佐倉慈先生と共依存したい。 作:朝潮
運転席へ座り、ハンドルを握ったのは良かったが…
「えっと…どこへ行こうかしら。」
慈はそのまま固まり、先のことを全く考えていないことを思い出した。
物資調達には、ショッピングモールが最適か…
「食料の調達ならショッピングモールですね。後は、もしもの時のために薬局とか、武器のありそうな交番とか。車のガソリンも注ぎたいからガソリンスタンドにも寄っていきたいですね。余裕があれば、学校のバリケードの補強のために本格的な工具とか、木材とかも欲しいです。」
「いっぱいあるわね…今回だけじゃ、全部回りきれないかも…」
「あ、それと…」
櫂はそこまで言って言葉を詰まらせた。
その様子を見て、慈は櫂へと問いかける。
「なあに?どこか、行きたいところがある?」
「一度、家に帰ってみたいです。…もしかしたら、家族が…」
「…そうね。」
慈は少し考える。
でも、もし彼の家に、変わり果てた家族の姿があれば…
「佐倉先生は、家に帰らなくても良いんですか?」
「私は…一人暮らしだったから…」
母のことも気になるが、実家は遠い。
家にもそんなに大切なものは置いていなかった。
確かに、替えの服とかは欲しいけど…
「じゃあ、まずは櫂くんのお家へ行きましょうか。どの辺りなの?」
「近くには…えっと。鞣河小学校がありますね。」
「わかったわ。」
鞣河小学校、か。ショッピングモールとは、別方向だな。
慈はアクセルを踏んだ。
櫂の家は、普通の一軒家だった。
新しくも古くもない、普通の家。
珍しいものといえば、ソーラーパネルが設置してあることくらいか。
表札には、しっかりと「宮本」と書かれている。
「宮本…この家であってる?」
「はい。」
櫂は、懐かしむようにその家を見つめていた。
そして車から降り、慈へと話しかけた。
櫂は、家の確認へ1人で入るつもりだった。
「少し部屋を回ってくるので、待っていてください。」
「私も、一緒に行くわ。」
「…大丈夫です。少し、様子を見に行くだけです。」
「それでも。」
慈は、櫂の背中へと抱きついた。
櫂の姿に、どうしてか遠くへ行ってしまうような気がした。
そうでなくても、過去を思い出してしまったら櫂が悲しんでしまうかもしれない。
1人悲痛に心を痛める櫂を、隣で慰めてあげたかった。
「櫂くん。…私も、行かせて。」
「…わかりました。一緒に来てくれますか?」
「ええ、もちろん。」
鍵を庭の植木鉢の下から取り出した。
玄関を開けると、いつもと変わらない廊下が目に入った。
「ご両親は両方働いていたの?」
「はい。2人も、遅くまで…」
櫂と慈は、靴を脱いで廊下を進む。
物音はしない。何かが潜んでいる、ということもなさそうだ。
リビング。
使用後の皿が重ねられたまま、机の上に置いてある。
洗い物が出たままだ。
和室。
机には、新聞が大きく広げられている。
仏壇には、お供え物がそのまま残っていた。
洗面所。
洗濯機の中にはまだ洗濯物が残っている。
それぞれの部屋を見て回るが、別に荒らされているだとか、血が飛び散っているだとか、そういう事はない。
あの事件が起きた、2ヶ月前のままだった。
つまりそれは誰かが帰ってきた様子もないという事。
1階には、変わった様子は見られなかった。
そして、続いて2階。
寝室にトイレ、そして櫂の部屋。
わかってはいたが、変わったところはない。
希望がなくなったわけではないが、増えたわけでもない。
ただ、変わらず安否不明なままなだけ。
櫂は懐かしい部屋へと足を踏み入れた。
本棚に並べられた本。敷かれたマット。
物が置かれてぐちゃっとした机の上。
すべて、いつも櫂が見ていた日常だった。
「ここ、櫂くんのお部屋?」
帰れなくなってしまった、日常。
それを見た櫂は、不覚にも込み上げてくるものを感じた。
「…はい。」
櫂は、慈から顔が見えないように背を向ける。
偶然、その視界の先に映ったのは携帯電話。
まさかとは思うが、電波が来ていたりはしないだろうか。
電源ボタンを押すが、反応はない。充電が切れているようだ。
櫂は、部屋を出てブレーカーを落とし、壁に設置されたパネルを操作して自立運転に切り替える。
その様子を見ていた慈は、不思議そうに櫂へと尋ねる。
「何してるの?」
「ソーラーパネルの電力をオンにしてます。これで、電気が来てなくても電化製品を使うことができます。」
「すごい!学校と同じように電気が使えるの?」
「コンセントに繋がるものなら。さすがにあそこまでの電力はないですけど…」
しかし、この家は電力を何も使わずに2ヶ月貯め続けていた。
蓄電器にはかなり貯まっているはずだ。
櫂はブレーカーを落としていないコンセントに充電器を差し込む。
独特の充電音が鳴り、スマホの電源が付いた。
ロック画面には、家族からの大量の着信が。
しかし、今は電波すら入ってきていない様子。
電波塔がやられたのか、電力が無くて電波を流せないのか。
あるいは、その両方か。
電波が復活した時のため、これは持っていても問題はないだろう。
携帯ショップか電気屋で、ソーラーの発電機を見つけることができれば、リスクなく使うことができるだろう。
少しだけ貯まった充電残量を確認した。
長押しして電源を切って、ポケットに突っ込む。
「車に戻りましょう。付き合ってくれてありがとうございました。」
「…もう良いの?ここで少し、休んで行ってもいいのよ。」
「大丈夫です。ついでに、うちにある缶詰なんかの保存食も持っていきましょう。」
「それは…」
慈は、言葉を詰まらせる。
その物言いは、もう家族の生存を諦めているようなものだったから。
「もしも、家族の方が戻られた時のために、残しておいたほうがいいわ。」
「…そうですね。」
櫂は、目を伏せて答えた。
こんな状況で、自分の家族がまだ生きているなんて甘い希望は持っていなかった。
そんな事、あるわけがない。たまたま別の場所で生き残っていた人間が、他の生存者の家族だなんて事…
「止まってください!」
櫂の鋭い声が飛び、慈は慌ててブレーキを踏む。
そんなにスピードも出していなかったため、車はすぐに減速した。
大きな声を出した櫂に、慈は何か悪いことが起こったのかと想像した。
「なに?どうしたの…?」
「…あれ、見てください…」
櫂が見つけたのは、「彼ら」のうちの、1匹。
元、小さな男の子。きっと、小学生くらいだ。
「あれは…!」
慈も、その個体を見て驚いた。
それが、首から見慣れないビニールに入れられた紙を下げていたからだ。
なめかわ小学校にいます。
たすけて下さい。
ごはんとお水さがしてます。
わっふるなごみんさん。
最高評価、コメント、ありがとうございました!
ー別作品も含め、ありがとうございます!
さんりおさん。紅薔薇の夜さん。希龍00000009さん。
ポリダンプさん。ルミアートさん。Canopusさん。
ひゅららさん。あさだだふぁさん。ユーロ圏さん。
高評価ありがとうございました!
1日も経たないうちに、こんなにたくさんの評価をいただいて。
皆さんのおかげで、投稿時現在にはR18限定の日間一位に輝いてます。
…まあ、それも作者が昨日オバロの投稿を休んだからだと思いますが…()