佐倉慈先生と共依存したい。 作:朝潮
「そうそう。こっちだよこっち。おーい、どこ行くんだ〜?」
櫂はわざと音を立て「彼ら」を引き連れて階段へと向かう。
だが、今日は何故だか「彼ら」の反応の悪い。
人間が近くにいるのに、積極的に襲ってこないのだ。
少し手間はかかるが、櫂は壁や床を蹴って音を鳴らし、「彼ら」を引き寄せる。
そして…
「先輩!」
「はぁああっ!」
階段付近へ来たと同時に身を引く。
ザザッ!
死角から現れた胡桃が、シャベルを振りかぶって薙ぐ。
一匹の首が飛び、コロンと地面へ転がった。
「あぁ゛あ゛ぁ゛ぅゔぁ…」
櫂が引き連れて来たのは2匹。
胡桃が現れた途端、もう1匹は元気に叫び声をあげて動き出す。
「オレより可愛い女の子が良いってか、コノヤロー!」
櫂は「彼ら」の腹に新しく調達した武器である箒を突き刺す。
武器にしていたギターは、扱いが酷かったせいか持ち手が折れて使い物にならなくなってしまった。
その代わりになるが、殺傷力は低いものの、長いため歩行の妨害をしやすいこの箒だ。
今は、櫂が「彼ら」を引きつけ、時に箒で遠くから牽制。
そしてその隙に胡桃が「彼ら」の息を途絶えさせる、という方法を取っていた。
これは、「彼ら」の強い力で掴まれても同じく強い力で対抗できる櫂にしかできない仕事だ。
実の所、悠里もそれには劣るものの「彼ら」に引っ張られても踏ん張れるだけの力を持っているのだが…
「はぁ、はぁ…これで全部か。なんとかなっちまったな…」
「大丈夫ですか?先輩は少し休憩していてください。防火扉はオレが閉めてきます。」
「いや。この階最後の扉だ。あたしも行くよ。」
ガラガラ…
激しい音が鳴ってしまうが、どうせ呼び寄せられても扉に阻まれる。
これで、1階へと繋がる、2階の三箇所全ての扉が降りたことになった。
「とりあえず、ここの扉も閉めて、っと。…凄いな。もう2階制圧出来ちまった…」
「単純に、人手が二倍になりましたからね。オレは、これまで胡桃先輩が1人でやってたことにびっくりですよ。」
「でも、あたしがやんないとダメだしさ。出来なかったら、死ぬだけだったから。」
「…そうですね。でも、これからはオレもいます。手伝わせてください。」
「お、頼もしいじゃん、後輩。」
2人はにこりと笑いあう。
昨日の夜中の一件で少し距離をはかりあぐねていた胡桃も、昼時になってきていつも通りになっていた。
役職の事もあって、櫂と胡桃は徐々に距離を縮めていった。
初めは人見知りでなかなか心を開けなかった櫂も、この数日だけで胡桃の人当たりの良さに感化されていた。
胡桃は基本誰にでもフレンドリーだが、自分と距離を開けている相手には一線引いて、踏み込まないように接することが出来る。
それが櫂の、元々あまり干渉されたくない性格と相性が良かったようで、今ではパートナーといってもいいほどだ。
逆に、グイグイ押すタイプの由紀へは苦手意識を持っていた。
「んじゃ、今日はこの辺にしとこうぜ。」
「そうですね…昼食もそろそろだと思います。」
「今日は何作ってくれんのかなあ。」
「先輩は食いしん坊ですからね。」
「なあ…っ!?力仕事してると、たくさんエネルギー消費すんだよ!」
今日の収穫は2階の制圧。
バリケードを作る労力が減ったためにかなりスピーディーに制圧することができた。
これはかなりの大金星だ。
「おい!」
朗らかな時間は胡桃の鋭い声が飛んだことにより終わりを迎えた。
櫂は、慌てて手に持つ箒を構える。
教室の中に、動く人影を見つけた。しっかりと確認していたはずだが、死角にいたのだろうか…
その人影は、胡桃のよく通る声に反応して教室から出てくる。
が…
「あ゛ぁああ゛…」
箒を構えている櫂を無視して、「彼ら」は胡桃を目指して歩いていた。
「な、なに…?」
櫂はその状況が信じられなかった。
どうして無視されたのか、わからなかった。
「待てよ…」
「お、おい!」
櫂は、「彼ら」の肩を掴んで引き止める。
それは、普通なら自殺行為にもなり得るが…
「待てっつんてんだよ!」
「彼ら」は、大声をあげた櫂の方向を振り向いたにもかかわらず、興味を示さなかった。
再び呆然とする櫂へ背を向けて、そののろまな動きのまま一直線に胡桃の元へと向かう。
胡桃は、思い切りシャベルを振り抜いてグシャリ、と活動を停止させた。
「大丈夫か…?」
「…そう、見えますか…?」
胡桃は、呆然と立つ櫂へと駆け寄った。
ついに、本格的に櫂にも副作用が出て来ていた。
「櫂くん!」
扉を開けて、まず櫂たちを迎えたのは悠里だった。
相当心配していたのか、血相を変えている。
「大丈夫!?下で大声が聞こえたけど…」
「はい、まあ…大丈夫なのは大丈夫です…」
櫂は、少し自嘲気味に答える。
それを、悠里は悪い方向へと受け取った。
「胡桃。何があったの?」
「いや…」
胡桃も、悠里へと伝えあぐねている様子。
どう伝えればいいかわからない。
「櫂くん。どうしたの?」
「大丈夫だった!?」
そして、騒ぎを聞きつけた授業中の2人もやって来た。
幻想を見ている由紀と、現状を正しく認識している慈との間には緊迫感の差異があるものの、同じく心配していた。
「いただきます!」
その後。
由紀がいるため、話し合いは一旦中断。
まずはご飯。その後、午後の時間を自習にして、詳しい話を聞こう。
そう考えていた。
「はふはふ!おいしいね、りーさん!」
「ありがとう。由紀ちゃん。」
そんな和やかな食事の中、櫂は呆然とした表情で口元をおさえていた。
「っ…」
「あれ?櫂くんどうしたの?」
「お、おい、どうしたんだよ…?」
「今日のご飯、美味しくなかったかしら…」
由紀も胡桃も悠里も、櫂を心配していた。
先ほどのこともあったからだ。
「…佐倉先生。これ、いつからですか…?」
「…」
ああ、その時が来てしまったか。
もしかしたら、櫂は違うかも、と希望を抱いていた。
が、そんな慈の願いも虚しく崩れ去る。
「朝から、おかしいとは思ってたんです。今日は、やけに薄味だな、って…」
慈は立ち上がり、櫂の下まで駆け寄る。
そして、櫂を抱きしめた。
櫂には辛い思いをさせたくなかった。
これは、櫂へと
「ごめんね…ごめんね…」
慈は、そう謝ることしか出来なかった。
悪夢の国の語り部さん。nftryさん。
評価ありがとうございました。
アンケートの結果について。
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慈悲を与える(圭、るーちゃん共に生存)
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アンケの結果は絶対(ルーちゃんのみ生存)