくれた人ですよね?」
「ええ、まあ…成り行きで…」
今まさに、慈へと抱きつこうとしていた悠里は、櫂の存在に動きを止めた。
そして、名残惜しそうながらも慈へと甘えるのは諦めた様子だ。
「私は、巡ヶ丘高校3年、若狭悠里よ。」
「あ、どうも…オレは宮本櫂です。同じく巡ヶ丘の生徒で、1年です。」
櫂達が話していたその間に、恥ずかしそうに胡桃は慈の体から離れた。
そして、何事もなかったかのように、だが少し頬を染めながら自己紹介を始めた。
さっきのことはなかった事にしたようだ。
「私は恵飛須沢胡桃。3年だ。どうやってかはわからないけど、めぐねえを助けてくれたんだよな?ありがとう。」
「私からも。ありがとう…」
「でねでね!かいくんは入部希望なんだって!」
初めましての相手にも下の名前を呼ぶ、コミュニケーション能力のお化けか。
幼児退行した事を知らない櫂は、失礼にもそんな事を考えていた。
「はい。出来れば、なんですけど…」
櫂は、この場所にいた生徒3人を先輩だと知り、敬語になって話し始める。
まさか由紀が由紀先輩だったとは、と失礼なことを考えていた。
「もちろん!部長として、あなたを歓迎するわ。」
悠里は、一切の躊躇いなく櫂を学園生活部へと迎え入れた。
知らない人だからとか、男だからとか。
そういう感情を抜きにして、純粋に人助けをしたかった。
それに、櫂はどうやら慈を助けてくれたらしい。
次は、自分たちが櫂に報いたかった。
「ところで、由紀ちゃんは宮本くんと知り合いなの?」
「ううん?さっき廊下で初めて会ったんだよ。」
(廊下…ということは、由紀ちゃんがここまで連れてきてくれたのかしら)
由紀が連れてきて、その間に自己紹介は済ませてあるのだろう、と納得した。
その考察は、一切の間違えなく当たっていた。
「あの…1つ聞いてもいいですか?」
「何かしら?」
悠里は、部活の詳細か、でなければ自分達の事か何かを聞かれるものだと思った。
もしかしたら、由紀の精神の異常を気づかれてしまったのか。
由紀は、慈がいなくなってから悠里からして見てもおかしくなってしまったように見えたからだ。
が、しかし、櫂の問いは全員が予想していたものの遥か斜め上をいっていた。
「地下から上がってくる時に思ったんですけど、何で防火扉を閉めてないんですか?」
「「「…ぼ、ぼうかとびら…?」」」
(…オイ!)
呼び方の話になるんですけど、めぐねえは1人あたり2つ3つの呼び方があります。
それを、先生を意識している時と、佐倉慈として接している時とで生徒への呼び方が変わるのではないかと考えました。
(あるいはまだ壁があった過去と距離が近づいた現在?)
呼び方は意識して書いているつもりですが、どうしても徹底するのは難しいので間違えている部分もあるとおもいます。
一応自分の中で混乱しないよう呼び方を統一するため、確認できためぐねえの呼び方一覧を書いておきます。
名前|ㅤㅤ先生モードㅤㅤ|友達モード
ーー| ーーーーーーーー|ーーーーー
胡桃|恵飛須沢さん ㅤㅤ|胡桃ちゃん?(原作、アニメ共に確認できず)
由紀|丈槍さん/ゆきさん|ゆきちゃん
悠里|若狭さん/悠里さん|悠里ちゃん
ーー| ーーーーーーーー|ーーーーー
櫂ㅤ|宮本くん?(未定)|櫂くん
(原作4巻に先生モードの時はひらがなで名前+さんで統一?)
ソース
恵飛須沢さん→アニメ3話/原作1巻P124
丈槍さん→アニメ1話
ゆきちゃん→原作1巻P6
若狭さん→アニメ3話(原作では未確認。過去の教師と生徒の関係だった頃だけの可能性も)
悠里さん→アニメ7話
悠里ちゃん→原作1巻P111(上と同じシーン)
ちなみに
胡桃→ゆき/りーさん/みき(4巻153)/めぐねえ
由紀→くるみちゃん/りーさん/みーくん/めぐねえ
悠里→くるみ/ゆきちゃん/美紀さん/めぐねえ
美紀→胡桃先輩/由紀先輩/悠里先輩/???
(美紀に関しては1対1だと名前抜きの先輩呼び)