※この作品はR-18です。

佐倉慈先生と共依存したい。   作:朝潮

35 / 49
第35話

 

 

 

「由紀さん。先生がお話を聞いてる間、教室に戻って自習しててくれる?」

「えー?私も心配…」

「もしかしたら、不良さんと喧嘩になっちゃったのかもしれないから…その時は怒ってあげないと。ここは、先生に任せて?」

「うん、わかった…」

「ありがとう、由紀ちゃん。」

 

食事の後、由紀を外して場を設ける。

最近、由紀に聞かせられないような話が多すぎる。

彼女は、どう思っているのだろうか…

 

「先生。もし、先生も一緒なら、しっかりと言ったほうがいいと思います。」

「…そう、よね…」

 

慈は、言いにくそうに手をもぞもぞと遊ばせる。

そして、覚悟を決めた。

 

「私…そして、多分櫂くんも。もう、食べ物の味が、わからないの…」

「そんな…」

 

悠里が息を飲む。

こんな顔は見たくなかった。

出来れば、秘密にしておきたかった。

 

「ごめん…あたし、気付けなくて…」

「私も、すみません…」

「いいのよ!黙ってた先生が悪いんだから…」

 

慈は手を胸の前で振る。

この子達が悪い事なんて、1つもないのだ。

 

「味がしないって、どんな感じなのかしら?」

「悠里先輩が悪いわけではないんですけど…土を口に入れてるみたいな…」

「土…」

 

口に入れると、妙な異物感と不快感が口の中に広がる。

味がしないだけで、ここまで変わるはずがない。

きっと、頭がこれを食事だと認識していないのだ。

どんなに美味しそうな匂いがしていても、香り付きの消しゴムを食べることはできない。

 

「もしかして、今日下で大声を出していたのにも…関係ある?」

 

悠里は先の件と結びつけた。

それは大きなくくりでは間違ってはいない。

 

「その、あいつらが…」

「俺を避けたんです。まるで、仲間だとでも言いた気に。」

「っ!」

 

上手く言えない胡桃の言葉を、櫂が引き継いだ。

初めは驚いたが、今は落ち着いている。

悪い方に考えてしまえば、おそらく櫂と同じであろう慈の事まで下げてしまう気がした。

 

「もし、僕と先生が感染者たちに追われないのだとしたら…」

 

それに、「彼ら」に無視される事はなにも悪いことばかりではない。

皮肉にも感染者の血が混じってしまったばかりに一番安全な立ち位置になってしまった。

 

「ひとつ、提案があるんですけど…」

「提案?」

 

「物資調達に行きたいんです。」

「物資?」

「はい。それは安全な場所から出るときに、大きなアドバンテージになります。」

「確かに…それはそうね。」

「あたしらよりも何倍も安全に活動できる、ってわけだな。」

「はい。ここの物資もいつまで持つかわかりませんから。」

「…確かに、また購買部に行かなきゃと思っていたけれど…」

「購買部の物資だって減るんですよ。」

 

人間にとって食事は欠かせないもの。

そしてそれは、勝手に湧いてくるものではない。

生きたいなら危険を冒してでも手に入れに行くしかない。

…が、それは純粋な人間であるものに限る。

襲われるリスクのない2人が食料を取りに行くことの、どこに難しい事があるだろうか。

 

「あたしも行く。戦力は多い方が良いだろ?」

「いえ…多分、狙われる人がいると、下手に危険になるだけだと思います。」

「…そうかも。」

 

なおも心配そうな顔の胡桃。

胡桃は新しく入った後輩のことを随分と気にかけているようだった。

 

「それに、胡桃先輩には学校を守って欲しいんです。…もし、奴らが入って来た時に、戦える人がいないと困りますから。」

「そうだよな…わかった。」

 

胡桃は説得できた。

問題は、否定的な様子の悠里だ。

 

「明日、すぐにでも行きたいです。」

「明日?ちょっと急すぎるんじゃない?」

「何が起こるかわからないこの状況。なにか、不測の事態が起きる前に行動するべきだと思います。」

 

ゲームのように、ゾンビの次は今度は異形のモンスターが…なんてことは流石にないだろうが。

例えば、車が壊されるかもしれない。校門が塞がれてしまうかもしれない。

不用意に動けない今の状況では、些細な事ですら命に関わる。

 

「それに、もしかしたら外には生きている人がいるかもしれません。早ければ早いほど良いと思います。」

「もし困っている人がいれば…助けてあげたいわね。」

「なら…」

「それでも。私は、見知らぬ人よりも2人の事が大事なの。」

 

悠里は、櫂と慈の手を取る。

そして、慈しむように包み込む。

 

「それは…分かってます。危険なことはしません。」

「襲われないという確証はないのよね。とても危険だと思うけど?」

「それは…しっかり確認してからにします。もし少しでも難しいようなら、やめます。…これで、いいですか?」

 

悠里はふう、と一息ついた。

もっと言いたいことはたくさんあった。

が、櫂の揺らがない気持ちに折れてしまう。

 

「…わかったわ。でも、絶対に戻って来て。…めぐねえも。お願いします。」

「任せて。あと、めぐねえじゃなくて先生です。」

「…ごめんなさい、佐倉先生。」

 

 

 




神龍馬さん。ポリダンプさん。みっつぁんさん。
評価ありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。