佐倉慈先生と共依存したい。 作:朝潮
第47話
車に乗っていた櫂たちを見るなり、縋り付いてきた女生徒。
清潔感のある、ハーフアップに纏めた肩までつくかつかないかの茶色い髪。
どこかハツラツで活発そうな印象を受ける、ワインレッドの瞳。
そんな少女は過呼吸になりそうになりながら、何かを伝えたい様子。
「あっ、ああ、ぁああの!な、中にも、と、とと友達がいて…!」
「慌てなくて大丈夫。ちょっと落ち着きましょ…?」
慈が、慌てすぎて口の回らない女生徒を宥める。
彼女はこくこくと頷き、荒くなってしまっている呼吸を整える。
その間に、櫂と慈はその彼女を観察していた。
着ているのは巡ヶ丘の制服だ。
服は汚れてしまっているが、彼女自身が「彼ら」に傷つけられた様子はない。
状況から考えるに、恐らく放課後に事件に巻き込まれたのだろう。
そしてそのまま制服を着続けている。
彼女は小学校にいた生存者とは違い、どうやらこれまで文化的な生活は送れていたようだ。
あれから2ヶ月ほど経つが、あからさまに窶れている様子はない。
本人の前で言葉にすることはできないが、酷く臭ったり、不潔な印象は受けない。
食品に加えて、清い水の入手経路もありそうだ。
「もう、大丈夫です。ありがとうございます。」
慈に背中をポンポンと叩かれ、その女生徒は人目もはばからず泣き出してしまった。
しかし、気合いで涙を止めて、なんとかまともに話すことができるようになった。
足は、生存者を見つけて安堵したのか笑ってしまって立てなくなってしまっていたが…
「それで。お友達がいるのよね?」
「はい。ずっとモールの上に2人で住んでて…」
そこで、彼女はふと言葉を止める。
そして、慈の顔と姿をじっくりと眺めて一言。
「…もしかして先生ですか?」
慈の授業を受けていなくとも、彼女の事が印象に残っている生徒は多い。
特に、慈はその見た目や性格から生徒から人気が高い。
直接あったり話したりしていなくとも、慈の事を知っていても不思議ではなかった。
「ええ、そうよ。私は佐倉慈。確かに、巡ヶ丘学院で教師をしていたわ。こっちはその生徒の…」
「宮本櫂です。」
「やっぱり!美人な先生だなって、記憶に残ってて!」
「そんな、美人だなんて…」
圭に褒められた慈が照れる。
櫂は圭のその言葉に心の中で全面肯定した。
その後、今の印象は美人でも、後々可愛い系だと気が付くと確信した。
「あ、私は同じく巡ヶ丘の生徒で、祠堂圭です。」
この場にいる者、そしてその友達である生存者が全員巡ヶ丘学院高校の関係者とは何かの因果のようなものを感じる。
巡ヶ丘の制服には何かの加護でも込もっているのだろうか。
「それで。あなたは俺たちにどうして欲しいんですか?」
「どうして、って…」
「あ、いや。少し言葉を選び間違えた。えっと、俺たちは自衛隊でも警察でもないから、できる事には限りがあるっていうか…」
本題に入った櫂から責められているとでも思ったのか、圭はたじろいだ。
櫂は慌てて否定して、しかし思うように言葉が出てこなかった。
「つまり、生活の援助をして欲しいだけなのか、一緒に行きたいのか、って事よね?」
「あー…そんな感じです。」
「あ、えっと…」
櫂の言葉を、慈が引き継ぐ。
そんな質問に、圭はあからさまに戸惑う。
櫂たちがそんな質問をしてくるとは思っていなかったのだ。
「それは、友達にも聞いてみないと…でも、私自身は一緒に行きたいと…思ってます…」
後半になり尻すぼみになり、声の大きさがどんどん下がっていく。
櫂たちにしてみれば生存者を迎えるのは大歓迎だ。が、いくつか問題がある。
その友達とやらが、今まで生活してきた場所を捨て、学校まで移動する決断をするのか。
食事が美味しい。防火扉を閉めていて安全。シャワーがある。布団がある。
これだけの利点を捨てるとは思わないが、このモールの方が物資は多いし、移動のリスクもある。
どれだけのリターンがあっても、拠点を移すのはリスクを冒すことに他ならない。
2人を連れて帰ることにより、車に「彼ら」を引きつけてしまわないか。
車ならば、「彼ら」いくら目をつけられてもスピードで振り切ることができる。
だが、2人が「彼ら」を引きつけてしまい道路に「彼ら」が溢れかえってしまってはどうすることもできない。
櫂たちは安全だろうが、生存者の2人は無事では済まないだろう。
慈の愛車であるところのミニクーパーS。
もともと小さな車なこともあり、定員である4人が乗れば荷物はトランクに入れるしかない。
そのトランクもとても小さいこともあり、大量に持ち帰ることはできそうにない。
思った量の物資は調達できないだろう。
そもそも、櫂と慈の状態を受け入れられるのか。
半ゾンビな2人と生活するには、それなりのリスクが伴う。
飛沫感染を防ぐため、普段から互いにマスクをするのが好ましい。
シャワーは決まった場所、それぞれ別々の時間に。
食事には細心の注意を払わなければならない。
2人が食事を作ることはできない。洗い物は2つに分ける。そして2人は決まった食器を使う。
ぱっと思いつくだけでこれだけある。特に、最後は重要な問題だ。
これをいつ伝えるかによっても、2人の運命を変えてしまうことになるだろう。
「それは、一度会ってみてから話会いましょ?」
「そうですね…わかりました、案内します!」
意気揚々と歩き出そうとする圭。
櫂は、そんな彼女を呼び止める。
「あ、ちょっと待って。」
「へ?」
固まった圭をそのままに、櫂は慈へと話を振る。
「人数が多いと、「彼ら」によく狙われるようになります。物資調達と生存者の保護、どちらから行きます?」
「…そのお友達を助けてあげましょ。物資はいつでもいいけれど…」
「人は死んでしまったらおしまいですからね。わかりました。」
本当は守りながら行うのが面倒な物資調達から行ってしまいたかったが、櫂にとって、慈の決めたことは絶対。
櫂は異論なく納得した。
緑茶アイスさん。ポリダンプさん。オーフィスさん。
志島かなとさん。エルトハイムさん。
高評価ありがとうございます!
学園生活を描くつもりでネタすぐに尽きるかなって心配してたけど、
アイデアが溢れてきてしばらく展開に困りそうにない。