佐倉慈先生と共依存したい。 作:朝潮
第36話
「どうしても、行ってしまうの?」
「はい。」
「…やっぱり、急すぎない?もう少し、時間をおいてからの方が…」
「いつかは行かなくてはいけないんです。早く行けば、それだけ早く帰って来ることができますから。」
その翌日、本当に「彼ら」は櫂たちを襲わないのか、1日しっかりと確認した。
そして、出発はそのまた翌日となった。
1日かけて確認したのだが、悠里はまだ納得していない様子。
「出張、頑張ってね!」
「ええ。お土産も買ってきてあげるわね。」
「やったあ!」
それとは反対に、由紀は楽しそうに見送っていた。
慈は、そんな由紀の頭を一撫で。
「櫂。…その、気をつけろよな。」
「わかってます。」
胡桃も、いつもの元気は何処へやら不安そうだ。
櫂にとって、胡桃のその大人しい態度は新鮮だった。
彼女は「彼ら」をも恐れない強靭な精神の持ち主だと思っていたからだ。
「…先生。行きますよ。」
櫂は、由紀と話している慈の声をかける。
慈は由紀に捕まってしまっていた。
「チップスと〜ソーダと〜チョコレートと〜…あ!大和煮も!5こ食べちゃうよ!」
「由紀ちゃん、そろそろ…」
由紀はお土産の話に夢中になっているようだ。
そんな由紀がいれば、残る2人も安定出来るかもしれない。
人間、生きる目的があった方が張り合いがある。
今の学園生活部は、由紀の幻想を守ることに一丸となっている。
「では、行ってきます。」
「早く帰ってきてね。」
「はい。物資調達後に、何も見つからないようならすぐに戻ってきます。」
「…あ!待って!」
櫂達を呼び止めた胡桃が、胸元で結われているリボンを解いた。
そして、櫂に手渡した。
櫂は、その紐を不思議そうに見つめる。
「絶対、返しに戻って来いよ。」
「胡桃先輩って、ベタなの好きですね。」
「…悪いかよ。」
「いいえ、ちっとも。じゃあ、これは持っていきます。必ず返しに戻ってくるので。」
櫂は、その紐をくるくると腕に巻いて縛った。
少年漫画の主人公みたいだな、なんて思う。
「私も〜!はい、めぐねえ!」
それに倣って、今度は由紀がリボンを解いた。
由紀から紐を受け取った慈は、アワアワとどうしたものか悩んでいる。
櫂は、紐に手を当ててそわそわしている悠里へと近づく。
そして、リボンの端を摘んでシュルシュルと解いた。
悠里は驚いて、櫂のされるがままとなっている。
「先輩だけ、仲間外れは無しですよ。」
「…ありがとう。」
「これで、離れててもみんな一緒です。…ですよね、胡桃先輩?」
「うるさい…」
胡桃は自分の行動を思い返して真っ赤になっていた。
そんなになるならやらなきゃよかったのに。
櫂は、設置した非常梯子に足をかけた。
そこから一階へと降り、目指すはミニクーパー。
「あ!待って!私が先に降りるから!私がっ!」
「…どうぞ。」
慈の服の作りは単純。
一枚が全て繋がっているワンピースタイプ。
下から覗けば、色々と素晴らしい光景が拝めるはずだったが。
櫂は、後でしっかりと見せてもらおうと心に誓った。
カン、カン、カン…
小気味良い音と共に、慈が一段ずつ降りていく。
慈に続き、櫂も梯子へと足をかけた。
何日、いや何週間ぶりか。
地上へと降り立った後、落ち着いて駐車場へと向かう。
「本当に、私たちには見向きもしないのね。」
「そうですね。まるで、僕たちだけ違う世界の人間みたいです。」
「世界に2人だけ、か。…ふふっ」
実際には真逆なのだが、櫂のその例えは言い得て妙。
櫂の姿を見ようともしない「彼ら」は、櫂のことが見えていないかのようだった。
櫂達は安全に駐車場までたどり着き、慈の車へと駆け寄った。
車に乗り込み、エンジンをかける。
幸い、車は当時のままどうともなっていない様子。
ガソリンも充分あるし、バッテリーが上がっていることもない。
「…なんだか嬉しいな。2人だけの、デートみたい。」
「何か言いましたか?」
「ううん!なんでもないっ!」
慈はブンブンと大きく首を振る。
こんな、お遊び気分ではいけない。
物資を調達して、無事に拠点へと持ち帰る。
そして生存者がいた場合にはコンタクトを試みる。
これは、しっかりとした任務なのだ。
…と、思ったのは慈だけ。
心の底では、櫂も2人きりのデート、と考えていた。
人に邪魔されることのないこの状況。
慈とどんな事をしようかな、と胸を高鳴らせていた。
接戦のアンケートはもう1日置いて見ます。
どちらに転んでもおかしくない状況ですね…
全然予想つきません。
そして皆さん挿絵はご覧になりましたか。
めぐねえが可愛すぎる…