佐倉慈先生と共依存したい。 作:朝潮
佐倉慈の独白
私はあの日から、段々と眠れなくなってしまった。
最初の頃は、寝つきが悪い程度だった。
床に直接寝ているのが辛いのだと、そう思っていた。
おかしく思い始めたのはいつからだっただろうか。
どうしても眠れないのだ。眠気もない。
「…よく寝てるわね。」
私は、すうすうと寝息を立てる彼女たちの頭を撫でる。
先程まで泣いていた事が不思議なくらいに落ち着いている。
ほっと微笑みが溢れる。私は、またこの子達を守る事ができるんだ。
「…」
守ると言えば、櫂くんのことだ。
彼は女子と同じ部屋だと落ち着かないと言って隣の部屋で寝ているはずだ。
私にとっては彼も庇護対象。
バリケードが復活しているとは言え、少し不安だ。
壊れた過去があるため、盲信はできない。
あとで、しっかり様子を見に行かなければならない。
…子供とはいえ、彼もやっぱり、男の子だ。
今日はびっくりしたな。まさか、あんな事…
私でなかったらどうなっていたと思っているのだろうか。
私だから良かったものの。私だから良かったんだよ?
…やっぱり、これからも櫂くんは私とえっちしたいんだろうか?
もしかしたら、この子達の誰かと恋したり…はあ、若いなあ。
私の時と同じようなことになる前に、しっかり言っておかないとダメかな…
それとも、適度に気持ち良くしてあげる方が喜んでくれる?
男の人は、毎日でもえっちなことをしたいって言うし…
…ううん。違うな。
少し麻痺してきているような気がする。
私は教師。生徒を守るべき立場。
「むにゃむにゃ…めぐねえ…」
「…! はいはい。なんですか?」
寝言で私の事を呼ぶ由紀さん。
彼女の顔はとても幸せそうだ。
…それが良い事なのか、悪い事なのか。
私には判断がつかないけれど…
櫂くんにも、幼児退行しているような節が見受けられる。
由紀さんとのコミュニケーションが、良い方向に転がればいいけど…
私は、ねむりこける由紀さんの頭を撫でる。
ゆっくりとした動作で、優しく。
こんな手で、生徒たちに触れてもいいのだろうか。
汚れた、なんて言えない。
だって、そう言うと櫂くんが汚いものみたいだから。
悪いのは、生徒と関係を持ってしまった私。
「…はふぅ。少し落ち着こう。」
また、自分を責めてしまった。
そりゃ、悪いのは私だけど、こんな事を考えているといつか押しつぶされてしまう。
私は暫く様子を見た後、気持ち良さそうに眠り続ける彼女たちの元を離れる。
窓から射す月光で、暗いはずの廊下が良く見える。
この階で生活していた頃はなかった血の跡や壊れた箇所が目に入る。
少し見つめてから、すぐ近くにある隣の教室へ。
起こしてしまうとまずいと思い、ゆっくりと横開きの扉を開ける。
…そして、喘ぐ櫂くんの姿を見た。
「あ゛ぁあ…あ゛ぐぅ…」
「櫂…くん?」
その声は、まるで「彼ら」のようなもの。
喉奥から絞り出すように空気を吐き出している。
その言葉が、すぐに私の頭に浮かんだ。
「櫂くん!櫂くん!?大丈夫!?先生の声、わかる!?」
私は必死に問いかける。
が、彼から帰ってくるのは全てうめき声、喘ぎ声、喚き声。
どうやら意識はないらしい。
私は、跳ねるように地下から持ってきた物資の袋を漁る。
彼が持ってきた物資は、当たり前だがこの部屋にありすぐに見つかった。
中から取り出したのは、私に使ったはずの血清。
「う…がぁあ…っ!うぁっ!」
「…はぁ…はぁ…大丈夫。あなたは死んだりしないわ。」
激しく打ち付ける鼓動。勝手に荒くなる呼吸。
一刻1秒を争うと、私は付属していた説明書をさっと読み流して治療に入る。
何も難しいことはない。これを、腕の血管に打ち込むだけ。
「…はあ…はあ…いま、助けてあげるからね…!」
緊張からか、手がフルフルと震える。
針を腕に押し付け、震えないようしっかり固定する。
ぷす…ちゅうう…
これで大丈夫なはずだ。
私もこれで大丈夫だった。
大丈夫だ。大丈夫だ。絶対に大丈夫だ。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
大丈夫…な、はずなのに、安心できない。心がざわざわする。
櫂くんも、こんな気持ちだったんだろうか…
頭の中に響くうるさい鼓動も、止まらない腕の震えも。
治らない荒い呼吸も、滲む視界も、引き裂かれそうに痛む心も。
全部、全部どうでもいい。何も気にならなかった。
「ぜったい、死なせない!!ぜったい!ぜったい!!」
私は、強く、強く櫂くんの手を握った。
もし、この手が冷たくなったとしても。
絶対に離さない。絶対に見捨てない。
「どうして…なんでこんな…」
いつの間にか流れていた涙が、床にシミを作った。
櫂くんは、「彼ら」に噛まれてしまったのだろうか。
だとしたら、上に行こうなんて言い出した私のせいだ。
私の…いや。噛まれているはずがない。
櫂くんはずっと私のそばに居たし、離れたのは数秒。
その間に噛まれた?…いや、あり得ない。
噛まれる前に、「彼ら」が声を上げた瞬間に私が気づく。
噛まれてない…だとしたら…
まさか…私の…せい…?
私が、櫂くんに感染させた…?
思い当たるのは、先程の行為。
2人で交わった、その記憶。
「まさか…」
私が、殺した…?
昨日の投稿お休み…ごめんなさい
投稿頻度、下げるつもりはないんですけど、もしかしたらちょっと下がるかも…
出来る限り頑張るつもりです。