※この作品はR-18です。

佐倉慈先生と共依存したい。   作:朝潮

24 / 49
第24話

 

 

 

まずはバリケードの確認だ。

昨日、バリケードを防火扉の向こう側へ移動させた。

そして、内側の防火扉を閉めて二重のバリケードを築いた。

これが有効なら、学校内の安全度はぐっと増すだろう。

 

「しっかりと閉まってますね。」

「これを開けるぐらい知能があったら、あたしたちもう生きてないって。」

「ですね…」

 

だが、ここからでは向こう側の様子が全く見えない。

櫂たちは、ゆっくりと防火扉を開ける。

 

「…いますね。」

「そうだな…」

 

机のバリケードは無事だった。が、その更に向こう側に「彼ら」を見た。

気づかれないように隠れ、小声で耳打ちし合う。

胡桃は、この防火扉の有用さに舌を巻いた。

最初からこれがあれば、めぐねえも…と考えたところで首を振る。

 

「後輩はそこで見てて欲しい。」

「…危なくないですか?」

「大丈夫だって。一匹なら余裕余裕。」

 

胡桃は、物を転がして「彼ら」の注意を引きつけ、そしてバリケードを飛び越える。

幾度となく飛び越えてきたのだろう、その動作は完全に手馴れたものだった。

櫂はというと、ふわふわ揺れるスカートに根が釘付けになっていた。

 

「せいっ!」

 

そんな間に、胡桃は元女子生徒をシャベルで斬り伏せる。

血飛沫が舞い、「彼女」は動きを止めた。

櫂は先程まで見ていた踊るスカートを見ていたことも忘れ、その無駄のない所作に感心していた。

 

「すごいです。恵飛須沢先輩。」

「へへへ…だろ?」

 

胡桃は褒められ、得意げに笑う。

胡桃にとっては、「彼ら」の処理こそが最も自分が部に貢献している事だと思っている。

役に立てている、という実感を持っている。そして、そのことが密かな自慢でもあった。

 

「あー、それと。胡桃でいいぜ。長くて呼びにくいだろ。」

「胡桃?」

「ちょ、ばっ…!先輩を付けるんだよ、先輩を!」

「す、すみません!胡桃先輩…」

「そうそう。」

 

少し頬を赤らめたまま、胡桃は強引に話題を変える。

 

「にしても、良く見てたな。気持ち悪く無かったのか?」

「…はい。」

 

櫂は、あんなに怖がっていた「彼ら」を見ても、怖くなかった。

それは、精神が成長したのか、それとも…

櫂が暗い思考へと向かっていると、胡桃が快活そうに笑う。

 

「向いてるかもな、後輩。」

「そうなんでしょうか…」

 

…これがもし感染の影響だとしたら。

自分が自分でなくなっているかのような気がして、櫂は寒気を覚えた。

危険なことに恐怖を覚えないことが一番の恐怖なのだ。

 

好き好んで火に手を突っ込む馬鹿はいない。

…が、今の櫂はその火を怖いと思わない。

手を入れても平気かも、と呑気に考えてしまう。

例えるなら、こんな感じだろうか。

 

「い、いや、無理にとは言わないからさ!無理しなくても、あたしだけでもの足りてるって言うか…」

 

櫂が黙りこくっている事に不安になったのか、胡桃があたふたとし始める。

胡桃はろくろを回してあまりにも焦るものだから、そんな様子に、櫂は思わず吹き出した。

 

「こ、ここは安全だったから、次は反対側のバリケード見に行くぞ。」

「はい。胡桃先輩。」

 

胡桃は恥ずかしそうに顔を逸らして、ずんずん歩いていく。

櫂はその後を急いで追いかける。

櫂にとって、頼もしい先輩だった。

 

 

 

胡桃と櫂は、三箇所あるバリケードの見回りを終えて、元生徒会室の部室へと戻ってきた。

まだ授業が終わっていないのか、由紀と慈はここにはいない。

 

「って事で、防火扉はかなり役に立つと思うぜ。」

「そう…これで、もっと安全になったわね。」

 

確かに、物資を取りに降りるときには音が鳴って大変だが、それよりも普段の安全の方が大切だ。

それに、いざとなれば非常用ハシゴを使えば下に降りることもできる。

 

「お手柄ね、櫂くん。」

「はい…ありがとうございます…」

 

悠里は、どこか慈を思い起こさせるような顔でふんわりと笑うと、櫂の手を優しく包み込んだ。

突然のことに、櫂は動揺してカチコチに固まってしまう。

女性とのスキンシップは慈が初めてだった櫂には、一昨日初めて出会った美人に手を触られるなんて、刺激が強すぎた。

 

「本当に…いくらお礼を言っても足りないわ。」

「いや、そんな大したことは…」

 

悠里は、後輩の櫂を由紀と同じ目線で見ていた。

慈の恩人だからか、この間まで中学生だったその幼い見た目故か。

この短期間で、悠里には櫂は可愛い弟、と言う像が出来上がってしまっていた。

緊張して謙遜する櫂の言葉を、悠里は首を振って止める。

 

「めぐねえを助けてくれた。…それだけで私たちは救われてるわ。」

「そうそう。もっと自信持てよ。」

 

慈。由紀。胡桃。悠里。

ここは、笑顔でいっぱいだった。

櫂は、思わず感極まってしまう。

 

「…ありがとうございます。」

 

慈と出会って、櫂の暮らしは大きく変化した。

もう、地下で1人寂しく暮らしていたことが夢だったみたいだ。

 

上に来て。慈へ着いて来て良かった。

櫂は心からそう思った。

 

友人が化け物に変わった。

自分を助けてくれた人が自殺した。

…もう、あんなのは御免だ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。